精霊王の番

為世

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第二章 神の手に阻まれる幼き日の夢

第41話

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「ターゲットは黒髪だ! 派手髪の奴からやっちまえ!」
「《火の矢フラム・プファイル》!」

 薄汚いなりの男達が突如として村を襲撃する。

 人数は五人、頭目らしき男の指示に合わせ、散開して次々に攻撃を始めた。
 五人はそれぞれ手当たり次第にテントを攻撃し、破壊の限りを尽くしていく。

「きゃあああああ!!」
「賊だ! 逃げろ!」

 同時に方々から村人の悲鳴が響く。
 そして、

「ぐあっ……」
「おい大丈夫か! なんなんだお前ら!」

 村人の一人が攻撃を受け、倒れる。一緒に居た男は突如現れた襲撃者に素性を尋ねるが、答えなど分かり切っていた。

「《火の矢フラム・プファイル》」

 返答は一切の慈悲が無い炎として返される。

 丸腰の村人が炎に包まれる、その直前、

「《シルト》」

 短い言葉と共に、不可視の障壁が村人と炎の間に割って入り、炎を食い止める。

「フーズさん……!」
「何だ? ジジイ! 邪魔すると今日が命日になるぞ!」
「関係ない。 ジジイだろうが、皆殺しだ。 やれ」

 現れたフーズは険しい表情に確かな怒気を含ませ、襲撃者に真っ向から対峙する。

「旅人や、休息を取ると言うならテントを貸そう。 そうで無いと言うのなら───」

 一拍の間を置き、毅然と言い放つ。

「お帰り願おうかの。 ここは砂漠に住まう者のオアシスじゃ。 何人なんぴとも独占する事は許さぬ」



「おいなんかヤバいぞ! アイビス!」

 カルロは村人の悲鳴を聞き臨戦態勢に入る。

「俺はいい。 人間相手は専門外だ」
「なっ!」

 アイビスは冷たく言い放ち、双子の待つ借宿へと足を向ける。

「そんな事言ってる場合か!? 大勢死ぬぞ!」
「そうか。 なら急いだ方が良い。 北東で暴れる五人の他に、南西にも五人程居るみたいだ」
「右か左で言えよ分かんねぇだろ!」

 そう言ってカルロは走り出した。

「いた! アイビスさん!」

 カルロと入れ違いに現れたのはハルであった。

「良かった、ここに居たんですね!」
「……双子は?」
「ローブスさんと居ます! ……戦わないんですか?」

 ハルはアイビスの表情から何かを汲み取って問い掛ける。

 まだハルは守護霊を出現させてから日が浅い。大した霊視能力である。

「俺は人とはやらない」
「何でですか!? 村の人が襲われてるのに!!」
「ここで死ぬなら、それが奴らの”運命”って事だ。 俺には関係無い」
「そんな……。 何で、戦う力があるのに!」
「じゃあ、お前は俺が賊を全員殺せば満足するのか?」
「それは……。 殺さなくても、追い払うだけで良いじゃないですか!」
「じゃあ、俺達が居なくなったら? 生き残った連中がこの村に報復に来たら、どうするんだ?」
「そんな事……」

 ハルは言葉に詰まる。

 平和な街で暮らしていたハルは、人間の本質をまだ知らない。平和とは、整えられた秩序の恩恵。無秩序の中で生きる人々は、それ程利口な考えを持っていないのだ。
 賊が何の目的でこの村を襲っているのか、アイビスの知るところではない。唯一分かるのは、彼らがこの村に矛先を向けた時点で、どちらかが滅ぶまでこの争いが終わらないという事である。

「……お前はやるのか? なら、手心なんか加えるなよ」
「……え?」

 アイビスは冷たい表情で告げる。

「目の前の敵は必ず殺せ。 息の根を止めるまで手を緩めるな。 ……生き残りたければな」
「……よく分かりました。 僕は行きます」

 言って、ハルはカルロの向かった方へと走り去って行く。
 その背中を見送り、アイビスは歩き出すのだった。



「あったあった、これで二つ目か、あと何個仕掛けたのかな~」

 白髪の青年は村の外れに一人訪れ、何やら探し物をしていた。
 そこは砂の大地が隆起した丘のような地形になっており、村の様子を一望する事が出来た。

「これもしっかり精霊フェノンが込められてる。 設置したのは今朝かな? 本当、下らない事考えるのだけは得意なんだよなぁ」

 そうして発見した、精霊が込められているらしい何かの装置を踏みつける。

「……始まっちゃったか」

 襲撃を受ける村を眺めながら、青年は呟く。

 村ではテントから煙が立ち上り、方々から悲鳴が聞こえ、またある所では襲撃者と対峙した村人が術を放っている。

「派手にやってるねぇ、表の五人が陽動、裏の五人が本隊って所かな。 馬鹿なりに考えたんだろうなぁ、涙ぐましい努力、褒めてあげた方が良いんだろうけど、ちょっとタイミングが頂けないよね」

 そう言って、青年は足元の装置を踏み抜いた。

「”流星”とは、もう少しゆっくりと話をしたかったんだけど」

 不敵に笑い、青年はその場を後にした。
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