勇者のお仕事二巻前編【旅情激闘編1】

伊上申

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十章

55話 ルキナ

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55話 ルキナ


 ――軽快な音だが、どこか憂いを帯びたような音楽に乗って、ルキナを筆頭に四人のお付きのような踊り子たちも現れて誰かの歌声と共にそれは始まった。





『暖かい 光と 心地よい 息吹に
 流れくる 奔流旅人 


 笑い悲しみ溢れる世に 現れ消える 奔流旅人


 どこから来て どこへ向かうの 根無し草
 この世とあの世 流れ行き交う 奔流旅人』



 軽快な雰囲気の音楽と、叙情詩(じょじょうし)を思わせるような詩文の羅列。旅の儚さを感じさせるルキナの細やかでキレのある踊りにジャスティスは目を奪われた。


(なんて綺麗(きれい)な人なんだろう。まるで踊りで人々を癒(いや)してくれてる気がする)


 ジャスティスは直感的にそう思うほどルキナの踊りに魅了される。あまりにも見惚(みほ)れていたため演奏や踊りが終わっても、声をかけられるまで気づかなかったくらいだ。



「そんなにあたしの踊り気に入ったの?」

「穴が開くくらい見入ってたもんなぁ」

 いつのまにかジャスティスの隣に腰掛けてきたルキナとカインに軽く揶揄(から)われたジャスティスは、大人二人に挟まれて、

「そ、そんなんじゃ……。ただ綺麗だったなって」

 身を縮こませるように俯いて小さく呟いた。


「あ~もう! ジャスティスちゃんたら可愛いわぁ~」

 ルキナはそう言いつつジャスティスの頭を慈しむように撫でる。

「……」

 頭を少し強引な感じで撫で回されるジャスティスだが不思議と居心地が良かった。

 兄や姉 (?)がいるとこんな感じなのかなぁと内心思っていると、


「さて、と。腹ごしらえも済んだことだし、明朝(みょうちょう)にはここを離れるぞ」

 お腹をさすりながら立ち上がるカイン。

「え、明日には移動しちゃうんですか?」

 ジャスティスも立ち不思議そうにキョトンと首を傾げる。


「この指輪を手にしている以上、俺は多分正規ハンターや同業者、他の賊から追われることになる」

 言いつつ、懐(ふところ)から理(ことわり)の指輪を取り出すカイン。


「そう言えば、各国の斡旋所で捜索の対象になっているみたいなこと言ってましたね」

 ジャスティスがそう言うとカインは静かに頷いて指輪を元に戻し、

「これがある限り俺は追われる。ひとつの場所に長居するほうが危険だし、仲間も巻き込んでしまうからな」


「どこか行くあてがあるの?」

「とりあえずは……南から陸沿いに星殿(せいでん)ゼルサニアに向かおうと思っている」

 ルキナが聞けば、カインは地図を取り出してある国を指差した。


「……『星殿ゼルサニア』、ですか」

 ジャスティスが小さく呟きカインの指差した場所を見ると、ここから遥か西の方角のようだった。カインに詳しく聞くと、船での旅は出来ないようで、この場所から陸路で南側からグルリと回って行くらしい。



 ――ジャスティスは、あてがわれた幌小屋(ほろごや)にある敷きわらに寝そべり少し憂いを感じつつも今後の旅路に思いを馳せた。
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