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1話 なんか変なおばちゃん
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1話 なんか変なおばちゃん
下請けの工場に俺は中卒から働いている。ここは近所のおじちゃんやおばちゃんも勤めている『地域型』の工場だ。だから地元で何か『悪さ』でもしようもんならすぐに工場内に広まる。まあ、おばちゃんってのはいつでも噂拡散マシーンなんだな。
そんな訳で、中学までとんでもなく素行が最悪だった俺はこの会社に放り込まれ、厳しいおじちゃんやおばちゃんに鞭打たれ今はすっかり『大人しく』なった。
世間はもう四月――
入学や進学。
新社会人などを迎えた人たちもいるだろう。そしてこの頃に入社してきた中年女性もその一人。挨拶もそこそこに、俺が担当している取引先の製品の型プレスなどの仕事をその中年女性、鈴村暖子(すずむらはるこ)が受け持つ事となった。
「分かる? 機械の動かし方」
「……えっと」
そう聞くと鈴村さんは少し曖昧な返事とともに首を傾げた。鈍臭いのか、トロいのか、そんな態度に俺は少し苛立ちを感じ、
「ちょっと俺やるから見ててね」
棘が含んだ言い方になってしまった。
「はい……」
俺の態度が怖かったのか、鈴村さんは小さな身長なのにさらに小さくなって身体を強張らせてしまったようだ。
……え? 何その態度。
それ、俺がいじめたみたいじゃん。
オドオドとした様子に俺の怒りは更に上昇した。――短気と言う勿れ。俺はハッキリしない奴が大嫌いなのだ。
細々とした作業工程をあらかた教えると時はすでに終了時刻。俺はさっさと彼女から離れてタイムカードを切った。
帰り際に別の部署にいるおばちゃん達から揶揄(からか)いの声が聞こえた。
「雪斗くん、あの人どうだった?」
「あの人?」
興味津々に聞いてくるおばちゃん。
「新しく入った人。鈴村さん」
「あああの人」
頷いて、俺は煮え切らない怒りの感情までも思い出し眉をしかめてしまった。
「なんか、変わってますね。大人しいけど」
(正直、やりにくいってのは言わないでおこう)
噂好きのおばちゃん達には、必要以上の感情を出さない事が、この会社で上手くやっていく『コツ』。
「やりにくくない?」
「いや別に」
「そう? あの人ちょっとアレだから」
気楽に言うおばちゃん。ついでに人差し指を自身の頭に向けて指をクルクルと回す素振りを見せた。
……頭がおかしいって言いたいのか。まあそんな事を言うアンタらも頭おかしいんだろうけど。
「誰でも出来る事だから大丈夫っすよ」
そう言って俺は会話を締め括り急ぎ家に戻った。途中――例の鈴村さんが自転車で走っているのを横目に、俺は自動車で横切って行った。
――鈴村さんが来てから約半年。
最初こそ第一印象は悪かったが、彼女は慣れてきたのかゆっくりでありながらも徐々に成果を出している。初めこそ多々の失敗はあったが、それを繰り返すことはなく、何より作業内容を逐一メモ書きをしているようだった。この頃には、鈴村さんも俺に対して怯えた態度は無くごく普通に会話をできるくらいになっていた。
淡々と繰り返し行われる作業を、鈴村さんは文句ひとつ言わずに同じように淡々とこなしている。それに顔つきも少し自信に満ちてきたのか、時折、目を輝かせて微笑む表情に俺は少し胸がドキリとした。
なんか格闘ゲームで圧勝した時の俺の満足げな表情に似てるんだが気のせいだろうか?
興味が向いてしまった俺はごく自然と鈴村さんに話しかけていた。
「ねぇ鈴村さん」
「わっ、びっくりした!」
全身が飛び上がるほどの勢いでびっくりしてしまった鈴村さん。そんな彼女の姿に目を丸くした俺は次の瞬間には笑っていた。
「ぷはははっ」
「えっ、なに? 何っ?!」
声出して笑う俺に鈴村さんは目を白黒させて訳が分からないって顔をしている。
「え…なんかした? 私……」
「いや違う、ごめん」
困惑する鈴村さんの言葉尻を遮りつつ俺は笑いを堪えながら、
「そんなに驚くとは思っていなかったから」
「いやあの……集中してたから」
少し照れたように俯く鈴村さん。
「『集中』?」
「はい。あの、単純作業って結構精神統一になるんですよ」
俺がおうむ返しに聞けば、鈴村さんは楽しそうな笑みでそう答えてきた。
下請けの工場に俺は中卒から働いている。ここは近所のおじちゃんやおばちゃんも勤めている『地域型』の工場だ。だから地元で何か『悪さ』でもしようもんならすぐに工場内に広まる。まあ、おばちゃんってのはいつでも噂拡散マシーンなんだな。
そんな訳で、中学までとんでもなく素行が最悪だった俺はこの会社に放り込まれ、厳しいおじちゃんやおばちゃんに鞭打たれ今はすっかり『大人しく』なった。
世間はもう四月――
入学や進学。
新社会人などを迎えた人たちもいるだろう。そしてこの頃に入社してきた中年女性もその一人。挨拶もそこそこに、俺が担当している取引先の製品の型プレスなどの仕事をその中年女性、鈴村暖子(すずむらはるこ)が受け持つ事となった。
「分かる? 機械の動かし方」
「……えっと」
そう聞くと鈴村さんは少し曖昧な返事とともに首を傾げた。鈍臭いのか、トロいのか、そんな態度に俺は少し苛立ちを感じ、
「ちょっと俺やるから見ててね」
棘が含んだ言い方になってしまった。
「はい……」
俺の態度が怖かったのか、鈴村さんは小さな身長なのにさらに小さくなって身体を強張らせてしまったようだ。
……え? 何その態度。
それ、俺がいじめたみたいじゃん。
オドオドとした様子に俺の怒りは更に上昇した。――短気と言う勿れ。俺はハッキリしない奴が大嫌いなのだ。
細々とした作業工程をあらかた教えると時はすでに終了時刻。俺はさっさと彼女から離れてタイムカードを切った。
帰り際に別の部署にいるおばちゃん達から揶揄(からか)いの声が聞こえた。
「雪斗くん、あの人どうだった?」
「あの人?」
興味津々に聞いてくるおばちゃん。
「新しく入った人。鈴村さん」
「あああの人」
頷いて、俺は煮え切らない怒りの感情までも思い出し眉をしかめてしまった。
「なんか、変わってますね。大人しいけど」
(正直、やりにくいってのは言わないでおこう)
噂好きのおばちゃん達には、必要以上の感情を出さない事が、この会社で上手くやっていく『コツ』。
「やりにくくない?」
「いや別に」
「そう? あの人ちょっとアレだから」
気楽に言うおばちゃん。ついでに人差し指を自身の頭に向けて指をクルクルと回す素振りを見せた。
……頭がおかしいって言いたいのか。まあそんな事を言うアンタらも頭おかしいんだろうけど。
「誰でも出来る事だから大丈夫っすよ」
そう言って俺は会話を締め括り急ぎ家に戻った。途中――例の鈴村さんが自転車で走っているのを横目に、俺は自動車で横切って行った。
――鈴村さんが来てから約半年。
最初こそ第一印象は悪かったが、彼女は慣れてきたのかゆっくりでありながらも徐々に成果を出している。初めこそ多々の失敗はあったが、それを繰り返すことはなく、何より作業内容を逐一メモ書きをしているようだった。この頃には、鈴村さんも俺に対して怯えた態度は無くごく普通に会話をできるくらいになっていた。
淡々と繰り返し行われる作業を、鈴村さんは文句ひとつ言わずに同じように淡々とこなしている。それに顔つきも少し自信に満ちてきたのか、時折、目を輝かせて微笑む表情に俺は少し胸がドキリとした。
なんか格闘ゲームで圧勝した時の俺の満足げな表情に似てるんだが気のせいだろうか?
興味が向いてしまった俺はごく自然と鈴村さんに話しかけていた。
「ねぇ鈴村さん」
「わっ、びっくりした!」
全身が飛び上がるほどの勢いでびっくりしてしまった鈴村さん。そんな彼女の姿に目を丸くした俺は次の瞬間には笑っていた。
「ぷはははっ」
「えっ、なに? 何っ?!」
声出して笑う俺に鈴村さんは目を白黒させて訳が分からないって顔をしている。
「え…なんかした? 私……」
「いや違う、ごめん」
困惑する鈴村さんの言葉尻を遮りつつ俺は笑いを堪えながら、
「そんなに驚くとは思っていなかったから」
「いやあの……集中してたから」
少し照れたように俯く鈴村さん。
「『集中』?」
「はい。あの、単純作業って結構精神統一になるんですよ」
俺がおうむ返しに聞けば、鈴村さんは楽しそうな笑みでそう答えてきた。
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