3 / 19
2話 俺の好奇心をくすぐる人1
しおりを挟む
2話 俺の好奇心をくすぐる人1
「……『精神統一』って大袈裟な」
俺が呆れ混じりにそう言うと、
「あ、そうですよね」
と、半ば諦められたように言われてしまう。
あれなんか、俺、馬鹿にされた?
なんて。意地くそ悪い考えが頭をよぎってしまい、
「ーーねぇそれ馬鹿にしてる?」
意地悪くも低く脅迫めいて呟いてしまった。
「え?! ち、違う違う!」
俺が短気な性格をここ半年で学んだのだろうか、鈴村さんは特に怖がることもなく意外と言った顔をして慌てて否定してきた。
「……何?」
憮然とした俺は殊更低めに呟いて彼女を睨みつけるように上目遣いで見た。その表情を露わにしてしまい、『あ。これ嫌われる絶対』と、完全に後悔したが、態度を急に変えるのも気持ち悪いしそのままの姿勢を貫いた。
「えっと……。なんか気に障る事言っちゃったみたいだから……ごめんなさい」
なんだかバツ悪そうな顔をする鈴村さん。
その後はすぐに視線を機械に戻して仕事を再開してしまった。
「……あ、おう」
いささか拍子抜けした俺。
間抜けに返事をしつつ俺もその場を後にする。
自分の作業場に戻って、先程の場面を頭の中でリプレイした。
(……さっきのって、なんか……。壁、作られた? 怖がってる風には見えなかったけどすっと離れられたと言うか、躱(かわ)された感じだった……)
俺がそう思うのは、初めの頃に聞いた鈴村さんに対しての『噂話』。彼女は、過去の経験から男性恐怖症になってしまったらしい。過去に何があったのかはよく分からないが結婚していて何らかの事情で離婚し、今はバツイチだと言う事。
だからなのか、初めて会った時のあの怯えた態度は。
それを知ってから俺は極力、彼女を怖がらせないようにした。別に他意は無いが、仕事を教える先輩として恐怖感ばかり煽ってるのはどうかと思っただけだが。
三ヶ月くらい経つ頃には何となく『気の良いおばちゃん』って感じがして話しやすくなったのは確か。それからは当たり障り無く接してきたはずだが――彼女からは今のように時折壁を作られる事もしばしばある。
それでも。
彼女が作業中に見せる楽しげな表情や満面の笑みをこっそり浮かべている理由が、俺の中では気になって仕方が無かった。
(またいずれ聞いてみよう)
そう頭の中で切り替えて俺は仕事を続けた。
――月日は過ぎた頃、世間ではクリスマスに近付き町中は華やかに彩られどこかしこも賑やかだった。
そんなある日、その日は朝から豪雨でボロい建物の工場内は所々雨漏りがしている。
(直せばいいのに、この会社にはそんな金も無いのか……)
俺が思っている事は、従業員全員も同じ様に思っている様だが誰一人として社長に進言する事なく現状維持のままだ。溜息つきながら黙々と仕事に精を出すのも皆一緒か。
何とか明日納期分の荷物を詰め込み俺は一息ついて終業時間を迎えた。
皆が口々に雨模様の空に悪態を吐きつつ帰宅する中、鈴村さんは何故かいつもよりゆっくりしていた。
「鈴村さん、帰らないんですか?」
俺は当たり障り無く彼女に問い掛けた。
「うん。帰るけど、今日は歩いて来たから……」
と、小さく失笑する彼女。
「あ、家近いんだっけ?」
そう言えば鈴村さんはいつも自転車で来ている。会社からは近所くらいの距離に家があるのだろう。
「うん。自転車で10分くらいなんだけど今日は雨だったから」
そこまで言われてようやく先程の彼女の言葉を理解する。自転車だと大変だろうからな。
二人してタイムカードを切り、
「……送ってこうか?」
何気なく聞いてみた。このまま傘で歩いて帰るなら送って行ったほうが彼女も少しは楽だろう、そう思ったから。
「……え?!」
鈴村さんはすごくびっくりした様な顔をした。
――なんか、返答が予想外だった。そんなに驚く様な事を言ったつもりはないんだが。
でも何故か。彼女の予想外な態度が、俺の好奇心に火をつけた。『普通』ではない、少し斜め上の彼女の思考回路。ゾクリと胸の内が騒めいた気がした――
「……『精神統一』って大袈裟な」
俺が呆れ混じりにそう言うと、
「あ、そうですよね」
と、半ば諦められたように言われてしまう。
あれなんか、俺、馬鹿にされた?
なんて。意地くそ悪い考えが頭をよぎってしまい、
「ーーねぇそれ馬鹿にしてる?」
意地悪くも低く脅迫めいて呟いてしまった。
「え?! ち、違う違う!」
俺が短気な性格をここ半年で学んだのだろうか、鈴村さんは特に怖がることもなく意外と言った顔をして慌てて否定してきた。
「……何?」
憮然とした俺は殊更低めに呟いて彼女を睨みつけるように上目遣いで見た。その表情を露わにしてしまい、『あ。これ嫌われる絶対』と、完全に後悔したが、態度を急に変えるのも気持ち悪いしそのままの姿勢を貫いた。
「えっと……。なんか気に障る事言っちゃったみたいだから……ごめんなさい」
なんだかバツ悪そうな顔をする鈴村さん。
その後はすぐに視線を機械に戻して仕事を再開してしまった。
「……あ、おう」
いささか拍子抜けした俺。
間抜けに返事をしつつ俺もその場を後にする。
自分の作業場に戻って、先程の場面を頭の中でリプレイした。
(……さっきのって、なんか……。壁、作られた? 怖がってる風には見えなかったけどすっと離れられたと言うか、躱(かわ)された感じだった……)
俺がそう思うのは、初めの頃に聞いた鈴村さんに対しての『噂話』。彼女は、過去の経験から男性恐怖症になってしまったらしい。過去に何があったのかはよく分からないが結婚していて何らかの事情で離婚し、今はバツイチだと言う事。
だからなのか、初めて会った時のあの怯えた態度は。
それを知ってから俺は極力、彼女を怖がらせないようにした。別に他意は無いが、仕事を教える先輩として恐怖感ばかり煽ってるのはどうかと思っただけだが。
三ヶ月くらい経つ頃には何となく『気の良いおばちゃん』って感じがして話しやすくなったのは確か。それからは当たり障り無く接してきたはずだが――彼女からは今のように時折壁を作られる事もしばしばある。
それでも。
彼女が作業中に見せる楽しげな表情や満面の笑みをこっそり浮かべている理由が、俺の中では気になって仕方が無かった。
(またいずれ聞いてみよう)
そう頭の中で切り替えて俺は仕事を続けた。
――月日は過ぎた頃、世間ではクリスマスに近付き町中は華やかに彩られどこかしこも賑やかだった。
そんなある日、その日は朝から豪雨でボロい建物の工場内は所々雨漏りがしている。
(直せばいいのに、この会社にはそんな金も無いのか……)
俺が思っている事は、従業員全員も同じ様に思っている様だが誰一人として社長に進言する事なく現状維持のままだ。溜息つきながら黙々と仕事に精を出すのも皆一緒か。
何とか明日納期分の荷物を詰め込み俺は一息ついて終業時間を迎えた。
皆が口々に雨模様の空に悪態を吐きつつ帰宅する中、鈴村さんは何故かいつもよりゆっくりしていた。
「鈴村さん、帰らないんですか?」
俺は当たり障り無く彼女に問い掛けた。
「うん。帰るけど、今日は歩いて来たから……」
と、小さく失笑する彼女。
「あ、家近いんだっけ?」
そう言えば鈴村さんはいつも自転車で来ている。会社からは近所くらいの距離に家があるのだろう。
「うん。自転車で10分くらいなんだけど今日は雨だったから」
そこまで言われてようやく先程の彼女の言葉を理解する。自転車だと大変だろうからな。
二人してタイムカードを切り、
「……送ってこうか?」
何気なく聞いてみた。このまま傘で歩いて帰るなら送って行ったほうが彼女も少しは楽だろう、そう思ったから。
「……え?!」
鈴村さんはすごくびっくりした様な顔をした。
――なんか、返答が予想外だった。そんなに驚く様な事を言ったつもりはないんだが。
でも何故か。彼女の予想外な態度が、俺の好奇心に火をつけた。『普通』ではない、少し斜め上の彼女の思考回路。ゾクリと胸の内が騒めいた気がした――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる