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3話 俺の好奇心をくすぐる人2
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3話 俺の好奇心をくすぐる人2
「どうせ傘さして帰るなら送られた方が楽でしょ?」
多少強引とも思える俺の言い草に、鈴村さんはどう返答してくるのか期待している自分もいる。
――さて。今回はどうしてくるかな? するりと躱(かわ)されるか、目の前でシャッターが閉まるが如く距離を置かれるか。
こんな事考えてしまうのは、以前にも彼女からこの様な態度を取られたからだ。それのリベンジって訳では無いけど、俺の勝手な一人駆け引きみたいで正直少し楽しかった。
(俺ってもしかして意地悪い?)
とも思ったが、知らないフリをしよう。
「……んーと」
鈴村さんは癖なのだろうか顎に手を添えて少し俯き考える素振りを見せた。
「じゃあ、お言葉に甘えていいかな?」
微かな笑みを見せて俺の顔を覗き込んできた。
「ふぇ?!」
これまた予想外な言葉に俺は思わず情けない声を出してしまった。いつもはさらりと自然に離れていく筈なのに今日に限ってど直球で返答してきた。正攻法の平手打ちを食らった様に俺の頭はチカチカと疑問符が渦巻いている。
「ふふふっ」
そんな俺がおかしかったのか、鈴村さんは一瞬だけ目を丸くしたが次には明るい笑顔で声をあげて笑った。
「ーー今、なんて、言ったの?」
俺の返答が余程おかしかったのだろう、かなりツボった様で目尻に涙を浮かべて笑いを抑えつつ途切れ途切れに聞いてきた。
「いやあの。ちょっと咽(む)せただけ……」
何とか誤魔化すべく言い訳をしてみたが。
……カッコ悪い。正直に言おう。『ダサい』。
彼女の返答で、彼女の心の内を探っている事を見透かされた様でいたたまれない気持ちになった。
言葉の言い回しとか、感受性とか、他のおばちゃん連中とはどこか違う。『頭がおかしい』なんて聞いてたけど、そう言う次元ではなくただ単純に――俺、この人には敵わないかも知れない。そう直感した。
「雨、すごいね」
「ちょっと待ってて」
工場の出入り口からでると強風と豪雨に身体が叩きつけられた。
俺はすぐに自動車を鈴村さんに前まで移動させた。傘を手に彼女を連れて助手席に座らせる。その後運転席に乗り込んだが衣服は既にびしょ濡れになっていた。
「あの……」
鈴村さんが遠慮がちにハンドタオルを手に、
「頼りないけど使う?」
と、苦笑しながら差し出してきた。
「あ、サンキュー」
俺は短く言ってそれを受け取り、濡れた黒のカジュアルジャンパーを軽く拭いた。フードを脱ぐとポタポタと水滴がジーパンに滴(た)れた。
「あ~…冷てぇ」
情けなく呟くと横に座っていた鈴村さんがくすりと笑った。
「そんな笑うとこ、今?」
今日は笑われてばっかりの俺は、ちょっと眉をしかめ拗ねたように言ってみると、
「ううん、違う。何か面白いと思って」
「フォローになってない気がする……」
そう言いつつも俺もつられて笑ってしまった。
「家、どこだっけ?」
「あの、『惣菜屋』さんの近くだからそこで降ろしてもらえば」
彼女が言う『惣菜屋』は地元では有名な店だった。
今晩の夕飯を買いそびれたようで、彼女は店のすぐ前で車から降りた。
「送ってくれて、ありがとうございます」
と、律儀にもお礼を言われて頭を下げられる。俺は逆に恐縮してしまい、
「いいって、いいって」
照れ隠しに言って車窓を閉める。
鈴村さんは、この辺りに住んでるのか。
ほんの少しだけ、いや純粋に、彼女の家が気になった。
しかし――
鈴村さんは店の前で立ち、俺を見送るようにじっと見てる。
……くそっ!
あわよくば、ゆっくり発進しつつ鈴村さんが買い物終えたのを見計らい、家が知りたくて後をそっとつけようとしたのだが……良い具合に見透かされているようだ。
でも。不思議と悪い気はしなかった。
どこか新鮮な感覚が胸に広がり俺は車を走らせた――
「どうせ傘さして帰るなら送られた方が楽でしょ?」
多少強引とも思える俺の言い草に、鈴村さんはどう返答してくるのか期待している自分もいる。
――さて。今回はどうしてくるかな? するりと躱(かわ)されるか、目の前でシャッターが閉まるが如く距離を置かれるか。
こんな事考えてしまうのは、以前にも彼女からこの様な態度を取られたからだ。それのリベンジって訳では無いけど、俺の勝手な一人駆け引きみたいで正直少し楽しかった。
(俺ってもしかして意地悪い?)
とも思ったが、知らないフリをしよう。
「……んーと」
鈴村さんは癖なのだろうか顎に手を添えて少し俯き考える素振りを見せた。
「じゃあ、お言葉に甘えていいかな?」
微かな笑みを見せて俺の顔を覗き込んできた。
「ふぇ?!」
これまた予想外な言葉に俺は思わず情けない声を出してしまった。いつもはさらりと自然に離れていく筈なのに今日に限ってど直球で返答してきた。正攻法の平手打ちを食らった様に俺の頭はチカチカと疑問符が渦巻いている。
「ふふふっ」
そんな俺がおかしかったのか、鈴村さんは一瞬だけ目を丸くしたが次には明るい笑顔で声をあげて笑った。
「ーー今、なんて、言ったの?」
俺の返答が余程おかしかったのだろう、かなりツボった様で目尻に涙を浮かべて笑いを抑えつつ途切れ途切れに聞いてきた。
「いやあの。ちょっと咽(む)せただけ……」
何とか誤魔化すべく言い訳をしてみたが。
……カッコ悪い。正直に言おう。『ダサい』。
彼女の返答で、彼女の心の内を探っている事を見透かされた様でいたたまれない気持ちになった。
言葉の言い回しとか、感受性とか、他のおばちゃん連中とはどこか違う。『頭がおかしい』なんて聞いてたけど、そう言う次元ではなくただ単純に――俺、この人には敵わないかも知れない。そう直感した。
「雨、すごいね」
「ちょっと待ってて」
工場の出入り口からでると強風と豪雨に身体が叩きつけられた。
俺はすぐに自動車を鈴村さんに前まで移動させた。傘を手に彼女を連れて助手席に座らせる。その後運転席に乗り込んだが衣服は既にびしょ濡れになっていた。
「あの……」
鈴村さんが遠慮がちにハンドタオルを手に、
「頼りないけど使う?」
と、苦笑しながら差し出してきた。
「あ、サンキュー」
俺は短く言ってそれを受け取り、濡れた黒のカジュアルジャンパーを軽く拭いた。フードを脱ぐとポタポタと水滴がジーパンに滴(た)れた。
「あ~…冷てぇ」
情けなく呟くと横に座っていた鈴村さんがくすりと笑った。
「そんな笑うとこ、今?」
今日は笑われてばっかりの俺は、ちょっと眉をしかめ拗ねたように言ってみると、
「ううん、違う。何か面白いと思って」
「フォローになってない気がする……」
そう言いつつも俺もつられて笑ってしまった。
「家、どこだっけ?」
「あの、『惣菜屋』さんの近くだからそこで降ろしてもらえば」
彼女が言う『惣菜屋』は地元では有名な店だった。
今晩の夕飯を買いそびれたようで、彼女は店のすぐ前で車から降りた。
「送ってくれて、ありがとうございます」
と、律儀にもお礼を言われて頭を下げられる。俺は逆に恐縮してしまい、
「いいって、いいって」
照れ隠しに言って車窓を閉める。
鈴村さんは、この辺りに住んでるのか。
ほんの少しだけ、いや純粋に、彼女の家が気になった。
しかし――
鈴村さんは店の前で立ち、俺を見送るようにじっと見てる。
……くそっ!
あわよくば、ゆっくり発進しつつ鈴村さんが買い物終えたのを見計らい、家が知りたくて後をそっとつけようとしたのだが……良い具合に見透かされているようだ。
でも。不思議と悪い気はしなかった。
どこか新鮮な感覚が胸に広がり俺は車を走らせた――
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