中年おばちゃんにガチ恋しました!

伊上申

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16話 心に蓋をしたままで1

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16話 心に蓋をしたままで1


 俺が七海(ななみ)と付き合いだして約三ヶ月ほど経った。その頃にはもう会社全体では周知になっていたし、帰りも七海を送っていくことがしばしばあった。

 俺は彼女が出来たことで心と身体の欲が満たされ充実した日々を過ごしていた。だから――暖子(はるこ)さんに対する想いは単なる趣味が合って話しやすいからだと思うようにし、あの淡い初恋のような感覚を、押し殺すように心の奥底にしまい蓋をした――その筈だったのに。


 やはりどうやら俺は普通の恋愛は出来そうにないらしい。七海があんな女だったとは、女ってのは恋愛が絡むとこうも変わるものなのかと、この時ほど痛感した事はない。





「あ。暖子さん、おはよう」

 仕事場への出勤時、七海は体調不良なのか休みのようで、昨日会ったが何も聞いてなくて少し不思議に感じたが、暖子さんの姿を見つけた俺はいつものように暖子さんに挨拶をする。

 俺に彼女が出来たとしても暖子さんとの交友関係は続くものだと思っていた。


「あ……。お、おはよ、雪斗(ゆきと)くん」

 暖子さんは俺に声をかけられたのが意外だったようで少しびっくりしてこちらを見てきた。

「え、そんなにびっくりする?」

 いつものように気軽に笑いかければ、暖子さんは落ち着きなく辺りをきょろきょろと見やり、

「あ、あの……私ちょっとトイレに行くね」

 そう言い、急足でその場を去ってしまった。

 
 あれ?

 俺もしかして暖子さんに避けられている?

 ここ最近七海とずっと一緒だったからあまり喋ってなかったけど、でも急すぎじゃね?

 そんなあからさまな態度を出されるとなんかちょっと腑に落ちない。そう思ったが、『また帰りにでも話かければいいか』と安易に思っていた当時の自分に腹が立つ。




 終業時間になり七海が居なくて手持ち無沙汰のような感じがした俺は丁度タイムカードを切ろうとしている暖子さんに話しかけてみた。


「暖子さん何か久しぶりだね」

「え?! あ、雪斗くんか。びっくりした~」

「相変わらずびっくりの仕方独特だよね」

 目を丸くして驚く暖子さんがやけに懐かしく、また、嬉しさも感じて照れ隠しもあってか少しの嫌味を含めて笑ってみせる。

「でもびっくりはしちゃうよ、急に話しかけられたら」

 と。少し不貞腐れたように困り顔になる暖子さん。


 普通に話して何ともなく会話が弾む――この緩やかに上昇していく心の高揚感がすごく新鮮で居心地が良い。暖子さんとのこの時間をまだ共有したくて、


「暖子さん今日は自転車?」

「え? そりゃあそうだけど」

 唐突に聞いた俺に不思議そうな表情をみせる暖子さん。

「そっか。送っていこうかと思ったんだけど」

 俺が残念そうにそう言うと暖子さんはさらに目を丸くして、

「え? 何で?」

「『何で』って、普通に送っていこうかなぁって」

「やだ。そんなの彼女さんに悪いよ」

 少し困ったように遠慮がちに言う暖子さん。


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