プロクラトル

たくち

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砂の世界

エルリック・ニールセン 2

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 リーグに言われた通り、今日はお酒でも飲んで気を抜くため西街道の酒場に入るエルリック。
 エルリックはお酒が好きだった、それと酒場の雰囲気もだ。
 自然と楽になれるのだ。酒が好きと言ってもこだわりがある訳では無いが、お気に入りは葡萄酒だ。
 今日もいつも行っている酒場で同じくお気に入りのシチューを食べながら飲む。

「エルリック、久しぶりじゃないかこの前は大活躍だったね、あたしも嬉しいよ」

 注文を済ませると、いつものシチューと葡萄酒を持ってきながら話しかけてくる大柄な女性、この店の店主レベッカだ。
 エルリックは昔リーグにこの店を紹介されてからはほとんどここでお酒を飲んでいる。

「ありがとうございます、レベッカさんのおかげで今日もこうしてお酒を楽しむ事が出来てます。
それにこの前の戦はほとんど赤姫の方々のおかげで勝利出来たんです。自分はたまたま討ち取った相手が将軍だっただけです。」

 謙遜しながら答えるエルリック。しかし顔馴染みのレベッカにこう言ってもらえるのは嬉しかった。

「そのたまたまが重要なんだよ!あんたは毎日真面目に鍛錬してるだろう?もしその鍛錬がなかったらそのたまたまのチャンスをモノにできないんだ」

 運が良かっただけ。そう言われる事が最近多かったエルリックだが、レベッカから努力の部分が評価してもらえる事がやはり嬉しい。

「ありがとうございます、今までやってきた事が無駄じゃなかったと証明出来ました」

「ああ、これからも頑張るんだよ!応援してるからね」

「はい、ですが最近どうも調子が良くないみたいなんです、体調とかは良いんですが」

 エルリックはレベッカに最近の事を相談する。
 小隊長になった事、赤姫にまだお礼を言えない事、会議が憂鬱になってきてる事、エルリックにとってレベッカは頼りになる存在だった。

「なるほど、何事も順調に行く事は少ないからね、まああんたの言いたい事は何となくわかったよ」

 レベッカは何か納得したように頷いている、何がわかったのかエルリックにはわからなかったが。

「あの黒髪の若造を見な何か感じないかい?」

 そう言われ店の奥に目を向ける。
 そこには自分と同じぐらいの年齢であろう青年が、大男たちに囲まれ何やら談笑している。

 しかしレベッカが何を言いたいのかがさっぱりわからない。

「あの青年がどうかしましたか?始めて見る顔ですね」

 レベッカの店はほとんどが固定客が多く、大概がエルリックの顔見知りだった。
 だがあの青年は始めて見るしかもどうやらここで働いているらしい事は制服を着ていたのでわかった。

「そうか、あんた最近来てないから知らなかったね。あいつは旅をしていたみたいでね、この前始めてきたんだが金を持ってなかったんだ。なのにタダ飯食おうなんてしたもんだから罰としてここで働かせたんだ。2日で良いって言ったんだけどね、本人がまだ手伝うって言うもんだから今日もああやって働いてんだよ」

 タダ飯と言う言葉を聞き衛兵に突き出してやろうと思ったエルリックだが、レベッカが罰を与えていると聞き、やめておいた。

 だが真面目なエルリックはそれを聞き青年を許す気にはなれなかった。

「そんな奴から何を学べるんですか?失礼ですが無銭飲食の仕方など学びたくはありません」

 少し嫌味を言ってしまうエルリック、だがレベッカは予想外の返事をする。

「そんなカリカリするんじゃないよ、酒場は楽しく酒を飲むとこさ。ちょっと待ってなあいつ読んでくるから、あんたと同じぐらいの歳だろう?仲良くなれるよ」
 
 仲良く出来る訳がない、そう思ったが言葉にはしない。
 レベッカにはお世話になっているのであまり関係が壊れるような事はエルリックしたくない

 するとレベッカは言葉通り黒髪の青年を呼び戻ってくる。

「紹介するよ、こいつはシン、旅をしてるんだってよ」

 いきなりの事で戸惑うシンであったが、連れてこられたところには同じぐらいの青年がいた事を知り、少し嬉しかった。
 この世界に来てから同じぐらいの年齢の同性の友達が出来なかったので、レベッカが気を利かせてくれたのだと思っている。

「初めまして、紹介されたようにシンと言います、よろしくお願いします」

 無銭飲食のイメージが強く、礼儀を知らない若者かと思っていたエルリックだが、意外とまともな挨拶をされたのでシンに対する評価を少しだけあげる。

「ご丁寧にどうもありがとう、私はエルリックと言います、ラピス国軍で小隊長をしております」

 こちらも名乗り挨拶をする、名乗ったところ「えっ!あの噂の奴か!」や「小隊長って⁉︎俺と同じぐらいなのに凄いやつだな」などと小声で言っている。
 思った事を口に出してしまう奴なのだろうか。
 しかしあの噂って何だ?などと思うエルリックだがレベッカがなぜ連れて来たのかがまだ理解出来ない。思い切って聞いてしまおうとする

「レベッカさんなぜ彼を私に紹介したんです?さっぱりわかりません」

 そう言うと、シンと言う青年も「確かにわからん」などと言っている。
 やはり思った事を口に出してしまう奴なのだろう、それともふざけているのか?締まらない顔をしている

「そうだね、シンあんたが旅をする理由をエルリックに話してやんな!」

「えっ⁈でもあんま話さない方が良いって言いませんでしたか?」

 なぜ理由を知られたくないのだろうか?そうエルリックは思う。
 やはり無銭飲食をするような奴だ何が悪事をするんじゃないかと考えるエルリック。

「エルリック、そう構えなくても良いあんたが思ってるような事はしないよ」

 とレベッカが言うので、警戒を解くしかしなぜそんな事を聞かなくてはならないかやはりわからない。

「あたしの見方じゃあんた達結構良い仲間になるんじゃないかと思ったんだがね。シン、このエルリックは大丈夫だ、それにこれでも小隊長だ、あんたの力になってくれるかもよ」

 そうレベッカが言う、俺の力が必要?何をするつもりだ?とどんどん疑問が増えるエルリック。
 シンの目的が気になってきたので、こちらからも聞いてみる事にした。

「それで君は何をしたいんだい?僕が力になるかはわからないが」

 それからはシンの話を聞いた、なぜ旅をするのか、この世界に何をしに来たのかいろいろな話をした。趣味の話、好きな異性のタイプなど違った物も混ざってしまったが、話をするうちにこのシンと言う少年に引き込まれて行った。

 レベッカが何を言いたいのかは、わからないままだったが、この同い年の青年にどんどん引き込まれていくのが自分でもわかった。

 何故引き込まれていったのか、しばらく話すうちにエルリックは理解してきた。
 顔付きが変わっていたのだ。

 初めはふざけた奴だと思っていた。
 それは今でも思う、好きな異性の話などでは本当に締まらない顔をしていた。
 胸の話などを話している時は特にだ、真面目なエルリックには理解出来ない。

 だが、旅の目的を話している時は違った、顔付きは真剣だった。
 ここまで真剣になれるものをエルリックは持っていなかった。
 もちろん鍛錬など手を抜いたつもりはない、いつだって全力で行ってきた。
 しかしそこまで夢中というか何が何でもというものはエルリックにはない。
 そんな目標があるシンが羨ましかったそれにカッコ良いとエルリックは思った

 そうこのシンという青年には、エルリックが持ってない目標があったのだ。
 いやエルリックには目標はあった、実家の武器屋を王都1番にする、そう目標を持っていた。

 思えばあの時は楽しかったと思う。
 毎日必死になって勉強したし、接客も必死でやっていた本当に楽しかったのだ。

 しかし今はどうだ、両親や周りに勧められたまま入隊し、いつかくる戦に向けただただ毎日鍛錬している。
 無気力にやってはいない、だがあの時のように楽しいだろうか?成長しているのだろうか?そのような考えるに至ってレベッカがこの青年に自分を紹介した意味がやっと理解出来た。

「どうだい?エルリックわかってきたかい?今のあんたに足りないものをこのシンは持ってる、あんたは男なんだ、それにまだ若い、男なら何かでっかい目標に向かって突っ走ってみな!」

 目標そう言われてエルリックは考える、今の自分に持てる目標は何だ?それにこれまでの会議だってそうだ。何を遠慮してるんだ、あんなんじゃ皇国に対抗出来る訳がない。

 今までの自分を叱責するかのように、やりたい事やるべき事が次々と出てくる。
 レベッカさんには感謝するしかない、そしてこの感覚を思い出させてくれたこのシンと言う青年に

「シンだったな、最初は少し疑っていたが悪かった、改めて言うよ、僕はエルリック何かあったら相談してくれ、力になろう」

 長く話していたため敬語を使わなくなっていたシンとエルリック。
 そう言ったエルリックは決意を新たにする。

「レベッカさんありがとうございました、また明日から頑張れそうです、今日はごちそうさまでした」

 そう言って席を立つエルリック、支払いを済ませ兵舎へ向かう。
 明日から忙しくなりそうだと嬉しそうにしていた。

 エルリックが決意を新たにしている時、何故エルリックが急にやる気を出したのかわからないシンであった。

 支払いもしている時も「えっ⁉︎俺疑われてたの?何を?」やら「何か頼れみたいな事言われたな、何を頼るんだ?」などと言って状況を全く理解していない。
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