プロクラトル

たくち

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砂の世界

動き出す者達

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 王都ラピリアの中心、ラピリア城の一室にて1人の女性がいた。その女性を中心に何やら話し合いがおこなわれているようだ。
 中心となっている女性の名はリリアナ・イーノルド・ラピス
 ブロンドに輝く髪を持つ彼女はラピス王国第2王女である。
 王国の美とも称され、最優の王女とも呼ばれる彼女は王国民の憧れであり、希望でもあった。
 彼女は誰にでも優しく、非常に優秀な頭脳を持ち合わせていた。
 幼少期よりその才能を発揮し様々な発案をし王国の発展に貢献してきた。
 国民の生活が今のように安全になったのは彼女の発案のおかげでもあった。

 当然次の国王にはリリアナを、という声が王国民の間ではささやかれている。

 そんな状況を良く思わない全く者達は当然いた、彼女の2人の兄達だ。
 2人の兄達は優秀ではなかった。
 幼少期より発揮されてきたその才能に嫉妬し最近ではそれを隠さなくなっていた。
 リリアナの発案はことごとく握りつぶされ次第に国政の舞台から引き離されていった。
 所詮は第2王女、王位継承権の順位では2人の兄の方が上であるし女性である彼女の後ろ盾になってくれる者も少なかったのだ。

 彼女の事を認め、協力してくれるのは文官達ぐらいであった。
 実際現在彼女と意見を交えている者は王国宰相などの国政に携わる人物達であった。

「それで赤姫の方々との会議はどうだったの?」

 リリアナは問いかける、現在王国は皇国と争いをしている。
 しかし彼女はその対策会議への出席が許されていなかった。
 2人の兄が根回ししリリアナを追い出していたのだ。

「それが、またもや言い争いになってしまいまして」

 参加していた文官の1人が答える、こうして文官達とリリアナが話し合っているのを兄達は知らない。
 リリアナ本人さえ排除すれば良いと思っているのだがそれだけでは意味がない。
 リリアナが逆の立場なら徹底的に隔離するのだが兄達はそれをしない。
 しないと言うより会議に参加さえさせなければ大丈夫と安心しているのだ。

「また、あの将軍が何か言ったのかしら?何を考えているの?大した事ないくせに、プライドだけは一人前ね、あの兄上達と一緒ね」

 嫌味を言うリリアナ、あまり軍事には詳しくないが赤姫達なしで皇国に勝てるはずがない。
 そのぐらいの事はわかるほど、皇国との軍事力の差は大きいのだ。

「ええ、その通りです、高い契約料を払ってまで雇ったのですが」

 赤姫との契約料は莫大だ。
 あの者達を雇う事を提案したのはリリアナであったが、リリアナ本人が言うとまたバカな兄達には邪魔されるので別の文官が提案し実行した。

 こうしてリリアナは国政に間接的に関わっているのだが、そんな事は兄達にはわからない。
 少し考えればわかる事なのだが、王位を継ぐ事しか頭にない上もともと優秀ではない、リリアナを会議から追い出せた事に満足しているのだ。
 こうやって間接的に物事を進められるので、リリアナからしたら会議に出れない事自体対して問題ないのだが、兄達は快心の策だと思っているらしい。
 本当に愚かな者達だとリリアナは心の中で笑っていた。

「赤姫を雇ったのはあくまでも時間稼ぎのつもりよ、雇ってもそれだけで皇国に勝てるとは思っていないわ」

 赤姫が予想していたよりも強かった事もあり皇国は今大規模な戦を仕掛けてきてはいない。
 リリアナとしては予定通り時間稼ぎが出来たので良かったのだが、会議の内容には苛立ちを覚えてしまっていた。

「父上も早く私に後継者の指名をして下されば良いのよ、今の王国に内部で争うっている余裕なんてないわ、そんな事をしていればその隙を皇国に突かれて国自体がなくなってしまうわよ」

 現国王はまだ後継者を指名していない。
 通常であれば第1王子に王位を継承するのだが、リリアナの優秀さを知っているがラピス人ではない側室の子であったし、第2王子は正妃の息子である迷っているのだ。
 もう1人の候補であった姉の第1王女は王位に興味がなく、継承権を放棄しているのだが何やら目的があるらしい。
 だが何がしたいのかリリアナにはわからなかった、第1王子は知っているらしくその為第1王子の味方についていた。

「他の方々は王族ですのに、王国の事は何も考えていませんからね、リリアナ様を後継者と指名して頂ければ私どもとしましても非常に嬉しいのですが」

 リリアナとしても、邪魔でしかない兄弟達である。
 ろくな頭を持っていないのでリリアナの考えを理解できないくせに、邪魔だけはしてくる。
 策とも言えない事ばかりであるが毎度のように突っかかってくる為うんざりしていた。

「ええ、ですがその前に赤姫との関係が壊れてしまうのはまずいです、何か手を打たなくては」

 皇国に狙われている状況では王位争いをしている場合ではないのだが、兄達は王国が負けるなどと微塵も思っていないのでお気楽な事に王位のみを求めている。
 赤姫達に対してもたかが傭兵としか考えていない為関わろうとはしていない。

「私が赤姫と接触し友好的になれれば良いのですが、この場から動く事はあまり出来ませんね、兄上達には知られたくありませんし」

 ほんといなくなれば良いのに、そう兄達の事を思っているが暗殺などは出来そうにない。
 護衛の兵士は強力であるしリリアナの配下には武力がない。
 暗殺が出来るほどの者を雇う金も持っていなかった。

「幸い国王陛下がまだ実権を持っています、ご兄弟様方はまだ国政などには関わっておりません、今何か手柄などたててしまえばリリアナ様が後継者に指名されるのではありませんか?」

 今のところ継承争いはほぼ互角といったところだろうとこの場にいる者達は考えている。
 そして皇国と争っている今こそ他の後継者を追い抜きリリアナが実権を握るチャンスとも理解している。

「わかっているわ、その為に赤姫を雇って皇国に対抗出来るようにしたのよ、戦争に負けては意味ないですもの、でもここまで王国の将軍がバカだとは思わなかったわ」

 せっかく手に入れた強力な戦力を認めず、味方の赤姫と将軍が衝突してしまうとはリリアナも思ってはいなかった。
 将軍達と関わってこなかった事がここに来て、手痛い失敗だったと嘆くリリアナ。

「リリアナ様、エルリックと言う者はご存知でしょうか?」

「ええ知っているわ、この間の戦で第1功の兵士を知らないわけないじゃない、受勲式で顔を合わせているわ」

 エルリックと聞き、あの若い青年を頭に浮かべるリリアナ。
 その時はまだ若かったので意識していなかったが、確かあの兵士は赤姫を尊敬していると言っていたと思う。
 こちらに引き込めば赤姫と自分を引き合わせてもらえるかもしれない

「彼は会議にも出席しておりますが、幾度か赤姫を擁護する発言をしています、彼を通じて赤姫と接触するのはどうでしょうか?」

 宰相の男はリリアナと同じ考えを考えていたらしい、リリアナは宰相に関心しつつ

「そうね、彼が兄上達と繋がっていなければ良いのだけど」

 兄達に繋がっているのであればこちらの動きが筒抜けになる。そう懸念したリリアナだが

「その可能性はないかと思います、あの者は政治関連に興味が無いようですし、王城にも警備や訓練以外ではほとんど立ち入りません」

 宰相が否定したのでそれを信じるリリアナ。

「問題はどう引き込むかね、その兵士が望む物は何か無いの?」

 エルリックを引き込むためどうするか考えたリリアナだが、最終的に単純に褒美を与えるのが良いだろうと結論を出す。

「いえ、そこまではわかりません、訓練後よく酒場に行っているようなので接触してみましょうか?」

「いえ、王城に呼び出しましょう、この間の戦の功労者に会いたいと父上に頼んでみましょう」

「しかしそれでは怪しまれないでしょうか?」

「大丈夫よ、兄上達には何をしようとしてるかなんてわからないわ、父上に頼む時純粋に会いたいだけって感じの演技ぐらいしておけば良いのよ」

 兄達の事を知り尽くしてるリリアナは自信を持って言う。

「わかりました、その方法でいきましょう、では今日はこれで失礼します」

「ええ、ありがとう」

 文官達が退室し、部屋にはリリアナ1人になる。

「ほんとあのバカ達いなくならないかしら」

 優しい王女と言われいるリリアナだが1人になるといつもこう言ってしまう。
 最初は兄達との仲は悪くなかったむしろ良かったぐらいだ。
 しかし最近になって何故か関係は悪化し、リリアナの邪魔ばかりする。
 リリアナにとって兄達の存在は邪魔でしかなくなっていた

 リリアナにとって王国が何よりも大切であったし王国の為、いろんな政策を出してきた。
 しかし兄達を支持する貴族が邪魔をする事で実行されたのは少数であった

 自分達が楽する事しか考えていない貴族達にはうんざりしているし、その貴族達に利用されている兄達が心底消えて欲しいと思っている。

 表立って文句を言う訳にはいかないので、1人の時に言う事にしているのだが最近は我慢しきれなくなっていた。

 しかし、文句を言ってばかりではいられないのでリリアナはこれからの策を考える。
 何としてでも王位に就き王国をこの砂の世界で1番の国にしたいのだ。

 現状皇国に対し王国は不利だ。
 赤姫を雇ったとはいえ軍事力の差は大きい、リリアナとしては皇国が攻めてこない今、何とかウェンズ共和国あたりと同盟を結び皇国に対して2カ国で対応したいところだが、同盟を結ぶよう使者などを送る権限は国王が持っている。
 宰相が進言すれば同盟案は通るだろうが使者に兄達の支持をしている者が指名されるかもしれない。 

 そんな事になれば同盟を結んだとしても兄達の手柄となり継承争いは決まってしまうだろう。

 何とかしてこちらの手の者に使者を任されたいがあいにくこちらには文官達しかしない。
 国政を任されている彼らはここから離れる訳にはいかない。

 無理に任されたとしても離れている間に兄達の者に国政が任されてしまっては意味がない。

 どうしても手駒が足りない状況に唸り声を上げてしまうがそんな事をしていてもしょうがない。

 とりあえず出来る事からしようと、先ほど宰相が言っていたエルリックと言う兵士について考えようと顔を上げるリリアナの目にありえない光景が目に入る。

 光景というのは少し違うかもしれない、だがありえない事だった。

 この部屋はリリアナの自室であるし、先ほど文官達が出て行ってからはリリアナ1人しかいないはずだった。
 ドアが開けられる音はしていないし、まず自分は王女だ、その王女の部屋に声を掛けずにこよ部屋に入ってくる者などいる筈がない。

 なのにどうして目の前に人がいる。
 いきなりの事で少し惚けてしまったリリアナだが、すぐ気を取り戻す。

 しかし理解出来ない、この人物は誰だ?今まで見た事もないし、しかもどうなっているのか、プカプカと浮きながらこちらを見ている。

 幻覚でも見ているのだろうか?最近リリアナは疲れている。
 だが疲れているからといってここまでリアルな人を幻視する訳がない。

 そう結論付けるとリリアナは目の前に浮く人物を注視する、すると新たな疑問が浮かんでくる。

(これは本当に人なの?)

 そうこの人物は確かに人の形をしている、だがリリアナの感覚は目の前の人物は人ではないような気がする。
 プカプカ浮いているからそう感じるのかもしれないがそんな事ではない。

 たくさんの人と接する事があったリリアナにはわかる。

(違う、絶対同じ人間じゃない)

 リリアナがそう結論付けると謎の存在が話しかけてくる。

「君がこの国の第2王女で合ってるかな?いきなりで驚いたかな?ボクは寛大だ、落ち着くまで待つ事にするよ」

 何者にも染まらない真っ白な髪を持ち、無邪気な子供のような可愛さと大人のように落ち着いた美しさを感じられる女性が澄んだ声で言った。

 王国の美と言われている王女だったが、目の前の女性に目が奪われてしまう。
 
 この女性はあまりにも美しく、あまりにも可愛らしい表情で佇み、自分に声を掛けてきた。

 返事をする事など忘れてしまうほど、リリアナは引き込まれてしまっていた。

「あまりジッと見つめられると恥ずかしいな、ボクはこれでも恥ずかしがり屋なんだ」

 顔を赤くしながら言ってくる。
 さすがのこれにはリリアナも我を取り戻した。

「失礼しました、あまりに美しいもので見惚れてしまいました。お許し下さい、ご挨拶が遅れました。ラピス王国第2王女リリアナと申します。」

 呆気に取られていたがしっかりと名前を言う。
 何者かはわからないが敵意は感じない、何者なのか?ずっと考えるが答えは出ない。

「美しいか、嬉しいことを言ってくれるじゃないか、お礼を言っておこう」

「いえ、本当の事ですので、ところでなぜこのような所へ?私に何かご用でしょうか?」

 何をしに来たのか?自分では答えが出せないので聞いてみる事にする。
 だがなぜかこの人物に対し警戒する事などが出来ない。
 いきなり部屋に入ってくる者など信用できる筈がないはずなのに、なぜかこの人物を自分は信用してしまっている。

「そうだね、まずはいきなり来た事を詫びよう、君に会いに来たのはねちょっと提案があったんだ、頼みたい事とも言えるのかな?」

 提案、何の事だろうか。
 ますます意味がわからなくなるがこの話は聞かなければいけない、そう感じている。

「私に出来る事は少ないと思うのですが、何かお聞きしても良いでしょうか?」

「そうでもないさ、君にしか出来ないかな、他の兄弟達はどうしようもなさそうな奴らだと思ったけど、君は優秀そうだからね」

 優秀、そう言われリリアナには歓喜の気持ちが湧いてくる。
 
「君が王となる為の手助けをしょう、その代わりこちらの役にも立ってもらいたい」

 手助け、先ほどまで手駒の少なさを嘆いていたリリアナには嬉しい事だ。
 それに兄達を愚かと言いリリアナを優秀だと言っていた、これは私にとってメリットしかない事ではないか、そう考えるリリアナは問いかける。

「私に出来る事なら協力しましょう、しかし何をすれば良いのです?」

 まだ何をするか聞いていないのにリリアナは完全に信用してしまっている。
 本来のリリアナならありえない事だがそんな事は考えていない。

「良い返事だ、そうだね君には王になって貰うといったね。王になった暁には君達王族が褒美として渡すミリアスの指輪の片割れと王城で売っている指輪をある人物に渡してくれ。それをしてくれるのなら君が王になる為の手を貸そう、それに皇国にも打ち勝ってやろう」

 最高の提案だった、それを聞いたリリアナは即答する。

「わかりました。王にならなければ指輪の保管場所を知る事は出来ないので、今すぐ渡す事は出来ませんが、お渡しする事を約束します」

「そうか、やはり君を選んで正解だったようだ。では返事を聞けた事だし、まず君を王にする事から始めよう」

「ありがとうございます、しかし具体的にどのようにするのです?」

「それについては、君が考えていた事をこちらでするだけさ。同盟を持ちかけるのだろう?その使者にエルリックを指名してくれ。だがエルリックは旅に慣れていない、旅の連れにシンと言う若者を連れて行くよう話を進めるんだ、君なら出来るだろう?」

「シンですか、その者は信用出来るのでしょうか?」

 当然の疑問である。
 エルリックについてはそうなってもらえたら良いと考えていたが、そのシンと言う者は知らない。

「なんだ君は、ボクのシンが信用出来ないと言うのか?」

 突如として雰囲気が変わる。
 先ほどまで穏やかと思っていた室内は、岩でも背負っているかのように重くのしかかってきた。

「も、申し訳ございません、私がいたりませんでした、お許しください」
 
 思わず膝を就き頭を垂れてしまうリリアナ、その圧倒的な怒気に意識を持っているのがやっとであった。

「わかればいい、これからは気をつけるんだな」 

 またしても突如として雰囲気が変わる、先ほどまでが嘘のように穏やかな気分になる。

「お許し頂きありがとうございます、先ほどのお話ですが了解いたしました。そのように進めさせて頂きます」

「ああ、頼んだよ」

 満足そうな表情を浮かべて頷くノア。

「お聞きしてもよろしいでしょうか?あなた様は何者なのでしょうか?それになぜミリアスの指輪を求めるのです?」

 ずっと気になっている事を聞くリリアナ。いきなり現れ自分を手伝うと言うこの女性が気になってしまうのは当たり前の事だ。

「そうだね、君にこうして会いに来たのは指輪のために1番の近道だと思ったからさ。それにボクの事は何となくわかるだろう?君もボクと同じような存在と会った事があると思うのだけれど」

 はっきりと答えないノアであったがリリアナには何となくわかっていた。
 かつて10歳の誕生日の日に1度だけこの女性と同じ感覚の者に会った事がある。
 話をした訳ではないがその見た存在と目の前の女性が同じであろう事はわかった。

「昔ミリアス様のお姿を拝見した事があります。あなた様はミリアス様と同等の存在、そう思っておりますがよろしいでしょうか?」

 恐る恐る語るリリアナ。
 神同士が争っている事は聞いた事があるのでミリアスの名前を出すが迷ったが、それ以外にこの目の前存在をあらわす言葉がわからなかった。

「ボクをあんな性悪女と同じ扱いをしないでほしいな、まただいたいあってるけどね」

 ミリアスを性悪女と言える存在が目の前にいる。
 そして自分を支援してくれる事にまたも歓喜の気持ちがこみ上げてくる。

「いえ、他に言葉を知らず申し訳ございません、実際にお話をさせて頂いたのは、あなた様はだけでございます、もしかしてシンと言う者はあなた様の代行者様でございましょうか?」

 ノアの事を完全に崇め初めているリリアナは問いかける。
 もしそうなのならばシンと言う者にも忠誠を誓うと決めて。

「ああ、そうさ君は話が早くて良いね。ミリアスなんか辞めてボクの事を信仰しないか?思った以上に役に立ちそうだ」

 神の役に立つそう言われまたも歓喜するリリアナ、もうミリアスへの信仰など持っていなかった。
 もともとミリアスを熱心に信仰した事はなかった。
 リリアナと同じような人たちは多いだろう、自分の世界の神とはいえ、絶対の存在と思っているのは以外と少ないのだ。

「これ以上ない幸せでございます、どうかお名前をお聞かせ下さい」

 リリアナはまだ名前を知らなかった。
 普段のリリアナであれば名前を知らない相手をこれほど信頼する事は絶対にない。
 しかしそれをさせる事が出来るほどノアの存在は圧倒的だった。

「ボクの名前はノア、無の世界を支配している。君の信仰を受け入れよう、これを受け取るがいい」

 そう言って腕輪を渡すノア。
 シンが持っている腕輪とは違う形をしているが、リリアナは知らない。
 
「ありがたき幸せでございます、このリリアナ、ノア様の為の死力を尽くしましょう」

 腕輪を受け取り身に付けるリリアナ。
 何かが体を駆け巡ったがしたがそれに気がつかないほどノアに対し見惚れている。

「その腕輪があれば、ボクの加護を受ける事が出来る。どんな効果があるかはわかるかい?人によって変わるんだ」

 そう言われ自分の変化を探るリリアナ、するとどういう訳か腕輪の効果がわかった

「どうやら見つめた人間の考えがわかるようです、これは非常にありがたい加護です」

 相手の考えが読める。
 王を目指すリリアナにはうってつけの加護だった。

「そうか、だがボクの使徒は少ないからね、あまり多用する事が出来ないだろう?情けない話だがまだ君しかしないんだ、シンは代行者だからね」

 使徒が増えるほどノアの力は増えるがまだリリアナ1人しか居ない。
 シンは代行者である為使徒とはまた別の枠になる。

「いえ、他のものがまだノア様の魅力に気付いていないだけです。私がノア様や代行者様の代わりとない使徒を増やしていこうかと思うのですがよろしいでしょうか?」

「そこまでしてくれるのかい?これは本当に君を選んで良かった、よろしく頼むよ」

 またもノアに褒められ嬉しくなる。
 そしてノアの為行動する事を改めて決意するリリアナ。

「ではこの辺りで失礼させてもらうとするよ。君のおかげで少し力がついたがまだこの世界に干渉する事が少ししか出来ないようだ。それと君の兄弟についてもボクに任せておけ、君の邪魔はさせないよ」

 そう言って姿を消すノア。
 そしてノアいたところをずっと見つめていたリリアナだったが、我にかえりすぐさま行動を開始する事にする。
 まずはエルリックとの接触だ、そう決め国王の元に向かう。

 しかし父親に会いに行くリリアナの顔は、王国の美と呼ばれているとは思えないほど酷く淀んだ笑顔を貼り付けていた。

(これであの愚か者どもを始末出来る、ああノア様、そして代行者シン様に栄光を!)

 その顔を狂気に染め、ラピス王国第2王女リリアナは動き出す、怪しく光る腕輪に気づく事はない。
 そこにはもう王国の美、王国民の希望と呼ばれた人物はもう存在しなかった。

*******

 ノアがリリアナと接触しているのと同時刻、第1王子、第1王女が2人で部屋にこもり継承争いの対策の話し合いを行っていた。
 だが2人しか居ないはずの部屋にはもう1つ人影がいつの間にか出来ていた

 居ないはずの人物は、何者にも染まらない白い髪を持ち、無邪気な子供にも落ち着いた美しさの大人にも見える顔をしていた。

「何だと!リリアナは誰にそんな事を垂らし込まれたんだ!」

 ラピス王国第1王子レックスが声を荒げる。第1王女ミリーもその顔を憤怒に染めていた

「それはわからない、だが第2王女がそんな事を考えるとは思えない」

 白い髪の女性が答える。

「確かにそうだ、リリアナは優しい子だ、そして優秀だが優しすぎる。王になれば負担は今の比ではないだろう、時には非情な決断も迫られるだろう、そんな事はあの子にはさせたくない」

 第1王子が答える。そう第1王子も第1王女もリリアナの事が好きだった。昔から優しい子だったし可愛い妹だった。その才能に嫉妬した事もある。
 たがそんな優しい妹だからこそ王の激務から遠ざけてあげたかった、平和に穏やかな暮らしをして欲しかったのだ。

 その為、第1王女のミリーと手を組み継承を優位に進めたかった。
 ミリーの事は1番付き合いが長いのでレックスにはミリーが王になるつもりはないと知っていた。

 そしてミリーが皇国の皇子であるクラーブの事が好きでいる事もそしてクラーブがミリーを好きでいるのを、他には話していなかったが将来自分が王になった時、そしてクラーブが皇帝になった時には2人をくっつけ、皇国と王国で同盟を結ぼうとしていたのだ。

「誰がリリアナにそんな事を、確かに今リリアナには不自由をさせているわ、でもこれもリリアナのためなのよ」

 第1王女も嘆いている、リリアナは確かに優秀だ、。
 女の政策は本当に王国のためなる、しかしそれを通してしまうとリリアナを国王にする声は高まり、あの優しい妹に辛い事をさせなくてはならない。
 そのためこの2人はリリアナの提案を邪魔する事をしてきた。
 そんな事をしたくはなかったが、これも全てリリアナを思っての事だった。

「やはり直接リリアナに話をしよう、このままではリリアナは壊れてしまう!」

 第1王子レックスは言った。これまでリリアナを遠ざける事で継承争いから脱落させようとしたが、このまま黙っていられない、だが白髪の女性が止めてくる。

「いや、やめた方がいい。リリアナ王女が誰にそそのかされてるのかわからないし、下手に刺激したら王女が危ないかもしれない」

「しかし、このままではリリアナは」

 リリアナの身を案ずる2人の気持ちは複雑だ、2人だってリリアナを遠ざけるような事はしたくないのだ。
 
「ダメだ、まだ動いちゃいけない、敵の策が何かわからない以上迂闊に手は出せない」

 そう説得され納得するしかない2人、その顔は己の無力さを嘆いているようだ 。


*******

 何もない空間、そこにいる者が呟く。

「ふむ、このぐらいでいいだろう、第2王子に関しては何もしなくていいだろう、あれは本当に愚か者だ、勝手に自滅する」

「さて、先手は打たせてもらったよ、ミアリス、慎重な君の事だ、まだ動かないだろう、ふふ君の悔しがる顔が目に浮かぶよ、君が気付いた頃にはもう遅いんだ、この勝負ボクの勝ちだ」

 その顔は歓喜に満ち溢れている、かつて争った同等の存在に勝利を宣言する。

「さあそろそろ動いてもらうよシン、共に勝利を掴もうじゃないか」

 神は動き出す、かつての争いに決着をつけるため。

*******

 その頃、代行者シンはというと

「いやー、あれは最高だった!またバイクの後ろに乗りたい!」

「君は最低な人間だな!僕はあの赤姫の団長そんな事を出来ないよ、殺されてしまう」

 すっかり仲良くなったエルリックとレーベル亭にて少し前の出来事を自慢げに話していた。
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