プロクラトル

たくち

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砂の世界

突然の襲来

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 風帝隊を退け、勝利の報告をクレアに通信を終えたユナは岩に腰掛け考え込んでいた。

「何でこいつらがこんなとこにいたのよ」

 独り言のように呟いていたがこれに近くにいたノエルが意見を言う。

「奴らが来た方向は共和国の側からでした。おそらく何かの任務の途中かと思います」

「えっ⁈共和国?」

 ユナは共和国に今シンと副長のナナが行っている事を知っている。
 そしてそれは赤姫のメンバーにも知れ渡っている。

「副長達に何かあったのでしょうか?」

 ナナであれば自分の同じくらいの強さなのであの程度の奴らには負けないだろうと考えるユナだが、心配なのはあのいつもしまりのない顔をした代行者の男だ。

 ナナが離れていなければいいのだが、ずっと一緒にいる訳ではないだろう。
 そう考えると何やら嫌な予感がする。

「私は気になる事があるからもう少しこの辺りを調べるわ、あなた達は王都に戻りなさい」

 ノエル達団員に戻るよう指示するユナ。

「いえ、団長を1人で残す訳には行きません、私が残ります」

 しかしノエルが残ると意見をする。
 ユナならば心配ないのだが、1人で残すのはまずいだろうそう考えノエルも残る事にする。

「わかったわ、でも何かあったらすぐに撤退するわよ」

 団員を死なせる訳にはいけないので無理はしない。
 ユナにとって赤姫のメンバーは家族なのでいつも団員の事を第一に考えている。

 赤姫の中では年齢の若いユナだがこういったところが団員から信頼を集めている。

「了解しました、では私達はこれで帰還します」

 他のメンバーが帰還していった。リーグ将軍達王国軍も帰還していたので残ったのはユナとノエルだけだ。
 
「団長、何を気にかけているんですか?」

 2人になった事でノエルが話しかける、共和国から来たらしい風帝隊の事だろうが確認する形だ。

「やっぱ風帝隊が来た方向が気になるわ、共和国には今王国の使者とナナが行っている事だし」

 そう言ってノエルを連れ辺りの捜索を開始する。この場所は岩などにより入り組んだ地形をしているのでしばらくは時間がかかるだろう。

 しばらく探索すると開けた場所から1人歩いてくるのが見えてくる。ノエルに警戒するよう指示し様子見をする。

「なんだぁ?お前ら」

 顔が見える位置まで近づいてきた人間は男だった。
 グレーのローブを纏い敵意を剥き出しにしてきた、その男から感じる威圧感にユナは危険を感じる。

「ノエル撤退!こいつ強いわ!」

 ただ者ではない気配からすぐさまノエルに撤退を指示するユナであったがその命令は実行される事はなかった。

「この服装、赤姫のやつらか」

 いつの間にか背後に移動していた男に向き直る。

(・・・見えなかった、こいつ何者?)

 背後からの声で男が移動した事に気が付くユナだが、振り返った先にいる男の行動に絶句する。

 振り返った先にいた男の伸ばす腕にはノエルの姿がある。
 だがそのノエルの背中からは手が生えていた

 本来ならありえない事だ、そして男の腕を必死に掴み抗うノエルの事を助ける為動き出す。

「ノエル‼︎」

「おっと」

 すかさず愛剣で謎の男に斬りかかるユナ、しかし高速で振り切った剣は男にやすやすとかわされてしまう。

「まず1人だ」

 そう言った男の腕には未だノエルがいる。
 口から血を吐きながら腕を引き抜こうとするが男の腕は全く動かない。

 だがその抵抗を嘲笑うかのように男の口から詠唱がされ

乱風ディスタブウィンド

 瞬間ノエルの体が内側から切り裂かれ、肉塊に変わってしまう。

「あ、あぁぁ」

 声にならない音をユナが発してしまう、絶対に守ると決めていたはずの団員が何も出来ずに殺されてしまう、その事実がユナに重くのしかかってきた。

「赤姫つっても大した事ねえな、残り1人か、赤い髪に赤い剣、団長の”剣姫”ユナだな?」

 ノエルだったものを風の魔術で吹き飛ばし男が歩き出す、絶対の強者がユナに迫り来る。

「序列5位”剣姫”ユナ、俺は序列4位”風帝”ニグル・ウィーゲだ」

 序列4位、そして風帝の2つ名を聞きユナは理解する。
 この男が砂の世界最強と謳われるミリス皇国軍でさらに最強と謳われる男だと。

 するとノエルが殺された怒りが体から溢れ出す、そこには先程までうろたえていた女の子はもういない。男と同じく圧倒的な強者の覇気を放ち己の分身である赤い剣を構えた序列5位”剣姫”ユナが男を殺す為立ち上がる。

「お~怖い怖い、やる気出しちまったか?」

 そのユナにも臆せず風帝は相対する。

 砂の世界で最強と謳われる2名による殺し合いがはじますのだ。

「シっ!」

 力を込め一瞬でニグルの前に移動したユナは剣を振る。一太刀で死を振りまく剛剣を放つユナだが男は風を操り後ろに距離を取る事で剣を交わす。

(風の魔術、厄介ね)

 風帝の2つ名をの通り風を自在に操る男に内心で舌打ちをする。
 ユナには魔術が使えない、だが今まではその圧倒的な身体能力で敵を葬ってきたユナであったが、先ほどの男を見る限り自分と同等以上の身体能力を持っているであろう事に焦りを感じる。

「逃げるだけ?風帝なんて名乗ってるくせに弱腰ね」

 挑発をするユナであったが、男には通じない、答えとばかりに男が魔術を放つ。

(見えない)

 男の放った魔術に頬を切られたユナ、わずかな空気の動きを読み何とか回避出来たが不可視の斬撃は厄介だ。

 お返しとばかりに背後に回り込み斬撃を繰り出すユナであったが、またもニグルは風を操り回避する。

(ひらひらと、まるで紙を斬ろうとしてるみたいだわ)

 風帝ニグルの風の魔術により生み出される圧倒的な回避能力、そして風による不可視の斬撃、これがこの男を砂の世界最強と言わしめる力だった。


「振り回すだけか?それじゃ俺は倒せない」

 こんどはニグルがユナを挑発する。だが男の言う通り、このままではただ剣を振り回すだけだ。
 男の魔力が尽きるかもしれないが、その程度で尽きるような魔力しかないのなら風帝など名乗れるはずがない。

 だがこの男からはなかなか攻撃してくる気配がない。

(なめられてる?いやこっちの実力を測っているんだわ)

 なめられてるかもしれない、その事実がユナの精神的な安定を崩してくる。
 冷静になろうとするユナだが、ノエルを守れなかった事と今まで実力で認められてきた事によるプライドが怒りを起こす。

「ハッ!」

 剣での攻撃があまり効果的ではないと踏んだユナは打撃による攻撃を繰り出す。

(いける!打撃は通る!)

 一撃を入れ手応えを感じたユナは打撃を入れるべく行動する。
 入り組んだ地形を利用し三次元的な動きで縦横無尽に飛び回る、もともとユナはスピードを駆使して圧倒的な身体能力による自由自在な攻撃を得意としている。

(この地形は私に有利のはず、それにここではこいつは大規模な魔術が使えない)
 
 縦横無尽の攻撃で徐々にニグルにダメージを与えていく、この攻撃にニグルも防戦一方の様子だ。

(よし、このまま押し切る!)

 さらに攻勢をかけるユナ、このままいけばニグルを倒せるそう意気込み蹴りを放つが

「残念、不正解だ」

 攻められているはずの男からやけに落ち着いた言葉が聞こえる、だがもう攻撃は止められない。

「っつう⁈」

 蹴りが直撃した瞬間、相手を吹き飛ばすはずのユナの足から血しぶきが舞う。

(何⁉︎)

 激痛に顔をしかめるユナに男が言い放つ。

「風を飛ばすだけで風帝をなど名乗れないだろう」

 そう言った男の周りには砂が巻き上がっていた。
 そうニグルは体に風を張り付かせていたのだ。

(やっぱり手加減してるのね)

 最初からこれをしていたら完全にお手上げのはずだったのだが、ニグルはそれをしなかった改めて手加減されていた事に憤りを感じるが、今はそんなプライドを気にしている場合ではない。

(これで打撃は出来なくなった、どうする?)

 機動力を活かそうにも片足を潰されたため、もうさっきまでのような縦横無尽の攻撃は出来そうにない、ならばやる事は1つ。

(この剣で最高の一撃を放つ、あの風の鎧もろとも斬り裂いてやるわ)

 再度剣を構え直すユナ。

(あの風の鎧を纏っている間は、あの回避は出来ないはず)

 どんな魔術師も2つ以上同時に魔術は使えない、それを知るユナは風の鎧を纏う今一撃を放たなければならない。

「こいよ」

 ニグルの言葉にユナが動き出す、極限まで高めた集中と脱力からの一瞬の斬撃、これならどんな物でも斬れる。
 そう感じたユナは勝利を確信する。

「この程度か?」

 だが風帝は笑いっていた、こんな時に何笑ってんだと最高の一撃を叩き込むユナ、しかしその一撃は風帝には届かなかった。

ゴキンッ

 そう聞こえたユナの振り切った右手には自分の半身でもある赤い愛剣、しかしその愛剣は中ほどから真っ二つに折れていた。

「な、なんで!」

 思わず叫んだユナに衝撃が走る。
 視線の先には足を蹴り出した格好のニグルの姿、その一撃は風を纏いユナの腹部を削りとっていた。

 それに気付いたユナに激痛が走る、今まで感じた事のない痛みにその場で動けなくなってしまう。

「序列5位もこの程度か?」

 そう言ったニグルの顔は侮蔑の目をユナに向けている。

 悔しい。

 ただその想いがユナを支配する。
 ノエルを殺され、自分の半身が折られ、さらに渾身の一撃もこの男には通じない。

 完全な敗北、今まで生きてきた中で初めての敗北にユナは絶望する。

 ただ負けた訳ではない、この男は手を抜いているのだ。

 絶対の自信を持っていた自分の力のなさを悔やんでいた。

「終わりだ」

 そう言ってユナの前に立つニグルの手には剣が握られていた。

(武器も使わせられなかったの!)

 ただでさえ手加減されていたのに、武器さえも抜かせられない。

 屈辱がユナの心を支配する。

 そして死を覚悟したユナの頭には自分の率いる赤姫の顔とあの代行者の男が浮かぶ。
 
(ちょっとしか一緒にいなかったけど楽しかったな、また一緒にお出かけしたかった)

 わずかな期間だったが楽しかった思い出を振り返りもうその時が来ない事がわかり涙を流す。

(ごめんねクレア、ごめんねノエル、ごめんねシン、もう一緒にいられない)

 近づいてくるニグルを見る瞳から涙が止まらない、初めて感じる恐怖に怯える姿にもう序列5位”剣姫”と呼ばれた者はいなかった。



 だが男の懐から聞こえる音に現実に戻される。

「誰だ?こんな時に・・・・俺だ何?わかったすぐ戻る」

 意味がわからなかっただがニグルはユナに言い放つ。

「命拾いしたな」

 そう言って消え去った男のいた場所には、殺されたノエルの頭が転がっていた。

 助かった、何があったのかはわからなかったがその事がユナの頭を支配する。

 だが、ノエルだったものがユナを後悔と屈辱が包み込む。

「私がっ残るっなんで、いっ言わなければ」

 涙を流しノエルの頭部を抱きかかえるユナ。

 初めての敗北、それに守れなかったノエルの事がただただ悔しかった。

「団長!」

 ひたすら泣き続けていたユナに声が掛けられる。

 そこには走り近づいてくるクレアの姿があった、ユナが残ると聞いたクレアは心配し駆けつけていたのだ。

「これはっノエル!」

 無残な姿にされたノエルと傷だらけのユナを見つけ慌てて駆けつけるクレア。

 誰よりも団員を大切にしているユナを1番知っているクレアは、初めて見るユナの姿に何も言えない。

「帰りましょう」

 そうユナを抱きかかえ王都に戻るクレア、彼女に抱えられたユナはひたすら泣き続けているのであった。
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