プロクラトル

たくち

文字の大きさ
24 / 174
砂の世界

ノアの暗躍

しおりを挟む
「最悪のタイミングだ」

 灰色のローブを纏う男が呟く、序列4位”風帝”ニグル・ウィーゲは自らの配下である風帝隊と最近の情報を交換していた。

「ルイナとダストが殺されたのは誤算です。ですがこのタイミングでの皇帝の死、何かが裏を引いているのは間違いないでしょう」

 共和国への策が王国に破られ敵を増やしてしまった上でのミリス皇国のトップの死。
皇国民から絶対の忠誠を向けられていた皇帝のいきなりの死に様々な噂が皇国中に流れている。

「1番可能性が高いのは第1皇女の差し金か」

 皇国第1皇女ローラの皇帝の暗殺というのがニグル達の見解だ。
最近になって彼女が何か動いているのをニグル達は知っていたからだ。

「何を考えているのやら、今アレクシス皇帝殿下なくして皇国の勝利はありえない」

 皇国最大戦力であるニグル達風帝隊とと皇国の盾、守帝はアレクシス皇帝の手で集められた。
だが彼らが忠誠を誓ったのはアレクシス皇帝自身であり皇国に忠誠を誓ってはいない。

「守帝の隊長は辞任、残ったのは4名ほどしかいませんからね」

 その証拠に隊長を含めた守帝の大半は皇国を離れ守帝は殆ど壊滅と同じ状態だ。

「私達だけでは赤姫に勝つ事は難しいですね、個々に勝つ事が出来ても私達は守りは得意ではありません。大将を狙われては勝ち目はないでしょう」

 敵の殲滅が得意な風帝隊はいつも皇帝の守りをする守帝がいるからこそ敵に攻め入る事が出来ていた。
他国からは無敵のように思われていた皇国軍はかつてない危機に陥っている。

「それに加えウェンズ共和国との同盟、戦力差は一気にひっくり返されたな。赤姫の団長を殺せなかったのは痛い、俺の失態だがあのタイミングで皇帝が死ぬとは思わなかった。焦り、止めを刺す事が出来なかった」

 ユナとの戦闘中に皇帝の死を知ったニグルは顔には出さなかったが焦っていた、そのおかげでユナは死なずに済んだのだが、今の皇国の状況は悪い。
 今までどの戦場でも有利に立っていた皇国が今度は守りを主にした戦闘が多くなる。
 有利な立場しか知らない皇国軍は弱者の戦いを知らなかった。

「ローラ皇女を問い詰めてももう皇帝は戻ってこない、今出来る事をするしかないな」

 近いうちに起こる戦争に備え、風帝隊は準備に取り掛かる、戦う事しか彼らには出来なかった。

*******

 皇国の別の場所では第1皇女ローラ・アリアス・ミリスが話をしていた。
部屋には2人しかいなく人払いを済ませている。

「お告げの通り父上、アレクシス皇帝を暗殺しました、これで皇国は救われるのでしょうか?」

 跪き話をする第1皇女ローラ、彼女が跪き言葉を仰ぐ先にいたのは、異質な存在だ。
 何にも染まらない真っ白な髪をし無邪気な子供にも大人のような落ち着いた顔をした女性、無の神ノアが部屋の中をプカプカと浮いていた。

「ああ、これで皇国は良い方向に進んでいる。あの皇帝はこの先皇国を苦しめる存在だ、早めに始末しなきゃならなかった」

 それを聞きローラは悲しい顔をする、皇国の為とはいえ父親を殺した事に思い詰めてしまっている。

「これしか方法はないんだ、ローラ、君の父親は人知れず皇国の民を苦しめていたからね。もし生かしていたらまた別のどこかで同じような事を繰り返していた」

 こんな話はノアの真っ赤な嘘なのだがローラにはわからない事だ。
 父親のアレクシスと違いローラは平凡な存在だった、だが皇国の民の事を考えるローラは民の為と言われアレクシスを殺すしかなかった、まんまとノアの嘘に騙され皇国の危機を作り出していた 。

「これから私はどうしたら良いのでしょう?」

 騙されているとは知らないローラはさらにノアの口車に乗ってしまう。
ノアの人に無条件で信頼される事を利用され操られていた。

「皇子が怪しい動きをしている、この前の無謀な戦争といいいたずらに命を失わせているとしか思えない」

「クラーブは私と違い頭の良い子です、何か理由があるのでは?」

 弟であるクラーブも殺さなくてはならないのか、そんな不安がローラを包み込む。

「いや、誰でも間違いは起こすものだ。ただ少し邪魔をするだけで良い、そうすればクラーブも気付くだろう」

 殺させるのは簡単だ。だがそれをしてはいけない、クラーブとローラにはもっと皇国を混乱させてもらわなくてはならない。

 最後に話をし、姿を消すノア、ノアが消えた後もローラは跪いていた。

「ミアリス様、あなたのお告げ確かに承りました」

 ノアの事をミアリスだと思い込んでいるローラ、その腕に付けた腕輪によりノアの姿をミアリスと間違えて認識していた。

*******

「どういう事だ!戦には破れて俺の評価は下がってしまったぞ!ローラに皇帝を譲るわけにはいかん!」

 同時刻、別の場所でもノアは話をしていた、相手は皇国の第1皇子クラーブ・サラド・ミリスだ。

「落ち着け、まだ完全に決まった訳ではない」

 怒鳴るクラーブに落ち着くよう言うノア、神の名に相応しい威厳にクラーブも黙り込む。

「あの戦はローラが皇帝を暗殺した事で負けたようなものだ。まさか風帝隊と守帝が参加しないとは思わなかった」

 あのスーウェンを利用した戦はノアがクラーブをそそのかし起こさせた戦争なのだが、思ったよりも早くローラが行動した為、風帝隊と守帝は急いで皇都に戻っていた。

「だがあの戦で勝ち、俺が次期皇帝と名乗りをあげるつもりだったのだ!」

 だが皇帝の死を知り絶好の機会とばかりにノアの言う通り戦争を仕掛けたのだ。
 ノアとしてはあの戦で王国のリーグ将軍を殺し戦力を王国と皇国の戦力を均衡させしばらくはどちらも勝つ事がないように仕向けたかったのだが、このクラーブは主戦力がいないまま戦を仕掛け皇国の戦力を減らした。

 さらに言えば守帝がいなくなるのはノアにとって予想外だった。
 砂の世界をミアリスから奪った後自らを信仰させる為この世界の人口を減らしたくないので、皇国軍が弱体化するのは嫌なのだが、シンが証を手にするにはリリアナに王になってもらうしかない。
 さすがにラピス国王はミアリスへの信仰が厚くノアはまだ国王には接触出来ない。

 それでも、ローラに殺させた皇帝もミアリスへの信仰は厚く、接触出来なかったが始末できた。
 この辺りで皇国を動かし王国軍とぶつけリリアナに手柄を立てさせ国王に証の場所を話させるしかない。
 それにミアリスの代行者であろうニグルは皇国軍に所属している、ニグルは同じ代行者のシンに倒してもらうしかない。
 そうしなければ創生のルールを守った事にならずこの砂の世界は自分の物にならない。

(さすがにこれ以上介入するとミアリスが動いてくるだろうが仕方ないな)

「クラーブ、ローラは何かに操られている可能性がある、あの皇女が皇帝の暗殺を企てるとは思えない」

 じっくりと砂の世界の侵略をするつもりだったが皇国の弱体化により事を急ぐ。
 ミアリスと偽ってローラに接触していた事を利用しクラーブを使いローラの尋問をさせ皇国からミアリスの信仰を奪う為動き出す。

「操られていたのならローラは殺す必要はない。裏で手を引いている者を炙り出し、皇国の敵とするんだ、そうすれば皇帝を殺した奴を見つけた功績がお前に残る。もともと第1皇子だ皆従うだろう、そして王国を攻め功績を上げ皇国をお前が纏めろ」

 そう言って姿を消すノア


 翌日、ローラに詰め寄り話を聞くクラーブ、そしてあっさりとミアリスのお告げによって皇帝を暗殺した事を話すローラ、罪悪感を覚えていたローラがそんな事を隠しきれなかった。

 そして皇帝の死が砂の世界の神ミアリスの仕業である事を公表したクラーブは皇帝の無念を晴らす為ミアリスの信仰を辞めノアへの信仰を宣言した。

 皇国民は皇帝を殺したミアリスに憤慨しクラーブと同じくミアリスの策略を見破り真実を伝えたノアへの信仰を始めた。

 熱心なミアリスの使徒達はまだ残っているが大半の皇国民はノアの使徒となった。
 神への信仰など大半の人間は周りがそうしているから合わせて信仰しているだけであり、本気で信仰しているものなど少ないのだ。

 ノアの掌で踊らされているとは知らず皇国民はミアリスへ怒りを向ける。
そしてその代表であるクラーブは打倒王国に向け準備を始める。

「さてミアリスどう出る?さすがにそろそろ動いてくれないと面白くないぞ?」

 何もない世界で神は言う。
 王国の王女リリアナを使徒にし、皇国もほぼ自分のものとした神は勝利を確信しまた傍観に戻る、自分の物となる砂の世界をただじっと見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...