プロクラトル

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砂の世界

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「あら、珍しい方もいらっしゃったわね」

 王都へと戻ったリリアナは早速シンとノアを呼び自室へと招き入れた。
しかし、初めての人物の来客に驚きの声をあげた。

「何よ、私が来ちゃいけないの!」

 珍しい方、燃えるような赤い髪の女性ユナは目を丸くするリリアナに文句を言う。
リリアナに呼ばれたシンは約束通りユナを連れて来たのだ。

「まあまあ、落ち着いて話しようぜ」

 砂の世界でも最高級の王女の自室を我が物顔で入り込み、置いてあったこれまた最高級の茶葉を使って紅茶を入れ偉そうに椅子に座るシン。

 初めは緊張していたシンだったが何度か訪れるうちに慣れ、今では何がこの部屋にあるかまで熟知していた。
 リリアナのいない間に部屋中を物色しあらゆる物を知り尽くしていた、隠されていた下着を見つけ匂いを嗅いだりしたのは極秘事項だ。

「あんた、何でそんな馴れ馴れしのよ」

 自分の宿屋の部屋に来た時よりもリリアナの部屋にいるシンがリラックスしている事に嫉妬したユナがジト目でシンを見つめている。その様子にリリアナは勝ち誇ったように話しだす。

「シン様とわたくしの仲を甘く見ないで頂きたいですわね」

「あぁん?」

 バチバチと火花を散らすユナとリリアナをノアがなだめ本題に入るよう進める。
ノアの様子が楽しそうなのは長らく1人だった為こうしたやり取りが新鮮な為だろう。

「皇国との戦争は1ヶ月後になります、まず間違いなくニグルが代行者と見て間違いないでしょう」

 皇国側の様子からニグルの扱いに困っている事がわかったリリアナは断言する。
 この間の会談での皇国への要求は賭けに近かったのだがあの対応からニグルの皇国での立場を知る事が出来た。

「ニグルは私が倒したい」

 ノエルの殺された恨みと自身の雪辱の為ユナが自分の考えを話す、ノアの瞳には決意が見て取れる。

「契を手に入れた君なら良い勝負が出来るだろう、だが確実ではない。シンと協力していきたいところだね」

 ノアの言葉に少しだけ動揺したユナ、あれから強くなったはずだがまだ確実には勝てないらしい。

「だが奴がどこに来るかわからないな、こちらから誘い出さなきゃならないが」

 シンの疑問にはリリアナが応える、すでにこの中で策を考えるのはリリアナの役目なのだ。

「確実に誘き寄せる事は難しいです。策とは言えないですが兵士達にはニグル発見の狼煙を上げさせようと思います、対応が遅れ被害が出てしまうでしょうが仕方ありません」

 リリアナの話に納得する一同、ニグル抹殺の為に戦争を引き起こしたが殲滅部隊である風帝隊がどう攻めて来るかわからないので仕方ないだろう。

「あとラーズ王国からは予想通り幻視槍が派遣されます。ですがこちらは少数です、数で抑え込めば苦戦はしません」

「赤姫なら幻視槍程度なら対処出来るわ。私達はどうするの?基本はクレアに作戦は任せてるけどあんた達に合わせた方が良いのよね?」

 王国の最大戦力の赤姫はどうするか、赤姫の運用の仕方を間違えば王国側が負ける可能性がある。

「いえ、赤姫の皆さんにはこれまで通り自由に戦場を動いてもらいます。赤姫は皇国にとったら厄介な敵です。もしかしたら風帝隊を誘き寄せる事になるかもしれませんので慣れない戦い方をするより今まで通りしていただいた方が勝率は高いでしょう」

 ユナが同意し赤姫の事は決まりだ、だが問題があった。

「副長のナナには1人で動いてもらうわ、あの子には他に仲間がいても邪魔なだけだから」

 ナナはその魔術の特性から周りを無差別に巻き込んでしまう。
本気で戦うとあちこちに武器を作り出し広範囲に渡る攻撃を行うからだ。

「わかりました、それならばナナさんには遊撃をして頂きましょう。その戦い方なら敵を混乱させるのにもってこいですから」

 すぐさまナナの行動を決めるリリアナ、味方としても厄介なナナの魔術だがリリアナは即座に利用方法を考える。

「ですがやはりニグルの対応が難しいですね、どうしても後手に回ってしまいます」

 リリアナに思い付かないならしょうがないなとシンは思っていた。
 事実ニグルはどの戦場でも突然現れてくるので予測が出来ない。
風の魔術の応用で短時間だか空を浮ける為、動きを捉えるのは困難だ。

「ニグルはシン様を狙っているのです、戦争中わざと皇国に情報を流すのも良いかもしれません、こちらから仮想のノア様の使徒を作り位置を教えて誘き出すのです」

 リリアナの言う事はもっともだ、こちらがニグルを狙うようにあちらもシンを探している。
それを利用し誘き出す、これにはノアも同意をする。

「ではこの事は戦争が始まり次第わたくしが実行します」

 戦争に向けての話し合いが終わりノアも姿を消す、ユナと共にリリアナの部屋を出ようとするがリリアナに引き止められる。

「シン様、少しだけ2人で大切な話がしたいのです」

 2人で大切な話と聞きドキッとするシンだったがユナに足を踏まれ地面にうずくまる。

「何よ!私には話せないの!」

 すぐさまリリアナに突っかかるユナだがリリアナも引くわけにはいかない。
立ち上がったシンになだめられユナは部屋を出る。
ユナがいなくなったのを確認して、未だドキドキしているシンにリリアナは話し始める。

「この話は他言無用でお願いします、決して他に話ではいけません」


*******

 リリアナとの話し合いが終わったシンはエルリックに会いに兵舎へ向かっていた。
 すると途中でエルリックを見つけ、レベッカの店へと連れ出した。

 個室へと案内してもらったシンはいつになく真剣な表情でエルリックに話をする。

「単刀直入に言おうと思う、エルリック俺の仲間になってくれないか?」

 いきなりの事にエルリックは戸惑うがシンは続ける。

「俺が旅をしているのは知ってるな?それについて来て欲しいんだ」

 エルリックには出会った時にシンの旅の目的を聞いている。
何が言いたいのかはエルリックはわかるのだが

「俺にこの国を捨てろと言うのか?」

 エルリックはラピス王国の兵士だ、当然シンに着いて行くと言う事は国を捨てる事になる。

「ああ、俺は戦争が終わったらこの世界から出て行く、その時に着いてきて欲しいんだ」

 エルリックを仲間にする事はノアに相談し承諾を得ている。
 この世界に来て1人では出来ない事があるとシンは実感している為、仲間を増やさなくてはならないと考えている。
 そしてその仲間にこの世界に来て初めての友人であるエルリックを選んだのだ。

「時間を貰えるか?」

 生まれ育った国を出る事に決心が付かないエルリック、戸惑いもあるので時間が欲しいと言う。

「いきなりこんな話をして悪いな、エルリックはここに来て初めての友人だ。だからこれからも一緒に旅がしたいと思ったんだ」

 エルリックは友人と面と向かって言われたのは初めての事だった。
 思えばエルリックにとってもシンは初めての同年代の友人だ。

「構わないさ、俺はシンに初めてのあった時に目的をもらった。ここまで成長出来ているのもシンのお陰だ、そんなお前に必要とされているんだこれでも結構嬉しいんだ」

「そうか、なら良いが返事は戦争の後に聞くよ」

「ああ、待たせてすまない」

「そうだ、これ持っててくれるか?」

シンが渡すのはノアの腕輪だ。

「これは?」

「俺が付けてるのとは少し違うがノアの腕輪だ、前に言っただろ?ノアは俺の神だ、まあ持っててくれ」

 腕輪を手に取り左腕に着けるエルリック、だが腕輪からは何も感じない。

「意味はあるのか?」

 なぜ、渡されたのかわからないエルリックはシンに問いかける。

「いや、それは言わない事にする、楽しみだからな」

 だがシンは答えを言わなかった。
 何が楽しみなのか知りたかったがこの様子だと教えてはくれないだろう。

「まあ着けておくよ、お守りの代わりだ」

 そのあとはいつも通り2人でバカのように話をした。
 相変わらず好みなどは合わないが、それが2人の仲が良い証拠でもあった。

「そうだエルリック、皇国との戦争でリリアナを守ってくれないか?」

 唐突に告げるシン、だがシンの頼みをエルリックは断らない。

「当たり前だ、リリアナ様はこの国の総大将だぞ、俺が必ず守り通す」

*******

 ラピリア王城の会議室にて王国の重鎮たちは軍事会議を行っていた。
そこにはウェンズ共和国国王デウメス王やドナート将軍の姿もある。

「では赤姫の皆様は今まで通りクレアさんの指揮のもと動いて下さい、ナナさんには敵陣に切り込み敵の兵力を分断して頂きます」

 ノア達との会議通りの話をする。ユナには言ってあるので承諾されるのだが

「ナナ殿は子供ではないか、単身では危険だ!」

 共和国でナナと面識のあるドナート将軍だがやはり子供を1人では納得できないようだ。

「ナナには必要ないわ、余計な死体が増えるだけよ」

 だが赤姫の団長ユナの説得で無理矢理納得させる。
 共和国も無駄死にはさせたくないので、納得するしかない。

「共和国の皆様は左に展開、リーグ将軍と協力し皇国軍を引き止めて下さい」

「わかった」

 会議はリリアナを中心に進んでいく、彼女はもう王国の中心を物にしていた。

「共和国の戦力はどうなのですか?」

 今回の戦争では共和国はかなり協力的な姿勢だ。
 皇国に恨みもある為軍と傭兵団を多数引き連れる予定だ。

「ここにいるドナートの率いる1万の兵と砂塵を中心とした3万ほどの傭兵団を派遣する」

「砂塵⁉︎それは本当か?」

 リーグが声をあげる、ウェンズ共和国の砂塵と言う傭兵団はリーグが傭兵時代に所属していた傭兵団だ。

「これは心強いな、サラドさんは元気か?」

「ああ、お前と共闘できると楽しみにしていたぞ」

 リーグの問いにドナートが答える、嬉しそうなリーグの顔を見る限り頼りになる戦力なのだろう。

「風帝隊ですが、これは基本的に赤姫に担当してもらいます。あの部隊に太刀打ち出来るのは彼女達ぐらいですから」

「隊長はどうする?序列4位は強敵だ」

「私がやるわ」
 
 そう宣言するユナからは凄まじい殺気が溢れ出す、他の面々は自分に向いていないとわかりながらも恐怖を覚えてしまう。

「ラーズの援軍はどうする?幻視槍は無視できないぞ」

 ユナの殺気に当てられる中言葉を出せるドナートは相当な実力を持っているのだろう。
 しかし、汗の量からしてかなり無理はしている事が伺える。

「それも赤姫に担当して頂きたいのですが厳しいでしょう。ラーズの援軍は数が多くありません数をあて足留めに徹します」

 幻視槍の対応も決めていたのですぐに答えは出せる。
 先にほとんどの事項を決めていたのでこの会議はリリアナにとって作戦を伝えるだけの物だ。

「本陣はエルリックに守護をお願いします、彼ならば守り通してくれるでしょう」

 これには反対の意見は出ない、エルリックの才能を知っているここの人達からしたら反論などないのだ。

「では細かくは追々に致しましょう、1か月後必ず勝利を」

 1度目の会議は終了する。
これから1か月リリアナは物資の確保や輸送、武器の調達や練兵など休む事なく働き続ける。

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