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砂の世界

砂の世界の行方

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 リリアナに巧みに操られラピス王国国王はミリス皇国への戦線布告を宣言した。
 両国の間での大規模戦争になる為、戦争の勝敗条件そして勝利時の要求を決定する会談が両国の頂点にいる者達により行われる。

 砂の世界【デゼルト】では大規模戦争の際は互いに戦地、勝敗条件を話し合い合意した上で行われる。
一方的な殺戮などにより人口が減少する事を恐れたミアリスが作り出したルールである。
それは神の定めた世界のルールであり、たとえ信仰が薄くなっても無くなる事はない。

 皇国との会談に向けラピス国王はリリアナと文官たちを引き連れ会談場となる城塞都市ラ・ゴーアンへと赴いていた。

「リリアナ今回はお前に総大将となり王国の勝利を導くのだ」

 総大将は戦争の最高責任者であり敵国の狙う最大の標的である。
普通は国軍の重鎮がその任に着くのだが国をかけた大規模戦争では王族がその任に着く。

 これほどの規模ならば国王が総大将となる事が多いのだが国王はリリアナに任せる事で時期ラピス国王がリリアナであると砂の世界の人達全員にメッセージを送るつもりだ。

 まだ若いリリアナに死ぬ可能性のある事はさせたくないがこのぐらいは乗り越えて貰わなくては困るのだ。

「わかりました、父上」

 短い言葉だがリリアナからは強い決意が感じ取れる。
王国の優位は変わらないが勝負に絶対はありえない、ノアとシンの目的の為確実に勝利しなければならない戦争だ。

「会談もリリアナに任せよう、なに、もうあの皇帝はいない、お前なら心配はないだろう」

 ラピス国王にとって前ミリス皇国皇帝はまさに目の上のたんこぶだった。
その才覚に常に先手を取られ何度も苦汁を飲まされた事か。

 同じミアリスを信仰しながら敵対した、2人にリリアナは呆れていた。そしてそれを止めないミアリスにも。

(これだからノア様に弄ばれるのです)

 皇国と王国が協力関係にあればノアはこうも上手く物事を進められなかっただろう。
同じ砂の世界の住人が愚かな事にリリアナは嘆く。

 だが今はリリアナはノアの使徒だ。
ここまで上手くいった事に気持ち良さもあるが上手くいきすぎてつまらなくも思っている、張り合いのある相手がいないのだ。

 初めて対峙する皇国第1皇子を楽しみにしながらリリアナは会談を待ちわびる、国王や文官達、護衛やお供のメイドに気付かれぬよう使用済みのピンク色の布の処理をしながら。

*******

 リリアナの警護を任されたエルリックは軍用バイクに乗り王族の乗る車両を先導していた。
 城塞都市ラ・ゴーアンは皇国との国境付近にあり王都からは1週間ほどの移動となる。
 ラ・ゴーアンへの道は全て整備されており、この辺りの冒険者や国軍の衛兵達により魔獣達はいない。

 その為ただバイクで走るだけなのだがエルリックはバイクでの走行が好きなので苦にはならない。

 途中町に寄れず野宿の時もあるのだが、王族専用車両に積まれている生活用魔道具によりむしろ安い宿よりも快適に過ごす事が出来る。

 だが時折リリアナが姿を消し、メイド達が慌てて捜索するのだがすぐにリリアナは戻ってくる。
 町に着くたびメイド達は何か買い物をしているようだった。
 その度エルリック達護衛を睨んでいる気がするが長旅の為ピリピリしているのだろう。

 それ以外には問題は起こっていない、アニーとの訓練が出来ないのは痛手だがだいぶコツを掴んできた。あれほど一方的に負けていたリーグ将軍にも何度か勝つ事が出来た。
 自分の成長が実感できエルリックも満足していた。

「リリアナ様、今回はどのような会談なのです?」

 リリアナとは前回共和国への旅で仲良くなれたとエルリックは思っている。
 実際共和国でも2人で同盟の事で話し合い王族の中ではリリアナが1番話しやすい。

「わたくしも初めてなのですが、戦地の選定に勝利した場合の敗戦国に対する要求などですね、だいたい向こうの要求は予想できています」

 リリアナも大規模戦争の会談は初めてだが緊張はしていない。
 リリアナ達が優位は立場にいる為会談でも王国主導で進められるからだ。

「皇国は何を要求するのでしょうか?」

「そうね、王国の領地の譲渡や金銭でしょう、それとあちらはミアリス様を敵視しています。ですので王国のミアリス様への信仰の撤廃といったところでしょうか?」

 王国の豊かな財産が皇国は欲しいはずなのでこれは言ってくるだろう。
 後半はリリアナにとって言い話なので通してもいいのだが、この戦争の目的は皇国にいるミアリスの代行者ニグルを倒す事だ。
 ニグルは大将に近い存在になるはずなのでどちらにせよ勝たなくてはならない。

「信仰ですか、こう言っては不敬なのかもしれませんが私はあまり興味がないですね。神というよりもリリアナ様などの王族の、そして王国の為に戦うと言った方が正しいので」

 エルリックは神をあまり信じていない。
ミアリスの使徒でないのはリリアナにとって都合が良いのでエルリックを今回も護衛にしたのだ。

「そうですね、わたくしも同じような考えです。ですが今の条件ならばのんでも問題ありません、勝つのは王国ですので」

 リリアナが働くのはノアとシンの為だがエルリックはまだ仲間とはなっていないのでこう返しておく。

「そうですね、我々の勝利の為私も力を出し切ります」

 そう言ってリリアナと別れる。
 去り際に何か変な臭いがしたがそれを確かめるのはリリアナに失礼だろう、会談は明日、何も起きないと思うがエルリックは体を休める。

*******

 城塞都市ラ・ゴーアンにある建物の一室にてラピス王国、そしてミリス皇国の面々が向かい合って座っていた。すでに自己紹介を済ませ会談が始まっている。

「戦地はグラータル荒野でいかがですか?」

 グラータル荒野はちょうど王国と皇国の間にある入り組んだ地形の荒野である。
砂地は少なく乾燥した地面がひび割れ、枯れた木の森や岩場の多い人の住んでいない場所である。

「問題ありません、それで決まりにしましょう」

 リリアナの提案に皇国第1皇子クラーブが答える、彼としてもその戦地で問題はない。

「では次の勝敗条件ですね、これは総大将の殺害、もしくは捕縛でよろしいですか?」

「「なっ!」」

 リリアナの言葉に会談に来ていた者達が驚きの声を上げる。
 それもそうだ総大将の殺害など今までの戦争では条件にあげられない、王族や優れた武人の殺害などされる訳にはいかないからだ。

「それは承諾出来ない!わかっているのか!」

 クラーブ皇子が声を荒げる、すでに王国の総大将はリリアナと通達されていた。
その自分を殺せば勝ちだと皇国に宣言したのだ、だがこれを認めたらクラーブ皇子も殺される事になる。

「ではどのような条件をお望みで?」

 リリアナとしては別にこの皇子を殺す必要はないのであえて強気な発言をし相手を威圧しただけだ。
もちろんこの条件が承諾されても殺されるつもりはない。

「過去の例を見るに本陣に掲げた国旗の破壊で良いだろう、何も命をかけなくても良い」

 この条件でも兵士達は命を落とすのだがクラーブ皇子は自分の命をなくさない事が大事なので過去の例を出す、だがリリアナは譲らない。

「それではつまらないではないですか」

「「なっ!」」

 先ほどと同じく会談場を驚愕が走る。
 リリアナは別に旗の破壊でも良いのだが先ほどの会談場の反応が面白かったのでまた同じような反応が見たかっただけなのだが、見事に同じ反応をした、思わずリリアナは笑ってしまう。

 だが楽しんでいるのはリリアナだけだ。
 つまらない、自分の命すら楽しむための道具にしかしないこの美しい女性がこの会談場にいる人間には死神に見える、完全に会談場を支配したリリアナは続ける。

「仕方ありません、旗の破壊で良いでしょう、ですが旗の破壊に巻き込まれて死んでしまうかもしれませんね」

 ふふふっと笑うリリアナ、彼女からしたらもう十分楽しんだのでさっさと話を進めたいが、はっきりと旗の破壊だけでは済まさないと言われた皇国側の人達はもうリリアナに対する恐怖でいっぱいになり言葉を出せなかった。

「勝敗条件は決まりました、次は勝利時の要求ですがこちらからは皇国の風帝隊全員の処刑を条件にします」

 たとえシンがニグルを倒せなくても勝ちさえすればニグルを殺せるのでリリアナはこの条件を要求する。
 皇国はすでにノアの支配下なので滅ぼす訳にはいかない、こちらの狙いがニグルだと知られてしまうが問題ないだろう、シンを疑ってはいないが確実にニグルを抹殺する為の保険だ。

 だが皇国最大戦力を失う訳にはいかないのでクラーブは反論する。

「それは承諾出来ない、風帝隊を失う訳にはいかないからな」

 この場にニグルはいない、ニグルが来ていればリリアナがノアの使徒だと感づかれるだろうがいないのならば心配ない。
 ニグルと会った事はないが会うとしてもその時ニグルは生きていない。

「そうですか、では隊長の譲渡、これが最低条件です。そちらとしても良いのでは?隊長は熱心なミアリスの使徒です、前皇帝の敵となる者を信仰する人間など必要ないでしょう?」

 皇国の敵であるミアリスの使徒のニグルは皇国でも扱いに困る存在だ。
だが、譲渡とする事でこの場にいるリリアナの父親にもリリアナがノアの使徒だとはわからない。

「わかった、風帝隊全てを失わないだけ良いのだろう」

 もとよりミアリスの使徒の可能性のある風帝隊は排除するのだが、リリアナに怯える皇国側の人達は条件をのんでしまう。負けなけれは良いという思いもあるのだ。

「こちらからは王国のミアリスへの信仰の破棄を申し出たい、それをしている限り王国は皇国の敵だ」

「なんだと!」

 熱心なミアリスの使徒のラピス国王はつい反応してしまう、。
 リアナに任せたはずの会談に口を出して反論し始めた、だがリリアナにとってむしろ良い条件なので国王を黙らせ承諾する。

「ではこれで全て決まりですね、開戦は1ヶ月後です、それではまた戦場でお会いしましょう」

 別れを言い会談場を出る、未だ騒ぐ国王を無視し王都への帰還の準備に入る、あと少し、ノアの勝利の為リリアナも戦争の準備を開始する。

*******

「やあ、久しぶりだね」

 砂の世界のどこか、ミアリスのみが入る事の出来る空間に侵入者が現れる。

「ノア!貴様なぜここに!」

 自らの空間に入り込まれた事に怒り侵入者ノアに怒鳴り込む、だが侵入者は相手にしない。

「そう怒るなよ、久しぶりに話しでもしようじゃないか」

 前までのノアには力がなく他の世界や神に干渉出来なかった。
だが、皇国がノアを信仰し始めた為、ミアリスの空間に干渉できるまで力を取り戻した。

「貴様と話す事などない」

 不機嫌さを隠さないミアリスは敵意をノアに向ける。
彼女もここまでノアにいいようにやられている為頭にきているのだ。

「どうだい?自分の世界が奪われる感覚は?」

 かつて自分を無の世界に封じ込めたミアリスに対しノアは嫌味を言う。
自分の勝利を確信しているからこそ言える言葉である。

「まだ勝負はついていないわ、この世界は私の物、貴様には勝つ事は出来ない」

 だが、ミアリスはまだ気付かない。この傲慢さがノアに敗北する原因である事に。

「君は変わらないな、そんなんだからボクに負けるのさ」

「貴様、今ここで殺してやろう」

 ノアの挑発に我慢出来ないミアリスはノアに攻撃をする。
神同士での争いは禁じられている事を忘れてしまうほど頭に血がのぼっていた。

 しかし、ノアに攻撃をする事は出来なかった。
ルールに違反したからではない、またも新たに現れた神にとめられていたのだ。

「あなたが出てくるのか、意外だな」

 新たな侵入者にノアが呟く、そこにはノアと同じ白い髪をしたノアよりも大人の女性がミアリスを取り押さえていた。

「出て来たのか、ノア」

 美しい凛とした声が響き渡る、心地の良い声はどこまでも透き通るようだ。

「ええ、苦労しましたよ、ですがこうして出て来た以上ボクは止まらない」

「また繰り返すのか?」

 また、ユナの刀、皇龍刀”契”と同じ言葉を新たな神は言う。
 その問いにノアが応える事は無かった、ただ微笑みミアリスの世界から姿を消す。

 新たに現れた神はこれからノアが起こすであろう事にただ怒りを、そして哀れみを、そして悲しみを感じていた。

「何度でも止めてやる、妹の間違いを正すのは姉の役目だ」

 最後に呟き新たな神は自分の世界へと戻る。

 他の世界もまた砂の世界と同様に変化が訪れる事となる。
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