27 / 174
砂の世界
砂の世界の行方
しおりを挟む
リリアナに巧みに操られラピス王国国王はミリス皇国への戦線布告を宣言した。
両国の間での大規模戦争になる為、戦争の勝敗条件そして勝利時の要求を決定する会談が両国の頂点にいる者達により行われる。
砂の世界【デゼルト】では大規模戦争の際は互いに戦地、勝敗条件を話し合い合意した上で行われる。
一方的な殺戮などにより人口が減少する事を恐れたミアリスが作り出したルールである。
それは神の定めた世界のルールであり、たとえ信仰が薄くなっても無くなる事はない。
皇国との会談に向けラピス国王はリリアナと文官たちを引き連れ会談場となる城塞都市ラ・ゴーアンへと赴いていた。
「リリアナ今回はお前に総大将となり王国の勝利を導くのだ」
総大将は戦争の最高責任者であり敵国の狙う最大の標的である。
普通は国軍の重鎮がその任に着くのだが国をかけた大規模戦争では王族がその任に着く。
これほどの規模ならば国王が総大将となる事が多いのだが国王はリリアナに任せる事で時期ラピス国王がリリアナであると砂の世界の人達全員にメッセージを送るつもりだ。
まだ若いリリアナに死ぬ可能性のある事はさせたくないがこのぐらいは乗り越えて貰わなくては困るのだ。
「わかりました、父上」
短い言葉だがリリアナからは強い決意が感じ取れる。
王国の優位は変わらないが勝負に絶対はありえない、ノアとシンの目的の為確実に勝利しなければならない戦争だ。
「会談もリリアナに任せよう、なに、もうあの皇帝はいない、お前なら心配はないだろう」
ラピス国王にとって前ミリス皇国皇帝はまさに目の上のたんこぶだった。
その才覚に常に先手を取られ何度も苦汁を飲まされた事か。
同じミアリスを信仰しながら敵対した、2人にリリアナは呆れていた。そしてそれを止めないミアリスにも。
(これだからノア様に弄ばれるのです)
皇国と王国が協力関係にあればノアはこうも上手く物事を進められなかっただろう。
同じ砂の世界の住人が愚かな事にリリアナは嘆く。
だが今はリリアナはノアの使徒だ。
ここまで上手くいった事に気持ち良さもあるが上手くいきすぎてつまらなくも思っている、張り合いのある相手がいないのだ。
初めて対峙する皇国第1皇子を楽しみにしながらリリアナは会談を待ちわびる、国王や文官達、護衛やお供のメイドに気付かれぬよう使用済みのピンク色の布の処理をしながら。
*******
リリアナの警護を任されたエルリックは軍用バイクに乗り王族の乗る車両を先導していた。
城塞都市ラ・ゴーアンは皇国との国境付近にあり王都からは1週間ほどの移動となる。
ラ・ゴーアンへの道は全て整備されており、この辺りの冒険者や国軍の衛兵達により魔獣達はいない。
その為ただバイクで走るだけなのだがエルリックはバイクでの走行が好きなので苦にはならない。
途中町に寄れず野宿の時もあるのだが、王族専用車両に積まれている生活用魔道具によりむしろ安い宿よりも快適に過ごす事が出来る。
だが時折リリアナが姿を消し、メイド達が慌てて捜索するのだがすぐにリリアナは戻ってくる。
町に着くたびメイド達は何か買い物をしているようだった。
その度エルリック達護衛を睨んでいる気がするが長旅の為ピリピリしているのだろう。
それ以外には問題は起こっていない、アニーとの訓練が出来ないのは痛手だがだいぶコツを掴んできた。あれほど一方的に負けていたリーグ将軍にも何度か勝つ事が出来た。
自分の成長が実感できエルリックも満足していた。
「リリアナ様、今回はどのような会談なのです?」
リリアナとは前回共和国への旅で仲良くなれたとエルリックは思っている。
実際共和国でも2人で同盟の事で話し合い王族の中ではリリアナが1番話しやすい。
「わたくしも初めてなのですが、戦地の選定に勝利した場合の敗戦国に対する要求などですね、だいたい向こうの要求は予想できています」
リリアナも大規模戦争の会談は初めてだが緊張はしていない。
リリアナ達が優位は立場にいる為会談でも王国主導で進められるからだ。
「皇国は何を要求するのでしょうか?」
「そうね、王国の領地の譲渡や金銭でしょう、それとあちらはミアリス様を敵視しています。ですので王国のミアリス様への信仰の撤廃といったところでしょうか?」
王国の豊かな財産が皇国は欲しいはずなのでこれは言ってくるだろう。
後半はリリアナにとって言い話なので通してもいいのだが、この戦争の目的は皇国にいるミアリスの代行者ニグルを倒す事だ。
ニグルは大将に近い存在になるはずなのでどちらにせよ勝たなくてはならない。
「信仰ですか、こう言っては不敬なのかもしれませんが私はあまり興味がないですね。神というよりもリリアナ様などの王族の、そして王国の為に戦うと言った方が正しいので」
エルリックは神をあまり信じていない。
ミアリスの使徒でないのはリリアナにとって都合が良いのでエルリックを今回も護衛にしたのだ。
「そうですね、わたくしも同じような考えです。ですが今の条件ならばのんでも問題ありません、勝つのは王国ですので」
リリアナが働くのはノアとシンの為だがエルリックはまだ仲間とはなっていないのでこう返しておく。
「そうですね、我々の勝利の為私も力を出し切ります」
そう言ってリリアナと別れる。
去り際に何か変な臭いがしたがそれを確かめるのはリリアナに失礼だろう、会談は明日、何も起きないと思うがエルリックは体を休める。
*******
城塞都市ラ・ゴーアンにある建物の一室にてラピス王国、そしてミリス皇国の面々が向かい合って座っていた。すでに自己紹介を済ませ会談が始まっている。
「戦地はグラータル荒野でいかがですか?」
グラータル荒野はちょうど王国と皇国の間にある入り組んだ地形の荒野である。
砂地は少なく乾燥した地面がひび割れ、枯れた木の森や岩場の多い人の住んでいない場所である。
「問題ありません、それで決まりにしましょう」
リリアナの提案に皇国第1皇子クラーブが答える、彼としてもその戦地で問題はない。
「では次の勝敗条件ですね、これは総大将の殺害、もしくは捕縛でよろしいですか?」
「「なっ!」」
リリアナの言葉に会談に来ていた者達が驚きの声を上げる。
それもそうだ総大将の殺害など今までの戦争では条件にあげられない、王族や優れた武人の殺害などされる訳にはいかないからだ。
「それは承諾出来ない!わかっているのか!」
クラーブ皇子が声を荒げる、すでに王国の総大将はリリアナと通達されていた。
その自分を殺せば勝ちだと皇国に宣言したのだ、だがこれを認めたらクラーブ皇子も殺される事になる。
「ではどのような条件をお望みで?」
リリアナとしては別にこの皇子を殺す必要はないのであえて強気な発言をし相手を威圧しただけだ。
もちろんこの条件が承諾されても殺されるつもりはない。
「過去の例を見るに本陣に掲げた国旗の破壊で良いだろう、何も命をかけなくても良い」
この条件でも兵士達は命を落とすのだがクラーブ皇子は自分の命をなくさない事が大事なので過去の例を出す、だがリリアナは譲らない。
「それではつまらないではないですか」
「「なっ!」」
先ほどと同じく会談場を驚愕が走る。
リリアナは別に旗の破壊でも良いのだが先ほどの会談場の反応が面白かったのでまた同じような反応が見たかっただけなのだが、見事に同じ反応をした、思わずリリアナは笑ってしまう。
だが楽しんでいるのはリリアナだけだ。
つまらない、自分の命すら楽しむための道具にしかしないこの美しい女性がこの会談場にいる人間には死神に見える、完全に会談場を支配したリリアナは続ける。
「仕方ありません、旗の破壊で良いでしょう、ですが旗の破壊に巻き込まれて死んでしまうかもしれませんね」
ふふふっと笑うリリアナ、彼女からしたらもう十分楽しんだのでさっさと話を進めたいが、はっきりと旗の破壊だけでは済まさないと言われた皇国側の人達はもうリリアナに対する恐怖でいっぱいになり言葉を出せなかった。
「勝敗条件は決まりました、次は勝利時の要求ですがこちらからは皇国の風帝隊全員の処刑を条件にします」
たとえシンがニグルを倒せなくても勝ちさえすればニグルを殺せるのでリリアナはこの条件を要求する。
皇国はすでにノアの支配下なので滅ぼす訳にはいかない、こちらの狙いがニグルだと知られてしまうが問題ないだろう、シンを疑ってはいないが確実にニグルを抹殺する為の保険だ。
だが皇国最大戦力を失う訳にはいかないのでクラーブは反論する。
「それは承諾出来ない、風帝隊を失う訳にはいかないからな」
この場にニグルはいない、ニグルが来ていればリリアナがノアの使徒だと感づかれるだろうがいないのならば心配ない。
ニグルと会った事はないが会うとしてもその時ニグルは生きていない。
「そうですか、では隊長の譲渡、これが最低条件です。そちらとしても良いのでは?隊長は熱心なミアリスの使徒です、前皇帝の敵となる者を信仰する人間など必要ないでしょう?」
皇国の敵であるミアリスの使徒のニグルは皇国でも扱いに困る存在だ。
だが、譲渡とする事でこの場にいるリリアナの父親にもリリアナがノアの使徒だとはわからない。
「わかった、風帝隊全てを失わないだけ良いのだろう」
もとよりミアリスの使徒の可能性のある風帝隊は排除するのだが、リリアナに怯える皇国側の人達は条件をのんでしまう。負けなけれは良いという思いもあるのだ。
「こちらからは王国のミアリスへの信仰の破棄を申し出たい、それをしている限り王国は皇国の敵だ」
「なんだと!」
熱心なミアリスの使徒のラピス国王はつい反応してしまう、。
リアナに任せたはずの会談に口を出して反論し始めた、だがリリアナにとってむしろ良い条件なので国王を黙らせ承諾する。
「ではこれで全て決まりですね、開戦は1ヶ月後です、それではまた戦場でお会いしましょう」
別れを言い会談場を出る、未だ騒ぐ国王を無視し王都への帰還の準備に入る、あと少し、ノアの勝利の為リリアナも戦争の準備を開始する。
*******
「やあ、久しぶりだね」
砂の世界のどこか、ミアリスのみが入る事の出来る空間に侵入者が現れる。
「ノア!貴様なぜここに!」
自らの空間に入り込まれた事に怒り侵入者ノアに怒鳴り込む、だが侵入者は相手にしない。
「そう怒るなよ、久しぶりに話しでもしようじゃないか」
前までのノアには力がなく他の世界や神に干渉出来なかった。
だが、皇国がノアを信仰し始めた為、ミアリスの空間に干渉できるまで力を取り戻した。
「貴様と話す事などない」
不機嫌さを隠さないミアリスは敵意をノアに向ける。
彼女もここまでノアにいいようにやられている為頭にきているのだ。
「どうだい?自分の世界が奪われる感覚は?」
かつて自分を無の世界に封じ込めたミアリスに対しノアは嫌味を言う。
自分の勝利を確信しているからこそ言える言葉である。
「まだ勝負はついていないわ、この世界は私の物、貴様には勝つ事は出来ない」
だが、ミアリスはまだ気付かない。この傲慢さがノアに敗北する原因である事に。
「君は変わらないな、そんなんだからボクに負けるのさ」
「貴様、今ここで殺してやろう」
ノアの挑発に我慢出来ないミアリスはノアに攻撃をする。
神同士での争いは禁じられている事を忘れてしまうほど頭に血がのぼっていた。
しかし、ノアに攻撃をする事は出来なかった。
ルールに違反したからではない、またも新たに現れた神にとめられていたのだ。
「あなたが出てくるのか、意外だな」
新たな侵入者にノアが呟く、そこにはノアと同じ白い髪をしたノアよりも大人の女性がミアリスを取り押さえていた。
「出て来たのか、ノア」
美しい凛とした声が響き渡る、心地の良い声はどこまでも透き通るようだ。
「ええ、苦労しましたよ、ですがこうして出て来た以上ボクは止まらない」
「また繰り返すのか?」
また、ユナの刀、皇龍刀”契”と同じ言葉を新たな神は言う。
その問いにノアが応える事は無かった、ただ微笑みミアリスの世界から姿を消す。
新たに現れた神はこれからノアが起こすであろう事にただ怒りを、そして哀れみを、そして悲しみを感じていた。
「何度でも止めてやる、妹の間違いを正すのは姉の役目だ」
最後に呟き新たな神は自分の世界へと戻る。
他の世界もまた砂の世界と同様に変化が訪れる事となる。
両国の間での大規模戦争になる為、戦争の勝敗条件そして勝利時の要求を決定する会談が両国の頂点にいる者達により行われる。
砂の世界【デゼルト】では大規模戦争の際は互いに戦地、勝敗条件を話し合い合意した上で行われる。
一方的な殺戮などにより人口が減少する事を恐れたミアリスが作り出したルールである。
それは神の定めた世界のルールであり、たとえ信仰が薄くなっても無くなる事はない。
皇国との会談に向けラピス国王はリリアナと文官たちを引き連れ会談場となる城塞都市ラ・ゴーアンへと赴いていた。
「リリアナ今回はお前に総大将となり王国の勝利を導くのだ」
総大将は戦争の最高責任者であり敵国の狙う最大の標的である。
普通は国軍の重鎮がその任に着くのだが国をかけた大規模戦争では王族がその任に着く。
これほどの規模ならば国王が総大将となる事が多いのだが国王はリリアナに任せる事で時期ラピス国王がリリアナであると砂の世界の人達全員にメッセージを送るつもりだ。
まだ若いリリアナに死ぬ可能性のある事はさせたくないがこのぐらいは乗り越えて貰わなくては困るのだ。
「わかりました、父上」
短い言葉だがリリアナからは強い決意が感じ取れる。
王国の優位は変わらないが勝負に絶対はありえない、ノアとシンの目的の為確実に勝利しなければならない戦争だ。
「会談もリリアナに任せよう、なに、もうあの皇帝はいない、お前なら心配はないだろう」
ラピス国王にとって前ミリス皇国皇帝はまさに目の上のたんこぶだった。
その才覚に常に先手を取られ何度も苦汁を飲まされた事か。
同じミアリスを信仰しながら敵対した、2人にリリアナは呆れていた。そしてそれを止めないミアリスにも。
(これだからノア様に弄ばれるのです)
皇国と王国が協力関係にあればノアはこうも上手く物事を進められなかっただろう。
同じ砂の世界の住人が愚かな事にリリアナは嘆く。
だが今はリリアナはノアの使徒だ。
ここまで上手くいった事に気持ち良さもあるが上手くいきすぎてつまらなくも思っている、張り合いのある相手がいないのだ。
初めて対峙する皇国第1皇子を楽しみにしながらリリアナは会談を待ちわびる、国王や文官達、護衛やお供のメイドに気付かれぬよう使用済みのピンク色の布の処理をしながら。
*******
リリアナの警護を任されたエルリックは軍用バイクに乗り王族の乗る車両を先導していた。
城塞都市ラ・ゴーアンは皇国との国境付近にあり王都からは1週間ほどの移動となる。
ラ・ゴーアンへの道は全て整備されており、この辺りの冒険者や国軍の衛兵達により魔獣達はいない。
その為ただバイクで走るだけなのだがエルリックはバイクでの走行が好きなので苦にはならない。
途中町に寄れず野宿の時もあるのだが、王族専用車両に積まれている生活用魔道具によりむしろ安い宿よりも快適に過ごす事が出来る。
だが時折リリアナが姿を消し、メイド達が慌てて捜索するのだがすぐにリリアナは戻ってくる。
町に着くたびメイド達は何か買い物をしているようだった。
その度エルリック達護衛を睨んでいる気がするが長旅の為ピリピリしているのだろう。
それ以外には問題は起こっていない、アニーとの訓練が出来ないのは痛手だがだいぶコツを掴んできた。あれほど一方的に負けていたリーグ将軍にも何度か勝つ事が出来た。
自分の成長が実感できエルリックも満足していた。
「リリアナ様、今回はどのような会談なのです?」
リリアナとは前回共和国への旅で仲良くなれたとエルリックは思っている。
実際共和国でも2人で同盟の事で話し合い王族の中ではリリアナが1番話しやすい。
「わたくしも初めてなのですが、戦地の選定に勝利した場合の敗戦国に対する要求などですね、だいたい向こうの要求は予想できています」
リリアナも大規模戦争の会談は初めてだが緊張はしていない。
リリアナ達が優位は立場にいる為会談でも王国主導で進められるからだ。
「皇国は何を要求するのでしょうか?」
「そうね、王国の領地の譲渡や金銭でしょう、それとあちらはミアリス様を敵視しています。ですので王国のミアリス様への信仰の撤廃といったところでしょうか?」
王国の豊かな財産が皇国は欲しいはずなのでこれは言ってくるだろう。
後半はリリアナにとって言い話なので通してもいいのだが、この戦争の目的は皇国にいるミアリスの代行者ニグルを倒す事だ。
ニグルは大将に近い存在になるはずなのでどちらにせよ勝たなくてはならない。
「信仰ですか、こう言っては不敬なのかもしれませんが私はあまり興味がないですね。神というよりもリリアナ様などの王族の、そして王国の為に戦うと言った方が正しいので」
エルリックは神をあまり信じていない。
ミアリスの使徒でないのはリリアナにとって都合が良いのでエルリックを今回も護衛にしたのだ。
「そうですね、わたくしも同じような考えです。ですが今の条件ならばのんでも問題ありません、勝つのは王国ですので」
リリアナが働くのはノアとシンの為だがエルリックはまだ仲間とはなっていないのでこう返しておく。
「そうですね、我々の勝利の為私も力を出し切ります」
そう言ってリリアナと別れる。
去り際に何か変な臭いがしたがそれを確かめるのはリリアナに失礼だろう、会談は明日、何も起きないと思うがエルリックは体を休める。
*******
城塞都市ラ・ゴーアンにある建物の一室にてラピス王国、そしてミリス皇国の面々が向かい合って座っていた。すでに自己紹介を済ませ会談が始まっている。
「戦地はグラータル荒野でいかがですか?」
グラータル荒野はちょうど王国と皇国の間にある入り組んだ地形の荒野である。
砂地は少なく乾燥した地面がひび割れ、枯れた木の森や岩場の多い人の住んでいない場所である。
「問題ありません、それで決まりにしましょう」
リリアナの提案に皇国第1皇子クラーブが答える、彼としてもその戦地で問題はない。
「では次の勝敗条件ですね、これは総大将の殺害、もしくは捕縛でよろしいですか?」
「「なっ!」」
リリアナの言葉に会談に来ていた者達が驚きの声を上げる。
それもそうだ総大将の殺害など今までの戦争では条件にあげられない、王族や優れた武人の殺害などされる訳にはいかないからだ。
「それは承諾出来ない!わかっているのか!」
クラーブ皇子が声を荒げる、すでに王国の総大将はリリアナと通達されていた。
その自分を殺せば勝ちだと皇国に宣言したのだ、だがこれを認めたらクラーブ皇子も殺される事になる。
「ではどのような条件をお望みで?」
リリアナとしては別にこの皇子を殺す必要はないのであえて強気な発言をし相手を威圧しただけだ。
もちろんこの条件が承諾されても殺されるつもりはない。
「過去の例を見るに本陣に掲げた国旗の破壊で良いだろう、何も命をかけなくても良い」
この条件でも兵士達は命を落とすのだがクラーブ皇子は自分の命をなくさない事が大事なので過去の例を出す、だがリリアナは譲らない。
「それではつまらないではないですか」
「「なっ!」」
先ほどと同じく会談場を驚愕が走る。
リリアナは別に旗の破壊でも良いのだが先ほどの会談場の反応が面白かったのでまた同じような反応が見たかっただけなのだが、見事に同じ反応をした、思わずリリアナは笑ってしまう。
だが楽しんでいるのはリリアナだけだ。
つまらない、自分の命すら楽しむための道具にしかしないこの美しい女性がこの会談場にいる人間には死神に見える、完全に会談場を支配したリリアナは続ける。
「仕方ありません、旗の破壊で良いでしょう、ですが旗の破壊に巻き込まれて死んでしまうかもしれませんね」
ふふふっと笑うリリアナ、彼女からしたらもう十分楽しんだのでさっさと話を進めたいが、はっきりと旗の破壊だけでは済まさないと言われた皇国側の人達はもうリリアナに対する恐怖でいっぱいになり言葉を出せなかった。
「勝敗条件は決まりました、次は勝利時の要求ですがこちらからは皇国の風帝隊全員の処刑を条件にします」
たとえシンがニグルを倒せなくても勝ちさえすればニグルを殺せるのでリリアナはこの条件を要求する。
皇国はすでにノアの支配下なので滅ぼす訳にはいかない、こちらの狙いがニグルだと知られてしまうが問題ないだろう、シンを疑ってはいないが確実にニグルを抹殺する為の保険だ。
だが皇国最大戦力を失う訳にはいかないのでクラーブは反論する。
「それは承諾出来ない、風帝隊を失う訳にはいかないからな」
この場にニグルはいない、ニグルが来ていればリリアナがノアの使徒だと感づかれるだろうがいないのならば心配ない。
ニグルと会った事はないが会うとしてもその時ニグルは生きていない。
「そうですか、では隊長の譲渡、これが最低条件です。そちらとしても良いのでは?隊長は熱心なミアリスの使徒です、前皇帝の敵となる者を信仰する人間など必要ないでしょう?」
皇国の敵であるミアリスの使徒のニグルは皇国でも扱いに困る存在だ。
だが、譲渡とする事でこの場にいるリリアナの父親にもリリアナがノアの使徒だとはわからない。
「わかった、風帝隊全てを失わないだけ良いのだろう」
もとよりミアリスの使徒の可能性のある風帝隊は排除するのだが、リリアナに怯える皇国側の人達は条件をのんでしまう。負けなけれは良いという思いもあるのだ。
「こちらからは王国のミアリスへの信仰の破棄を申し出たい、それをしている限り王国は皇国の敵だ」
「なんだと!」
熱心なミアリスの使徒のラピス国王はつい反応してしまう、。
リアナに任せたはずの会談に口を出して反論し始めた、だがリリアナにとってむしろ良い条件なので国王を黙らせ承諾する。
「ではこれで全て決まりですね、開戦は1ヶ月後です、それではまた戦場でお会いしましょう」
別れを言い会談場を出る、未だ騒ぐ国王を無視し王都への帰還の準備に入る、あと少し、ノアの勝利の為リリアナも戦争の準備を開始する。
*******
「やあ、久しぶりだね」
砂の世界のどこか、ミアリスのみが入る事の出来る空間に侵入者が現れる。
「ノア!貴様なぜここに!」
自らの空間に入り込まれた事に怒り侵入者ノアに怒鳴り込む、だが侵入者は相手にしない。
「そう怒るなよ、久しぶりに話しでもしようじゃないか」
前までのノアには力がなく他の世界や神に干渉出来なかった。
だが、皇国がノアを信仰し始めた為、ミアリスの空間に干渉できるまで力を取り戻した。
「貴様と話す事などない」
不機嫌さを隠さないミアリスは敵意をノアに向ける。
彼女もここまでノアにいいようにやられている為頭にきているのだ。
「どうだい?自分の世界が奪われる感覚は?」
かつて自分を無の世界に封じ込めたミアリスに対しノアは嫌味を言う。
自分の勝利を確信しているからこそ言える言葉である。
「まだ勝負はついていないわ、この世界は私の物、貴様には勝つ事は出来ない」
だが、ミアリスはまだ気付かない。この傲慢さがノアに敗北する原因である事に。
「君は変わらないな、そんなんだからボクに負けるのさ」
「貴様、今ここで殺してやろう」
ノアの挑発に我慢出来ないミアリスはノアに攻撃をする。
神同士での争いは禁じられている事を忘れてしまうほど頭に血がのぼっていた。
しかし、ノアに攻撃をする事は出来なかった。
ルールに違反したからではない、またも新たに現れた神にとめられていたのだ。
「あなたが出てくるのか、意外だな」
新たな侵入者にノアが呟く、そこにはノアと同じ白い髪をしたノアよりも大人の女性がミアリスを取り押さえていた。
「出て来たのか、ノア」
美しい凛とした声が響き渡る、心地の良い声はどこまでも透き通るようだ。
「ええ、苦労しましたよ、ですがこうして出て来た以上ボクは止まらない」
「また繰り返すのか?」
また、ユナの刀、皇龍刀”契”と同じ言葉を新たな神は言う。
その問いにノアが応える事は無かった、ただ微笑みミアリスの世界から姿を消す。
新たに現れた神はこれからノアが起こすであろう事にただ怒りを、そして哀れみを、そして悲しみを感じていた。
「何度でも止めてやる、妹の間違いを正すのは姉の役目だ」
最後に呟き新たな神は自分の世界へと戻る。
他の世界もまた砂の世界と同様に変化が訪れる事となる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる