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砂の世界
王女の誤算
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「いないな」
リリアナの指示通り、グラータル荒野の中央付近に布陣したクレアは4万に及ぶであろう皇国軍を見渡しながら呟く。
皇国軍で最強の男である風帝ニグルの姿は確認出来ない。
さすがのクレアにもかの風帝には太刀打ち出来ない為見つけ次第団長のユナに連絡しなければならないが、その姿をまだ見つけた者はいない。
団長のユナは何かを察したらしくこちらも単独行動しているが、問題はない。
彼女の強さを知るクレアは、彼女が簡単に負けるとは思えないのだ。
「幻視槍もいないか」
ラーズ王国からの援軍もまだ姿を現していない。
不確定要素を嫌うクレアは敵の主戦力の動向がわからない事が気掛かりだが、目の前の皇国軍は放置出来ない。
こちらの戦力はクレアら赤姫の約半数と共和国からの援軍2万に、皇国軍後方へ回り込む予定のリーグ将軍率いる1万の王国軍だ。
兵士ひとりひとりの力は皇国軍が上の為、ここでクレア達赤姫が抜けると持ち堪えられず突破されてしまう。
ここが抜けられるとリリアナのいる本陣まで進軍されてしまう為、ここで敵を食い止めなくてはならない。
「各員3人組を作れ、これで3方向に分かれ敵を食い止めろ、ルノアは私に、サーニャ、イーナ、アリサはそれぞれ3人組の支援だ」
素早く4つのグループに分かれ、味方の軍に向かう。
クレアはその巨大な武器により、ナナほどではないが単独戦闘が得意だ。
その為、後方支援のルノアをつけるのみだが問題ない、対多数はクレアの得意とする戦闘だ。
「皇国軍前衛前進します!」
王国軍の兵士から報告が上がる、敵の出鼻を挫くべくクレアは巨大な斧を掲げ最前線へと駆け上がる。
前に躍り出たクレアに1人の女性が向かってくる。
「赤姫ナンバー3のクレアだな!私は風帝隊のマイヤ!その首貰い受ける!」
その言葉を聞き、つい笑みを浮かべてしまうクレア。
普段は冷静にしているが、戦場に立つとどうも自分が獰猛になるのを感じるのだ。
(あぁ、この感覚だ)
研ぎ澄まされていく感覚がクレアの脳に訴えてくる。戦場を支配する感覚がクレアの体を駆け巡る。
走りながらマイヤという者がその手に持つ長剣で斬りつけてくる。だが、その剣がクレアに届く事はない。
巧みに斧を操り、その柄で長剣を受け止め弾く。
長剣に振り回されるマイヤに弾いた勢いを利用した蹴りをマイヤの横腹に叩き込む。
苦痛に顔を歪めるマイヤにさらにその大斧で斬りつける。
なんとか長剣で斧を止めるマイヤだが、クレアの一撃必殺の斧はその長剣を叩き折りその体を引き裂く。
一瞬のうちに風帝隊の一員を葬ったクレアは、動揺する皇国軍に向け走り出す。
獰猛な笑みを浮かべるクレアを皇国軍は止める事が出来ない、ただの一方的な殺戮が始まる
大斧という性質上クレアの攻撃は大振りになるのだが、後方支援のルノアがその隙を埋める。
得意とする正確無比な弓矢は敵を確実に射抜き、矢を構えるまでの間は土魔術による攻撃で休みなく攻撃し続ける。
だが、皇国軍も馬鹿ではない。クレアに近接戦闘は不利と見た指揮官は後方からの弓による攻撃に切り替える。
その選択にクレアは舌打ちをし、後ろに下がり距離をとる。
いくらクレアでも大量の弓矢を受けては無傷ではいられない。
だが、苦戦を覚悟したクレアに援軍が入る。
後方へと回り込んだリーグによる敵の遠距離攻撃部隊への強襲である。
完全にクレアのみを見ていた皇国軍は虚をつかれ対応が遅れてしまう。しかし、リーグだけに対応する事は出来なかった。
弓矢が来ないとふんだクレアが、再度突撃し蹂躙を始めた。
リーグの支援に感謝しつつ再度戦場に降り立ったクレアは、一直線に指揮官のもとへ向かう。
先ほどのやり取りから敵の指揮官を特定し狙いをつけたのだ。
盾を構えクレアの行く手を阻もうとする皇国軍だがその程度で止まるクレアではない。
巨大な斧を渾身の力で振るい皇国軍を蹴散らし進む、その余波で周りの皇国軍も巻き込まれクレアの破壊は波のように戦場に広がっていく。
だが、敵の数も多く少しずつだがクレアにも小さな傷がつき始める。
それならばと、リーグは遠距離部隊の殲滅を終えクレアの援護に来る。挟み撃ちの形になった皇国軍は背後にも注意しなくてはならなくなりクレアへの攻撃も減る。
このまま行けば指揮官の下まで辿り着くのは時間の問題だが、そう簡単にはいかなかった。
「クレアさん包囲されました!」
ルノアの報告に背後を振り返ると右に展開していたはずの部隊がクレア達の方へ向かって来ていた。
「赤姫はお前が指示を出すからな、先に消させてもらう」
皇国軍はクレアを孤立させ包囲する為にわざと軍を広げ、連合軍の分散をしていた。
強大な個であるクレアでも万の軍勢にはさすがに手を焼く。数で勝る皇国軍はクレア1人を引きずり出す為、わざと軍を広げていた。
それでも、この包囲も時間の問題だ。
同じく展開していた連合軍と赤姫のメンバーもこちらに向かっている、クレアは時間を稼げば良いのだ。
「私を甘く見過ぎですね、この程度では仕留められません」
正直クレアは持久戦が苦手だ、重量のあるこの強大な斧では短期決戦しか望めない。それがわかっているがクレアは笑う。
(戦はこうでなくては)
強大な力を持っているからこそ戦場では活躍出来る。
しかし、ほとんどが自分の圧倒的な勝利だ。だがクレアは不利な状況を覆す事が好きだった。
絶体絶命とはいかないが、なかなかに面白くなってきた場面で燃えない訳がない。
それにクレアはこんな所で死ぬ訳にはいかない。
あの妹のように思っている赤い髪の団長に幸せになってもらう為に、ここではクレアは死ねない。ユナには助けてもらった恩返しをしなければならない。
その力の強さゆえ、孤児だったクレアは幼少期に老夫婦に拾われたが、育った村で嫌われ虐げられてきた 日々から解放してくれたユナには、何としてもあのシンと言う青年について行って欲しい。
ここで自分が死んだらあの頑固な団長は絶対にこの砂の世界からは出て行かないだろう。
私が守らなきゃと意地を張って自分の夢を諦めるはずだ。
ならば、もう守られる存在ではないと証明しなければならない。
獰猛な笑みを浮かべたクレアはその巨大な斧を掲げ突撃する。
頑固な少女の為、ここで死んでやるつもりは微塵もない。
*******
「どういうこと⁉︎」
連合軍の本陣でリリアナは声を上げる。
一向に掴めないニグルと、幻視槍の行方にしびれを切らしてしまっていた。
「もうほとんどの場所には諜報員が向かったはずよ!定時連絡も途絶えてないしなぜ見つからないの!」
リリアナ達ノアの使徒の最大目標が見つからない事に苛立ちが隠せない様子だ。
初めての戦争という事もあり、確実に戦況を知る為に送り出したはずの諜報がほとんど役に立っていない。
「ですが皇国軍の全戦力は戦場に導入されています」
クレアがいる戦場以外でもすでに戦闘が始まっており、皇国軍の11万の騎士の動向は確認出来ている。
風帝隊はクレア達の中央の戦場に全て導入されている。
他の戦場にはいない事が連絡されているので間違いはない。
その為、中央の戦場を力押しで突破してくるのが皇国軍のやり方だと思っていたが、そこにニグルはいないとクレアから連絡が来た。
すでに赤姫達などの主戦力は本陣を離れている。
リリアナの戦争の経験の無さから中央を抑えれば勝てると考えてしまい、長期戦を展開しようとしたのをやめてしまったのだ。
ナナが予想以上の壊滅速度で補給線を潰し、皇国軍が焦って短期決戦に出てきた事も原因なのだが、勝ちを焦ったリリアナにも非がある。
ユナとシンの動向がわからない以上風帝ニグルに対抗する戦力がリリアナには無い。
本陣に向かって来られたら太刀打ち出来ない状況だ。
そして焦るリリアナに追い打ちをかけるように1つの通信魔導具が鳴る。
通信を繋げると会議室に声が響く。
「報告、ただいま本陣に敵が迫っております!」
その報告に一斉に外に出る本陣の者達、すると500メートルほど先に人の塊が見えた。
そしてまたもや通信から声が響く。
「出てきたな、聞こえるか?なかなか良さそうな魔導具使ってたからな、ちょいと利用させてもらった」
先ほどの報告者とは別の声、そしてリリアナは気付く。
「諜報員に、嘘の報告をさせてたのね」
その事実にリリアナは小さな拳を握り締める。
この戦争に勝つ為に用意した事を利用された事が悔しくてたまらない。
敵の所在が掴めないでいたのは捕まった諜報員が嘘の報告をしたため、悔しがるリリアナにさらに声がかけられる。
「あんたらに恨みは無いが、うちの国王が神様の命令だって言うから仕方ない、大人しくしてくれたら殺しはしない」
これまで姿を現さなかったラーズ王国の援軍、幻視槍がリリアナを襲う。
ラーズ王国からの最強の刺客に連合軍本陣は戸惑いそして恐怖する。
自分達の主戦力がいない本陣には対抗できないかもしれない。襲撃に備えてはいるが怯えた兵士達には抑えられない。
リリアナは、自分の責任で負けるかもしれない事実に固まってしまう。
ノアとシンの役に立てないかもしれない自分を情けなく思っていた。
だが、怯えが伝染する本陣の中で1人立ち上がる男がいた。
短く切り揃えた茶色い髪の頭に防具を被り、初陣から使い続けた槍を持ち出しリリアナの前に立つ。
「リリアナ様、ここでお待ち下さい、他の戦場から連絡が来ます。その対応をお願いします、ここは私が抑えます」
彼は言う、ここで待てと
彼は言う、戦争はまだ終わらないと
彼は言う、リリアナの役目は襲撃に備える事ではないと
王女の盾となれ。
鍛えてくれた師匠から、そして行方のわからない友人との約束を果たす為、青年はこれまでで最強の敵に立ち向かう。
王女の盾、ラピス王国軍が誇る天才、エルリック・ニールセンが幻視槍へと走り出す。
リリアナの指示通り、グラータル荒野の中央付近に布陣したクレアは4万に及ぶであろう皇国軍を見渡しながら呟く。
皇国軍で最強の男である風帝ニグルの姿は確認出来ない。
さすがのクレアにもかの風帝には太刀打ち出来ない為見つけ次第団長のユナに連絡しなければならないが、その姿をまだ見つけた者はいない。
団長のユナは何かを察したらしくこちらも単独行動しているが、問題はない。
彼女の強さを知るクレアは、彼女が簡単に負けるとは思えないのだ。
「幻視槍もいないか」
ラーズ王国からの援軍もまだ姿を現していない。
不確定要素を嫌うクレアは敵の主戦力の動向がわからない事が気掛かりだが、目の前の皇国軍は放置出来ない。
こちらの戦力はクレアら赤姫の約半数と共和国からの援軍2万に、皇国軍後方へ回り込む予定のリーグ将軍率いる1万の王国軍だ。
兵士ひとりひとりの力は皇国軍が上の為、ここでクレア達赤姫が抜けると持ち堪えられず突破されてしまう。
ここが抜けられるとリリアナのいる本陣まで進軍されてしまう為、ここで敵を食い止めなくてはならない。
「各員3人組を作れ、これで3方向に分かれ敵を食い止めろ、ルノアは私に、サーニャ、イーナ、アリサはそれぞれ3人組の支援だ」
素早く4つのグループに分かれ、味方の軍に向かう。
クレアはその巨大な武器により、ナナほどではないが単独戦闘が得意だ。
その為、後方支援のルノアをつけるのみだが問題ない、対多数はクレアの得意とする戦闘だ。
「皇国軍前衛前進します!」
王国軍の兵士から報告が上がる、敵の出鼻を挫くべくクレアは巨大な斧を掲げ最前線へと駆け上がる。
前に躍り出たクレアに1人の女性が向かってくる。
「赤姫ナンバー3のクレアだな!私は風帝隊のマイヤ!その首貰い受ける!」
その言葉を聞き、つい笑みを浮かべてしまうクレア。
普段は冷静にしているが、戦場に立つとどうも自分が獰猛になるのを感じるのだ。
(あぁ、この感覚だ)
研ぎ澄まされていく感覚がクレアの脳に訴えてくる。戦場を支配する感覚がクレアの体を駆け巡る。
走りながらマイヤという者がその手に持つ長剣で斬りつけてくる。だが、その剣がクレアに届く事はない。
巧みに斧を操り、その柄で長剣を受け止め弾く。
長剣に振り回されるマイヤに弾いた勢いを利用した蹴りをマイヤの横腹に叩き込む。
苦痛に顔を歪めるマイヤにさらにその大斧で斬りつける。
なんとか長剣で斧を止めるマイヤだが、クレアの一撃必殺の斧はその長剣を叩き折りその体を引き裂く。
一瞬のうちに風帝隊の一員を葬ったクレアは、動揺する皇国軍に向け走り出す。
獰猛な笑みを浮かべるクレアを皇国軍は止める事が出来ない、ただの一方的な殺戮が始まる
大斧という性質上クレアの攻撃は大振りになるのだが、後方支援のルノアがその隙を埋める。
得意とする正確無比な弓矢は敵を確実に射抜き、矢を構えるまでの間は土魔術による攻撃で休みなく攻撃し続ける。
だが、皇国軍も馬鹿ではない。クレアに近接戦闘は不利と見た指揮官は後方からの弓による攻撃に切り替える。
その選択にクレアは舌打ちをし、後ろに下がり距離をとる。
いくらクレアでも大量の弓矢を受けては無傷ではいられない。
だが、苦戦を覚悟したクレアに援軍が入る。
後方へと回り込んだリーグによる敵の遠距離攻撃部隊への強襲である。
完全にクレアのみを見ていた皇国軍は虚をつかれ対応が遅れてしまう。しかし、リーグだけに対応する事は出来なかった。
弓矢が来ないとふんだクレアが、再度突撃し蹂躙を始めた。
リーグの支援に感謝しつつ再度戦場に降り立ったクレアは、一直線に指揮官のもとへ向かう。
先ほどのやり取りから敵の指揮官を特定し狙いをつけたのだ。
盾を構えクレアの行く手を阻もうとする皇国軍だがその程度で止まるクレアではない。
巨大な斧を渾身の力で振るい皇国軍を蹴散らし進む、その余波で周りの皇国軍も巻き込まれクレアの破壊は波のように戦場に広がっていく。
だが、敵の数も多く少しずつだがクレアにも小さな傷がつき始める。
それならばと、リーグは遠距離部隊の殲滅を終えクレアの援護に来る。挟み撃ちの形になった皇国軍は背後にも注意しなくてはならなくなりクレアへの攻撃も減る。
このまま行けば指揮官の下まで辿り着くのは時間の問題だが、そう簡単にはいかなかった。
「クレアさん包囲されました!」
ルノアの報告に背後を振り返ると右に展開していたはずの部隊がクレア達の方へ向かって来ていた。
「赤姫はお前が指示を出すからな、先に消させてもらう」
皇国軍はクレアを孤立させ包囲する為にわざと軍を広げ、連合軍の分散をしていた。
強大な個であるクレアでも万の軍勢にはさすがに手を焼く。数で勝る皇国軍はクレア1人を引きずり出す為、わざと軍を広げていた。
それでも、この包囲も時間の問題だ。
同じく展開していた連合軍と赤姫のメンバーもこちらに向かっている、クレアは時間を稼げば良いのだ。
「私を甘く見過ぎですね、この程度では仕留められません」
正直クレアは持久戦が苦手だ、重量のあるこの強大な斧では短期決戦しか望めない。それがわかっているがクレアは笑う。
(戦はこうでなくては)
強大な力を持っているからこそ戦場では活躍出来る。
しかし、ほとんどが自分の圧倒的な勝利だ。だがクレアは不利な状況を覆す事が好きだった。
絶体絶命とはいかないが、なかなかに面白くなってきた場面で燃えない訳がない。
それにクレアはこんな所で死ぬ訳にはいかない。
あの妹のように思っている赤い髪の団長に幸せになってもらう為に、ここではクレアは死ねない。ユナには助けてもらった恩返しをしなければならない。
その力の強さゆえ、孤児だったクレアは幼少期に老夫婦に拾われたが、育った村で嫌われ虐げられてきた 日々から解放してくれたユナには、何としてもあのシンと言う青年について行って欲しい。
ここで自分が死んだらあの頑固な団長は絶対にこの砂の世界からは出て行かないだろう。
私が守らなきゃと意地を張って自分の夢を諦めるはずだ。
ならば、もう守られる存在ではないと証明しなければならない。
獰猛な笑みを浮かべたクレアはその巨大な斧を掲げ突撃する。
頑固な少女の為、ここで死んでやるつもりは微塵もない。
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「どういうこと⁉︎」
連合軍の本陣でリリアナは声を上げる。
一向に掴めないニグルと、幻視槍の行方にしびれを切らしてしまっていた。
「もうほとんどの場所には諜報員が向かったはずよ!定時連絡も途絶えてないしなぜ見つからないの!」
リリアナ達ノアの使徒の最大目標が見つからない事に苛立ちが隠せない様子だ。
初めての戦争という事もあり、確実に戦況を知る為に送り出したはずの諜報がほとんど役に立っていない。
「ですが皇国軍の全戦力は戦場に導入されています」
クレアがいる戦場以外でもすでに戦闘が始まっており、皇国軍の11万の騎士の動向は確認出来ている。
風帝隊はクレア達の中央の戦場に全て導入されている。
他の戦場にはいない事が連絡されているので間違いはない。
その為、中央の戦場を力押しで突破してくるのが皇国軍のやり方だと思っていたが、そこにニグルはいないとクレアから連絡が来た。
すでに赤姫達などの主戦力は本陣を離れている。
リリアナの戦争の経験の無さから中央を抑えれば勝てると考えてしまい、長期戦を展開しようとしたのをやめてしまったのだ。
ナナが予想以上の壊滅速度で補給線を潰し、皇国軍が焦って短期決戦に出てきた事も原因なのだが、勝ちを焦ったリリアナにも非がある。
ユナとシンの動向がわからない以上風帝ニグルに対抗する戦力がリリアナには無い。
本陣に向かって来られたら太刀打ち出来ない状況だ。
そして焦るリリアナに追い打ちをかけるように1つの通信魔導具が鳴る。
通信を繋げると会議室に声が響く。
「報告、ただいま本陣に敵が迫っております!」
その報告に一斉に外に出る本陣の者達、すると500メートルほど先に人の塊が見えた。
そしてまたもや通信から声が響く。
「出てきたな、聞こえるか?なかなか良さそうな魔導具使ってたからな、ちょいと利用させてもらった」
先ほどの報告者とは別の声、そしてリリアナは気付く。
「諜報員に、嘘の報告をさせてたのね」
その事実にリリアナは小さな拳を握り締める。
この戦争に勝つ為に用意した事を利用された事が悔しくてたまらない。
敵の所在が掴めないでいたのは捕まった諜報員が嘘の報告をしたため、悔しがるリリアナにさらに声がかけられる。
「あんたらに恨みは無いが、うちの国王が神様の命令だって言うから仕方ない、大人しくしてくれたら殺しはしない」
これまで姿を現さなかったラーズ王国の援軍、幻視槍がリリアナを襲う。
ラーズ王国からの最強の刺客に連合軍本陣は戸惑いそして恐怖する。
自分達の主戦力がいない本陣には対抗できないかもしれない。襲撃に備えてはいるが怯えた兵士達には抑えられない。
リリアナは、自分の責任で負けるかもしれない事実に固まってしまう。
ノアとシンの役に立てないかもしれない自分を情けなく思っていた。
だが、怯えが伝染する本陣の中で1人立ち上がる男がいた。
短く切り揃えた茶色い髪の頭に防具を被り、初陣から使い続けた槍を持ち出しリリアナの前に立つ。
「リリアナ様、ここでお待ち下さい、他の戦場から連絡が来ます。その対応をお願いします、ここは私が抑えます」
彼は言う、ここで待てと
彼は言う、戦争はまだ終わらないと
彼は言う、リリアナの役目は襲撃に備える事ではないと
王女の盾となれ。
鍛えてくれた師匠から、そして行方のわからない友人との約束を果たす為、青年はこれまでで最強の敵に立ち向かう。
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