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砂の世界
エルリックの戦い
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「随分と、若え奴が来たもんだな」
通信魔導具を利用し、リリアナのいる本陣へと迫るラーズ王国の誇る幻視槍ことギリオン・トーラスは本陣を守るべく出陣するエルリックを見て呟く。
彼は長年の経験から敵の中心がエルリックであると感じ取っていた。
彼が幻視槍と呼ばれて何年になるだろうか、ひたすら磨き続けてきた槍の速度はいつしか敵に幻想を見せるほどになっていた。
最近は老いによる衰えを本人は感じている。だが、未だその槍は敵に恐怖を与え続けている。
そして老い始めた今でも、ギリオンの戦いへの欲望は留まる事がなかった。
誰よりも速く、誰よりも強く、その思いはまだギリオンを戦場へと足を進ませる。
ラーズ王国はその国の方針で閉鎖的な国家だ。
しかし内紛は絶えず起こっていた。他国との友好的な関係を結ぶ事を望む者達は閉鎖的な国に嘆き訴え続けていた。
だが、誰も国の方針は変えられなかった。ラーズ王家にはギリオンがいたからだ。
幾 たびの内紛にギリオンは赴き、そして勝ち続けた。
やがてギリオンの名は閉鎖的なラーズ王国を飛び出し砂の世界へと広まっていく。
その異名は他国にさらにラーズ王国を警戒させ攻め入る事を防ぐほどだった。
だが、ギリオンは他の世界にも興味はあった。実際に国の外に出て自分の力を試したかったのだ。
強者ならほとんどの者が思う事だろう。自分がどこまで通じるのか、それをギリオンは知りたかった。
そして、そのギリオンにラーズ国王は言った。
ラピス王国とミリス皇国の戦に援軍を出すと、要請を受けるとすぐさま出陣する。
ようやく訪れた機会に、ギリオンは老いた体に激情が渦巻くのを感じた。
だが、共に来た兵士達は初めての国外への長旅に苦戦した。
慣れない行軍は、予定よりも戦場への到着を遅らせてしまったのだ。
ようやく辿り着いた戦場ではすでに戦いは始まっていた。
皇国軍の補給線は潰され、そこにいた騎士達は無残にも斬り刻まれ息絶えていた。
だが、その光景はギリオンをさらに奮い立たせた。
強者の存在に気付いたからだ。
そして戦場を彷徨ううちに、何者かが通信をしている所に居合わせたのだ。
すぐさま捕らえ、諜報員を脅し嘘の報告をさせる。そして敵の本陣の場所を聞き出した。
本陣には強者がいるはず、確信を持って進み出したギリオンは本陣が見えるとわざと自分で敵の本陣に通信する。
本陣へはそのまま攻め込めば簡単に勝つ事はわかっている。不意を突かれた軍隊に負ける事はない。
だが、ギリオンはそれをしなかった。
もともとこの戦争はラーズ王国に旨味はない、それにギリオンはただ強者との戦いを楽しみたいだけだ。
皇国にとっては許し難い事だが、ギリオンには関係ない。
万全な状態の強者と戦いたいだけなのだから。
そして現れた敵陣からは若いが、良い闘気を纏う者が出てきた。
すぐさまギリオンは狙いを定め一直線に向かっていく。
いきなりの突撃に対応出来ない敵軍だがギリオンは無視して走り抜ける。
狙いはあの若い強者ただ1人、降り注ぐ攻撃を避け続けギリオンは辿り着く、使い込まれた槍からはこの若者の努力の跡を感じ取れる。
才能にかまけた敵でない事に安堵し、そして笑う。
「ギリオン・トーラスだ」
若者に辿り着き名乗る、己の異名の象徴である槍を構える。
「エルリック・ニールセンだ、幻視槍とお見受けする、一騎討ちを申し込む」
エルリックも名乗る、ギリオンから迸る闘気からこの男が幻視槍とわかったのだ。
そして、この男に勝たなければリリアナを守れない事も理解した。
「ああ、良いだろう」
エルリックの言葉に満足したギリオンは一騎討ちの承諾をする。
待ち侘びた強者との戦いに血がたぎる。
一騎討ちが承諾され、兵士達が2人を取り囲む、両軍は理解している。
この2人の勝敗がこの戦争の勝敗を分ける事に。
「はっ!」
エルリックは槍を突き出す、幾度と繰り返した突きは鋭く、速い、繰り返し体に染み付かせたエルリックの槍はすでに一撃で鎧を貫き敵を葬る。
「ふんっ!」
だが、エルリックの一撃はギリオンに素早くいなされる。
そしてエルリックを襲うのは高速の突きの連打、その槍は残像を残し一本のはずの槍が何本にも見える。
「ぐっ」
幻視の名にふさわしい攻撃にエルリックは対応出来ず小さな傷をつけられる。それでも恐れず前に出る。
致命傷になる攻撃を見極め最低限の防御をしギリオンに反撃の槍を放つ。
エルリックの槍にギリオンは攻撃をやめ防御に回る。
防御に回らせたエルリックはここぞとばかりに攻勢に出る。
同じく致命傷は避けられるが傷を与える。
だがギリオンは、エルリックの槍を見極め始める。
型を繰り返し行ったエルリックの攻撃はすでに完成の域にある。
しかし、このギリオンは己の人生を槍に費やし続けてきた男だ。エルリックよりも戦場に赴きそして勝ってきた。
経験からエルリックの攻撃を先読みし、反撃に出る。
その高速の槍は確実にエルリックを追い詰める。
だが、エルリックもギリオンの槍の性質に気付いた。
(速いが、軽い!)
何度もアニーと言う強者と戦い続けたエルリックは防戦一方の戦いに慣れている。
そして、何をすれば良いのかも。
素直すぎる、そう言われていたエルリックの槍はアニーとの特訓で変化を始めた。
相手の性質を見極め、どのタイミングが相手が嫌なのか、逆に相手の得意とする事も見極める事が出来るようになった。
そしてこの見極めがギリオンの槍の性質を見抜く、ギリオンの槍は確かに速い。
だが、速さに特化した槍は重さを感じない。
アニーの暴力的な攻撃を受け続けたエルリックはギリオンの槍の軽さに気付いた。
しかし、その速度にはついていけない。
このままでは押し切られると考えたエルリックは、その軽い槍を力を込め弾く、重さの無い槍は弾かれギリオンに隙ができる。
幻想の槍のどれが本物かエルリックは見極められなかったが、賭けに勝った。
正解を引き当て作った最大の好機にエルリックの槍はその突きを放つ。
(勝った!)
勝利を確信するエルリック、この繰り出した突きの感覚は会心の出来だ。
弾かれた槍では防ぎきれない、だがエルリック槍はギリオンを貫く事はなかった。
「甘い!」
渾身の突きを放つエルリックにギリオンは叫ぶ、だがその手には先程までの槍は無い。
腰に下げられていた短めの剣にエルリックの槍は防がれる。
「はっ!」
ギリオンは防ぐだけでは終わらない、剣を振りエルリックの槍を砕く。
決してエルリックの槍は柔らかく無いのだが、幻想を見させるほどの槍を繰り出すギリオンの体は剣を使ってもその速度は変わらない。
高速の剣にエルリックの槍が砕かれる。
斬り裂かれずに破壊された槍、エルリックが唯一持つ武器が破壊された。
「終わりだ」
剣をしまい槍を構え直すギリオン、その姿にエルリックは目が離せなくなる。
ゆっくりと動き出す世界、先程までの恐ろしい速度で繰り出されていた槍がエルリックにはゆっくりと感じられた。
走馬灯、そう呼ばれる物が死の直前にあると聞いたエルリックは聞いた当初信じられなかった。
だが死の直面に自身が立たされエルリックの脳内に懐かしく思える光景が思い出される。
王国軍に入り、訓練を続ける景色、初めての戦場に初めての勝利。
そして初めての友人と出会い王女とも旅をした。
普通の人では味わえない日々だだがそれももう終わり、そう思うとさらに思い出される。
アニーと出会い教えを受ける、そしてシンとの酒場での時間。
(酒場?)
酒場での会話が妙に引っかかる、何か約束をしていた、そう約束を。
(リリアナ様をお守りするのが俺の役目)
友とのそして師匠との約束、王女の盾、その使命をエルリックは思い出す。
(俺は負けられない!)
もう槍はすぐ目の前まで迫っている。
ゆっくりした世界でエルリックは思い出す、それはアニーとの特訓の日々、その時の光景が目に浮かぶ。
(アニーさんとの最初の訓練、そこでアニーさんは俺の槍を防いだ!)
そして動き出す、迫る槍に左手を差し出した。
「ぐぁっ」
左腕から感じる激痛に声を出す、だがエルリックは倒れない。
(掴んだぞ!)
そう、初めての訓練でアニーはエルリックの槍を掴んだのだ。
それをエルリックはしたまでだ、だがギリオンの槍は訓練用では無い。
その槍は差し出した掌を貫通し左腕の二の腕に突き刺さっている。
「こいつっ!」
左腕を犠牲にして槍を防いだエルリックにギリオンは思わず声を出してしまう。
トドメを刺すだったエルリックにまたもや闘気が迸っている。
「離せ!」
エルリックの気迫に危険を感じたギリオンは槍を引き抜こうとするだが、エルリックの左腕は槍を離さない。
離すどころかズルズルと進み槍を持つギリオンの腕を掴み離さない。
「やめろ!」
諦めの悪いエルリックにギリオンはまたも声を上げてしまう、ただならぬ気迫に恐怖を感じたのだ。
(これで、最後だ!)
ギリオンを掴み離さない、左腕から上がる激痛に耐え、右腕を突き刺す。
何度も繰り出した突きは音を置き去りにする、高速の槍にギリオンは反応出来ない。
渾身の力で繰り出した一撃にギリオンが後退りをする。
だが、エルリックの左腕がギリオンをその場から離さない、エルリックの突き出した突きは唸りを上げギリオンに迫る。
正真正銘の必殺の一撃はギリオンを貫き絶命させなかった。
「えっ?」
右腕から感じる感触にエルリックは疑問の声を上げる。
突きを放った右腕の先には確かに槍があるだがエルリックは忘れてしまっていた。
折れた槍では鎧は貫けない。
貫くはずの刃先は槍にはなく、ギリオンの胸の装甲にただの棒は止められていた。
決死の一撃はギリオンに届かない、理解した瞬間エルリックからは闘気が消え力が抜ける。
掴まれる腕から力が抜けたギリオンはエルリックの左腕から槍を抜き去り再度槍を突き刺すべく行動する。
今度こそ終わったと感じたエルリックだが不意に声が聞こえる。
『合格だ、エルリック、君を認めよう』
幻聴だと思った、その証拠にエルリック以外には聞こえた様子が無い。
『おや?ボク声が聞こえるかい?幻聴じゃない』
その声はなぜか心に響き、その言葉が幻聴でないと信じられた。
『エルリック君をボクの使徒と認めよう』
エルリックの貫かれた左腕の手首につけた腕輪が輝き始めた。
通信魔導具を利用し、リリアナのいる本陣へと迫るラーズ王国の誇る幻視槍ことギリオン・トーラスは本陣を守るべく出陣するエルリックを見て呟く。
彼は長年の経験から敵の中心がエルリックであると感じ取っていた。
彼が幻視槍と呼ばれて何年になるだろうか、ひたすら磨き続けてきた槍の速度はいつしか敵に幻想を見せるほどになっていた。
最近は老いによる衰えを本人は感じている。だが、未だその槍は敵に恐怖を与え続けている。
そして老い始めた今でも、ギリオンの戦いへの欲望は留まる事がなかった。
誰よりも速く、誰よりも強く、その思いはまだギリオンを戦場へと足を進ませる。
ラーズ王国はその国の方針で閉鎖的な国家だ。
しかし内紛は絶えず起こっていた。他国との友好的な関係を結ぶ事を望む者達は閉鎖的な国に嘆き訴え続けていた。
だが、誰も国の方針は変えられなかった。ラーズ王家にはギリオンがいたからだ。
幾 たびの内紛にギリオンは赴き、そして勝ち続けた。
やがてギリオンの名は閉鎖的なラーズ王国を飛び出し砂の世界へと広まっていく。
その異名は他国にさらにラーズ王国を警戒させ攻め入る事を防ぐほどだった。
だが、ギリオンは他の世界にも興味はあった。実際に国の外に出て自分の力を試したかったのだ。
強者ならほとんどの者が思う事だろう。自分がどこまで通じるのか、それをギリオンは知りたかった。
そして、そのギリオンにラーズ国王は言った。
ラピス王国とミリス皇国の戦に援軍を出すと、要請を受けるとすぐさま出陣する。
ようやく訪れた機会に、ギリオンは老いた体に激情が渦巻くのを感じた。
だが、共に来た兵士達は初めての国外への長旅に苦戦した。
慣れない行軍は、予定よりも戦場への到着を遅らせてしまったのだ。
ようやく辿り着いた戦場ではすでに戦いは始まっていた。
皇国軍の補給線は潰され、そこにいた騎士達は無残にも斬り刻まれ息絶えていた。
だが、その光景はギリオンをさらに奮い立たせた。
強者の存在に気付いたからだ。
そして戦場を彷徨ううちに、何者かが通信をしている所に居合わせたのだ。
すぐさま捕らえ、諜報員を脅し嘘の報告をさせる。そして敵の本陣の場所を聞き出した。
本陣には強者がいるはず、確信を持って進み出したギリオンは本陣が見えるとわざと自分で敵の本陣に通信する。
本陣へはそのまま攻め込めば簡単に勝つ事はわかっている。不意を突かれた軍隊に負ける事はない。
だが、ギリオンはそれをしなかった。
もともとこの戦争はラーズ王国に旨味はない、それにギリオンはただ強者との戦いを楽しみたいだけだ。
皇国にとっては許し難い事だが、ギリオンには関係ない。
万全な状態の強者と戦いたいだけなのだから。
そして現れた敵陣からは若いが、良い闘気を纏う者が出てきた。
すぐさまギリオンは狙いを定め一直線に向かっていく。
いきなりの突撃に対応出来ない敵軍だがギリオンは無視して走り抜ける。
狙いはあの若い強者ただ1人、降り注ぐ攻撃を避け続けギリオンは辿り着く、使い込まれた槍からはこの若者の努力の跡を感じ取れる。
才能にかまけた敵でない事に安堵し、そして笑う。
「ギリオン・トーラスだ」
若者に辿り着き名乗る、己の異名の象徴である槍を構える。
「エルリック・ニールセンだ、幻視槍とお見受けする、一騎討ちを申し込む」
エルリックも名乗る、ギリオンから迸る闘気からこの男が幻視槍とわかったのだ。
そして、この男に勝たなければリリアナを守れない事も理解した。
「ああ、良いだろう」
エルリックの言葉に満足したギリオンは一騎討ちの承諾をする。
待ち侘びた強者との戦いに血がたぎる。
一騎討ちが承諾され、兵士達が2人を取り囲む、両軍は理解している。
この2人の勝敗がこの戦争の勝敗を分ける事に。
「はっ!」
エルリックは槍を突き出す、幾度と繰り返した突きは鋭く、速い、繰り返し体に染み付かせたエルリックの槍はすでに一撃で鎧を貫き敵を葬る。
「ふんっ!」
だが、エルリックの一撃はギリオンに素早くいなされる。
そしてエルリックを襲うのは高速の突きの連打、その槍は残像を残し一本のはずの槍が何本にも見える。
「ぐっ」
幻視の名にふさわしい攻撃にエルリックは対応出来ず小さな傷をつけられる。それでも恐れず前に出る。
致命傷になる攻撃を見極め最低限の防御をしギリオンに反撃の槍を放つ。
エルリックの槍にギリオンは攻撃をやめ防御に回る。
防御に回らせたエルリックはここぞとばかりに攻勢に出る。
同じく致命傷は避けられるが傷を与える。
だがギリオンは、エルリックの槍を見極め始める。
型を繰り返し行ったエルリックの攻撃はすでに完成の域にある。
しかし、このギリオンは己の人生を槍に費やし続けてきた男だ。エルリックよりも戦場に赴きそして勝ってきた。
経験からエルリックの攻撃を先読みし、反撃に出る。
その高速の槍は確実にエルリックを追い詰める。
だが、エルリックもギリオンの槍の性質に気付いた。
(速いが、軽い!)
何度もアニーと言う強者と戦い続けたエルリックは防戦一方の戦いに慣れている。
そして、何をすれば良いのかも。
素直すぎる、そう言われていたエルリックの槍はアニーとの特訓で変化を始めた。
相手の性質を見極め、どのタイミングが相手が嫌なのか、逆に相手の得意とする事も見極める事が出来るようになった。
そしてこの見極めがギリオンの槍の性質を見抜く、ギリオンの槍は確かに速い。
だが、速さに特化した槍は重さを感じない。
アニーの暴力的な攻撃を受け続けたエルリックはギリオンの槍の軽さに気付いた。
しかし、その速度にはついていけない。
このままでは押し切られると考えたエルリックは、その軽い槍を力を込め弾く、重さの無い槍は弾かれギリオンに隙ができる。
幻想の槍のどれが本物かエルリックは見極められなかったが、賭けに勝った。
正解を引き当て作った最大の好機にエルリックの槍はその突きを放つ。
(勝った!)
勝利を確信するエルリック、この繰り出した突きの感覚は会心の出来だ。
弾かれた槍では防ぎきれない、だがエルリック槍はギリオンを貫く事はなかった。
「甘い!」
渾身の突きを放つエルリックにギリオンは叫ぶ、だがその手には先程までの槍は無い。
腰に下げられていた短めの剣にエルリックの槍は防がれる。
「はっ!」
ギリオンは防ぐだけでは終わらない、剣を振りエルリックの槍を砕く。
決してエルリックの槍は柔らかく無いのだが、幻想を見させるほどの槍を繰り出すギリオンの体は剣を使ってもその速度は変わらない。
高速の剣にエルリックの槍が砕かれる。
斬り裂かれずに破壊された槍、エルリックが唯一持つ武器が破壊された。
「終わりだ」
剣をしまい槍を構え直すギリオン、その姿にエルリックは目が離せなくなる。
ゆっくりと動き出す世界、先程までの恐ろしい速度で繰り出されていた槍がエルリックにはゆっくりと感じられた。
走馬灯、そう呼ばれる物が死の直前にあると聞いたエルリックは聞いた当初信じられなかった。
だが死の直面に自身が立たされエルリックの脳内に懐かしく思える光景が思い出される。
王国軍に入り、訓練を続ける景色、初めての戦場に初めての勝利。
そして初めての友人と出会い王女とも旅をした。
普通の人では味わえない日々だだがそれももう終わり、そう思うとさらに思い出される。
アニーと出会い教えを受ける、そしてシンとの酒場での時間。
(酒場?)
酒場での会話が妙に引っかかる、何か約束をしていた、そう約束を。
(リリアナ様をお守りするのが俺の役目)
友とのそして師匠との約束、王女の盾、その使命をエルリックは思い出す。
(俺は負けられない!)
もう槍はすぐ目の前まで迫っている。
ゆっくりした世界でエルリックは思い出す、それはアニーとの特訓の日々、その時の光景が目に浮かぶ。
(アニーさんとの最初の訓練、そこでアニーさんは俺の槍を防いだ!)
そして動き出す、迫る槍に左手を差し出した。
「ぐぁっ」
左腕から感じる激痛に声を出す、だがエルリックは倒れない。
(掴んだぞ!)
そう、初めての訓練でアニーはエルリックの槍を掴んだのだ。
それをエルリックはしたまでだ、だがギリオンの槍は訓練用では無い。
その槍は差し出した掌を貫通し左腕の二の腕に突き刺さっている。
「こいつっ!」
左腕を犠牲にして槍を防いだエルリックにギリオンは思わず声を出してしまう。
トドメを刺すだったエルリックにまたもや闘気が迸っている。
「離せ!」
エルリックの気迫に危険を感じたギリオンは槍を引き抜こうとするだが、エルリックの左腕は槍を離さない。
離すどころかズルズルと進み槍を持つギリオンの腕を掴み離さない。
「やめろ!」
諦めの悪いエルリックにギリオンはまたも声を上げてしまう、ただならぬ気迫に恐怖を感じたのだ。
(これで、最後だ!)
ギリオンを掴み離さない、左腕から上がる激痛に耐え、右腕を突き刺す。
何度も繰り出した突きは音を置き去りにする、高速の槍にギリオンは反応出来ない。
渾身の力で繰り出した一撃にギリオンが後退りをする。
だが、エルリックの左腕がギリオンをその場から離さない、エルリックの突き出した突きは唸りを上げギリオンに迫る。
正真正銘の必殺の一撃はギリオンを貫き絶命させなかった。
「えっ?」
右腕から感じる感触にエルリックは疑問の声を上げる。
突きを放った右腕の先には確かに槍があるだがエルリックは忘れてしまっていた。
折れた槍では鎧は貫けない。
貫くはずの刃先は槍にはなく、ギリオンの胸の装甲にただの棒は止められていた。
決死の一撃はギリオンに届かない、理解した瞬間エルリックからは闘気が消え力が抜ける。
掴まれる腕から力が抜けたギリオンはエルリックの左腕から槍を抜き去り再度槍を突き刺すべく行動する。
今度こそ終わったと感じたエルリックだが不意に声が聞こえる。
『合格だ、エルリック、君を認めよう』
幻聴だと思った、その証拠にエルリック以外には聞こえた様子が無い。
『おや?ボク声が聞こえるかい?幻聴じゃない』
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