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砂の世界
ユナの決意
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「ほんと、何してるの私は」
燃えるような赤い髪の赤姫団長ユナは、今の自分に苛立っていた。
開戦から行方のわからなかったシンの居場所を、たまたま耳にし西の山岳地帯に直行しているが、クレア達赤姫のメンバーを残していってしまった事を後悔していた。
確かにユナはシンの事を好きになり始めていた。
自分を守ると言いながらも、何も言わず姿を眩ませた事に腹を立てているが、その気持ちは変わらない。
だが今は戦争中だ。
役目を放り出して良い訳がない。
それに自らを慕って集まってくれた団員が制止してくれていた中で、それを振り切り私情にかられ走り出してしまった。
あの時は我を忘れてしまい、ただただシンの為にここまで来た。
彼の力になりたかったのだ。だがそれも、成し遂げられそうにない。
ここまで皇国軍には出くわしているが、一向に黒髪の青年は見つけられていない。
焦りもあるがそれ以上に私情を優先した事に後悔していた。
確かにシンの力になりたい。
しかし、赤姫を見捨ててまでする事だろうか?ユナは昔を思い出していた。
初めてクレアと出会い、そして次々と団員は集まった。
そしてそれはいつしか砂の世界最強とも言われる集団になった。
ユナの唯一の居場所と言っていい。
女性のみの集団だ、それなりに恋の話などもした。
昔からそういった話が苦手なユナはいつも話には積極的に入らなかった。
だが、団員達はそんなユナを面白がり、無理矢理話に入らされた。
その中でなんと言っただろうか、昔からユナはずっと想っていた事はあった。
自分より強い人を好きになりたい。
昔から、ユナは強すぎた。
異性だろうが負ける事はなかった。
その事がわかり始めたら、だんだんとその想いは無くなっていくように感じた。
それでも昔から想い続けた事は、そう簡単に無くなる事はない。
今でもそう想い続けていた。
いつか絶対に自分より強い人を好きになれる。
そう信じていたはずが、あの黒髪の青年を好きになっていく自分に気が付いた。
戦っている所を見た事はない。
強い人と決めていたはずが何故かあの青年に惹かれていった。
最初は単純な事だった。
生まれて初めて異性に可愛いと言われ、自慢の髪の毛を綺麗だと褒められた。
その強大な力のみを見られて来たユナにとって、それはとても嬉しい事だった。
そして、ユナはシンの事が気になり始めた。
後を追いかけた事もあるし、何度かレベッカの酒場に足を運びシンの姿を探した。
シンが副長のナナと共和国に行ったとわかった時には、ナナに嫉妬した事も覚えていた。
その時は、まだ何故嫉妬したのか覚えていない。
そして、その後あのニグルと出会ってしまった。
奴は自分よりも強かった。
しかし、あんな奴は好きになれない。
大切な団員を殺した男だ、憎くてしょうがない。
問題はその後だ、落ち込む自分にシンは守ると言ってくれた。
散々最低な事を自分が言ったのを覚えている。
それでも守ると、そこでユナは初めてシンに自分が好意を抱いていた事に気が付いた。
そこからはどうして良いかわからなかった。
初めての経験だ、しょうがない。もともと苦手な事だったのも悪かった。
どうしたら良いかクレアに相談した事もある。あの時のクレアの顔は今でも忘れられない
一緒に冒険したし、勇気を出してデートも申し込んだ。
途中リリアナという王女がシンと親しげにしていたのに腹を立てたが、それもシンが好きだからとわかっている。
だが、今の状況にユナは自分が許せない。
大切な団員を置き去りにした挙句、シンの姿も見つけられない。
この戦争の自分の役目は王国に勝利をもたらす事。
その為に王国に雇われたしシンの目的もそれに繋がるはずだ。
何もかも中途半端にし、投げ出し途方に暮れている。
自分が嫌になっていた。
だいたいシンの捜索は副長のナナに任せていたではないか。
「最悪だ、私」
ポツリと自分に言い、歩き出す、どこに向かうかはわからない。
ただひたすらに歩いているだけそうする事しか、ユナには出来なかった。
*******
無気力に歩き続けていたユナの耳に音が聞こえた。
静かに耳を澄ませていると音の正体がわかる、人の歩く音だ。
そしてそれは1人ではない。
多数の人間の移動する音、次第に音が大きくなる。
こちらに向かっている。
そう直感したユナは身を隠す。岩山の隙間に入り込み息を潜める。
完全に気配を消したユナに気付く者はいない。
物音など一切立てない、聞こえるのはただ風の吹き抜ける音のみ。
完全に風景に溶け込んだユナに近づくのは50名ばかりの集団。
(皇国軍ね)
服装から判断する、ここに来るまでにも何度か交戦している、間違いない。
着々とこちらに向かい乱れなく進んでくる。
ただの50人程度の騎士達ならばユナには問題にならない。
傷一つ負わず勝つ自信がある。だが岩陰から飛び出す事が、ユナには許されなかった。
(あれは、風帝隊?それにあのローブは!)
見間違えるはずがない、ノエルを殺され自らも手加減された挙句惨敗した。
その時と変わらず灰色のローブを纏い、男が姿を現した。
序列4位”風帝”ニグル・ウィーゲがユナの前に現れた。
あれほどリリアナ達が探し続け遂には見つけられなかったこの戦争最大の標的が、その姿を現したのだ。
ユナは出て行こうとする。何故か、それを実行する事が出来ない。
(私が怖がってるの⁉︎)
震える体は、ニグルの姿に萎縮した。
あれだけ一方的に殺されかけたのだ仕方ないだろう、それに初めての敗北だ。
その記憶は、頭の片隅に残り続けている。
(でもあいつはノエルを!)
怒りがふつふつと湧き上がるのを感じるユナ、だがどうしようも出来なかった。
敵はあの”風帝”に連れられ50人もの部隊なのだ。
ニグル1人でも確実に勝てるとは言えない。
手に入れた皇龍刀”契”により、自身の限界だと思っていた器が広がったとはいえ、急激に強くなった訳ではない。
確かに強くはなった、今までよりも速く動けるし、この真紅の刀は凄まじい斬れ味だ。
あの”風帝”にも対抗出来るだろう。
だが、あくまでも一対一ならだ。
あの集団には服装から魔術師であろう数人もいる。
ニグルの対応に気を取られる中、あの人数から魔術や弓矢などで攻撃されたら、さすがのユナも勝てないだろう。
(ナナかクレアがいれば)
副長のナナかクレアと自分の共闘ならばこの場面でも対処出来る。
ナナに周りを任せニグルと決着をつければいい。
だがナナとクレアはここにはいない。
飛び出すのを躊躇うユナは、顔をしかめ口を歪めていた。
ようやく現れた宿敵に挑めない事が悔しい。
岩陰に隠れたユナに気付いていないニグル達は、会話をしていた。
それがわかったユナは耳を澄ませる。
「おい、本当にこの辺りなのか?人が形跡もないぞ」
「はい、この辺りで黒髪の男を見たと情報がありました」
その言葉に、ユナの体の震えが止まった。
「まあいい、もう少し探索する。黒髪の男は必ず見つけ出せ」
その言葉でもうユナの迷いは無くなった。
「奴は必ず殺す」
その言葉がユナから恐怖を消し去り、代わりに激情を溢れ出させた。
この集団に単独で挑むなど、死にに行くようなものだ。
だが、ユナに戦いを決意させるにはその一言で十分だった。
「そんな事はさせないわ!」
愛する人を守る為、ユナは砂の世界最強の男に立ち向かう。
燃えるような赤い髪の赤姫団長ユナは、今の自分に苛立っていた。
開戦から行方のわからなかったシンの居場所を、たまたま耳にし西の山岳地帯に直行しているが、クレア達赤姫のメンバーを残していってしまった事を後悔していた。
確かにユナはシンの事を好きになり始めていた。
自分を守ると言いながらも、何も言わず姿を眩ませた事に腹を立てているが、その気持ちは変わらない。
だが今は戦争中だ。
役目を放り出して良い訳がない。
それに自らを慕って集まってくれた団員が制止してくれていた中で、それを振り切り私情にかられ走り出してしまった。
あの時は我を忘れてしまい、ただただシンの為にここまで来た。
彼の力になりたかったのだ。だがそれも、成し遂げられそうにない。
ここまで皇国軍には出くわしているが、一向に黒髪の青年は見つけられていない。
焦りもあるがそれ以上に私情を優先した事に後悔していた。
確かにシンの力になりたい。
しかし、赤姫を見捨ててまでする事だろうか?ユナは昔を思い出していた。
初めてクレアと出会い、そして次々と団員は集まった。
そしてそれはいつしか砂の世界最強とも言われる集団になった。
ユナの唯一の居場所と言っていい。
女性のみの集団だ、それなりに恋の話などもした。
昔からそういった話が苦手なユナはいつも話には積極的に入らなかった。
だが、団員達はそんなユナを面白がり、無理矢理話に入らされた。
その中でなんと言っただろうか、昔からユナはずっと想っていた事はあった。
自分より強い人を好きになりたい。
昔から、ユナは強すぎた。
異性だろうが負ける事はなかった。
その事がわかり始めたら、だんだんとその想いは無くなっていくように感じた。
それでも昔から想い続けた事は、そう簡単に無くなる事はない。
今でもそう想い続けていた。
いつか絶対に自分より強い人を好きになれる。
そう信じていたはずが、あの黒髪の青年を好きになっていく自分に気が付いた。
戦っている所を見た事はない。
強い人と決めていたはずが何故かあの青年に惹かれていった。
最初は単純な事だった。
生まれて初めて異性に可愛いと言われ、自慢の髪の毛を綺麗だと褒められた。
その強大な力のみを見られて来たユナにとって、それはとても嬉しい事だった。
そして、ユナはシンの事が気になり始めた。
後を追いかけた事もあるし、何度かレベッカの酒場に足を運びシンの姿を探した。
シンが副長のナナと共和国に行ったとわかった時には、ナナに嫉妬した事も覚えていた。
その時は、まだ何故嫉妬したのか覚えていない。
そして、その後あのニグルと出会ってしまった。
奴は自分よりも強かった。
しかし、あんな奴は好きになれない。
大切な団員を殺した男だ、憎くてしょうがない。
問題はその後だ、落ち込む自分にシンは守ると言ってくれた。
散々最低な事を自分が言ったのを覚えている。
それでも守ると、そこでユナは初めてシンに自分が好意を抱いていた事に気が付いた。
そこからはどうして良いかわからなかった。
初めての経験だ、しょうがない。もともと苦手な事だったのも悪かった。
どうしたら良いかクレアに相談した事もある。あの時のクレアの顔は今でも忘れられない
一緒に冒険したし、勇気を出してデートも申し込んだ。
途中リリアナという王女がシンと親しげにしていたのに腹を立てたが、それもシンが好きだからとわかっている。
だが、今の状況にユナは自分が許せない。
大切な団員を置き去りにした挙句、シンの姿も見つけられない。
この戦争の自分の役目は王国に勝利をもたらす事。
その為に王国に雇われたしシンの目的もそれに繋がるはずだ。
何もかも中途半端にし、投げ出し途方に暮れている。
自分が嫌になっていた。
だいたいシンの捜索は副長のナナに任せていたではないか。
「最悪だ、私」
ポツリと自分に言い、歩き出す、どこに向かうかはわからない。
ただひたすらに歩いているだけそうする事しか、ユナには出来なかった。
*******
無気力に歩き続けていたユナの耳に音が聞こえた。
静かに耳を澄ませていると音の正体がわかる、人の歩く音だ。
そしてそれは1人ではない。
多数の人間の移動する音、次第に音が大きくなる。
こちらに向かっている。
そう直感したユナは身を隠す。岩山の隙間に入り込み息を潜める。
完全に気配を消したユナに気付く者はいない。
物音など一切立てない、聞こえるのはただ風の吹き抜ける音のみ。
完全に風景に溶け込んだユナに近づくのは50名ばかりの集団。
(皇国軍ね)
服装から判断する、ここに来るまでにも何度か交戦している、間違いない。
着々とこちらに向かい乱れなく進んでくる。
ただの50人程度の騎士達ならばユナには問題にならない。
傷一つ負わず勝つ自信がある。だが岩陰から飛び出す事が、ユナには許されなかった。
(あれは、風帝隊?それにあのローブは!)
見間違えるはずがない、ノエルを殺され自らも手加減された挙句惨敗した。
その時と変わらず灰色のローブを纏い、男が姿を現した。
序列4位”風帝”ニグル・ウィーゲがユナの前に現れた。
あれほどリリアナ達が探し続け遂には見つけられなかったこの戦争最大の標的が、その姿を現したのだ。
ユナは出て行こうとする。何故か、それを実行する事が出来ない。
(私が怖がってるの⁉︎)
震える体は、ニグルの姿に萎縮した。
あれだけ一方的に殺されかけたのだ仕方ないだろう、それに初めての敗北だ。
その記憶は、頭の片隅に残り続けている。
(でもあいつはノエルを!)
怒りがふつふつと湧き上がるのを感じるユナ、だがどうしようも出来なかった。
敵はあの”風帝”に連れられ50人もの部隊なのだ。
ニグル1人でも確実に勝てるとは言えない。
手に入れた皇龍刀”契”により、自身の限界だと思っていた器が広がったとはいえ、急激に強くなった訳ではない。
確かに強くはなった、今までよりも速く動けるし、この真紅の刀は凄まじい斬れ味だ。
あの”風帝”にも対抗出来るだろう。
だが、あくまでも一対一ならだ。
あの集団には服装から魔術師であろう数人もいる。
ニグルの対応に気を取られる中、あの人数から魔術や弓矢などで攻撃されたら、さすがのユナも勝てないだろう。
(ナナかクレアがいれば)
副長のナナかクレアと自分の共闘ならばこの場面でも対処出来る。
ナナに周りを任せニグルと決着をつければいい。
だがナナとクレアはここにはいない。
飛び出すのを躊躇うユナは、顔をしかめ口を歪めていた。
ようやく現れた宿敵に挑めない事が悔しい。
岩陰に隠れたユナに気付いていないニグル達は、会話をしていた。
それがわかったユナは耳を澄ませる。
「おい、本当にこの辺りなのか?人が形跡もないぞ」
「はい、この辺りで黒髪の男を見たと情報がありました」
その言葉に、ユナの体の震えが止まった。
「まあいい、もう少し探索する。黒髪の男は必ず見つけ出せ」
その言葉でもうユナの迷いは無くなった。
「奴は必ず殺す」
その言葉がユナから恐怖を消し去り、代わりに激情を溢れ出させた。
この集団に単独で挑むなど、死にに行くようなものだ。
だが、ユナに戦いを決意させるにはその一言で十分だった。
「そんな事はさせないわ!」
愛する人を守る為、ユナは砂の世界最強の男に立ち向かう。
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