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砂の世界
旅立ち
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「よし!必要なのはこんなもんか!」
王都の商店街にてシンは旅の支度をしていた。
半年近く滞在したこの砂の世界も今日が最後だ。
「シン、リリアナ様はもうすぐ西門へ到着するようだ、僕達も急ごう」
シンと共にエルリックも買い出しをしていた。
彼も本格的な旅は初めてなので道具を入れる魔導具の袋など必需品の購入をしたのだ。
「エルリックのお陰で出費が抑えられたな」
エルリックの人気は凄かった。
容姿が優れていた事もあるのだろうが真面目に毎朝王都をランニングしていた事で、エルリックの顔は広い。
行く先々の店舗で結構値段を安めに商品を提供して貰えた。
やはり優れた爽やかな容姿を持ってると人生楽なのだろうか。
「エルリック、携帯食料も買っておこう、あれは不味いけど魔獣なんかに出くわさなかったら飯が減っちまうしな」
パサパサと乾燥した携帯食料は人気がない。
栄養は補給出来るのだが、味も薄く食べた気がしないのだ。
「そうだな、リリアナ様にそのような物を食べさせるのはしたくないが万が一の事があるからな」
リリアナはこの旅に同行する為王族である事を捨てた。
苗字をなくしただのリリアナとなったのだが、エルリックにとってリリアナは自分の仕える王女なのだそうだ。
リリアナは呼び捨てで構わないと言っていたがエルリックは譲らなかった。
真面目なエルリックらしい判断だ。
「新しい槍には慣れたのか?」
「いや、まだ難しいな、もともとは一本の槍で訓練していたからな、二つとなると中々前の癖が抜けない、一本の状態に槍の形を変えられるからそっちなら何とか使いこなせる、いずれは状況に応じて使い分けるようになりたいな」
無王の双槍はまだ完璧には使いこなせないようだ。
だが才能のあるエルリックの事だすぐに使いこなすだろう。
エルリックの言っていた通り無王の双槍は二つが繋がり一本の長槍にする事が出来るのだ。
その場合槍の両端に刃が着くのでそこについても前とは違った運用になりそうだ。
買い出しを済ませ2人はレベッカの所に赴いた。2人ともお世話になったレベッカに別れの挨拶に行ったのだ。
「レベッカさん今日でこの世界から旅立ちます、お世話になりました」
「何言ってんだい、いいってもんさ」
この砂の世界に来てからはレベッカには本当に世話になった。
一文無しの所から助けられエルリックとも引き合わせて貰った。
お礼にと王子達から貰った褒賞を渡そうとしたがレベッカは断った。
そんな物を貰う為に生きているんじゃないと。せめてと最後に自慢のシチューを戴いた。
「シン、ちょっと待ちな」
食事を終え、別れを告げたあと何故かシンのみ呼び止められた。
エルリックは先に外で待っていると言い店を後にする、気を使ってくれたのだろう。
「あんまりこういう事は言いたくないんだけどね」
何やら重そうな話にシンは思わずこわばってしまう。
強面だが基本的には穏やかなレベッカのこのような態度は初めて見たのだ。
「シン、あんまり神を信用しすぎるんじゃないよ、奴らは人間とは違うんだ。同じ考え、同じ精神をしてるとは思うんじゃない」
神、おそらくはノアの事だろう。
だがノアはシンにとってこの世界で生き抜く力をくれた存在でありお互いに考えを伝え合ってるのでレベッカの言葉に素直にはなれない。
だがレベッカの事だ、何か意図があるのだろう。
「わかりました、ではレベッカさんこれで失礼します、お世話になりました」
「ああ、頑張んな!」
別れ際思いっきり背中を叩くレベッカ。
話をしていた時は重い空気だったが去り際にはいつものおおらかなレベッカに戻っていた。
シンとエルリックの姿が見えなくなったのでレベッカは店の中へと戻っていく、これから夜の営業に向け支度をするのだ。
「こんなところにいたのか、名前と容姿を変えていたからボクにも気付けなかったよ」
だが仕込みをする為厨房へと向かっていたレベッカに不意に声がかけられる。
その声は凛と響くようにレベッカの耳に入ってきた。
「おや?何だい?この老いぼれに何の用だい?まさか昔話をしたいんじゃないだろうね?」
その声をレベッカは知っていた、そしてその声へと振り返る。
そこには何にも染まらない真っ白な髪を持ち無邪気な子供のようでありながら大人の落ち着いた美しさを持った神の姿があった。
「余計な事を吹き込まないで貰えるかな、世話好きなのは構わないがそれも過ぎると不幸を呼ぶよ」
現れた神からその存在を証明するように圧倒されるような気配が発せられる。
だが誰も気付かないこれはレベッカのみに発せられているのだ。
「不幸かどうかはあたしが決めるものさ、それに一般の人間から言わせれば大概お前の方が不幸を呼び込むだろう」
神に臆せずレベッカは答える、こんな状態で話をする事が出来る物など何人居るだろうか。
「だからどうした?」
「何だい?あんたごときがあたしをどうにか出来ると思っているのかい?」
「どうにか出来ないと思っているのか?既にこの世界はボクの物だ」
この日、王都ラピリアでも大きい部類に入るレーベル亭は消失した。
そしてそこの店主であるレベッカも。
しかし誰も気付かない。
常連だった筈の客達は当然のように別の店に顔を出し誰も違和感を覚えない。
まるで最初からそんな存在が無かったかのように世界は認識していた。
*******
「リリアナ様、遅れて申し訳ありません」
レベッカと別れを告げたシンとエルリックはリリアナとの待ち合わせ場所である西門へと到着した。
既にリリアナは着いておりそこにはユナ達赤姫のメンバーも勢ぞろいしていた。
「いいえ、わたくしも今到着したところです」
気を使ってくれたのだろう、リリアナも今到着したと答えた。
だがこの西門には結構な人数が揃っているので待っていたのが伺える。
「ほう?中々集まっておるの、妾の為にわざわざ見送りに来るなどわかっておるの」
そこに何故だか魔王ティナ・グルーエルも現れた。
別に誰もティナの為に集まった訳では無いのだがあえて誰も触れなかった。
「おや?そこのお前」
魔王の登場に身構えた赤姫のメンバー達だったがティナは無視してその中の1人であるクレアに話し掛けた。
「処刑場でも会ったがやはりそうか。大きくなったのう、安心したぞ?」
「何の事だ?」
「いや、この話はもうよい、あまり気にするでない」
1人で納得するティナの考えは誰にもわからない。
同じ銀色に輝く髪をしているがこの砂の世界で育ったクレアと水の世界に居城があるティナでは接点がないだろう。
だが長年生きているティナには何かあんのかもしれない。
「団長、今しかありませんよ!」
沈黙が訪れた中1人の赤姫のメンバーがユナに声をかけた、その声は次第に増えていった。
「でっでも、私にはあなた達が…」
ユナは顔を伏せ俯いてしまう。
前にクレアがユナを連れて行ってくれと頼んで来たのでその事だろう、ここはでしゃばる所ではないとシンはジッと待つ事にした。
「団長、前にも言いましたが私達はもう弱くありません。それに団長の足枷になるつもりもありません」
「でっでも、そんな勝手な…」
「それにこのままではあの王女にとられてしまいますよ」
「えっ?」
クレアの言葉を聞いたリリアナは何か思い付いたように手を叩きシンの所へと近づいて行った。
「ちょっと!離れなさいよ!」
シンに近づき腕を組んだリリアナをユナは引き剝がた。
「あら?ユナさん何をするのです?わたくしはこれからシン様のお側にずっといる事になるのです。このぐらいの事いつでも出来るのですよ?」
口に斜めに手を当て高笑いをするリリアナ、いつか見た光景だったがこの2人のやり取りも懐かしい。
「なっ何よそれ!そんな事はさせないわ!私もシンと一緒に行く!あんたなんかに自由にはさせないんだから!」
ここでようやく、ユナはシンに着いて行くと言えたのだ。
頑固な性格のユナだがリリアナの行動に黙ってはいられなくなったのだ。
そしてユナから着いて行くと言われシンも嬉しいのだ。
ユナはこの世界に来て初めて出会った人だし、それに守るとも言っていた。
ユナが来てくれなかったらその約束は守れない。
無理矢理連れ出すのも後味が悪いのでどうしてもシンからは話題に出せなかったが、ようやくユナは本心を話せたのだ。
「リリアナ様、ありがとうございます」
リリアナの行動はユナにこれを言わせる為とクレア達赤姫のメンバーはわかっていた。
そのお礼をしないほど常識知らずではない。
「いえ、わたくしの為でもあるのです。同じ女性ですし、それにユナさんはわたくしと違い戦闘の面でシン様のお役に立てます。そして何よりライバルがいなくては面白くありませんから」
微笑みを浮かべユナを見ながらクレア達にリリアナは話した。
相手は強力でなければ面白くないとリリアナもユナに同行して欲しかったのだ。
「なら、私も」
小さく、シンの側でナナが声を上げた、裾をちょこんと引っ張りながらシンの顔を見上げていた。
「良いのか?もうここには戻ってこれないかもしれないぞ?」
「大丈夫、問題ない」
ユナに続きナナも旅に同行する事になった。
赤姫の団長と副長、序列4位の”剣姫”と序列8位”国滅”の同行だ、とんでもない戦力がシンの旅の仲間となった。
「あなたには負けないわ」
リリアナに向かいユナは真剣な眼差しで宣言する。
想い人を王国の美と呼ばれる王女に簡単に渡すつもりはない。
「あら?わたくしも同じですわ、まあ、今の所わたくしの優勢でしょうが」
またも高笑いしユナの宣戦布告に戦いを受けると宣言するリリアナ。
だがリリアナの優勢と言うのはユナには譲れないものがある。
「本当にそうかしら?」
「どういう意味ですの?」
「シンは言っていたわ、あなたの計画がそれで良いのかって。結果あなたの計画じゃなくてシンの計画でこの国の行方は動かされたのよ」
「・・・そうですわね、しかし何故シン様がわたくしにそれを教えて頂けなかったのですか?」
「ふん、敵に塩を送るなんて事私はしないわ」
ユナもまたリリアナをライバルと認めたのだ、だがそれ以上の問題があった。
リリアナの計画にシンは疑問を抱いていたのだ。
本当にこれで良いのかと、結果シンはリリアナの計画ではなく自分の立てた計画でラピス王国の行方を動かした。
優勢、そう言ったリリアナは自分が恥ずかしい。
リリアナの計画ではまだこの国の掌握は時間がかかっていただろう、それをシンはその叡智で持って既に成し遂げている。
思えば共和国でもリリアナに任されは筈の同盟はシンにより成し遂げられている。
「これで五分と言ったところね!」
リリアナの優勢ではない事をユナが言い放つ。
だがリリアナは現実が見えていなかった恥ずかしさよりも別の感情に震えていた。
幼い頃から優秀と言われてきたリリアナの頭脳を遥かに超越しているシンのその叡智にリリアナは感服し、さらなる尊敬の念、敬愛がシンへリリアナは向ける。
今はまだリリアナの力及ばすその頂を見る事は叶わないが、必ず隣に並んで見せると決意を新たにする。
「ユナさん、わたくしは簡単ではありませんよ」
ユナに向けリリアナも再度宣戦布告する。両者の視線は互いの瞳に向け火花を散らしていた。
「では、妾に着いて参れ!出立だ!」
何故かティナが仕切りシン達は旅に向け歩き出す、シンとノアだけだった旅は
序列4位”剣姫”ユナ・アーネス
序列8位”国滅”ナナ・イースヴァル
元ラピス王国第2王女”王国の美”リリアナ・イーノルド・ラピス
ラピス王国軍小隊長王国の天才エルリック・ニールセン
そして何故か”魔王”ティナ・グルーエルの計6人と1人の神のメンバーでラピス王国を旅立つのだった。
賑やかになった旅を思いシンは微笑みを浮かべた、見送りに来ていたクレア達赤姫のメンバーや王子達に別れを告げ歩き出す。
だが天災は予期できず、決して抗えないからこそ天災と呼ばれるのだ。
旅立ちの瞬間、屈強なはずの王都ラピリアの西門付近の城壁もろとも崩れ去った。
王都の商店街にてシンは旅の支度をしていた。
半年近く滞在したこの砂の世界も今日が最後だ。
「シン、リリアナ様はもうすぐ西門へ到着するようだ、僕達も急ごう」
シンと共にエルリックも買い出しをしていた。
彼も本格的な旅は初めてなので道具を入れる魔導具の袋など必需品の購入をしたのだ。
「エルリックのお陰で出費が抑えられたな」
エルリックの人気は凄かった。
容姿が優れていた事もあるのだろうが真面目に毎朝王都をランニングしていた事で、エルリックの顔は広い。
行く先々の店舗で結構値段を安めに商品を提供して貰えた。
やはり優れた爽やかな容姿を持ってると人生楽なのだろうか。
「エルリック、携帯食料も買っておこう、あれは不味いけど魔獣なんかに出くわさなかったら飯が減っちまうしな」
パサパサと乾燥した携帯食料は人気がない。
栄養は補給出来るのだが、味も薄く食べた気がしないのだ。
「そうだな、リリアナ様にそのような物を食べさせるのはしたくないが万が一の事があるからな」
リリアナはこの旅に同行する為王族である事を捨てた。
苗字をなくしただのリリアナとなったのだが、エルリックにとってリリアナは自分の仕える王女なのだそうだ。
リリアナは呼び捨てで構わないと言っていたがエルリックは譲らなかった。
真面目なエルリックらしい判断だ。
「新しい槍には慣れたのか?」
「いや、まだ難しいな、もともとは一本の槍で訓練していたからな、二つとなると中々前の癖が抜けない、一本の状態に槍の形を変えられるからそっちなら何とか使いこなせる、いずれは状況に応じて使い分けるようになりたいな」
無王の双槍はまだ完璧には使いこなせないようだ。
だが才能のあるエルリックの事だすぐに使いこなすだろう。
エルリックの言っていた通り無王の双槍は二つが繋がり一本の長槍にする事が出来るのだ。
その場合槍の両端に刃が着くのでそこについても前とは違った運用になりそうだ。
買い出しを済ませ2人はレベッカの所に赴いた。2人ともお世話になったレベッカに別れの挨拶に行ったのだ。
「レベッカさん今日でこの世界から旅立ちます、お世話になりました」
「何言ってんだい、いいってもんさ」
この砂の世界に来てからはレベッカには本当に世話になった。
一文無しの所から助けられエルリックとも引き合わせて貰った。
お礼にと王子達から貰った褒賞を渡そうとしたがレベッカは断った。
そんな物を貰う為に生きているんじゃないと。せめてと最後に自慢のシチューを戴いた。
「シン、ちょっと待ちな」
食事を終え、別れを告げたあと何故かシンのみ呼び止められた。
エルリックは先に外で待っていると言い店を後にする、気を使ってくれたのだろう。
「あんまりこういう事は言いたくないんだけどね」
何やら重そうな話にシンは思わずこわばってしまう。
強面だが基本的には穏やかなレベッカのこのような態度は初めて見たのだ。
「シン、あんまり神を信用しすぎるんじゃないよ、奴らは人間とは違うんだ。同じ考え、同じ精神をしてるとは思うんじゃない」
神、おそらくはノアの事だろう。
だがノアはシンにとってこの世界で生き抜く力をくれた存在でありお互いに考えを伝え合ってるのでレベッカの言葉に素直にはなれない。
だがレベッカの事だ、何か意図があるのだろう。
「わかりました、ではレベッカさんこれで失礼します、お世話になりました」
「ああ、頑張んな!」
別れ際思いっきり背中を叩くレベッカ。
話をしていた時は重い空気だったが去り際にはいつものおおらかなレベッカに戻っていた。
シンとエルリックの姿が見えなくなったのでレベッカは店の中へと戻っていく、これから夜の営業に向け支度をするのだ。
「こんなところにいたのか、名前と容姿を変えていたからボクにも気付けなかったよ」
だが仕込みをする為厨房へと向かっていたレベッカに不意に声がかけられる。
その声は凛と響くようにレベッカの耳に入ってきた。
「おや?何だい?この老いぼれに何の用だい?まさか昔話をしたいんじゃないだろうね?」
その声をレベッカは知っていた、そしてその声へと振り返る。
そこには何にも染まらない真っ白な髪を持ち無邪気な子供のようでありながら大人の落ち着いた美しさを持った神の姿があった。
「余計な事を吹き込まないで貰えるかな、世話好きなのは構わないがそれも過ぎると不幸を呼ぶよ」
現れた神からその存在を証明するように圧倒されるような気配が発せられる。
だが誰も気付かないこれはレベッカのみに発せられているのだ。
「不幸かどうかはあたしが決めるものさ、それに一般の人間から言わせれば大概お前の方が不幸を呼び込むだろう」
神に臆せずレベッカは答える、こんな状態で話をする事が出来る物など何人居るだろうか。
「だからどうした?」
「何だい?あんたごときがあたしをどうにか出来ると思っているのかい?」
「どうにか出来ないと思っているのか?既にこの世界はボクの物だ」
この日、王都ラピリアでも大きい部類に入るレーベル亭は消失した。
そしてそこの店主であるレベッカも。
しかし誰も気付かない。
常連だった筈の客達は当然のように別の店に顔を出し誰も違和感を覚えない。
まるで最初からそんな存在が無かったかのように世界は認識していた。
*******
「リリアナ様、遅れて申し訳ありません」
レベッカと別れを告げたシンとエルリックはリリアナとの待ち合わせ場所である西門へと到着した。
既にリリアナは着いておりそこにはユナ達赤姫のメンバーも勢ぞろいしていた。
「いいえ、わたくしも今到着したところです」
気を使ってくれたのだろう、リリアナも今到着したと答えた。
だがこの西門には結構な人数が揃っているので待っていたのが伺える。
「ほう?中々集まっておるの、妾の為にわざわざ見送りに来るなどわかっておるの」
そこに何故だか魔王ティナ・グルーエルも現れた。
別に誰もティナの為に集まった訳では無いのだがあえて誰も触れなかった。
「おや?そこのお前」
魔王の登場に身構えた赤姫のメンバー達だったがティナは無視してその中の1人であるクレアに話し掛けた。
「処刑場でも会ったがやはりそうか。大きくなったのう、安心したぞ?」
「何の事だ?」
「いや、この話はもうよい、あまり気にするでない」
1人で納得するティナの考えは誰にもわからない。
同じ銀色に輝く髪をしているがこの砂の世界で育ったクレアと水の世界に居城があるティナでは接点がないだろう。
だが長年生きているティナには何かあんのかもしれない。
「団長、今しかありませんよ!」
沈黙が訪れた中1人の赤姫のメンバーがユナに声をかけた、その声は次第に増えていった。
「でっでも、私にはあなた達が…」
ユナは顔を伏せ俯いてしまう。
前にクレアがユナを連れて行ってくれと頼んで来たのでその事だろう、ここはでしゃばる所ではないとシンはジッと待つ事にした。
「団長、前にも言いましたが私達はもう弱くありません。それに団長の足枷になるつもりもありません」
「でっでも、そんな勝手な…」
「それにこのままではあの王女にとられてしまいますよ」
「えっ?」
クレアの言葉を聞いたリリアナは何か思い付いたように手を叩きシンの所へと近づいて行った。
「ちょっと!離れなさいよ!」
シンに近づき腕を組んだリリアナをユナは引き剝がた。
「あら?ユナさん何をするのです?わたくしはこれからシン様のお側にずっといる事になるのです。このぐらいの事いつでも出来るのですよ?」
口に斜めに手を当て高笑いをするリリアナ、いつか見た光景だったがこの2人のやり取りも懐かしい。
「なっ何よそれ!そんな事はさせないわ!私もシンと一緒に行く!あんたなんかに自由にはさせないんだから!」
ここでようやく、ユナはシンに着いて行くと言えたのだ。
頑固な性格のユナだがリリアナの行動に黙ってはいられなくなったのだ。
そしてユナから着いて行くと言われシンも嬉しいのだ。
ユナはこの世界に来て初めて出会った人だし、それに守るとも言っていた。
ユナが来てくれなかったらその約束は守れない。
無理矢理連れ出すのも後味が悪いのでどうしてもシンからは話題に出せなかったが、ようやくユナは本心を話せたのだ。
「リリアナ様、ありがとうございます」
リリアナの行動はユナにこれを言わせる為とクレア達赤姫のメンバーはわかっていた。
そのお礼をしないほど常識知らずではない。
「いえ、わたくしの為でもあるのです。同じ女性ですし、それにユナさんはわたくしと違い戦闘の面でシン様のお役に立てます。そして何よりライバルがいなくては面白くありませんから」
微笑みを浮かべユナを見ながらクレア達にリリアナは話した。
相手は強力でなければ面白くないとリリアナもユナに同行して欲しかったのだ。
「なら、私も」
小さく、シンの側でナナが声を上げた、裾をちょこんと引っ張りながらシンの顔を見上げていた。
「良いのか?もうここには戻ってこれないかもしれないぞ?」
「大丈夫、問題ない」
ユナに続きナナも旅に同行する事になった。
赤姫の団長と副長、序列4位の”剣姫”と序列8位”国滅”の同行だ、とんでもない戦力がシンの旅の仲間となった。
「あなたには負けないわ」
リリアナに向かいユナは真剣な眼差しで宣言する。
想い人を王国の美と呼ばれる王女に簡単に渡すつもりはない。
「あら?わたくしも同じですわ、まあ、今の所わたくしの優勢でしょうが」
またも高笑いしユナの宣戦布告に戦いを受けると宣言するリリアナ。
だがリリアナの優勢と言うのはユナには譲れないものがある。
「本当にそうかしら?」
「どういう意味ですの?」
「シンは言っていたわ、あなたの計画がそれで良いのかって。結果あなたの計画じゃなくてシンの計画でこの国の行方は動かされたのよ」
「・・・そうですわね、しかし何故シン様がわたくしにそれを教えて頂けなかったのですか?」
「ふん、敵に塩を送るなんて事私はしないわ」
ユナもまたリリアナをライバルと認めたのだ、だがそれ以上の問題があった。
リリアナの計画にシンは疑問を抱いていたのだ。
本当にこれで良いのかと、結果シンはリリアナの計画ではなく自分の立てた計画でラピス王国の行方を動かした。
優勢、そう言ったリリアナは自分が恥ずかしい。
リリアナの計画ではまだこの国の掌握は時間がかかっていただろう、それをシンはその叡智で持って既に成し遂げている。
思えば共和国でもリリアナに任されは筈の同盟はシンにより成し遂げられている。
「これで五分と言ったところね!」
リリアナの優勢ではない事をユナが言い放つ。
だがリリアナは現実が見えていなかった恥ずかしさよりも別の感情に震えていた。
幼い頃から優秀と言われてきたリリアナの頭脳を遥かに超越しているシンのその叡智にリリアナは感服し、さらなる尊敬の念、敬愛がシンへリリアナは向ける。
今はまだリリアナの力及ばすその頂を見る事は叶わないが、必ず隣に並んで見せると決意を新たにする。
「ユナさん、わたくしは簡単ではありませんよ」
ユナに向けリリアナも再度宣戦布告する。両者の視線は互いの瞳に向け火花を散らしていた。
「では、妾に着いて参れ!出立だ!」
何故かティナが仕切りシン達は旅に向け歩き出す、シンとノアだけだった旅は
序列4位”剣姫”ユナ・アーネス
序列8位”国滅”ナナ・イースヴァル
元ラピス王国第2王女”王国の美”リリアナ・イーノルド・ラピス
ラピス王国軍小隊長王国の天才エルリック・ニールセン
そして何故か”魔王”ティナ・グルーエルの計6人と1人の神のメンバーでラピス王国を旅立つのだった。
賑やかになった旅を思いシンは微笑みを浮かべた、見送りに来ていたクレア達赤姫のメンバーや王子達に別れを告げ歩き出す。
だが天災は予期できず、決して抗えないからこそ天災と呼ばれるのだ。
旅立ちの瞬間、屈強なはずの王都ラピリアの西門付近の城壁もろとも崩れ去った。
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