プロクラトル

たくち

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砂の世界

旅の仲間

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「シン様お疲れ様です」

「ああ、本当に疲れたよ」

歓声の鳴り止まぬ中、シンとユナ達はエルリックに連れられリリアナの下へと連れ出されていた。
そこには第1王子を始めとした王族達やラピス王国の重鎮達が集まっていた。

「あれが国王か?」

その中に1人拘束されうな垂れた男を見つけリリアナに問いかけた。
シンは国王や王子達などリリアナ以外の王族に会うのはこれが初めてであった。

「ええ、今は拘束されているのが父上です」

淡々と感情の感じられない声がリリアナから発せられる。
冷たいな、とリリアナに印象を抱いたシンだったが敵の男に対し可哀想などの感情を抱くのはおかしいのですぐさま気持ちを切り替えた。

「どうする?処分に関してはリリアナに任せるが」

「王国を混乱に陥れようとした罪で死罪です。すぐには殺しませんが磔にし王都で晒します」

この処分にはさすがに国王に同情してしまったが仕方ないだろう。
死罪な上、晒し者にされるのだ。

「わかった、俺はこれからどうしたらいい?正直地下牢から色々あり過ぎて疲れたよ」

「では、2日ほど休暇をお取り下さい」

リリアナと会話していると王子達がこちらに向かってきた。

「シン殿、リリアナを救って頂きありがとうございます。私は第1王子のレックス、こちらは第1王女のミリーです」

「第1王女のミリーです、お見知りおきを」

王族の作法など知らないシンは普通にお辞儀を返した。
だがあまり慣れていないためぎこちなくなっている。

「そう固くなされなくても良いですよ。あなたは王国にとって英雄に等しいのです、それにお休みになられるなら王城をお使い下さい。来客用の部屋を後で案内させますので」

シンは固くなっているのを見抜かれ苦笑いを浮かべてしまったが王城の一室で休めると知り浮かれてしまう。

王子達の事はリリアナからは悪評価しか聞いていなかったので意外に良い奴じゃないかと感じていた。

「シン殿の疲れが取れましたらもてなしの宴を開こうかと思います。それまでゆっくりとしていって下さいね」

最後に第1王女から宴の事を聞きさらに嬉しくなったシン。
今まで囚人扱いだったのでもてなされる事が余計に嬉しく感じるのだ。

「シン様、ではわたくしがお部屋へと案内します、ユナさんもいらして下さい」

リリアナの後に従い部屋へと向かう、クレア達は自分達の宿に戻ったが宴には参加するようだ。
ナナはシン達に着いてきたが問題ないだろう。

「でかい部屋だな、本当にこんなとこ使っていいのか?」

案内された部屋はまさに王城の一室という大きな部屋だった。
地下牢との差があり過ぎて困惑してしまう。ベッドやソファなど乗るのを躊躇ってしまうほどだ。

「このぐらいは普通ではないでしょうか?」

だが産まれた時から王城て暮らすリリアナには庶民の感覚がわからないようだ。
それでも遠慮しているのはシンだけのようだ。
一緒に来たユナなんかはベッドやソファで飛び跳ねて楽しそうに笑っていた。
彼女はこの部屋で寝泊まりする訳ではないのだが。

「お疲れの所申し訳ないのですがこの度の事をお話しいたしましょう」

リリアナの発言に思わずギクッとしてしまうシン。
魔王の事など完全にリリアナの計画とは違うものだ。
自分では上手く事態を収拾出来たと思っているが何か重大なミスをしているかもしれない。
リリアナは怒ると怖そうなのでまあり気が乗らないシンであるがもう逃げられそうにない。

「まず、さすがはシン様と言ったところでしょうか」

だがシンの杞憂はすぐさま解消された。
頭の良いリリアナからさすがと言われるのは悪い気はしない。

「魔王の登場には驚きましたがシン様ならば魔王程度利用出来てしまうのでしょう。あそこで魔王が来た事により父上とミアリスの失脚を進めるのは簡単になりました」

魔王を利用したと言うより振り回されたと言った方が正しいのだがリリアナは誤解している。
だがここで実は違うんだ、と言い出す勇気は無いので偉そうに頷くシン。

「そうよ!あの魔王とどこで知り合ったのよ!それに最後の蹴り絶対わざとだわ!私達の攻撃にビクともしない奴があの程度でやられる訳ないわ!」

ユナの言葉にナナも同意を示した。
やはり一般の人達は誤魔化せても戦いの達人の目は誤魔化せなかったようだ。

「あの魔王、ティナって言うんだが、ティナとは地下牢であったんだ」

「名前で呼ぶのね」「名前で呼んでいらっしゃるのですね」

ユナとリリアナに名前で呼んだ事を咎められる。
ティナから名前で呼ぶよう言われたのでそうしただけなのだが何か問題あるのだろうか。

「地下牢に魔王が潜んでいたのですね、知りませんでした」

「潜んでたと言うよりもわざとあそこにいた感じだな」

「わざと?」

リリアナにティナが地下牢にいた事の理由を聞かれてしまったが、この純心そうなリリアナにティナの悪癖を言うのが躊躇われたシンは適当に聞き流し別の話題にした。

「まあティナは味方になったようなもんだ。それで良いだろ、それより、リリアナの計画とは違ったが問題ないか?」

「ええ、わたくしの計画よりも素晴らしいものでした。問題など何もございません」

問題も特に無さそうだ、これであとはミアリスの指輪だがそれもリリアナが既に入手していた。

「シン様、これがミアリスの指輪でございます、王城に販売されている物も持って来ております」

リリアナからミアリスの指輪を渡された。
2つの指輪を合わせると指輪はカチリと合わさり普通の指輪より少し大きめの指輪が完成した。

「うん、間違いなく本物だ、ボクも入手出来て嬉しいよ」

そこでいつの間にか現れたノアが姿を見せた。
最近姿を見せてなかったのでここにいた全員に久しぶり、と挨拶をした。

「シン、それはボクの腕輪と同じで必ず着けているんだ、何か変化があるかい?」

ノアから催促され証を指にはめる、すると新たな力が感じられた。

「体が軽くなった気がするな、軽量化か?いや違うな」

「おそらくシンの重さ自体は変わっていない、だがこれでもっと素早く動いたり跳躍も高くなるはずだ、ニグルはこれを着けていたから風の魔術で飛行の真似事も出来たんだろう」

ニグルのあの空中への短時間だが飛行の出来たのはこの指輪の力があったからだろう。

「えっ?ズルい」

戦闘がしやすくなった事にユナがズルいと言ってきたが仕方ないだろう。
証による特殊な能力の付与は代行者のみに与えられる。

「ユナには”契”があるじゃないか、あの刀はこの世界でも最高峰の逸品だ。ボクが保証するよ」

駄々をこねたユナをノアがなだめる、こうして見ているとノアはやはり仲間が増えた事が嬉しいのだろう。

「シン様、宴が終わったらやはり旅に出るのでしょうか?」

リリアナが不意に問いかけてくる、答えは決まっている。

「ああ、他の世界に行かなきゃならないからな。ここにもあと少ししか滞在しない」

そう言うとリリアナは考え込んでしまう、何を話せば良いのかシンにはわからなかったので待つ事にする。すると考えを纏めたのかリリアナが話を始めた。

「シン様、そしてノア様、わたくしも共に旅に同行させて下さい、必ずお役に立つと誓います!」

「えっ?ちょっと!」

「何でしょうか?ユナさん?」

リリアナの言葉に反応したのはユナだった、だがリリアナに反応した事について聞かれて黙ってしまう。

「この国は良いのか?王になるんだろ?」

リリアナはこれまでこの国の王になる為行動してきた。
旅に着いてくるのは反対ではない、むしろリリアナと言う優秀な仲間が着いてきてくれるのは歓迎するべき事だ。
だが旅に同行するという事は王の座を諦めると言う事だ。

「構いません、この国には兄上達もいますのでこの国の事は兄上達に任せます」

リリアナの決意は固いようだ、なら異論はない。

「わかった、俺もリリアナが着いてきてくれるなら心強い、ノアも良いだろ?」

「ああ、ボクも異論ない、よろしくリリアナ」

ノアからも許可が出たのでリリアナがこれから旅に同行するのは決定した。
あとはエルリックの返事を待つだけだ。

「ユナ、良いの?」

リリアナの旅への同行が決まっている時、ユナの側でナナが小さくユナに聞いていた。
彼女もユナの気持ちに気付いているので自分も着いて行くとユナに言って欲しいのだ。

だがそのままユナは黙り込んでしまう。
彼女も本心は着いて行きたいが赤姫達を残してしまう事が心配でどうしても素直になれないのだ。

「では、改めてよろしくお願いいたします」

最後にリリアナが言い、シンを残して部屋から退出する。
ユナは最後まで黙ったまま自分の中で葛藤している事にシンは気付いていなかった。

*******

王族の宴はシンの想像以上に豪勢な食事に会場の設営も豪華だった。
あまりの豪華さについ唖然としてしまったシンだったがフォローに回ったリリアナのお陰で王国の重鎮達に失礼のないように振る舞う事が出来た。

「シン、改めてこの国を救ってくれた事に礼を言おう」

「大した事はしていない、礼なんていらないさ」

「あの”風帝”を倒して大した事はない訳がないじゃないか」

「エルリックも”幻視槍”だかを倒したんだろ?」

宴の終盤は参加していたエルリックといつもどうりに酒をのみながら会話していた。

「シン、僕もシンの旅に同行させてくれないか?」

戦争前の約束の答えをエルリックはシンへと告げる、リリアナと同様その目からは決意が感じ取れる。

「誘っといて何だが、これからも旅は厳しいと思うぞ?それに家族とも離れるんだ」

出した返事は嬉しいものだ。
だがエルリックが故郷から離れるのを後悔しないか確認しなければならない。

「もともと兵士として生きると決めた時点で家族とは別れをしたつもりだ。もうシンが嫌と言っても着いて行くからな」

エルリックの決意は変わらない、これでリリアナとエルリックの同行が決定した。
2人が来てくれるのはとても心強い。

宴も終わり砂の世界を旅立つのはリリアナとエルリックと相談した結果2日後になった。
長く滞在した世界に思い出が蘇ってくる。

その宴にも参加していたユナは結局シンに話しかける事が出来なかった。
その後姿を見てクレア達赤姫のメンバーは尊敬する団長の為、どう行動をするかを決めていたようだった。
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