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森の世界
獣王選定
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「1ヶ月後か、思ってたよりも早かったな」
世界樹の20階層の試練を終わらせたシン達の下にシーナの父親が獣王選定の日にちが決まったと報告に来た。
父親の話を聞き、シン達は宿屋に戻り獣王選定についての話し合いを行っていた。
「そうですね、現獣王様は思っているよりも衰えているのでしょう。どうします?1ヶ月後あれば世界樹の試練も30階までは行けそうですが」
これまでの試練を振り返れば10階ごとに難易度は上がっている。
だが次の30階の試練までは恐らくは戦闘の試練が続くはずだ。
戦闘ならばこの面々が苦戦する事はまず無いだろう。
「世界樹の試練は途中で中断する事も出来ます。時間がかかると判断する試練までは進めてはどうでしょう?」
リリアナの提案に反対する者はいなかった。
全員が1ヶ月もあれば30年突破者のいない30階までは辿り着けると考えているからだ。
「なら次は獣王選定だな、どのぐらい候補が居るんだ?」
「各集落で最大2人まで候補者が出せます。この森の世界には140の集落があるので大体200前後でしょうね」
シーナの集落の様に獣王候補を選出するのが難しい集落は候補者を出せない場合もあるが、大抵は1人必ず出す。
大きめの集落の場合は2人候補者を選出するが、必ずしもその世代に使命を果たした者が居るとは限らないのでシーナはおおよそ200名前後と予想していた。
「それだけいるなら獣王が決まるまで時間がかかるな」
「そうですね、大体2ヶ月ぐらいかかります。まず30人ぐらいで1次予選をやり、その上位10名で2次予選をします。本戦には2次予選の上位2名とその次の成績の者同士の戦いで勝ち残った者が進めます」
獣王選定は予選で1ヶ月と少しかかり、本線は3週間ほどの期間がかかる。
予選ごとにどの課題が課されるのかは始まる直前まで知らされず、開始直前に課題は獣王候補者のみに伝えられる。
獣王候補者達は課題を知った後に仲間などに指示をして課題に取り組むのだ。
「3つある通信魔導具の1つはシーナに、もう1つはリリアナだな。あと1つは課題によって誰かに担当して貰おう」
獣王選定の課題を始めに知るシーナには通信魔導具は必須だ。
そしてこの中で1番頭の回るリリアナも必要だろう。
「課題によっては手分けをするかもしれませんしね。戦力を分散させるのは致し方ないかもしれません」
リリアナの提案により課題の対策としてチーム分けをする事になった。
シーナと共に居るのはシン。
リリアナにはエルリックとユナが付き、ナナとティナは2人の能力を活かすため状況により自由に動いてもらう事になる。
「ノアはまだしばらく休まなきゃならない。俺の試練に干渉したのが思ったよりも消耗したみたいだ」
今回はノアの力を頼る事は出来ない。
神の力が得られないのは痛手だが頼ってばかりいる訳にはいかない。
「候補者に注意する奴とかはいないのか?」
敵戦力を知っておく事に越した事はない。
この森の世界に来てから集落を避けて世界樹まで来たし、その後もずっと世界樹の試練をしていた為この世界の強者の存在をほとんど知らないのだ。
「候補者は基本的に他の集落には教えませんから誰が出て来るのかはわかりません。ですが強力な候補者を擁立出来た集落の人達は自信有り気にしているので、その様子を見ればどの程度かはなんとなくわかるはずです」
「さすがに”天帝”レベルが出て来るとは思えないからな、戦闘ならば問題ないだろな」
戦闘力だけを見るならばここにいる面々は抜きん出ている。
単純に序列で言えばシンとユナを上回るのは1位と2位だけだ。
そんな2人が獣王選定に出て来るとは思えない。
「ですが、私の氷狼の様に強力な魔獣を従えた候補者が居るかもしれません。そうなれば使命を果たしていない私よりも数段は上の強者がいる事になります」
シーナの氷狼の力は強力だ。
それでいてまだ本来の氷狼の力には遠く及ばない。
世界の覇者と言われる魔獣は1匹でも暴れだしたら生命の危機と呼ばれるほど圧倒的な存在なのだ。
「妾の力が万全ならばその程度の魔獣など障害にならんのだがの」
その魔獣をその程度と言えてしまうティナはさすがは魔王と言ったところだろうか。
だが少しだけ回復したとはいえティナの体は手のひらに収まるサイズから両手で持たなければならない位にしか戻っていない。
戦いへの参入は危険だろう。
「戦いになってもリリアナ様は僕が必ず守り通す。君達は攻めに専念してくれて構わない。シンやナナさんは守りよりも攻めの方が適しているだろうしね」
世界樹の試練が創り出した世界でもエルリックは最後までリリアナを守っている。
それを知っているシン達はエルリックに言われなくても全幅の信頼を寄せていた。
「そうだな、俺はどっちかって言ったら集団戦は苦手だしな。虚無の大鎌は周りを巻き込む可能性があるし、ナナの魔術も同じだろ?」
「うん、1人だと気にしなくて良いから楽」
シンの持つ虚無の大鎌はその能力は強力だが、武器の特性上大振りになる事も多く単体での戦闘の方が向いている。
1人で砂の世界の国を壊滅させた事も周りに仲間が居ないからこそ、その力を最大限に引き出せたのだ。
ナナに関してもユナならば避けきる事は出来るが他の面々ではナナの邪魔になる可能性が高い。
シン達は個々の戦闘力は高いが連携などの必要な集団戦にも問題なく取り組めるのはユナとエルリック、シーナしか居ないのだ。
「そうなると集団戦になった場合が心配だな、僕は小隊長をしていたが、君達の手綱を取れるとはとても思えないな」
苦笑いを浮かべエルリックは周りにいるシン達の顔を見ていた。
個性が強すぎてどう指揮を取れば良いのかわからないのだ。
「クレアさんの苦労がわかった気がするよ」
赤姫と言う傭兵団を指揮していたクレアにエルリックは同情してしまった。
「ちょっと、どういう意味よ!私達が問題みたいじゃない!」
エルリックの言葉にユナは反応した。
その意見にはシンとナナも同意見だった。
強力な個を持っているがゆえに、この3人は自由行動を今まで許されすぎていた。
集団戦で味方の動きに合わせる事など知りもしないのだ。
「あら?自分勝手な女性は嫌われますのよ、ユナさん?」
すかさずリリアナはユナに言葉で攻撃をする。
だが今は戦闘の話だ、戦闘に関してはリリアナはユナには勝てない。
「リリアナは全然戦えないんだから黙ってなさい!戦いないなら後ろの方で邪魔にならない様に縮こまってて良いのよ?」
「わたくし、これでも最近ティナさんに教えを請いているのですよ?」
シン達の知らない間にリリアナはティナから戦いについて学んでいる様だ。
自慢げにユナに腕相撲を挑んだ。
だが少し鍛えた程度では序列4位になったユナに敵うはずもない、勝負は一瞬で付いてしまった。
「ゆっ指2本のユナさんに敵わないなんて。ユナさんの腕力はアギリスゴングのようですわね」
「だっ誰があんな怪力魔獣よ!」
アギリスゴングとは森の世界にいる大型の二足歩行の魔獣だ。
世界樹に辿り着くまでに遭遇した魔獣だったが、この世界にある大木のように太い腕からその怪力を誇るように大木を引き抜き投げつけてくる攻撃には手を焼いたものだ。
「まあ、集団戦になったら俺とユナとナナは自由にやれば良いだろ、それでもダメならリリアナかエルリックがなんか策を出してくれ」
結局シン達に連携を期待するのをエルリックは諦めた。
下手に気を使わせるより自由にやらせた方が良いと判断したのだ。
「では、明日からはまた世界樹の試練です。気を抜かず乗り越えましょう」
リリアナの一声で今日のところは解散となった。
だが自室へと戻ろうとするシンをエルリックが呼び止めた。
「シン、今日は久々に酒場に行かないか?もちろん君のおごりだ。苦労させられたからね」
エルリックにおごると言った事をすっかりとシンは忘れていたが久々に酒場でエルリックとのみに行くのも良いだろう。
「わかった、場所はわかるか?」
エルリックの案内で酒場へとシン達は向かう。
宿屋のすぐ側にあった酒場は冒険者達で溢れていた。
「この葡萄酒は美味いな」
エルリックの勧めでシンも葡萄酒を飲む、上品な味わいにエルリックが勧めるのも無理はない。
「僕は、君の試練の中ではリリアナ様をお守り出来なかったのか?」
ノアからシンの試練の出来事を聞いていたエルリックはリリアナを”幻視槍”から守れずにいた事を気にしているようだった。
だがそれは偽の世界での事であり本当の世界ではエルリックはリリアナを守り抜いている。
シンはそうエルリックに言うが納得出来ていないようだ。
「偽とわかっていてもリリアナ様をお守り出来なかったのは僕が力不足だったからだ。もうそのような事にならないよう、僕はもっと強くなる」
エルリックの力強い言葉にシンはエルリックの鍛錬に協力すると申し出た。
エルリックからも是非と言われたシンはこれからエルリックとの鍛錬を毎日行う事となった。
「明日もあるしこのぐらいで宿に戻ろう」
日付の変わらないうちにシン達は宿へと戻った。
宿は個室の為、途中でシンとエルリックはわかれそれぞれの部屋へと戻る。
「また、会ったな。導かれし者よ」
自分の部屋へと戻ろうとしていたシンは宿屋の廊下で誰かに話しかけられた。
声の方向に目を向けると、そこには前に出会ったSランク冒険者”双蒼の烈刃”と呼ばれた集団の中にいた、桃色のロングヘアに右眼に眼帯を着けた女性がシンを見つめていた。
ユナよりも少し背が高いがそれでも小柄な部類に入るこの女性とシンは親しくした覚えはない。
だが確か前にも導かれし者と呼ばれた事をすぐにシンは思い出した。
「なあ、導かれし者って何の事だ?」
「まだお前が知るのは早過ぎる。時が来れば自ずとわかる事だろう」
桃色の髪の女性はまともに答えるつもりはないようだ。
仰々しい物言いにシンは少し苦手意識を持ってしまう。
「何か俺に用があるのか?」
何故この女性が話しかけてきたのかシンには理解出来ない。
女性を観察するが怪我でもしているのだろうか。
冒険用の服装でなく普段着に着替えている女性の左腕は包帯がグルグルと巻かれ何か細いベルトのような物が包帯のさらに上から巻かれている。
「我が身の戒めが気になるのか?」
「戒め?」
「我は太古の災いによりこの身に呪いを宿している。この拘束は我の力が暴走しない為の封印、この封印が解き放たれた時、世界は破滅の道を歩む事になる」
我、と自分の事を呼ぶこの女性の言う事をシンは理解出来なかった。
しかしこの世界にはシンの知らない事が沢山ある。
だが何故だかシンはこの女性とこの話題をする事を躊躇ってしまった。
深入りすると痛い目を見る、そんな気がしたのだ。
「すまない、あまりジロジロ見るもんじゃないな。それじゃ最初の質問に戻らせてくれ。何で俺に話しかけてきたんだ?」
「そうだな、お前は獣王に興味があるのか?」
女性から逆に質問を返されてしまう。
だが獣王に興味がある訳ではないがシン達の行動は獣王に関係してくる。
「興味は無いな、けどその獣王選定に仲間が出るんだ。その協力を俺はする」
「あの、水色の女子か?」
「ああ、あいつが獣王候補だ」
シーナの事はこの女性も知っているのは前回会った時にシーナもシンと居たのでわかっている。
「獣王になるのを余り進める事はしないな」
「何でだ?」
この女性の言っている事はシーナを獣王にさせるなと言われているような物だ。
「獣王はお前達が思っているほど良い存在ではない」
「どういう意味だ?今までの獣王がろくな奴じゃない事は俺もわかってる。だがシーナは今までの獣王とは違う」
獣王のやっている事はシンにも良いと思えない。
むしろ悪い方向に捉えている。
今までの獣王のやり方を変える為にシーナはシン達と共に獣王を目指しているのだ。
「今までの…そうか、まだお前は知らないのだな」
「何を知らないんだ?」
女性の言葉にシンは何か引っかかる物を感じた。
違和感を取り除く為、手っ取り早く女性に答えを求める。
「何故、獣王が襲名制かわかるか?」
「いや、わからない。そんな事をする必要が無いと俺は思ってるからな」
獣王の名前は代々レオル・フリードだ。
そんな事をする意味がシンには理解出来なかった。
「それは、代々の獣王は「あっ!やっと見つけた!」む?」
桃色の髪の女性の言葉が途中で途切れた。
割り込んで来たのはこの女性と同じ冒険者仲間の金髪の背の高い女性だった。
「アイナ、あなた夜は危ないんでしょ?他の人に迷惑かけないようにしないと!」
「む、いっいや今日は大丈夫だ。我の調子が良いので危険はない」
「ダメよ、そんな事言っていっつも苦しんでるじゃない!」
「そっそれとこれとは違うのだ、それに今日はそんな事をしない!」
「はいはい、わかりました。あのすみません。アイナは夜になると不安定になるんです。お話の途中で申し訳ないのですが部屋に戻らせないといけないので」
金髪の女性はアイナと呼ばれた桃色の髪の女性を連れその場を離れてしまう。
桃色の女性は否定していたが先ほどの封印と何か関係があるのだろう。
彼女の話を最後まで聞けなかったのは残念だが、暴走されでもしたら大変なのでシンは仕方なく自分の部屋へと戻る。
「まあ、また会えるだろ」
同じ宿屋に宿泊してる為また桃色の髪の女性とシンは会えると思っていたが、あの冒険者達がこの宿屋に宿泊するのは今日が最後であり、この森の世界からも直ぐに立ち去ってしまうのだった。
結局シンはあの女性との会話の続きをする事は出来なかった。
世界樹の20階層の試練を終わらせたシン達の下にシーナの父親が獣王選定の日にちが決まったと報告に来た。
父親の話を聞き、シン達は宿屋に戻り獣王選定についての話し合いを行っていた。
「そうですね、現獣王様は思っているよりも衰えているのでしょう。どうします?1ヶ月後あれば世界樹の試練も30階までは行けそうですが」
これまでの試練を振り返れば10階ごとに難易度は上がっている。
だが次の30階の試練までは恐らくは戦闘の試練が続くはずだ。
戦闘ならばこの面々が苦戦する事はまず無いだろう。
「世界樹の試練は途中で中断する事も出来ます。時間がかかると判断する試練までは進めてはどうでしょう?」
リリアナの提案に反対する者はいなかった。
全員が1ヶ月もあれば30年突破者のいない30階までは辿り着けると考えているからだ。
「なら次は獣王選定だな、どのぐらい候補が居るんだ?」
「各集落で最大2人まで候補者が出せます。この森の世界には140の集落があるので大体200前後でしょうね」
シーナの集落の様に獣王候補を選出するのが難しい集落は候補者を出せない場合もあるが、大抵は1人必ず出す。
大きめの集落の場合は2人候補者を選出するが、必ずしもその世代に使命を果たした者が居るとは限らないのでシーナはおおよそ200名前後と予想していた。
「それだけいるなら獣王が決まるまで時間がかかるな」
「そうですね、大体2ヶ月ぐらいかかります。まず30人ぐらいで1次予選をやり、その上位10名で2次予選をします。本戦には2次予選の上位2名とその次の成績の者同士の戦いで勝ち残った者が進めます」
獣王選定は予選で1ヶ月と少しかかり、本線は3週間ほどの期間がかかる。
予選ごとにどの課題が課されるのかは始まる直前まで知らされず、開始直前に課題は獣王候補者のみに伝えられる。
獣王候補者達は課題を知った後に仲間などに指示をして課題に取り組むのだ。
「3つある通信魔導具の1つはシーナに、もう1つはリリアナだな。あと1つは課題によって誰かに担当して貰おう」
獣王選定の課題を始めに知るシーナには通信魔導具は必須だ。
そしてこの中で1番頭の回るリリアナも必要だろう。
「課題によっては手分けをするかもしれませんしね。戦力を分散させるのは致し方ないかもしれません」
リリアナの提案により課題の対策としてチーム分けをする事になった。
シーナと共に居るのはシン。
リリアナにはエルリックとユナが付き、ナナとティナは2人の能力を活かすため状況により自由に動いてもらう事になる。
「ノアはまだしばらく休まなきゃならない。俺の試練に干渉したのが思ったよりも消耗したみたいだ」
今回はノアの力を頼る事は出来ない。
神の力が得られないのは痛手だが頼ってばかりいる訳にはいかない。
「候補者に注意する奴とかはいないのか?」
敵戦力を知っておく事に越した事はない。
この森の世界に来てから集落を避けて世界樹まで来たし、その後もずっと世界樹の試練をしていた為この世界の強者の存在をほとんど知らないのだ。
「候補者は基本的に他の集落には教えませんから誰が出て来るのかはわかりません。ですが強力な候補者を擁立出来た集落の人達は自信有り気にしているので、その様子を見ればどの程度かはなんとなくわかるはずです」
「さすがに”天帝”レベルが出て来るとは思えないからな、戦闘ならば問題ないだろな」
戦闘力だけを見るならばここにいる面々は抜きん出ている。
単純に序列で言えばシンとユナを上回るのは1位と2位だけだ。
そんな2人が獣王選定に出て来るとは思えない。
「ですが、私の氷狼の様に強力な魔獣を従えた候補者が居るかもしれません。そうなれば使命を果たしていない私よりも数段は上の強者がいる事になります」
シーナの氷狼の力は強力だ。
それでいてまだ本来の氷狼の力には遠く及ばない。
世界の覇者と言われる魔獣は1匹でも暴れだしたら生命の危機と呼ばれるほど圧倒的な存在なのだ。
「妾の力が万全ならばその程度の魔獣など障害にならんのだがの」
その魔獣をその程度と言えてしまうティナはさすがは魔王と言ったところだろうか。
だが少しだけ回復したとはいえティナの体は手のひらに収まるサイズから両手で持たなければならない位にしか戻っていない。
戦いへの参入は危険だろう。
「戦いになってもリリアナ様は僕が必ず守り通す。君達は攻めに専念してくれて構わない。シンやナナさんは守りよりも攻めの方が適しているだろうしね」
世界樹の試練が創り出した世界でもエルリックは最後までリリアナを守っている。
それを知っているシン達はエルリックに言われなくても全幅の信頼を寄せていた。
「そうだな、俺はどっちかって言ったら集団戦は苦手だしな。虚無の大鎌は周りを巻き込む可能性があるし、ナナの魔術も同じだろ?」
「うん、1人だと気にしなくて良いから楽」
シンの持つ虚無の大鎌はその能力は強力だが、武器の特性上大振りになる事も多く単体での戦闘の方が向いている。
1人で砂の世界の国を壊滅させた事も周りに仲間が居ないからこそ、その力を最大限に引き出せたのだ。
ナナに関してもユナならば避けきる事は出来るが他の面々ではナナの邪魔になる可能性が高い。
シン達は個々の戦闘力は高いが連携などの必要な集団戦にも問題なく取り組めるのはユナとエルリック、シーナしか居ないのだ。
「そうなると集団戦になった場合が心配だな、僕は小隊長をしていたが、君達の手綱を取れるとはとても思えないな」
苦笑いを浮かべエルリックは周りにいるシン達の顔を見ていた。
個性が強すぎてどう指揮を取れば良いのかわからないのだ。
「クレアさんの苦労がわかった気がするよ」
赤姫と言う傭兵団を指揮していたクレアにエルリックは同情してしまった。
「ちょっと、どういう意味よ!私達が問題みたいじゃない!」
エルリックの言葉にユナは反応した。
その意見にはシンとナナも同意見だった。
強力な個を持っているがゆえに、この3人は自由行動を今まで許されすぎていた。
集団戦で味方の動きに合わせる事など知りもしないのだ。
「あら?自分勝手な女性は嫌われますのよ、ユナさん?」
すかさずリリアナはユナに言葉で攻撃をする。
だが今は戦闘の話だ、戦闘に関してはリリアナはユナには勝てない。
「リリアナは全然戦えないんだから黙ってなさい!戦いないなら後ろの方で邪魔にならない様に縮こまってて良いのよ?」
「わたくし、これでも最近ティナさんに教えを請いているのですよ?」
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自慢げにユナに腕相撲を挑んだ。
だが少し鍛えた程度では序列4位になったユナに敵うはずもない、勝負は一瞬で付いてしまった。
「ゆっ指2本のユナさんに敵わないなんて。ユナさんの腕力はアギリスゴングのようですわね」
「だっ誰があんな怪力魔獣よ!」
アギリスゴングとは森の世界にいる大型の二足歩行の魔獣だ。
世界樹に辿り着くまでに遭遇した魔獣だったが、この世界にある大木のように太い腕からその怪力を誇るように大木を引き抜き投げつけてくる攻撃には手を焼いたものだ。
「まあ、集団戦になったら俺とユナとナナは自由にやれば良いだろ、それでもダメならリリアナかエルリックがなんか策を出してくれ」
結局シン達に連携を期待するのをエルリックは諦めた。
下手に気を使わせるより自由にやらせた方が良いと判断したのだ。
「では、明日からはまた世界樹の試練です。気を抜かず乗り越えましょう」
リリアナの一声で今日のところは解散となった。
だが自室へと戻ろうとするシンをエルリックが呼び止めた。
「シン、今日は久々に酒場に行かないか?もちろん君のおごりだ。苦労させられたからね」
エルリックにおごると言った事をすっかりとシンは忘れていたが久々に酒場でエルリックとのみに行くのも良いだろう。
「わかった、場所はわかるか?」
エルリックの案内で酒場へとシン達は向かう。
宿屋のすぐ側にあった酒場は冒険者達で溢れていた。
「この葡萄酒は美味いな」
エルリックの勧めでシンも葡萄酒を飲む、上品な味わいにエルリックが勧めるのも無理はない。
「僕は、君の試練の中ではリリアナ様をお守り出来なかったのか?」
ノアからシンの試練の出来事を聞いていたエルリックはリリアナを”幻視槍”から守れずにいた事を気にしているようだった。
だがそれは偽の世界での事であり本当の世界ではエルリックはリリアナを守り抜いている。
シンはそうエルリックに言うが納得出来ていないようだ。
「偽とわかっていてもリリアナ様をお守り出来なかったのは僕が力不足だったからだ。もうそのような事にならないよう、僕はもっと強くなる」
エルリックの力強い言葉にシンはエルリックの鍛錬に協力すると申し出た。
エルリックからも是非と言われたシンはこれからエルリックとの鍛錬を毎日行う事となった。
「明日もあるしこのぐらいで宿に戻ろう」
日付の変わらないうちにシン達は宿へと戻った。
宿は個室の為、途中でシンとエルリックはわかれそれぞれの部屋へと戻る。
「また、会ったな。導かれし者よ」
自分の部屋へと戻ろうとしていたシンは宿屋の廊下で誰かに話しかけられた。
声の方向に目を向けると、そこには前に出会ったSランク冒険者”双蒼の烈刃”と呼ばれた集団の中にいた、桃色のロングヘアに右眼に眼帯を着けた女性がシンを見つめていた。
ユナよりも少し背が高いがそれでも小柄な部類に入るこの女性とシンは親しくした覚えはない。
だが確か前にも導かれし者と呼ばれた事をすぐにシンは思い出した。
「なあ、導かれし者って何の事だ?」
「まだお前が知るのは早過ぎる。時が来れば自ずとわかる事だろう」
桃色の髪の女性はまともに答えるつもりはないようだ。
仰々しい物言いにシンは少し苦手意識を持ってしまう。
「何か俺に用があるのか?」
何故この女性が話しかけてきたのかシンには理解出来ない。
女性を観察するが怪我でもしているのだろうか。
冒険用の服装でなく普段着に着替えている女性の左腕は包帯がグルグルと巻かれ何か細いベルトのような物が包帯のさらに上から巻かれている。
「我が身の戒めが気になるのか?」
「戒め?」
「我は太古の災いによりこの身に呪いを宿している。この拘束は我の力が暴走しない為の封印、この封印が解き放たれた時、世界は破滅の道を歩む事になる」
我、と自分の事を呼ぶこの女性の言う事をシンは理解出来なかった。
しかしこの世界にはシンの知らない事が沢山ある。
だが何故だかシンはこの女性とこの話題をする事を躊躇ってしまった。
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「すまない、あまりジロジロ見るもんじゃないな。それじゃ最初の質問に戻らせてくれ。何で俺に話しかけてきたんだ?」
「そうだな、お前は獣王に興味があるのか?」
女性から逆に質問を返されてしまう。
だが獣王に興味がある訳ではないがシン達の行動は獣王に関係してくる。
「興味は無いな、けどその獣王選定に仲間が出るんだ。その協力を俺はする」
「あの、水色の女子か?」
「ああ、あいつが獣王候補だ」
シーナの事はこの女性も知っているのは前回会った時にシーナもシンと居たのでわかっている。
「獣王になるのを余り進める事はしないな」
「何でだ?」
この女性の言っている事はシーナを獣王にさせるなと言われているような物だ。
「獣王はお前達が思っているほど良い存在ではない」
「どういう意味だ?今までの獣王がろくな奴じゃない事は俺もわかってる。だがシーナは今までの獣王とは違う」
獣王のやっている事はシンにも良いと思えない。
むしろ悪い方向に捉えている。
今までの獣王のやり方を変える為にシーナはシン達と共に獣王を目指しているのだ。
「今までの…そうか、まだお前は知らないのだな」
「何を知らないんだ?」
女性の言葉にシンは何か引っかかる物を感じた。
違和感を取り除く為、手っ取り早く女性に答えを求める。
「何故、獣王が襲名制かわかるか?」
「いや、わからない。そんな事をする必要が無いと俺は思ってるからな」
獣王の名前は代々レオル・フリードだ。
そんな事をする意味がシンには理解出来なかった。
「それは、代々の獣王は「あっ!やっと見つけた!」む?」
桃色の髪の女性の言葉が途中で途切れた。
割り込んで来たのはこの女性と同じ冒険者仲間の金髪の背の高い女性だった。
「アイナ、あなた夜は危ないんでしょ?他の人に迷惑かけないようにしないと!」
「む、いっいや今日は大丈夫だ。我の調子が良いので危険はない」
「ダメよ、そんな事言っていっつも苦しんでるじゃない!」
「そっそれとこれとは違うのだ、それに今日はそんな事をしない!」
「はいはい、わかりました。あのすみません。アイナは夜になると不安定になるんです。お話の途中で申し訳ないのですが部屋に戻らせないといけないので」
金髪の女性はアイナと呼ばれた桃色の髪の女性を連れその場を離れてしまう。
桃色の女性は否定していたが先ほどの封印と何か関係があるのだろう。
彼女の話を最後まで聞けなかったのは残念だが、暴走されでもしたら大変なのでシンは仕方なく自分の部屋へと戻る。
「まあ、また会えるだろ」
同じ宿屋に宿泊してる為また桃色の髪の女性とシンは会えると思っていたが、あの冒険者達がこの宿屋に宿泊するのは今日が最後であり、この森の世界からも直ぐに立ち去ってしまうのだった。
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