65 / 174
森の世界
難題
しおりを挟む
「うわ、きもぉ!」
世界樹の試練の部屋に入ったシン達を待ち受けていたのは、森の世界に存在するあらゆる虫の群れだった。
ブンブンと羽のある虫は音を鳴らしながら部屋の中を飛び回り、地面にはカサカサと虫が動き回り、間を這うように芋虫達が蠢いていた。
その虫達の大きさは大小様々おり、中にはシン達よりも大きい虫も存在する。
「ちっちょっとシン!それにユナさんまで僕を押さないでくれ!」
部屋に入るなりリリアナは悲鳴を上げ、シンとユナは武器を取り出す事なくエルリックの背中に周り、背後からエルリックの背中を虫の大群に向け押し込んでいた。
「私とナナちゃんがやります」
試練の内容はこの虫達を駆除する事だ。
だが近接戦闘を主とするシンとユナ、エルリックは近付く事を恐れている。
そんな中、虫には慣れているのかシーナがシン達の前に出てすぐさま近くの虫達を凍り付かせ、ナナに遠くにいる虫達に武器を放つように指示をした。
「わかった」
シーナから指示を受けたナナは即座に無数の剣を創造し虫の大群に向け射出した。
次々と虫達を粉砕するナナだったが問題はその後だった。
シン達の近くにいた虫達が粉砕された衝撃で色とりどりの体液がシン達にも降り注いできたのだ。
「いっいやぁ~!」
気色の悪い体液の雨にまたもやリリアナは悲鳴をあげる。
「しょうがないなぁ」
やれやれ、と言った様子でシーナはシン達の前に氷の壁を創り出す。
シーナ自身は氷狼の能力で体液は触れる事なく凍り付くので体液に汚れる事は無いのだ。
「あ、ありがと」
虫の駆除が終わりシーナにシン達はお礼を言う。
彼女が居なければ今頃は虫の体液でドロドロになっていたところだ。
「いえ、それより次です。いよいよ30階の試練ですから」
シン達はとうとう30年突破者のいない試練への挑戦権を得た。
「これまでの内容を見る限りまた何かを試されるのか?」
第1の試練では絆を試され、10階の試練では仲間を救う事だった。
20階では自分のいない過去を乗り越える事だ。
「わかりません、ですがその可能性が高いでしょう」
全員で覚悟を決め30階層へと向かう。
転移が終わる感覚を得たシン達は瞳を開け、30階層へと入り込む。
「行くわよ」
扉を開けるのはユナの役目だった。
特に決めている訳ではないのだが、彼女が毎回率先して扉を開けていた。
「また、何も無いのか?」
試練の部屋はまたしても円形の空間が広がっているだけで何も無い。
これまでの経験からシン達には嫌な予感しかしない。
『病でない病を患え』
何も無い部屋で試練の開始を告げる声が響き渡る。
だがその内容をシン達は理解出来ない。
「どういう意味だ?リリアナとティナは知らないのか?」
この中で博識な2人にシンは問いかける。
2人の表情を見るに答えが伺える。
「すみません、わたくしにも心当たりがありません」
「妾も同じだの、そんな病など聞いた事もない」
千年以上生きるティナにわからないのであればこの試練の答えを知る者は限りなくゼロに近くだろう。
30年も突破者のいない訳がようやくシン達は理解出来た。
「うっぐわあああ」
突如、シンは胸を押さえ悲鳴を上げながら地面に横たわる。
「あんた、何してんのよ?」
奇行に走るシンにユナやエルリック、シーナやナナにティナ、そしてリリアナまでもがシンの事を死んだ魚を見るような目で見つめている。
「あっいや、病気にかかったフリでもしたら良いのかと思って」
てへへっと舌を出しながらシンは答える。
だがそんな事をしてもこの冷め切った空気は変わらない。
「何も起きなかったじゃない!それにそんなんで突破出来る訳ないじゃない!」
訳のわからない奇行に及ぶシンにユナは正論を突き付ける。
その程度で突破出来るならば30年もこの階層で挑戦者が苦戦するはずがない。
「いえ、あながち間違いではないのかもしれません」
そんな中リリアナがシンの味方をするように言葉を発する。
「どういう事?」
「病でない病ならば必ずしも当人が病に侵される必要はないのでは?仮病は病ではありませんが文字にすれば病と書きます」
シンが行動しても反論と侮蔑しか残らなかった事が、リリアナが言うと正解のように感じてしまう。
扱いの格差にシンは落ち込んでしまう。
「しかしリリアナ様、シンが奇行におよんでも何も起きません」
珍しくリリアナにエルリックが異を唱える。
それほどまでにシンのした行動は痛々しいのだ。
「忘れてはいけません、この試練はシン様だけが受けているのではないのですよ?」
リリアナの言葉に再度シンを除く人達が凍り付く。
言外に自分達もあれをやれと言われているのだ。
「ちっちょっとリリアナ、正気なの?」
リリアナにユナは言っているのだが、その言葉がシンの心に突き刺さる。
正気の人間のする事でないと包み隠さずに言われているのだ。
「ええ、シン様だけにあのようなはしたない行動をさせる訳にはいきません」
リリアナとしてはシンを擁護しているつもりだが、逆にシンをさらに傷付けていた。
「わっわかったわ、1回だけだからね」
ユナの言葉に続き一同は覚悟を決めた。
ここはシンが先導してやるべきだろう。
「がっがはぁ」
再度胸を押さえ悲鳴を上げ地面にシンは横たわる。
「ぐはぁ!」
続いてエルリックが頭を押さえうずくまる。
その行動はまるで自分のしている事に本当に頭が痛くなっていまっているかのようだ。
「うわー」
棒読みで倒れ込んだのはナナだ。
彼女はどこか楽しそうな雰囲気を醸し出している。
遊びのつもりなのだろう。
「きゃあぁ」
続いたのはリリアナだ。
地面への倒れ方に生まれの良さが現れている。
優雅に倒れ込む姿は演劇を見ているようだ。
「うっ」
冷静に膝を地面に付けるのはシーナだ。
クールな彼女らしく静かに苦しみを抑えているようだ。
「わっ妾は、妾は病になど負けんぞぉ」
恍惚を顔に浮かべるのはティナだ。
彼女にはこの行動が、何かその悪癖を刺激するものがあったのだろう。
これで残ったのはあと1人だ。
「ちっちょっと、みんなしてやらないといけないの?」
ユナはただ1人顔を赤くしながら戸惑っていた。
「なっ何してる、早くやれ」
苦しそうな演技をしながらシンは催促する。
他の面々からもユナは早くしろと目線で訴えられている。
「わかったわよ!」
意を決してユナは地面に倒れ込む。
彼女は演技が得意でないらしく、ぎこちない動きで地面に倒れ込んだ。
試練の間に沈黙が訪れる。
だがいつまで経っても試練の終わりを告げる声は聞こえてこない。
「もう無理!」
耐えきれなくなったユナが立ち上がる。
よほど嫌だったのだろう、その顔は真っ赤に染まり拳を握り込んでいる。
「これじゃダメみたいだな」
「あんたは黙ってて!」
失敗を言葉にしたシンにユナが話すなと怒鳴り込む。
こんな辱めの原因を作ったシンに責任があると言葉を出す事を禁止したのだ。
「やはり、ダメですか」
やはり、と言う事はリリアナも失敗を予測していたのだろう。
それでも試す他ないほどこの試練の答えが見つからないのだ。
「一度戻って資料を探したりしてみましょう」
攻略の糸口の見えない試練にシーナは撤退する事を提案する。
確かにここにいても解決策を思いつかないだろう。
「なら、この試練は獣王選定のあとだな。シーナが獣王になれば重要な文献とか見れるかもしれないしな」
この世界の王の獣王ならば何か答えになる物を見る事が出来るかもしれないとシンは獣王選定に集中する事を決めた。
「そうですね、わたくし達では答えが出せないかもしれませんし」
シン達は試練の間から外に出る。
答えの出ない試練よりシーナの獣王選定に目的を切り替えたのだ。
獣王選定の予選まで残りは1週間だ。
世界樹の試練の部屋に入ったシン達を待ち受けていたのは、森の世界に存在するあらゆる虫の群れだった。
ブンブンと羽のある虫は音を鳴らしながら部屋の中を飛び回り、地面にはカサカサと虫が動き回り、間を這うように芋虫達が蠢いていた。
その虫達の大きさは大小様々おり、中にはシン達よりも大きい虫も存在する。
「ちっちょっとシン!それにユナさんまで僕を押さないでくれ!」
部屋に入るなりリリアナは悲鳴を上げ、シンとユナは武器を取り出す事なくエルリックの背中に周り、背後からエルリックの背中を虫の大群に向け押し込んでいた。
「私とナナちゃんがやります」
試練の内容はこの虫達を駆除する事だ。
だが近接戦闘を主とするシンとユナ、エルリックは近付く事を恐れている。
そんな中、虫には慣れているのかシーナがシン達の前に出てすぐさま近くの虫達を凍り付かせ、ナナに遠くにいる虫達に武器を放つように指示をした。
「わかった」
シーナから指示を受けたナナは即座に無数の剣を創造し虫の大群に向け射出した。
次々と虫達を粉砕するナナだったが問題はその後だった。
シン達の近くにいた虫達が粉砕された衝撃で色とりどりの体液がシン達にも降り注いできたのだ。
「いっいやぁ~!」
気色の悪い体液の雨にまたもやリリアナは悲鳴をあげる。
「しょうがないなぁ」
やれやれ、と言った様子でシーナはシン達の前に氷の壁を創り出す。
シーナ自身は氷狼の能力で体液は触れる事なく凍り付くので体液に汚れる事は無いのだ。
「あ、ありがと」
虫の駆除が終わりシーナにシン達はお礼を言う。
彼女が居なければ今頃は虫の体液でドロドロになっていたところだ。
「いえ、それより次です。いよいよ30階の試練ですから」
シン達はとうとう30年突破者のいない試練への挑戦権を得た。
「これまでの内容を見る限りまた何かを試されるのか?」
第1の試練では絆を試され、10階の試練では仲間を救う事だった。
20階では自分のいない過去を乗り越える事だ。
「わかりません、ですがその可能性が高いでしょう」
全員で覚悟を決め30階層へと向かう。
転移が終わる感覚を得たシン達は瞳を開け、30階層へと入り込む。
「行くわよ」
扉を開けるのはユナの役目だった。
特に決めている訳ではないのだが、彼女が毎回率先して扉を開けていた。
「また、何も無いのか?」
試練の部屋はまたしても円形の空間が広がっているだけで何も無い。
これまでの経験からシン達には嫌な予感しかしない。
『病でない病を患え』
何も無い部屋で試練の開始を告げる声が響き渡る。
だがその内容をシン達は理解出来ない。
「どういう意味だ?リリアナとティナは知らないのか?」
この中で博識な2人にシンは問いかける。
2人の表情を見るに答えが伺える。
「すみません、わたくしにも心当たりがありません」
「妾も同じだの、そんな病など聞いた事もない」
千年以上生きるティナにわからないのであればこの試練の答えを知る者は限りなくゼロに近くだろう。
30年も突破者のいない訳がようやくシン達は理解出来た。
「うっぐわあああ」
突如、シンは胸を押さえ悲鳴を上げながら地面に横たわる。
「あんた、何してんのよ?」
奇行に走るシンにユナやエルリック、シーナやナナにティナ、そしてリリアナまでもがシンの事を死んだ魚を見るような目で見つめている。
「あっいや、病気にかかったフリでもしたら良いのかと思って」
てへへっと舌を出しながらシンは答える。
だがそんな事をしてもこの冷め切った空気は変わらない。
「何も起きなかったじゃない!それにそんなんで突破出来る訳ないじゃない!」
訳のわからない奇行に及ぶシンにユナは正論を突き付ける。
その程度で突破出来るならば30年もこの階層で挑戦者が苦戦するはずがない。
「いえ、あながち間違いではないのかもしれません」
そんな中リリアナがシンの味方をするように言葉を発する。
「どういう事?」
「病でない病ならば必ずしも当人が病に侵される必要はないのでは?仮病は病ではありませんが文字にすれば病と書きます」
シンが行動しても反論と侮蔑しか残らなかった事が、リリアナが言うと正解のように感じてしまう。
扱いの格差にシンは落ち込んでしまう。
「しかしリリアナ様、シンが奇行におよんでも何も起きません」
珍しくリリアナにエルリックが異を唱える。
それほどまでにシンのした行動は痛々しいのだ。
「忘れてはいけません、この試練はシン様だけが受けているのではないのですよ?」
リリアナの言葉に再度シンを除く人達が凍り付く。
言外に自分達もあれをやれと言われているのだ。
「ちっちょっとリリアナ、正気なの?」
リリアナにユナは言っているのだが、その言葉がシンの心に突き刺さる。
正気の人間のする事でないと包み隠さずに言われているのだ。
「ええ、シン様だけにあのようなはしたない行動をさせる訳にはいきません」
リリアナとしてはシンを擁護しているつもりだが、逆にシンをさらに傷付けていた。
「わっわかったわ、1回だけだからね」
ユナの言葉に続き一同は覚悟を決めた。
ここはシンが先導してやるべきだろう。
「がっがはぁ」
再度胸を押さえ悲鳴を上げ地面にシンは横たわる。
「ぐはぁ!」
続いてエルリックが頭を押さえうずくまる。
その行動はまるで自分のしている事に本当に頭が痛くなっていまっているかのようだ。
「うわー」
棒読みで倒れ込んだのはナナだ。
彼女はどこか楽しそうな雰囲気を醸し出している。
遊びのつもりなのだろう。
「きゃあぁ」
続いたのはリリアナだ。
地面への倒れ方に生まれの良さが現れている。
優雅に倒れ込む姿は演劇を見ているようだ。
「うっ」
冷静に膝を地面に付けるのはシーナだ。
クールな彼女らしく静かに苦しみを抑えているようだ。
「わっ妾は、妾は病になど負けんぞぉ」
恍惚を顔に浮かべるのはティナだ。
彼女にはこの行動が、何かその悪癖を刺激するものがあったのだろう。
これで残ったのはあと1人だ。
「ちっちょっと、みんなしてやらないといけないの?」
ユナはただ1人顔を赤くしながら戸惑っていた。
「なっ何してる、早くやれ」
苦しそうな演技をしながらシンは催促する。
他の面々からもユナは早くしろと目線で訴えられている。
「わかったわよ!」
意を決してユナは地面に倒れ込む。
彼女は演技が得意でないらしく、ぎこちない動きで地面に倒れ込んだ。
試練の間に沈黙が訪れる。
だがいつまで経っても試練の終わりを告げる声は聞こえてこない。
「もう無理!」
耐えきれなくなったユナが立ち上がる。
よほど嫌だったのだろう、その顔は真っ赤に染まり拳を握り込んでいる。
「これじゃダメみたいだな」
「あんたは黙ってて!」
失敗を言葉にしたシンにユナが話すなと怒鳴り込む。
こんな辱めの原因を作ったシンに責任があると言葉を出す事を禁止したのだ。
「やはり、ダメですか」
やはり、と言う事はリリアナも失敗を予測していたのだろう。
それでも試す他ないほどこの試練の答えが見つからないのだ。
「一度戻って資料を探したりしてみましょう」
攻略の糸口の見えない試練にシーナは撤退する事を提案する。
確かにここにいても解決策を思いつかないだろう。
「なら、この試練は獣王選定のあとだな。シーナが獣王になれば重要な文献とか見れるかもしれないしな」
この世界の王の獣王ならば何か答えになる物を見る事が出来るかもしれないとシンは獣王選定に集中する事を決めた。
「そうですね、わたくし達では答えが出せないかもしれませんし」
シン達は試練の間から外に出る。
答えの出ない試練よりシーナの獣王選定に目的を切り替えたのだ。
獣王選定の予選まで残りは1週間だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる