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森の世界
二次予選
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「二次予選は獣王候補者とその仲間を含んだ最大3名での戦闘に決まりました。私とあと2人での戦闘です、どうしましょうか?」
一次予選が終わり次の二次予選の進出者は再度7つのグループに振り分けられた。
1組に代表者は10名おり、本戦に勝ち残るのは全員参加の戦闘で上位2名に残った候補者と敗北した者の責任者が推薦した2名、計16名の候補者が本戦へと進出する。
シーナは責任者によく思われていない為、勝ち進むには上位2名に入るのは絶対条件だ。
「あいつらは同じ組に入ったのか?」
シンが警戒するのは一次予選で要注意と上げた3名とこの二次予選でぶつかる事だ。
早めに戦うのも良いかもしれないが、本戦前に消耗したくはない。
「いえ、別の組になりました。なので二次予選では出来るだけ力を温存して戦いたいのですが」
シーナもシンと同じ考えだ。
誰がシーナと共に戦うのかも今回は慎重に選ばなくてはならない。
「ナナは対多数においては欠かせない。けど本戦であの気味悪い奴と当たる事を考えると戦わせたくないな」
特徴がないが、不気味な男の事を考えるとその存在を認識出来るナナは本戦まで温存しておきたい。
そうなると残りはユナとエルリック、シンの中から選ぶしかない。
「私は出るわ」
ユナが自分から出ると立候補する。
あとはシンとエルリックだがこれもすぐに決まった。
「僕はリリアナ様の警護があるからな、ここはシンが出てくれ」
これでシーナと共に戦うのはユナとシンに決まった。
「シンは大鎌の能力は出来るだけ使わないようにね」
「ああ、ユナこそ”契”は危ないぞ?」
メンバーが決まり翌日の二次予選に向けシン達は連携の確認をする。
基本的にはシーナがユナとシンの2人をカバーしつつ、近接戦闘の2人が敵を崩していく。
大鎌という武器の特性上周りを巻き込みやすい為、シンに先陣を任せ敵を分断させる。
シンが分断させた敵をユナが素早い動きを活かして各個撃破をする。
シーナはシンのフォローと敵への牽制を担当する事になった。
「シーナが狙われた場合はどうする?」
「私がシーナの所に戻るわ」
「そうですね、私には氷の防御もありますしユナさんが来るまで耐える事は出来ますから。おにぃさんは気にせずに暴れて下さい」
シンには完全に自由に戦場を動き回ってもらう。
本来なら孤立して敵に狙われる事になるが、彼の戦闘力を考えれば下手に動きを縛るよりもかえって自由にやらせた方が良い。
**
「これより獣王選定二次予選を開始します!」
闘技場に候補者と仲間が集まり30名がステージの上で各々が開始位置についた。
全員が集まった事を確認し獣王選定責任者が二次予選の開始を合図した。
「狙われてるな」
開始と同時にシン達に向け4組ほどの候補者達が向かってくる。
混じり者であるシーナを初めに選定から脱落させる為に事前に手を組んでいたのだろう。
「シン、私に任せて他に行きなさい」
”契”の刀身を鞘から抜かずにユナは構える。
ユナの言葉を聞いたシンは向かってくる候補者を無視して他の所へと走り出す。
シンの居なくなった直後、闘技場に轟音が響き渡る。
ゴッ!という音を置き去りにしてシーナに向かってきた候補者の1人が吹き飛び闘技場の壁に叩き付けられる。
音源はユナの持つ”契”だ。
真紅の刀をそのまま使ってしまうとその鋭い斬れ味は人を容易く斬り裂いてしまう。
対策として鞘をしたまま使用している。
だがその真紅の刀をしまう鞘も硬度は他の物と比べ物にならないほど高い。
ユナの高速の一振りはそれだけでも凶器となり、並の鈍器よりも凶悪な威力を持つ武器になる。
「テメェ、よくも!」
仲間を吹き飛ばさせた男はユナに向かい攻撃を繰り出す。
だが男のスピードではユナの動きを捉える事は出来なかった。
消えるように動き攻撃してきた男の背後へと回り込んだユナは無防備な男の側頭部へと回し蹴りを叩き込む。
突然の衝撃に男は耐えきる事が出来ずに先ほどの候補者と同じように吹き飛ばさせる。
男の吹き飛ばさせた先には他の候補者がいるが、目で捉える事の出来ないほどのスピードで飛んできた男を回避する事が出来ずに巻き込まれて場外へと消えていく。
「めちゃくちゃじゃねえか」
轟音に振り返ったシンはユナの繰り出している攻撃に思わず声を出してしまう。
最初の鞘での攻撃が危険だと判断したのだろう。
武器を使わず、敵を打撃にて攻撃をしている。
シーナに向かって行った候補者と仲間は瞬く間にユナに殲滅られていた。
そのユナをめちゃくちゃと評したシンも人の事を言えなかった。
ユナに唖然としている他の候補者達を見逃さず急襲する。
大鎌の刃を向けず峰に当たる部分や柄で打撃を繰り出す。
ユナに気を取られていた者達は突然の襲撃に対応出来ず、ユナに倒された者達と同じような結末を迎える。
一撃で場外へと飛ばされ次々にシンに殲滅されてゆく。
「私、やる事なかったよ」
二次予選はシーナ達の圧勝で幕を閉じた。
シンの存在に気付いた他の候補者達も警戒をしたが、その程度でシンの進撃は止まらなかった。
敵の連携を破壊するかのように大鎌を振りかざし瞬く間に敵を倒していく。
そんなシンを恐れ候補者達は離れたが、シンばかりにやらせないとユナがその逃げ出した者達に向かって行ったのだ。
圧倒的な2人によりシーナ達の二次予選はすぐに終わりを告げた。
いつの間にやらシンとユナの2人は撃退数の勝負を始め、我先にと候補者達に襲いかかった。
当然黙ってやられる訳のない候補者達は抵抗をする。
混じりあっていた魔獣の能力を使い地面から土の棘を創り出したり、上空へ飛び遠距離攻撃を放ったりなど様々な攻撃がシンとユナに浴びせた。
だが土の攻撃は2人に拳や蹴りで破壊され、上空へはユナが跳躍からの踵落としで撃墜される。
中には自分の幻を何体も創り出しシン達を惑わせようとする者もいた。
それでも止まらなかった。
その幻に向けシン達は先ほど破壊した土の塊を蹴り、散弾のような攻撃を繰り出し幻の候補者全てに攻撃をした。
気付いた時にはシン達の他には1組しか残っておらず、責任者により二次予選は終了した。
運良く生き残った候補者は助かったという気持ちで膝からその場に崩れ落ちた。
圧倒的な戦いに観戦に来ていた観客達はシン達に歓声を上げた。
一次予選からこういう戦いになった事がなかったので退屈していた事もあったのだろう。
「まあ、これで本戦だ。ここからが本番だぞ」
歓声を受けながら闘技場のステージからシン達は退出する。
強敵がいるのはここからの戦いだ。
シン達にとってここまでの戦いは準備運動位の感覚だった。
「序列3位と序列4位、それに7位もいるんだね」
ステージから退出し、控室からも出て行こうとするシン達に声がかけられた。
声をかけて来たのはあの存在感の無い男だった。
いつの間にそこにいたのかシン達は気付けなかった。
目の前に来ているのに声をかけられるまでそこにいる事がわからなかったのだ。
「何か用か?」
シンはこの男に自分達の序列が知られている事に警戒をしていた。
腕の刻印は見えないようにしているし、何よりここに居ないナナの事までこの男は知っている。
「序列が上がったと言う事は前の4位は君達が倒したのか?」
男が聞いてくるのは前の序列4位”風帝”ニグル・ウィーゲの事だった。
「お前に教える必要はないな」
不気味な男に教えるつもりはシンにはない。
こうして話すと言う事はこの男は半ば確信している事なのだろうが、だからと言って素直には言えない。
「君達のおかげで面倒な事になったよ」
それだけ言って男はシン達の前から消える。
その後の足取りは全くわからない。
先ほどまで男がいる事がわかっていたのに忽然と姿を認識出来なくなったのだ。
「気味悪いわね」
闘技場を出てユナは男について正直な感想を言う。
存在感が無い事が得体の知れなさをシン達に感じさせていた。
**
「あっシーナちゃんのお仲間さん?」
闘技場の観客席にいたリリアナ達にシーナの知り合いである赤茶色の髪の女性、メリィが話しかけてきた。
彼女も観戦に来ていたようで片手には発泡酒が持たれている。
「ええ、あなたは敵情視察ですか?」
「まあ、そんなとこだね」
話をかけて来たメリィにリリアナは対応する。
メリィとは話をした事は無いがシーナの知り合いでもあり無下には出来ない。
「シーナちゃんのお仲間さんは相当強いね」
暴れまわるシンとユナを見てメリィは感想を言う。
圧勝としか言いようの無い状況にリリアナも上機嫌になっている。
「シーナちゃんの味方が頼もしいのは嬉しいけど、素直には喜べないね」
「あら?もう二次予選は突破したつもりでいらっしゃるので?」
まだメリィは二次予選を行っていない。
その状況でシーナの事を喜べないと言うのはもう本戦で戦うつもりという事だ。
「まあね、問題ないよ」
リリアナは素直にそう思えない。
メリィの組にはあの得体の知れない男がいる。
確かに極炎鳥は強力だが、あの得体の知れなさを侮れない。
「相当、自信がお有りなのですね」
リリアナとしてはあまり敵となる者と話をしたくない。
早くどっか行けと思いながら会話を終わらせようとする。
「シーナちゃんも良くなったみたいね」
「何故、それを知っているのです?」
シーナが一次予選で少年から疫病を移された事をリリアナ達は隠していた。
弱点と思われないようシーナに外出も控えさせていた。
「えっ?ああ、他の候補者も病気になったじゃない。だからシーナちゃんもかなぁって思ったの」
慌てたようにするメリィの返答を聞いてリリアナは自分の失敗を悟る。
だが表情には出さない、そしてそこまでの失敗でないと考え直す。
シーナの疫病は既に完治しており今知られても弱点にはならない。
「それにシーナちゃんだけ難しい課題出されてたからね~」
一次予選のユギリオスの事を言っているのだろう。
あの魔獣の討伐は難易度が高すぎた。
ティナが居なければ見つける事も困難だったとシンからリリアナは聞いている。
「あっそれとロイズには気を付けてね。シーナちゃんにも言ったけど」
それだけ言ってメリィは立ち去る。
シーナの二次予選が終わったので帰ったのだろう。
「リリアナ様、シーナさんの疫病の事を知っているのはやはりおかしいのではないですか?」
メリィがいなくなったのを確認しエルリックはリリアナに話をする。
リリアナにとってもメリィの答え方は不自然に感じていた。
「少しあの女性は警戒を強めた方が良いかもしれませんね」
リリアナとエルリックはメリィの事を怪しいと感じ始めた。
確かにシーナの他にも疫病にかかった候補者はいるが、敗退となった原因が疫病とは公表されていない。
「シン様達と合流しましょう」
二次予選も終了したのでリリアナ達も観客席から席を立つ。
シン達の下へ向かおうとするとリリアナ達に1人の男が近寄ってきた。
「あなた達はメリィと知り合いですか?」
近寄って来たのはロイズと呼ばれた黒髪の青年だ。
この男の事はシーナから警戒が必要と教えられている。
「いえ、わたくし達は知り合いではありません」
ロイズともリリアナは話す事はない。
すぐに立ち去ろうと話を切り上げようとするが許されなかった。
「さっき会話をしていませんでした?」
リリアナ達の進行方向に立ちロイズは立ち去ろうとするリリアナ達を止める。
周囲は他の観客達で溢れており避ける事は出来なかった。
「ええ、ですが親しくしている訳ではありません。あの方の方から一方的に話しかけてきていましたので」
「なら良かった。あまり彼女と仲良くするのは良い事とは言えないからね」
「何故です?」
男の話はメリィを疑っているリリアナ達には無視出来ない。
この男の事も信用は出来ないが、メリィについて何かの参考には出来る。
「特にこれと言った理由は無いんだけど、彼女は何かと僕を敵視してくるからね。この吸引闇虫の能力で僕は人に良い印象は持たれないんだけど、今回みたいに試合とか以外で人に能力を使った事はないんだ。恨まれるような事もしたつもりはないんだが、彼女が周りにいろんな事を吹き込んでるみたいでね」
ロイズの話している内容とこうして話をしている印象からリリアナは彼に悪い印象を持たない。
性格が最悪と聞いていたがそうとは思えなかった。
リリアナは王族として過ごしていた事から話し方や仕草で人の性格を見抜く特技を身に付けている。
仮に性格が悪いのが本当ならロイズは相当に演技力が高い。
「では、あのメリィと言う女性が何かを企ててると言いたいのですか?」
リリアナは包み隠さずに直接聞く事にした。
ロイズとの話にあまり時間をかけたくない事もある。
「いや、そこまでは思っていない。なんで僕の事を他に言いふらすのか知りたかっただけだよ」
ロイズの言っている事は本当だろう。
自分のありもしない事などの悪口を言われる理由が知りたいのは誰でもそうだろう。
「残念ですがわたくし達ではわかりません」
「そうですか、わざわざ足を止めさせてすみません。ありがとうございました」
ロイズはリリアナとの会話を終え立ち去った。
最後の言葉からもリリアナは彼が何か悪意のある人間には思えなかった。
「本戦で何が真実なのかわかるかもしれませんね」
ロイズとの会話を終えリリアナはシン達の下へと向かう。
本戦に向けメリィとロイズについてシン達ともう一度対策を考えなければならない。
一次予選が終わり次の二次予選の進出者は再度7つのグループに振り分けられた。
1組に代表者は10名おり、本戦に勝ち残るのは全員参加の戦闘で上位2名に残った候補者と敗北した者の責任者が推薦した2名、計16名の候補者が本戦へと進出する。
シーナは責任者によく思われていない為、勝ち進むには上位2名に入るのは絶対条件だ。
「あいつらは同じ組に入ったのか?」
シンが警戒するのは一次予選で要注意と上げた3名とこの二次予選でぶつかる事だ。
早めに戦うのも良いかもしれないが、本戦前に消耗したくはない。
「いえ、別の組になりました。なので二次予選では出来るだけ力を温存して戦いたいのですが」
シーナもシンと同じ考えだ。
誰がシーナと共に戦うのかも今回は慎重に選ばなくてはならない。
「ナナは対多数においては欠かせない。けど本戦であの気味悪い奴と当たる事を考えると戦わせたくないな」
特徴がないが、不気味な男の事を考えるとその存在を認識出来るナナは本戦まで温存しておきたい。
そうなると残りはユナとエルリック、シンの中から選ぶしかない。
「私は出るわ」
ユナが自分から出ると立候補する。
あとはシンとエルリックだがこれもすぐに決まった。
「僕はリリアナ様の警護があるからな、ここはシンが出てくれ」
これでシーナと共に戦うのはユナとシンに決まった。
「シンは大鎌の能力は出来るだけ使わないようにね」
「ああ、ユナこそ”契”は危ないぞ?」
メンバーが決まり翌日の二次予選に向けシン達は連携の確認をする。
基本的にはシーナがユナとシンの2人をカバーしつつ、近接戦闘の2人が敵を崩していく。
大鎌という武器の特性上周りを巻き込みやすい為、シンに先陣を任せ敵を分断させる。
シンが分断させた敵をユナが素早い動きを活かして各個撃破をする。
シーナはシンのフォローと敵への牽制を担当する事になった。
「シーナが狙われた場合はどうする?」
「私がシーナの所に戻るわ」
「そうですね、私には氷の防御もありますしユナさんが来るまで耐える事は出来ますから。おにぃさんは気にせずに暴れて下さい」
シンには完全に自由に戦場を動き回ってもらう。
本来なら孤立して敵に狙われる事になるが、彼の戦闘力を考えれば下手に動きを縛るよりもかえって自由にやらせた方が良い。
**
「これより獣王選定二次予選を開始します!」
闘技場に候補者と仲間が集まり30名がステージの上で各々が開始位置についた。
全員が集まった事を確認し獣王選定責任者が二次予選の開始を合図した。
「狙われてるな」
開始と同時にシン達に向け4組ほどの候補者達が向かってくる。
混じり者であるシーナを初めに選定から脱落させる為に事前に手を組んでいたのだろう。
「シン、私に任せて他に行きなさい」
”契”の刀身を鞘から抜かずにユナは構える。
ユナの言葉を聞いたシンは向かってくる候補者を無視して他の所へと走り出す。
シンの居なくなった直後、闘技場に轟音が響き渡る。
ゴッ!という音を置き去りにしてシーナに向かってきた候補者の1人が吹き飛び闘技場の壁に叩き付けられる。
音源はユナの持つ”契”だ。
真紅の刀をそのまま使ってしまうとその鋭い斬れ味は人を容易く斬り裂いてしまう。
対策として鞘をしたまま使用している。
だがその真紅の刀をしまう鞘も硬度は他の物と比べ物にならないほど高い。
ユナの高速の一振りはそれだけでも凶器となり、並の鈍器よりも凶悪な威力を持つ武器になる。
「テメェ、よくも!」
仲間を吹き飛ばさせた男はユナに向かい攻撃を繰り出す。
だが男のスピードではユナの動きを捉える事は出来なかった。
消えるように動き攻撃してきた男の背後へと回り込んだユナは無防備な男の側頭部へと回し蹴りを叩き込む。
突然の衝撃に男は耐えきる事が出来ずに先ほどの候補者と同じように吹き飛ばさせる。
男の吹き飛ばさせた先には他の候補者がいるが、目で捉える事の出来ないほどのスピードで飛んできた男を回避する事が出来ずに巻き込まれて場外へと消えていく。
「めちゃくちゃじゃねえか」
轟音に振り返ったシンはユナの繰り出している攻撃に思わず声を出してしまう。
最初の鞘での攻撃が危険だと判断したのだろう。
武器を使わず、敵を打撃にて攻撃をしている。
シーナに向かって行った候補者と仲間は瞬く間にユナに殲滅られていた。
そのユナをめちゃくちゃと評したシンも人の事を言えなかった。
ユナに唖然としている他の候補者達を見逃さず急襲する。
大鎌の刃を向けず峰に当たる部分や柄で打撃を繰り出す。
ユナに気を取られていた者達は突然の襲撃に対応出来ず、ユナに倒された者達と同じような結末を迎える。
一撃で場外へと飛ばされ次々にシンに殲滅されてゆく。
「私、やる事なかったよ」
二次予選はシーナ達の圧勝で幕を閉じた。
シンの存在に気付いた他の候補者達も警戒をしたが、その程度でシンの進撃は止まらなかった。
敵の連携を破壊するかのように大鎌を振りかざし瞬く間に敵を倒していく。
そんなシンを恐れ候補者達は離れたが、シンばかりにやらせないとユナがその逃げ出した者達に向かって行ったのだ。
圧倒的な2人によりシーナ達の二次予選はすぐに終わりを告げた。
いつの間にやらシンとユナの2人は撃退数の勝負を始め、我先にと候補者達に襲いかかった。
当然黙ってやられる訳のない候補者達は抵抗をする。
混じりあっていた魔獣の能力を使い地面から土の棘を創り出したり、上空へ飛び遠距離攻撃を放ったりなど様々な攻撃がシンとユナに浴びせた。
だが土の攻撃は2人に拳や蹴りで破壊され、上空へはユナが跳躍からの踵落としで撃墜される。
中には自分の幻を何体も創り出しシン達を惑わせようとする者もいた。
それでも止まらなかった。
その幻に向けシン達は先ほど破壊した土の塊を蹴り、散弾のような攻撃を繰り出し幻の候補者全てに攻撃をした。
気付いた時にはシン達の他には1組しか残っておらず、責任者により二次予選は終了した。
運良く生き残った候補者は助かったという気持ちで膝からその場に崩れ落ちた。
圧倒的な戦いに観戦に来ていた観客達はシン達に歓声を上げた。
一次予選からこういう戦いになった事がなかったので退屈していた事もあったのだろう。
「まあ、これで本戦だ。ここからが本番だぞ」
歓声を受けながら闘技場のステージからシン達は退出する。
強敵がいるのはここからの戦いだ。
シン達にとってここまでの戦いは準備運動位の感覚だった。
「序列3位と序列4位、それに7位もいるんだね」
ステージから退出し、控室からも出て行こうとするシン達に声がかけられた。
声をかけて来たのはあの存在感の無い男だった。
いつの間にそこにいたのかシン達は気付けなかった。
目の前に来ているのに声をかけられるまでそこにいる事がわからなかったのだ。
「何か用か?」
シンはこの男に自分達の序列が知られている事に警戒をしていた。
腕の刻印は見えないようにしているし、何よりここに居ないナナの事までこの男は知っている。
「序列が上がったと言う事は前の4位は君達が倒したのか?」
男が聞いてくるのは前の序列4位”風帝”ニグル・ウィーゲの事だった。
「お前に教える必要はないな」
不気味な男に教えるつもりはシンにはない。
こうして話すと言う事はこの男は半ば確信している事なのだろうが、だからと言って素直には言えない。
「君達のおかげで面倒な事になったよ」
それだけ言って男はシン達の前から消える。
その後の足取りは全くわからない。
先ほどまで男がいる事がわかっていたのに忽然と姿を認識出来なくなったのだ。
「気味悪いわね」
闘技場を出てユナは男について正直な感想を言う。
存在感が無い事が得体の知れなさをシン達に感じさせていた。
**
「あっシーナちゃんのお仲間さん?」
闘技場の観客席にいたリリアナ達にシーナの知り合いである赤茶色の髪の女性、メリィが話しかけてきた。
彼女も観戦に来ていたようで片手には発泡酒が持たれている。
「ええ、あなたは敵情視察ですか?」
「まあ、そんなとこだね」
話をかけて来たメリィにリリアナは対応する。
メリィとは話をした事は無いがシーナの知り合いでもあり無下には出来ない。
「シーナちゃんのお仲間さんは相当強いね」
暴れまわるシンとユナを見てメリィは感想を言う。
圧勝としか言いようの無い状況にリリアナも上機嫌になっている。
「シーナちゃんの味方が頼もしいのは嬉しいけど、素直には喜べないね」
「あら?もう二次予選は突破したつもりでいらっしゃるので?」
まだメリィは二次予選を行っていない。
その状況でシーナの事を喜べないと言うのはもう本戦で戦うつもりという事だ。
「まあね、問題ないよ」
リリアナは素直にそう思えない。
メリィの組にはあの得体の知れない男がいる。
確かに極炎鳥は強力だが、あの得体の知れなさを侮れない。
「相当、自信がお有りなのですね」
リリアナとしてはあまり敵となる者と話をしたくない。
早くどっか行けと思いながら会話を終わらせようとする。
「シーナちゃんも良くなったみたいね」
「何故、それを知っているのです?」
シーナが一次予選で少年から疫病を移された事をリリアナ達は隠していた。
弱点と思われないようシーナに外出も控えさせていた。
「えっ?ああ、他の候補者も病気になったじゃない。だからシーナちゃんもかなぁって思ったの」
慌てたようにするメリィの返答を聞いてリリアナは自分の失敗を悟る。
だが表情には出さない、そしてそこまでの失敗でないと考え直す。
シーナの疫病は既に完治しており今知られても弱点にはならない。
「それにシーナちゃんだけ難しい課題出されてたからね~」
一次予選のユギリオスの事を言っているのだろう。
あの魔獣の討伐は難易度が高すぎた。
ティナが居なければ見つける事も困難だったとシンからリリアナは聞いている。
「あっそれとロイズには気を付けてね。シーナちゃんにも言ったけど」
それだけ言ってメリィは立ち去る。
シーナの二次予選が終わったので帰ったのだろう。
「リリアナ様、シーナさんの疫病の事を知っているのはやはりおかしいのではないですか?」
メリィがいなくなったのを確認しエルリックはリリアナに話をする。
リリアナにとってもメリィの答え方は不自然に感じていた。
「少しあの女性は警戒を強めた方が良いかもしれませんね」
リリアナとエルリックはメリィの事を怪しいと感じ始めた。
確かにシーナの他にも疫病にかかった候補者はいるが、敗退となった原因が疫病とは公表されていない。
「シン様達と合流しましょう」
二次予選も終了したのでリリアナ達も観客席から席を立つ。
シン達の下へ向かおうとするとリリアナ達に1人の男が近寄ってきた。
「あなた達はメリィと知り合いですか?」
近寄って来たのはロイズと呼ばれた黒髪の青年だ。
この男の事はシーナから警戒が必要と教えられている。
「いえ、わたくし達は知り合いではありません」
ロイズともリリアナは話す事はない。
すぐに立ち去ろうと話を切り上げようとするが許されなかった。
「さっき会話をしていませんでした?」
リリアナ達の進行方向に立ちロイズは立ち去ろうとするリリアナ達を止める。
周囲は他の観客達で溢れており避ける事は出来なかった。
「ええ、ですが親しくしている訳ではありません。あの方の方から一方的に話しかけてきていましたので」
「なら良かった。あまり彼女と仲良くするのは良い事とは言えないからね」
「何故です?」
男の話はメリィを疑っているリリアナ達には無視出来ない。
この男の事も信用は出来ないが、メリィについて何かの参考には出来る。
「特にこれと言った理由は無いんだけど、彼女は何かと僕を敵視してくるからね。この吸引闇虫の能力で僕は人に良い印象は持たれないんだけど、今回みたいに試合とか以外で人に能力を使った事はないんだ。恨まれるような事もしたつもりはないんだが、彼女が周りにいろんな事を吹き込んでるみたいでね」
ロイズの話している内容とこうして話をしている印象からリリアナは彼に悪い印象を持たない。
性格が最悪と聞いていたがそうとは思えなかった。
リリアナは王族として過ごしていた事から話し方や仕草で人の性格を見抜く特技を身に付けている。
仮に性格が悪いのが本当ならロイズは相当に演技力が高い。
「では、あのメリィと言う女性が何かを企ててると言いたいのですか?」
リリアナは包み隠さずに直接聞く事にした。
ロイズとの話にあまり時間をかけたくない事もある。
「いや、そこまでは思っていない。なんで僕の事を他に言いふらすのか知りたかっただけだよ」
ロイズの言っている事は本当だろう。
自分のありもしない事などの悪口を言われる理由が知りたいのは誰でもそうだろう。
「残念ですがわたくし達ではわかりません」
「そうですか、わざわざ足を止めさせてすみません。ありがとうございました」
ロイズはリリアナとの会話を終え立ち去った。
最後の言葉からもリリアナは彼が何か悪意のある人間には思えなかった。
「本戦で何が真実なのかわかるかもしれませんね」
ロイズとの会話を終えリリアナはシン達の下へと向かう。
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