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氷の世界
氷狼
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「そうか、獣王に動きはないか」
氷の世界アイシアに赴き最大の都市であるスーリアを目指していたシンは途中経過を伝えるべく、リリアナとの通信を行っていた。
森の世界に残っていたリリアナはアルファスの偵察により獣王の動きを監視しているが、獣王に不審な動きはなく、先代の時と変わらずユーギリア城から外出もしていないようだった。
シン達の方はと言うと、砂の世界で生きて来たユナと森の世界で生きて来たロイズの2人が氷の世界への順応に苦戦していた。
メリィの力で緩和されているとはいえ、気温は想像以上に低く、降り積もった雪の大地はシン達の体力をじわじわと奪っていた。
スーリアに到着するであろう予定日は修正をされ、10日ほどだった予定は倍の20日ほどになるだろうと予想していた。
現状、森の世界で動きはないが出来る事なら早めにSランク冒険者を見つけ出したい。
アイシアから森の世界に戻る期間も考えると、どんなに早くても森の世界に戻るには1ヶ月以上はかかるだろう。
あの桃色の髪の女性は悪い人物ではなさそうだったが、素直に獣王について教えて貰えるかも不明であるし、友好的であるとも限らない。
不確定要素が強いが彼女達以外に獣王について詳しいであると思われる人物に心当たりはない。
魔王であるティナは知っているはずだが、神の関わる事には協力はして貰えない。
「俺達はスーリアに着くまでしばらくは動きはないだろう。定時連絡はするが、これからはリリアナ達の方が主な内容になる」
未だ目的の人物の居場所がわからないシン達より獣王の監視をしているリリアナ達の方が状況が動く可能性が高い。
獣王に対峙するのは1年後の予定だが、シン達の動きを察知した獣王が何か行動を起こすかもしれないからだ。
リリアナとの通信を終え、シンはユナ達の下へと戻る。
宿泊用の魔導具を展開し、既にユナが夕食の支度を終えていた。
エルリックのいない今、シン達の中で調理が出来るのは彼女だけだ。
野菜などの植物についてはティナが知識をユナに教え、食用出来る物をロイズが吸引闇虫で回収し、保存食と共に食卓へと並べられている。
エルリックの作る料理ほど豪勢ではないが、シン1人では保存食だけのパサパサした食事だけになるだけなので贅沢は言えないだろう。
「思ったよりも疲れたわね」
「ああ、歩き辛いし服が水を吸って重くなったしな」
メリィが雪を溶かした為、多少は歩き易くなったのだがその溶けた雪をシン達の衣服が吸収し、重りを付けたように体が動き辛くなった。
シン達を襲撃する魔獣達への対応も疲労感を覚えさせる原因でもあった。
連携したように襲いかかる魔獣達は次々と現れていた。
氷の世界の魔獣はその厳しい環境ゆえ、単体で行動する魔獣は氷狼やタイランなどの大陸の覇者と呼ばれる存在しかいない。
群れをなす魔獣達は飢えた者から獲物となる者に襲いかかり、襲撃された者が魔獣を撃退すると疲労した所をさらなる強者の魔獣達が襲いかかる。
休む間も無く続く襲撃にシン達は対応しなくてはならず、ロイズの吸引闇虫がなければ今も襲撃されていた所だろう。
シン達の殺した魔獣達の血の臭いを他の魔獣達が嗅ぎつける事に気付いたロイズは、魔獣達の血をすぐさま吸引闇虫で回収し、魔獣の死体をシンの大鎌と共に完全に消し去った所でやっと魔獣の襲撃が終わった。
動きの制限される足場と水の重りはシン達の体力を想像以上に消耗させていた。
ティナの生命探知の魔術で魔獣の位置はわかっていた為、奇襲をされる事はなかったが、その数の多さに精神的にも負担がかかっていた。
食事を終えたシン達はあまりの疲労にすぐに眠りについてしまう。
翌日シンが目を覚ますと、太陽は既にシン達の頂上まで登っていた。
「気を付けろ、氷狼だ」
スーリアに向かいしばらく歩いた所でティナから言葉をかけられた。
前日にあれほど襲いかかってきた魔獣達がここまで一切姿を現さなかった。
不思議に思っていたシンだったが、ティナの生命探知がその原因を突き止めた。
ティナの指示によりシン達はロイズの吸引闇虫の中に隠れる事になった。
吸引闇虫は無臭であり、その中にいれば氷狼に見つかる事はない。
シーナを知っているシン達は氷狼の強さを知っている。
だがその強さは森の世界での強さだ。
氷の世界はまさに氷狼にとって最適の場所であり、氷を自在に操る氷狼にとって世界の全てが武器になる。
まともに相対すればただでは済まない。
大陸の覇者である魔獣に確実に勝てる者など、魔王であるティナやかつて相対した”天帝”ラドラス・エルドラスなどの頂点に立つ者のみだ。
その魔王であるティナは未だ万全とまで回復しておらず、シンやユナであっても確実に勝てるとは言い切れない。
シン達を吸収した吸引闇虫は物陰に隠れながら氷狼が遠ざかるのを待つ。
薄暗くなった視界の中、シンは遠くの氷山の頂点に佇む水色の巨大な狼がその姿を現したのを確認した。
水色の体毛は薄く鋭い氷に覆われており、太陽の光に反射しその姿が動くたびに煌めきを放つ。
一点を凝視する瞳は動く事なく何かを見つめている。
その先にシンは目を向けると氷狼の視線の先にはティナから説明されたタイランと思われる山のように大きな魔獣がゆっくりと歩んでいた。
シンがタイランの姿を確認した瞬間、氷狼が行動を開始した。
消えた、そう思えるほど高速に移動した氷狼は空に氷の橋を創造し、タイランに向け一直線に駆け出していた。
タイランの真上へと辿り着いた氷狼は鈍重なタイランの背を噛みちぎる。
タイランの分厚い肉は氷狼の牙に易々と噛み切られ、痛みを覚えたタイランが巨体を揺らしのたうち回る。
あまりの重量ゆえ氷の大地に地響きが起こり、様々な場所で雪崩を起こす。
吸引闇虫の中にいる為、シン達の被害はないが辺り一面が轟音を立て崩れ去る。
そんな状況の中、氷狼は平然と空中に氷の橋をいくつも創り出し、暴れまわるタイランを噛み続ける。
氷狼に噛みちぎられた場所は、さらに氷の弾丸に、タイランに抵抗を許さない。
水色の体を鮮血に染めながら、氷狼はその攻撃を休める事をしない。
圧倒的な体力を持ち巨体で暴れるタイランは息を吐く暇もない攻撃で素早く仕留めるのが理想だ。
その事を理解している氷狼はタイランの攻撃を易々と躱し続け、一撃も受ける事なくタイランはその巨体を崩れ落とした。
今まで1番の轟音を響かせタイランは息を引き取る。
倒れ込んだタイランは腹部を氷狼に食され、腹を膨らませた氷狼がタイランを置き去りにまたも大空に氷の橋を創り出し移動をした。
「もう良いぞ」
ティナの言葉でシン達は吸引闇虫から外に出る。
大陸の覇者の争いは一面に広がっていた景色を一変させ、氷の大地は荒れ果てていた。
「あれが、シーナの魔獣か」
水色の髪の少女の相棒となる魔獣は大陸の覇者に相応しく、タイランを一方的に抹殺した。
暴れまわったタイランの被害は吸引闇虫の中でなければ立つ事もままならず、雪崩に巻き込まれてしまっていた事だろう。
その中で無傷で勝利した氷狼の力にシン達は脱帽していた。
獣王に対峙するとなればあの力がシン達に向けられるのだ。
氷狼はまだ本気で戦っているように見えなかった。
森の世界ではその力が完全に使用出来ないかもしれないが、シーナから氷狼は一定の空間を氷結させると聞いている。
その力にシン達は勝利する構図を描く事が出来ない。
大陸の覇者と対峙するにはまだまだ力不足なのだ。
「先を進もう、こうしていても仕方ない」
氷狼の姿が頭から離れないシン達だが、いつまでも惚けている訳にはいかない。
変わってしまった地形に苦戦しながらもシン達は先へ進む。
幸か不幸か、氷狼の出現したシン達のいる大地に他の魔獣が現れる事はなかった。
氷の世界アイシアに赴き最大の都市であるスーリアを目指していたシンは途中経過を伝えるべく、リリアナとの通信を行っていた。
森の世界に残っていたリリアナはアルファスの偵察により獣王の動きを監視しているが、獣王に不審な動きはなく、先代の時と変わらずユーギリア城から外出もしていないようだった。
シン達の方はと言うと、砂の世界で生きて来たユナと森の世界で生きて来たロイズの2人が氷の世界への順応に苦戦していた。
メリィの力で緩和されているとはいえ、気温は想像以上に低く、降り積もった雪の大地はシン達の体力をじわじわと奪っていた。
スーリアに到着するであろう予定日は修正をされ、10日ほどだった予定は倍の20日ほどになるだろうと予想していた。
現状、森の世界で動きはないが出来る事なら早めにSランク冒険者を見つけ出したい。
アイシアから森の世界に戻る期間も考えると、どんなに早くても森の世界に戻るには1ヶ月以上はかかるだろう。
あの桃色の髪の女性は悪い人物ではなさそうだったが、素直に獣王について教えて貰えるかも不明であるし、友好的であるとも限らない。
不確定要素が強いが彼女達以外に獣王について詳しいであると思われる人物に心当たりはない。
魔王であるティナは知っているはずだが、神の関わる事には協力はして貰えない。
「俺達はスーリアに着くまでしばらくは動きはないだろう。定時連絡はするが、これからはリリアナ達の方が主な内容になる」
未だ目的の人物の居場所がわからないシン達より獣王の監視をしているリリアナ達の方が状況が動く可能性が高い。
獣王に対峙するのは1年後の予定だが、シン達の動きを察知した獣王が何か行動を起こすかもしれないからだ。
リリアナとの通信を終え、シンはユナ達の下へと戻る。
宿泊用の魔導具を展開し、既にユナが夕食の支度を終えていた。
エルリックのいない今、シン達の中で調理が出来るのは彼女だけだ。
野菜などの植物についてはティナが知識をユナに教え、食用出来る物をロイズが吸引闇虫で回収し、保存食と共に食卓へと並べられている。
エルリックの作る料理ほど豪勢ではないが、シン1人では保存食だけのパサパサした食事だけになるだけなので贅沢は言えないだろう。
「思ったよりも疲れたわね」
「ああ、歩き辛いし服が水を吸って重くなったしな」
メリィが雪を溶かした為、多少は歩き易くなったのだがその溶けた雪をシン達の衣服が吸収し、重りを付けたように体が動き辛くなった。
シン達を襲撃する魔獣達への対応も疲労感を覚えさせる原因でもあった。
連携したように襲いかかる魔獣達は次々と現れていた。
氷の世界の魔獣はその厳しい環境ゆえ、単体で行動する魔獣は氷狼やタイランなどの大陸の覇者と呼ばれる存在しかいない。
群れをなす魔獣達は飢えた者から獲物となる者に襲いかかり、襲撃された者が魔獣を撃退すると疲労した所をさらなる強者の魔獣達が襲いかかる。
休む間も無く続く襲撃にシン達は対応しなくてはならず、ロイズの吸引闇虫がなければ今も襲撃されていた所だろう。
シン達の殺した魔獣達の血の臭いを他の魔獣達が嗅ぎつける事に気付いたロイズは、魔獣達の血をすぐさま吸引闇虫で回収し、魔獣の死体をシンの大鎌と共に完全に消し去った所でやっと魔獣の襲撃が終わった。
動きの制限される足場と水の重りはシン達の体力を想像以上に消耗させていた。
ティナの生命探知の魔術で魔獣の位置はわかっていた為、奇襲をされる事はなかったが、その数の多さに精神的にも負担がかかっていた。
食事を終えたシン達はあまりの疲労にすぐに眠りについてしまう。
翌日シンが目を覚ますと、太陽は既にシン達の頂上まで登っていた。
「気を付けろ、氷狼だ」
スーリアに向かいしばらく歩いた所でティナから言葉をかけられた。
前日にあれほど襲いかかってきた魔獣達がここまで一切姿を現さなかった。
不思議に思っていたシンだったが、ティナの生命探知がその原因を突き止めた。
ティナの指示によりシン達はロイズの吸引闇虫の中に隠れる事になった。
吸引闇虫は無臭であり、その中にいれば氷狼に見つかる事はない。
シーナを知っているシン達は氷狼の強さを知っている。
だがその強さは森の世界での強さだ。
氷の世界はまさに氷狼にとって最適の場所であり、氷を自在に操る氷狼にとって世界の全てが武器になる。
まともに相対すればただでは済まない。
大陸の覇者である魔獣に確実に勝てる者など、魔王であるティナやかつて相対した”天帝”ラドラス・エルドラスなどの頂点に立つ者のみだ。
その魔王であるティナは未だ万全とまで回復しておらず、シンやユナであっても確実に勝てるとは言い切れない。
シン達を吸収した吸引闇虫は物陰に隠れながら氷狼が遠ざかるのを待つ。
薄暗くなった視界の中、シンは遠くの氷山の頂点に佇む水色の巨大な狼がその姿を現したのを確認した。
水色の体毛は薄く鋭い氷に覆われており、太陽の光に反射しその姿が動くたびに煌めきを放つ。
一点を凝視する瞳は動く事なく何かを見つめている。
その先にシンは目を向けると氷狼の視線の先にはティナから説明されたタイランと思われる山のように大きな魔獣がゆっくりと歩んでいた。
シンがタイランの姿を確認した瞬間、氷狼が行動を開始した。
消えた、そう思えるほど高速に移動した氷狼は空に氷の橋を創造し、タイランに向け一直線に駆け出していた。
タイランの真上へと辿り着いた氷狼は鈍重なタイランの背を噛みちぎる。
タイランの分厚い肉は氷狼の牙に易々と噛み切られ、痛みを覚えたタイランが巨体を揺らしのたうち回る。
あまりの重量ゆえ氷の大地に地響きが起こり、様々な場所で雪崩を起こす。
吸引闇虫の中にいる為、シン達の被害はないが辺り一面が轟音を立て崩れ去る。
そんな状況の中、氷狼は平然と空中に氷の橋をいくつも創り出し、暴れまわるタイランを噛み続ける。
氷狼に噛みちぎられた場所は、さらに氷の弾丸に、タイランに抵抗を許さない。
水色の体を鮮血に染めながら、氷狼はその攻撃を休める事をしない。
圧倒的な体力を持ち巨体で暴れるタイランは息を吐く暇もない攻撃で素早く仕留めるのが理想だ。
その事を理解している氷狼はタイランの攻撃を易々と躱し続け、一撃も受ける事なくタイランはその巨体を崩れ落とした。
今まで1番の轟音を響かせタイランは息を引き取る。
倒れ込んだタイランは腹部を氷狼に食され、腹を膨らませた氷狼がタイランを置き去りにまたも大空に氷の橋を創り出し移動をした。
「もう良いぞ」
ティナの言葉でシン達は吸引闇虫から外に出る。
大陸の覇者の争いは一面に広がっていた景色を一変させ、氷の大地は荒れ果てていた。
「あれが、シーナの魔獣か」
水色の髪の少女の相棒となる魔獣は大陸の覇者に相応しく、タイランを一方的に抹殺した。
暴れまわったタイランの被害は吸引闇虫の中でなければ立つ事もままならず、雪崩に巻き込まれてしまっていた事だろう。
その中で無傷で勝利した氷狼の力にシン達は脱帽していた。
獣王に対峙するとなればあの力がシン達に向けられるのだ。
氷狼はまだ本気で戦っているように見えなかった。
森の世界ではその力が完全に使用出来ないかもしれないが、シーナから氷狼は一定の空間を氷結させると聞いている。
その力にシン達は勝利する構図を描く事が出来ない。
大陸の覇者と対峙するにはまだまだ力不足なのだ。
「先を進もう、こうしていても仕方ない」
氷狼の姿が頭から離れないシン達だが、いつまでも惚けている訳にはいかない。
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