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氷の世界
別れ
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「双蒼の烈刃か? 何でお前達がここにいる、休暇期間じゃなかったのか?」
ガレイの意識が戻り、少しの休息の後セレス達はスーリアへと帰還した。
すると帰還したスーリアはなぜか魔獣の襲撃に備えた警戒体制を整えており、セレス達の姿を見つけた冒険者の1人が話しかけてくる。
「いえ、少し用事がありましたので。それよりこの状況はどういう事です? Sランクのあなた達もこの場にいるのは?」
セレス達に話しかけて来たのは同じくSランク冒険者パーティー”剛壁”のリーダー、ゼンブル・デローだ。
”剛壁”の異名を持つ彼らはセレス達”双蒼の烈刃”と並び称されるSランク冒険者パーティーだ。
【空の世界】出身の彼らは防衛に関して右に出る者はいないと言われており、たった6人で幾百の飛竜の群れから1つの空中都市を守り抜いたのは詩人達に唄われるほど有名な話だ。
セレスが周りを見渡すと他にもSランク冒険者パーティーが集まっている事がわかる。
”羅刹”、”宵の明星”、他にもAランク冒険者なども多数集結している。
ここまで高ランクの冒険者達が集まる事など今まで数えるほどしかない。
それもSランクが3パーティーも召集される事態はセレスにも経験がない。
「俺達はスーリアの防衛だ。どうやらルノー雪原に何かが暴れてるらしいな」
「えっ?」
先ほどまでルノー雪原にいたセレス達はそのような存在を知らない。
暴れている何かが自分達の事であるなど考えてもいなかった。
「今はAランクが2パーティー偵察に向かってる。
何かあればすぐに宵の明星が向かう予定だ。恐らくタイランクラスの魔獣がいると考えられる」
セレス達のいたルノー雪原に今は何もいない。
決闘を始める前、辺りの魔獣を追い払う為に、高価な魔除け薬を撒いている。
タイランなどの覇者と呼ばれるクラスの魔獣には効果がないが、そのような存在は確認していない。
「セレス、早く行こう」
考え込むセレスにララが先を進むよう促した。
意外な事に少し天然気味なセレスは気付いていないが、他の面々はこの騒動の原因が自分達である事を察していた。
「私達も参加しなくていいのですか?」
スーリアに危機が迫っていると本気で信じているセレスは自分達も参加するべきと考えていたが、ララ達に説得され屋敷へと戻る事になる。
どのみちシンとの決闘で消耗した彼女達では戦力にならないだろう。
「腕は戻らないか?」
屋敷に戻ったルルは、自室からあらゆる医療文献を漁り、治癒魔術を施すがガレイの左腕は戻らない。
片腕のない生活にガレイはこれまでの時間でもかなりの支障が出ている。
しばらく戦闘に関してもあてにできないだろう。
「戻ったか、我は2日後に出て行くからな」
屋敷の1階で集まっていたセレス達のもとにアイナが顔を出す。
清々しい表情をしているアイナは新しい旅立ちに心躍らせているように見える。
久しく見ていないアイナの表情にセレスは何故か懐かしさを感じていた。
出会った時のアイナはいつもあのような表情を見せていた。
「どうだ?久し振りにみんなで酒でも飲まないか?」
セレス達の顔を見渡しながらアイナは言う。
彼女もこれまで過ごした仲間達との別れが決闘の諍いの残ったままでは別れづらいのだ。
「良いんじゃない?ならあそこに行こうよ!」
「そうだな、しばらく行ってないしな」
アイナの誘いにララと意外にもガレイが賛成した。
あそこと呼ばれるのは”双蒼の烈刃”結成を祝い宴会を開いた酒場である。
結成時にはまだBランク冒険者だった彼女達だが、数々の試練を乗り越え、人類最高峰のSランクまで上り詰めた。
「そうと決まれば早く行かないといけませんね」
アイナ達がその酒場で結成された事はスーリアで有名な話になり、最初は小さな酒場だった店は、Sランクを目指す冒険者達が”双蒼の烈刃”に習い、訪れ続けられ今ではスーリア有数の名店となり、高みを目指す者達で満席となっている。
アイナ達は屋敷を離れ、スーリアの中心に向かう。
警戒体制を敷いている為なのか、いつもは冒険者達で溢れる中心街は人が少なく、懸念していた酒場もまだ満席でなく、簡単に席を取る事が出来た。
仮に満席であってもアイナ達であれば店に入る事は容易なのだが、その際は他の客を追い出すような形になるのでセレスなどは好まない。
「これが私達の最後の時間になるかもしれませんね」
セレスは明るくアイナを送り出そうとしていたが、やはりしんみりとしてしまう。
セレスの頭にはアイナとの出会いからこれまでの経験が思い出となり蘇っている。
「結局、アイナには勝てなかったね」
ララとルル、2人は氷の世界に生まれ幼い時から一緒に過ごしていた。
魔術師としての才能が開花した2人はその才能におごり、難易度の高い依頼を受け創世期の人工生物に殺されかけた所をアイナに救われた。
自分達の敵わなかった敵を容易く屠ったアイナは年下であったが、アイナに勝つ事が彼女達の目標となった。
魔術では負けない、その想いを胸にここまでのし上がったが、アイナには最後まで勝つ事が出来なかった。
「私は、アイナちゃんにはもうちょっと女らしくして欲しいかなぁ」
ミアのアイナとはスーリアにある路地裏で出会った。
男を騙し、手玉に取り続けていたミアはある日冒険者の財布を盗む事に失敗をし、追い詰められていた。
そこに現れたのがアイナであった。
まだ幼さの残していたアイナは屈強な冒険者達を倒し、ミアを仲間として勧誘した。
戦闘力のないミアにとってアイナに紹介された者達ははるか高みにいる存在に見えていたが、その中でもミアの役割があると教えてくれたのもアイナだった。
せめてものお返しとして、女性としてのアイナを育て上げる事をミアは勝手に決めていたが、結局女の幸せを教える事が出来ずに別れる事になった。
「アイナ、腕相撲だ」
勝負を挑んだガレイだが、見た目で想像出来る結果と違い、アイナの圧勝で終わる。
ララとルルと同じくアイナに勝つ事を目標としていたガレイは華奢に見えるアイナには出来ないパーティーの盾となるべく鍛え続けていた。
だがどれだけ鍛えても結局アイナには敵わなかった。
「私からはこれをプレゼントします」
セレスがアイナに渡した物はシンとの決闘でセレスが使用していた純白のブーツだ。
前日にシンとユナが見つけた天馬の羽、そのオリジナルをアイナに手渡した。
シンとの決闘で上空から攻撃をしたセレスは天馬の羽の効果で空を駆ける事が出来たのだ。
「うむ、これは我も欲しかった物だ」
かつて訪れた創世期の遺跡で見つけた天馬の羽はセレスが使用する事になっていた。
見つけた者に所有権があるのはこのパーティーの決め事の1つだった。
セレスの見つけた魔導具の1つをアイナに餞別として渡す事にしたのだ。
「我からお前達に渡す物はないが、またいずれこの世界に戻って来る。その時まで死ぬな」
育て上げた面々の顔を見渡しながらアイナは言う。
自分の事を慕い、集まった面々は出会った当初と違い、アイナには頼もしく感じた。
”双蒼の烈刃”最後の宴は日付が変わっても終わらず、屋敷に戻ったのはもう完全に明るくなってからだった。
これまでの冒険の苦労話やお互いの事についてなど、話題は尽きる事がなかった。
新たな旅立ちに向かうアイナを”双蒼の烈刃”はあと腐れのないよう送り出す。
アイナ脱退に不満を持っていたガレイとルルも最後には笑ってアイナと話をしていた。
「あれだけ強い奴なら私達といるよりもアイナにとっては良い事だね」
「そうね、でも私達も負けていられないわ」
「ああ、早速義手でも作って貰おうかな」
「そうよ、あんたがいなきゃ依頼を受けられないじゃない」
旅立つアイナの背中を見つめ、セレス達は意気込みを語る。
また1から戦術を考え、新たな戦いを覚えなくてはならない。
しばらくは高難度の依頼を受けられないが、それも彼女達がまた1段と強くなるまでの間だ。
”双蒼の烈刃”の新たな冒険はこれから始まるのだ。
一方、ルノー雪原に偵察に向かった者達から何も無しと報告を受けた者達は少しずつ元の日常に戻っている。
爆心地と思われる場所には荒れ果てた雪原のみが残り、シンと”双蒼の烈刃”の決闘は誰にも語られる事なく当人達にのみ記憶された出来事となった。
「アイナ、頑張ってね」
誰も居なくなった屋敷の最上階は全員の意見でそのまま残される事となる。
いつでもあの桃色の髪の女性が戻ってこれるよう、旅立ちの時と変わらずアイナを出迎える為だ。
「おい、あの女はパーティーから抜けるのか?」
アイナとの別れの後にセレス達に話しかけて来たのはSランク冒険者”宵の明星”のメンバーの1人、”音速”の異名を持つジルー・カンウッドだ。
ジルーは”宵の明星”の中でミアと同じく諜報を担当しており、セレス達の様子を見て疑問に思ったのだろう、近づき問いただすように話しかけて来る。
「そうよ、アイナは呪いに打ち勝つ為に師と呼ぶべき人のもとに向かったわ」
アイナについて隠す必要はない。
離脱した事はそのうち誰でもわかることだ。
「ようやく厄介な奴がいなくなったか」
「どういう意味よ!」
「あいつの呪いには全員が迷惑してたんだ。ようやく落ち着けるな」
アイナは冒険者達から憧れてもいたが、その危険性を厄介にも思われていた。
いつ暴走するかわからない者に近づきたい者などほとんどいないだろう。
「それに、お前らも戦力が下がる。これでお前達はこれまでみたいには出来ないからな」
Sランク冒険者の中でも最高位にいると言われていた”双蒼の烈刃”はアイナの脱退でこれまでとは扱いも変わってくる。
今まで融通を利かせていた事は出来なくなる可能性もある。
Sランク冒険者はその名をあやかろうとする店舗などは多い。
武器や防具、魔導具もSランク冒険者が使えば他の者達も真似して使う。
宣伝の効果により、格安で提供される事も多いがそれは高名な者達に限った話だ。
戦力が落ち、印象の悪くなるセレス達はこれからそういった恩恵も受けづらくなるだろう。
「そうですか、ですが私達はまだ強くなります。アイナの抜けた穴もすぐに埋めてみせますよ」
ジルーの嫌味をセレスは微笑みを浮かべて受け流す。
ジルーの言う事はセレス達が1番わかっていることだ。
アイナという最高の仲間が抜けた穴は簡単には塞がらないが、そのアイナからセレス達にはそれが出来ると言われている。
ならばその期待に応える事がセレス達の新たな目標だ。
新たな”双蒼の烈刃”は再度最高の冒険者となる為にこの日、新たな旅立ちをする事となる。
ガレイの意識が戻り、少しの休息の後セレス達はスーリアへと帰還した。
すると帰還したスーリアはなぜか魔獣の襲撃に備えた警戒体制を整えており、セレス達の姿を見つけた冒険者の1人が話しかけてくる。
「いえ、少し用事がありましたので。それよりこの状況はどういう事です? Sランクのあなた達もこの場にいるのは?」
セレス達に話しかけて来たのは同じくSランク冒険者パーティー”剛壁”のリーダー、ゼンブル・デローだ。
”剛壁”の異名を持つ彼らはセレス達”双蒼の烈刃”と並び称されるSランク冒険者パーティーだ。
【空の世界】出身の彼らは防衛に関して右に出る者はいないと言われており、たった6人で幾百の飛竜の群れから1つの空中都市を守り抜いたのは詩人達に唄われるほど有名な話だ。
セレスが周りを見渡すと他にもSランク冒険者パーティーが集まっている事がわかる。
”羅刹”、”宵の明星”、他にもAランク冒険者なども多数集結している。
ここまで高ランクの冒険者達が集まる事など今まで数えるほどしかない。
それもSランクが3パーティーも召集される事態はセレスにも経験がない。
「俺達はスーリアの防衛だ。どうやらルノー雪原に何かが暴れてるらしいな」
「えっ?」
先ほどまでルノー雪原にいたセレス達はそのような存在を知らない。
暴れている何かが自分達の事であるなど考えてもいなかった。
「今はAランクが2パーティー偵察に向かってる。
何かあればすぐに宵の明星が向かう予定だ。恐らくタイランクラスの魔獣がいると考えられる」
セレス達のいたルノー雪原に今は何もいない。
決闘を始める前、辺りの魔獣を追い払う為に、高価な魔除け薬を撒いている。
タイランなどの覇者と呼ばれるクラスの魔獣には効果がないが、そのような存在は確認していない。
「セレス、早く行こう」
考え込むセレスにララが先を進むよう促した。
意外な事に少し天然気味なセレスは気付いていないが、他の面々はこの騒動の原因が自分達である事を察していた。
「私達も参加しなくていいのですか?」
スーリアに危機が迫っていると本気で信じているセレスは自分達も参加するべきと考えていたが、ララ達に説得され屋敷へと戻る事になる。
どのみちシンとの決闘で消耗した彼女達では戦力にならないだろう。
「腕は戻らないか?」
屋敷に戻ったルルは、自室からあらゆる医療文献を漁り、治癒魔術を施すがガレイの左腕は戻らない。
片腕のない生活にガレイはこれまでの時間でもかなりの支障が出ている。
しばらく戦闘に関してもあてにできないだろう。
「戻ったか、我は2日後に出て行くからな」
屋敷の1階で集まっていたセレス達のもとにアイナが顔を出す。
清々しい表情をしているアイナは新しい旅立ちに心躍らせているように見える。
久しく見ていないアイナの表情にセレスは何故か懐かしさを感じていた。
出会った時のアイナはいつもあのような表情を見せていた。
「どうだ?久し振りにみんなで酒でも飲まないか?」
セレス達の顔を見渡しながらアイナは言う。
彼女もこれまで過ごした仲間達との別れが決闘の諍いの残ったままでは別れづらいのだ。
「良いんじゃない?ならあそこに行こうよ!」
「そうだな、しばらく行ってないしな」
アイナの誘いにララと意外にもガレイが賛成した。
あそこと呼ばれるのは”双蒼の烈刃”結成を祝い宴会を開いた酒場である。
結成時にはまだBランク冒険者だった彼女達だが、数々の試練を乗り越え、人類最高峰のSランクまで上り詰めた。
「そうと決まれば早く行かないといけませんね」
アイナ達がその酒場で結成された事はスーリアで有名な話になり、最初は小さな酒場だった店は、Sランクを目指す冒険者達が”双蒼の烈刃”に習い、訪れ続けられ今ではスーリア有数の名店となり、高みを目指す者達で満席となっている。
アイナ達は屋敷を離れ、スーリアの中心に向かう。
警戒体制を敷いている為なのか、いつもは冒険者達で溢れる中心街は人が少なく、懸念していた酒場もまだ満席でなく、簡単に席を取る事が出来た。
仮に満席であってもアイナ達であれば店に入る事は容易なのだが、その際は他の客を追い出すような形になるのでセレスなどは好まない。
「これが私達の最後の時間になるかもしれませんね」
セレスは明るくアイナを送り出そうとしていたが、やはりしんみりとしてしまう。
セレスの頭にはアイナとの出会いからこれまでの経験が思い出となり蘇っている。
「結局、アイナには勝てなかったね」
ララとルル、2人は氷の世界に生まれ幼い時から一緒に過ごしていた。
魔術師としての才能が開花した2人はその才能におごり、難易度の高い依頼を受け創世期の人工生物に殺されかけた所をアイナに救われた。
自分達の敵わなかった敵を容易く屠ったアイナは年下であったが、アイナに勝つ事が彼女達の目標となった。
魔術では負けない、その想いを胸にここまでのし上がったが、アイナには最後まで勝つ事が出来なかった。
「私は、アイナちゃんにはもうちょっと女らしくして欲しいかなぁ」
ミアのアイナとはスーリアにある路地裏で出会った。
男を騙し、手玉に取り続けていたミアはある日冒険者の財布を盗む事に失敗をし、追い詰められていた。
そこに現れたのがアイナであった。
まだ幼さの残していたアイナは屈強な冒険者達を倒し、ミアを仲間として勧誘した。
戦闘力のないミアにとってアイナに紹介された者達ははるか高みにいる存在に見えていたが、その中でもミアの役割があると教えてくれたのもアイナだった。
せめてものお返しとして、女性としてのアイナを育て上げる事をミアは勝手に決めていたが、結局女の幸せを教える事が出来ずに別れる事になった。
「アイナ、腕相撲だ」
勝負を挑んだガレイだが、見た目で想像出来る結果と違い、アイナの圧勝で終わる。
ララとルルと同じくアイナに勝つ事を目標としていたガレイは華奢に見えるアイナには出来ないパーティーの盾となるべく鍛え続けていた。
だがどれだけ鍛えても結局アイナには敵わなかった。
「私からはこれをプレゼントします」
セレスがアイナに渡した物はシンとの決闘でセレスが使用していた純白のブーツだ。
前日にシンとユナが見つけた天馬の羽、そのオリジナルをアイナに手渡した。
シンとの決闘で上空から攻撃をしたセレスは天馬の羽の効果で空を駆ける事が出来たのだ。
「うむ、これは我も欲しかった物だ」
かつて訪れた創世期の遺跡で見つけた天馬の羽はセレスが使用する事になっていた。
見つけた者に所有権があるのはこのパーティーの決め事の1つだった。
セレスの見つけた魔導具の1つをアイナに餞別として渡す事にしたのだ。
「我からお前達に渡す物はないが、またいずれこの世界に戻って来る。その時まで死ぬな」
育て上げた面々の顔を見渡しながらアイナは言う。
自分の事を慕い、集まった面々は出会った当初と違い、アイナには頼もしく感じた。
”双蒼の烈刃”最後の宴は日付が変わっても終わらず、屋敷に戻ったのはもう完全に明るくなってからだった。
これまでの冒険の苦労話やお互いの事についてなど、話題は尽きる事がなかった。
新たな旅立ちに向かうアイナを”双蒼の烈刃”はあと腐れのないよう送り出す。
アイナ脱退に不満を持っていたガレイとルルも最後には笑ってアイナと話をしていた。
「あれだけ強い奴なら私達といるよりもアイナにとっては良い事だね」
「そうね、でも私達も負けていられないわ」
「ああ、早速義手でも作って貰おうかな」
「そうよ、あんたがいなきゃ依頼を受けられないじゃない」
旅立つアイナの背中を見つめ、セレス達は意気込みを語る。
また1から戦術を考え、新たな戦いを覚えなくてはならない。
しばらくは高難度の依頼を受けられないが、それも彼女達がまた1段と強くなるまでの間だ。
”双蒼の烈刃”の新たな冒険はこれから始まるのだ。
一方、ルノー雪原に偵察に向かった者達から何も無しと報告を受けた者達は少しずつ元の日常に戻っている。
爆心地と思われる場所には荒れ果てた雪原のみが残り、シンと”双蒼の烈刃”の決闘は誰にも語られる事なく当人達にのみ記憶された出来事となった。
「アイナ、頑張ってね」
誰も居なくなった屋敷の最上階は全員の意見でそのまま残される事となる。
いつでもあの桃色の髪の女性が戻ってこれるよう、旅立ちの時と変わらずアイナを出迎える為だ。
「おい、あの女はパーティーから抜けるのか?」
アイナとの別れの後にセレス達に話しかけて来たのはSランク冒険者”宵の明星”のメンバーの1人、”音速”の異名を持つジルー・カンウッドだ。
ジルーは”宵の明星”の中でミアと同じく諜報を担当しており、セレス達の様子を見て疑問に思ったのだろう、近づき問いただすように話しかけて来る。
「そうよ、アイナは呪いに打ち勝つ為に師と呼ぶべき人のもとに向かったわ」
アイナについて隠す必要はない。
離脱した事はそのうち誰でもわかることだ。
「ようやく厄介な奴がいなくなったか」
「どういう意味よ!」
「あいつの呪いには全員が迷惑してたんだ。ようやく落ち着けるな」
アイナは冒険者達から憧れてもいたが、その危険性を厄介にも思われていた。
いつ暴走するかわからない者に近づきたい者などほとんどいないだろう。
「それに、お前らも戦力が下がる。これでお前達はこれまでみたいには出来ないからな」
Sランク冒険者の中でも最高位にいると言われていた”双蒼の烈刃”はアイナの脱退でこれまでとは扱いも変わってくる。
今まで融通を利かせていた事は出来なくなる可能性もある。
Sランク冒険者はその名をあやかろうとする店舗などは多い。
武器や防具、魔導具もSランク冒険者が使えば他の者達も真似して使う。
宣伝の効果により、格安で提供される事も多いがそれは高名な者達に限った話だ。
戦力が落ち、印象の悪くなるセレス達はこれからそういった恩恵も受けづらくなるだろう。
「そうですか、ですが私達はまだ強くなります。アイナの抜けた穴もすぐに埋めてみせますよ」
ジルーの嫌味をセレスは微笑みを浮かべて受け流す。
ジルーの言う事はセレス達が1番わかっていることだ。
アイナという最高の仲間が抜けた穴は簡単には塞がらないが、そのアイナからセレス達にはそれが出来ると言われている。
ならばその期待に応える事がセレス達の新たな目標だ。
新たな”双蒼の烈刃”は再度最高の冒険者となる為にこの日、新たな旅立ちをする事となる。
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