プロクラトル

たくち

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氷の世界

アイナの実力

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 八雷神・黒雷はアイナの使用する八つの奥義の一つである。
 暗黒の雷雲から標的に降り注ぐ一筋の黒い雷は標的の体を焼き焦がし、轟く雷鳴により周囲の音は掻き消され、黒い雷光は一体を暗黒の世界に包み込む。

 アイナの使用する奥義の中で最強の単体攻撃の一つである黒雷は翼をもがれた凍獄龍の分厚い鱗を一つ残らず弾き飛ばし、厚い皮膚に覆われたその肉体を焼き焦がした。

 そのあまりの雷光と熱量により、ティナも最高峰の守護魔術を展開しなくてはならず、シン達の視界は暗黒の光に覆われ、しばらくの間瞼を開ける事が出来なかった。

「むっ、鱗まで焦がしてしまったか、こいつの鱗で何か作れると思ったんだがな」

 耳鳴りの続くシン達の耳にアイナの声が聞こえてくる。
 凍獄龍の美しかった青白い鱗は、アイナの放った黒雷により焦がし尽くされ、手に取ったアイナの手の中で炭となって霧散していた。

 少々残念そうにしていたアイナだったが、斬り落とされた翼の片方が離れた場所にあり、多少だが鱗が手に入る事に気がつき、急いで剥ぎ取りに向かう。

 翼にある鱗では体を覆う鱗ほどの厚みはないが、それでも並の武器では傷一つ付ける事は出来ない。
 凍獄龍の鱗は冷気に対しても絶対的な防御力を持っており、氷狼ですらその鱗には直接氷での攻撃をしない事で有名だ。

 シン達の視界が晴れる頃にはアイナは鱗の剝ぎ取りを終え、魔導具の袋に詰め込み終わっている所であった。

 白銀に輝いていた世界は凍獄龍の亡骸を中心とした黒く焼け焦げた世界に変貌しており、ティナの守護魔術の範囲内以外には何一つ残っている物はない。

「初めて見るか?これが最強と呼ばれる者の攻撃だ」

 たった一撃で周囲一帯を破壊し尽くしたアイナの攻撃にシン達は言葉をなくし、唖然とした表情をしていた。
 その顔を見てティナは今の攻撃が現実の物である事を認識させるように言う。

 単体への攻撃でこれほどの被害を周囲にもたらしたのだ。
 一つの標的に対し威力を集中させた一撃は対象を焼き尽くすにとどまらず、雷撃の余波のみでここまでの威力を持っていた。

 黒雷と同程度の威力を持つ奥義がまだ7つもあると言う事実にロイズなどは苦笑いを浮かべていた。
 だがその奥義を使用したアイナは息を乱している様子もなく、凍獄龍との戦いにも余裕を感じさせられる。
 あれだけの魔術はそう何発も使えるとは思えないが、アイナのその余裕はそれが可能だと証明していた。

 肉の焦げる臭いに顔をしかめながらシン達はアイナのもとへと歩み寄る。
 近寄るシン達に気づいたアイナは褒めて欲しいと言いたげな表情でシン達を待っていた。

「アイナ!あなた凄いじゃない!」

 アイナのものに近づいたユナは飛びつくようにアイナに抱き着き、両脇を持ち掲げるようにしてくるくると回りだす。
 ユナの行動にアイナも悪い気はしないらしく笑みを浮かべながら自慢げに笑い声をあげている。

「妾も防ぐのに集中せんとならんかったの、初めて見るが中々に良い魔術だの。あの威力ならアモンの魔力障壁も貫けるだろうの」

  ティナの側近である暗黒大帝アモンは自身の魔力を障壁として展開して戦闘をする。
 純粋な魔力を障壁として使用するには圧倒的な魔力量がなくては出来ない技であり、その強度も魔力の質により変化する。

 世界にいる多くの魔術師達は魔法陣や杖などの媒介を使用する事で術式として完成させる。
 だが魔術を極めたアモンは純粋な魔力のみでの攻防を可能にしていた。

 魔術は自然に起こりうる災害を自身の魔力により再現し、多くの場合、形状も魔術師により変化させる。
 そして魔術師達は、それぞれ得意な属性を持つため魔術により優劣がつくが、アモンの純粋な魔力による攻撃はどのような敵にも通用し、魔力障壁には弱点はない。

 魔力の質と量、2つを持ち合わせたアモンの魔力障壁はそれだけで絶対的な防御力を持つが、アイナの八雷神・黒雷を見たティナはその魔力障壁すらも貫くと評価をした。

 魔王から賞賛された事にアイナも喜びを隠せない。
 絶対的強者の1人であるティナが賞賛する事などこれまで中々無い事だった。

 だがあの魔術を持ってしてもティナはアモンを仕留められるとは言っていない。
 その事に気がついたシンは自信をなくすどころか、あまりに桁外れな者達に呆れる事しか出来なかった。

「なあ、アイナ。俺に弟子入りなんてしなくて良いんじゃないのか?」

 シンは序列3位、どう考えても序列1位のアイナの方が格上である。
 だがシンは肝心な事を忘れていた。

「何を言っているのです、師はかつて邪神との戦いで力を使い果たしてしまったのでしょう?」

「そういや、そう言う事だったな」

 アイナに聞こえないよう小さな声でシンは呟いた。
 アイナを説得する為にシン自らが言い出した事だが、事実でない出来事を完璧に覚えていられる者など多くはいないだろう。

 だが今回、アイナの戦いを見れた事はシンにとって良い経験になった。
 Sランクの冒険者である”双蒼の烈刃”に1人で勝てた事でシンは少しだが調子に乗っていたと自分で感じている。

 人類の最終兵器と呼ばれる者達に勝てば、誰でも調子には乗るだろう。
 だが今回のアイナの戦いは、上には上がいるとシンに再確認させる事となった。

 アイナが序列1位だとティナが教えなかったのも、その事を教えようとしていたのだとシンは考えていた。

「アイナがいれば獣王にも勝てるかも」

 不意にユナが考えた事を口にした。
 前回獣王と対峙した際にこちらの戦力不足は明らかだった。
 だがアイナはその不足をたった1人で解消させるどころか、獣王にすら勝つ可能性もある。

 獣王が氷狼の力をどれほど引き出しているのかにもよるが、アイナに加えてシンやユナも戦いに参加すれば優位に戦える可能性もある。

「そうかもな、でも先に森の世界に戻らないとな」

 凍獄龍の襲撃により、多少の遅れは出てしまった。
 だが目の前で凍獄龍を倒したおかげで地竜の怯えは勇気に代わる。
 これならばほとんどの魔獣に怯える事なく、順調に進む事が出来るだろう。

 凍獄龍がガーレットを捕食してしまった為に食料の確保は出来なかったが、それ以上の収穫を得る事が出来た。
 アイナが仲間となり、シン達と共に行動する事で獣王からシーナを奪還する為の戦力は充分になったと言えるだろう。
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