プロクラトル

たくち

文字の大きさ
103 / 174
獣王との戦い

突然の裏切り

しおりを挟む
「今日も変化はありませんか、わかりました」

 シン達と別れ、森の世界に残っていたリリアナ達は随時、アルファスを軸にした獣王の監視を続けていた。
 だが1ヶ月以上経った今でも獣王に動きはなく、先代の時と同じくユーギリア城の1部の部屋から出る事はしていない。

 報告を終えたアルファスはそのまま部屋から退出する。
 気配が消えた事からイグジステンス・イーターの能力を使ったのだろう。

 先代の時の獣王と同じ人格がシーナの体を乗っ取っている為、これまでの獣王と行動が変わらないのは当たり前なのかもしれない。

 だがあれほど大規模な反乱を起こされているのにも関わらず、何も対策のような事をしない獣王の行動にリリアナは疑問を持っていた。

 仮にリリアナが獣王であるならば、反乱の原因をあぶり出し、何かしらの対応を行うだろう。
 リリアナ達が起こした反乱はシーナの木像を入手する為の囮として行った行動だが、その事に獣王は気づいていなかったはずだ。

 あの反乱から時間の経過した今であれば、その事に気がついているかもしれないが、気づいているのであれば、尚更何か行動を起こさない事に疑問を持つ。

 リリアナでなくともあの時期から木像がなくなれば、反乱を起こしたリリアナ達の仕業であると考えられるだろし、首謀者として獣王に顔を見られているナナとメリィの捜索、捕縛を命じるはずだ。

 シーナの木像を奪われた事に気がついていない場合でも、同じように反乱の首謀者としてあの戦いに参加した者全員を捕縛、もしくは処罰を下すだろう。
 リリアナであればあの反乱に参加した200名を捕らえ、反乱の理由を問いただすはずだ。

 だが獣王は何もしない。
 その事から考えられる事は、メリィが獣化をしても獣王が負けなかった事から自身の実力におごり、また反乱をされても返り討ちにする自信を持っている事。

 そうであればリリアナ達にとってもありがたい。
 次の戦いでは前回参加しなかったシンとロイズ、アルファスも戦闘に参加出来るし、シンからの連絡ではSランク冒険者もこちらに向かうと聞かされている。
 戦力的には充分と言えるだろう。

 だがその可能性は低いとリリアナは考えている。
 おごりを持つような者であれば森の世界の王としてここまで君臨する事は出来なかったはずだからだ。

 反乱した者達を捕らえる訳でもない、自身の実力におごりを持っている訳でもないとなるならば、リリアナの考えられる可能性の1番高い答え、それは。

「獣王にとって、この木像は重要ではない?」

 盗まれた事がわかっていて行動を起こさない、ならば考えられる事は、獣王にとってシーナの木像がなくてはならない存在でないと言う事だ。

 重要ではないならば、前回この木像を奪った意味がないと考えられる。
 シーナの精神はこの木像に封じられている事は間違いないと考えていたが、獣王を監視経過からもシーナの体を奪還する事が出来ないのかもしれない。

「リリアナ様、お食事をお持ちしました」

 獣王について考えていたリリアナのもとにエルリックが食事を持って訪れる。
 メリィの用意した拠点からリリアナは動く事をしていない。
 偵察をアルファスに一任し、リリアナは情報整理とシンとの連絡に集中する事にしたのだ。
 下手に動いて獣王の関係者と接触をする事を避ける意味もあった。

「シン様達は、アイナと言うSランク冒険者を連れて戻っている所だそうです。エルリックは鍛錬は順調ですか?」

 ティナに教えられた魔槍飛燕流をエルリックは鍛え続けて来た。
 獣王選定の時には4つしか使えなかった基礎の型を6つまで使用出来るまで成長していた。

「はい、シン達が戻るまでには基礎の型を全て覚えられたら良いのですが」

 エルリックに才があるとはいえ魔気を扱う事は一朝一夕で出来る事ではない。
 人間であるエルリックが魔族の技を使うには並大抵の努力では習得出来ない。

 6つまでの基礎の型を習得したエルリックはここまでひたすらに己を鍛え続けていたのだろう。
 その体つきはシン達と別れる前よりも大きく逞しくなっていた。

「シン様達がお戻りになれば、戦いが始まる可能性が高いです。その時にエルリックが活躍するのが楽しみですね」

 砂の世界からの従者であるエルリックの成長はリリアナにとっても喜ばしい事である。
 主従の関係を崩さない2人はこの期間で信頼関係を強めていた。

「ナナさんは、どこに行ったのです?」

 自由奔放なナナは相変わらず自分のしたい事をしているようであった。
 自重するように言ってはいるものの、聞いているようで聞いていないのがナナである。

「今日は世界樹の外に出てるみたいですね、リユーの肉が気に入ったみたいでしたので狩りに行ったのでしょう」

  森の世界に来た当初に捕らえたリユーをナナは定期的に狩りに出ている。
 自由なナナを拘束する事は良くないと感じたエルリックは、行き先だけは教えるように言い聞かせていた。
 それに対してもナナは自分から言いだす事はないので、エルリックが朝食の時に聞くような形になっているが、大した苦労ではないのでエルリックは気にしていない。

「出来れば近くにいて欲しいのですけどね。獣王に動きはないですが、今後も同じとは考えられないですから」

 エルリックがいるとはいえ、ナナは森の世界に残った面子の中で1番の強者である。
 安全面でも彼女には残っていてもらいたい所だ。

「ナナさんはシンかユナさんしか言う事を聞かせられないですからね。仕方ありません。それにアルファスから異常なしと報告があったのです。心配はないでしょう」

 ここまで動きを見せない獣王にリリアナも飽き飽きとしていた。
 何もなければリリアナ達にとってシン達の到着を確実に待ってから行動を起こせる為、良い事なのだが、その結果油断してしまうのは仕方ないだろう。

 気を引き締めているつもりだが、どこか何もないと決めつけてしまっている事は否定出来ない。
 それだけ、ここまで何も起こっていないのだ。

「あと少しでシン様達も戻られます。それまで気を引き締めていきましょう」

 食事を済ませ、エルリックが片付けを始める。
 部屋の中にはリリアナ1人になるが、何も起こらない期間が長くなってしまった為、さすがのエルリックにも油断が出てしまった。
 それを責められる者など、この中にはいない。
 だが、部屋の中にリリアナ1人しか残らないと思っているのはリリアナとエルリックのみであった。

「全く、こんな奴らに負けたとは。我ながら情けないな」

 リリアナしかいなかったはずの部屋に予想外の男の声が聞こえて来た。

「あなたは、アルファス。何故ここに?報告はもう終わったのではないのですか?」

 突然姿を現したアルファスにリリアナは驚きを浮かべる。
 何故?そういう疑問がリリアナの頭に次々と浮かんで来た。

「その質問に答える必要はないな」

「それでは困ります」

 アルファスの態度にリリアナに緊張が走る。
 これまで報告に来た時のアルファスとは明らかに違うのだ。

「あのナナとかいう奴が世界樹から出て行くのがやっとわかったからな」

 ナナはアルファスのイグジステンス・イーターの能力が通用しない唯一の存在だ。
 アルファスはナナの行動を常に監視していたと思われる言葉を言うと同時に、リリアナは察する事が出来た。

「獣王様に刃向かうとは、馬鹿な奴らだよ」

 リリアナ達の何も起こらない日々は、突如として終わりを告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...