プロクラトル

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獣王との戦い

歴代獣王

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　81階層の試練として、シン達に立ちはだかるのは先代獣王グティエレ・ロータスである。
　グティエレ・ロータスは、獣王となる前、冒険者として活躍をしていた。

　森の世界の獣王となった時、彼は他の候補者や森の世界の住人達から、冒険者仲間のおかげで勝ち残れたと考えられていた。

　だが、その考えは間違いである。
　グティエレ・ロータスは決して弱い訳ではない。
　そもそも使命を果たしている時点で、他の追随を許さないほどの強者であるし、実力のない者が冒険者として活躍出来る訳がない。

　グティエレ・ロータスの混じりあっていた魔獣は、土竜である。
　大地を自在に操る土竜の力は、グティエレのみならず、仲間の力を最大限に引き出していた。

　味方に有利な足場を作り出し、敵の行動を阻害する。
　戦闘において、敵よりも優位な条件を常に作り出すグティエレの存在は、味方には頼もしく、敵にとっては厄介な存在であった。

　シン達の足場を崩し、陣形を崩した所に追撃に来るのは、先々代獣王テワドル・エシアンである。

　チーガルと呼ばれる高速の四足獣を従えたテワドルは、そのスピードを武器に、グティエレの用意した足場を飛び交う様に襲いかかる。

「煩いわね！」

　迫り来るチーガルを迎え撃つのは、同じくスピードを武器にするユナである。
　高速に飛び回る戦闘を得意とするのは、ユナも同じである。

　目にも止まらぬ速さで動くチーガルを正確に捉え、その手に持つ皇龍刀”契”を一閃する。
　自身の速度よりも速く振り出された真紅の刀を、チーガルは躱しきれず、前脚を切断される。

　続け様に繰り出されるユナの斬撃により、チーガルはその命を散らす寸前まで追い詰められるが、相方であるテワドルがそれを許さない。

　シン達が硬直してしまうほどの咆哮は、チーガルがスピードと共に武器にしているもう1つの特徴である。

　大気を震わす咆哮を受けたユナは、舌打ちをして撤退する。
　手負いの獣を相手にするには、2対1の状況は良くはない。

　ナナによる援護を受けながら撤退したユナの代わりに前線へと向かうのは、薄く透けて見えるほど透明な蒼い双剣を持つアイナである。

　アイナが向かうのは、後方でテワドルとチーガルを援護するグティエレの所であった。
　それを阻害すべく、テワドルは行動を開始しようとするが、エルリックがそれを許さない。

　リリアナの守護がなくなったエルリックは、積極的に戦いに挑む。
　シン達の中で1番の弱者である事を自覚するエルリックは、シンによる援護を受け、テワドルとの戦闘を成長する為の糧と捉えていた。

　無王の双槍を手に、圧倒的な身体能力を持つテワドルを巧みな槍捌きで追い詰めていく。

　シンによる援護により、テワドルの行動を制限させているとはいえ、先々代を追い詰めるエルリックは、天才と称されるに相応しい成長を見せている。

　毎日、ティナによる指導のもと鍛錬を続けるエルリックは、魔気を纏わせた槍でテワドルの体に傷を負わせていく。

　無王の双槍を、2本の短槍と1本の長槍に巧みに使い分けた攻撃は、かつてアニーに指摘されたような単調な攻撃でなく、敵に予測不能の攻撃となっていた。

　”幻視槍”が得意とする幻影を見せるほどの槍捌きをエルリックも習得していた。

　防戦一方となるテワドルは、時折槍の攻撃のない所を意味もなく防御しており、その行動がエルリックにさらなる追撃をさせる隙となってしまう。

　天才、エルリックを見た者は、必ずその言葉を口にする。
　その槍捌きを間近で見ていたシンは、武者震いに似た感情を感じていた。

　今まで経験した全てを己の力として取り込むエルリックは、既に槍使いとして全世界でも有数の使い手となっているだろう。

　だが、その成長はまだ終わりではない。
　魔王ティナ・グルーエルは、エルリックを序列者であるシン達と並ぶ存在になると評価している。

　如何に先々代獣王といえど、そのエルリックに対し、攻勢に出る事は叶わない。
　エルリック1人との戦いであれば、まだテワドルの方が実力は上である。

　だが、絶妙なタイミングで繰り出されるシンの虚無の大鎌により、テワドルの攻撃は防がれる。

　シンとエルリック、共に鍛錬を重ねた2人によるコンビネーションは、獣王に反撃の隙を与えず確実に追い詰め、最後の一撃となる首への突きをエルリックが放つ。

　先々代獣王テワドル・エシアンの消滅と共に、既に虫の息であったチーガルも消滅をする。

　グティエレによる支援も、テワドルは受ける事が出来なかった。
　序列1位”雷神”アイナ・ルーベンスに狙われた者は、誰であろうと無事ではいられない。

　神や魔王、天帝ほどの者であればアイナに抵抗する事は可能だ。
　だが、たかだか獣王程度では、アイナの前には無力と同じである。

　軽く、息をするかのように雷撃の魔術を完成させたアイナは、回避不能な速度の雷を、雨のようにグティエレに降り注ぐ。

　諦めたように動きを止めたグティエレは、アイナの雷撃を受け、そのまま消滅をする。
　なす術もなく敗れた先代獣王だが、アイナが相手では仕方がない。

　神の名を異名として名乗る事を許された唯一の存在に、王程度の者では太刀打ち出来ないのだ。

「次も、前の獣王だろうな」

　ここからの戦いは歴代の獣王との戦いである事は予想出来る。

「初代様とお会い出来たら良いね」

　森の世界の住人であるロイズにとって、獣王となった者は英雄と同じである。
　幼い頃より憧れた存在に会えると知ったロイズは、気持ちを昂ぶらせていた。

　初代や2代目ともなれば伝説の存在と言っても過言ではない。
　お伽話にすらされている者達との遭遇を、ロイズのみならずシン達も楽しみにしていた。
　歴史に名を残す強者との戦いは、シン達にとっても有意義な時間であるのだ。

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