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獣王との戦い
本物の日常
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「戻って来たか。みんなは、まだ戻ってないか」
試練を終え、世界樹90階層の試練の間へと戻ったシンは、他の仲間達の様子を確認する。
やり切れない気持ちを抱えたまま試練は終わってしまったが、突破出来たのなら良いと、シンは気持ちを切り替える。
現状、試練を終えたのはシンが最初のようであり、何もない空間には、シンのみが存在している。
「急に、暇になったな」
激情に駆られるまま、偽の砂の世界と同じく試練で訪れた世界を破壊し尽くしたシンは、静寂に包まれた空間を寂しく感じていた。
部屋から出る訳にはいかないので、本当にやる事がない。
以前の試練で、よく仲間達はシンの事を待ち続けたと感心していた。
「あっ、エルリックが戻らないと飯がないんじゃないか?」
食料の管理はエルリックの担当だ。
それを思い出したシンは、自身の持つ魔導具の袋の中身を確認する。
焦りを感じるシンの期待を、自身の魔導具の袋は裏切る事となる。
袋の中には、食料の類は一切入っておらず、その中身は、興味本位で購入していた用途の不明な魔導具ばかりが入っている。
食料がない、そう実感した直後から、シンは空腹感を感じ始める。
こうなるならば、試練の世界で何か食べておけば良かったと後悔する。
この世界にはない食事を、久々に堪能する機会を失った事が、名残惜しい。
もう2度とあの世界の料理を食す機会は訪れないだろう。
「さすがは師ですね、1番に戻るとは」
次第に大きくなる空腹感に嫌気がさしていた頃、アイナがシンの次に試練を終えた。
アイナの中でシンの株が上昇するが、今はそれどころではない。
「アイナは何か食べる物持ってないか?」
シンの言葉を聞いたアイナは、魔導具の袋から何かを取り出す。
「口に合うかわかりませんが、これを」
仰々しく、貢物でもするかのように渡してきた物は、何かの動物の肉なのだろう。
乾燥させた肉は、独特の形状をしており、ほのかに香る香辛料に食欲をそそられる。
「うまいな、なんの肉なんだ?」
程よい味付けをされた肉の内側には、歯ごたえのある野菜のような物が詰められている。
食べた事のない食材だが、その味は悪くなく、シンは味わいながら食べ続ける。
「お気に召したようでなによりです。それは機甲虫の炒め物を星蛙の肉で包んだ逸品です。なかなか不人気ですが、我は気に入っていましてな」
「ぶっ!」
アイナの説明を聞いたシンは、口の中に含んだ物を全て吐き出す。
「ゲッゲホ、お前は人になんてもの食わせてんだ」
先ほどまで、美味しそうに食していたくせに、材料を聞いた瞬間に吐き出すシンは、文句を言う資格はない。
だが、それも仕方ないだろう。
蛙の肉に虫を詰め込んだ物など、到底食べる気にはならない。
「むっ師よ、吐き出すとはもったいない」
ゲホゲホと咳き込むシンを横目に、アイナはその蛙の肉を食べ続けていた。
彼女は見た目よりも、味を重要視しており、多少変わり物の食材でも美味であれば何でも口にする。
「他はないのか?」
シンは変わりの食事を要求するが、アイナが持つ食料は、全て変わり種の物ばかりであった。
取り出した食料は、ほとんどが虫やヌメヌメした謎の生物などと気色の悪い物が多く、その中にシンが食べられると思える物は1つもない。
「いや、もう良いよ」
色々と取り出したアイナに悪いと告げ、シンは大人しくエルリックの帰還を待つ事にする。
美味しそうに食事をするアイナは、口の端から虫の足をはみ出させながら、満足そうにしている。
「シンとユナが最初か、負けたわ」
空腹を耐えるシンの側に、いつの間にかユナが座り込んでいた。
「何よそれ? 私にもちょうだい」
ユナも少し空腹であったようで、アイナの持っていた食事を受け取り、食べ始める。
不気味な食材をためらいなく食べるユナに、シンは戦慄を覚えるが、アイナと同じく美味しければ何でも良いタイプなのだろうと無理矢理納得する。
「私も、食べる」
続いて戻ったナナも同じく、その食事を奪い取り、食べ始める。
傭兵として戦場を闊歩していたユナとナナは、食べられる物であるならば何でも食べる。
「君達は、何て物を食べてるんだ」
女性陣の豪快さに恐れをなしていたシンに、味方となる者が試練から戻る。
女性陣の食す不気味な食材を目にしたロイズは、シンと同じく衝撃を受けたようで、顔を歪めていた。
「ほう? それは水蜘蛛の燻製だの、1つ頂こう」
試練を終えたティナは、すぐさまアイナの持つ食材に食らいつく。
細く、長い足をした大きな蜘蛛を食らうティナは、まさしく魔王といった堂々たる姿である。
そろそろ空腹が無視出来なくなってきたシンであるが、女性陣のような頼もしさを持ち合わせていない。
美味であるのは反応を見ていればわかるのだが、それを食す事を、本能が拒否していた。
リリアナがいれば、シン達と同じくあの食材を口にする事を拒否すると考えたいが、生憎と今は行動を共にしていない。
仮にこの場にいたとしても、王室育ちで世間知らずな部分があるリリアナは、興味本位で口にする可能性もあるのだが。
ティナが戻って来た事で、残りはエルリックとメリィのみであったが、すぐ次に帰還したのはメリィである。
獄炎鳥となったメリィが、どのような試練になったのかは不明だが、アイナの持つ食料をつつきながら食べる姿を見るに、試練を乗り越えた事は間違いない。
「あとはエルリックね」
「奴は真面目だからの、案外苦戦するやもしれん」
食事に夢中かと思いきや、エルリックが戻らない事を気にしていたユナは、エルリックの戻りが遅い事を心配する。
エルリックに指導をしていた為、エルリックの事を知るティナは、エルリックの性格的にこの試練が難しい事を示唆している。
それはシンも同様に考えていた。
自身の受けた試練を省みるに、エルリックも両親を殺す事になるだろう。
シンの場合は踏ん切りがつく事であるし、父親については、前々から考えていた事だ。
母親の殺害も抵抗はあったが、幼い頃に別れていた事で、今回は躊躇うことはなかった。
試練の世界である事を知っていたのも関係するが、エルリックには難しいだろう。
砂の世界で、エルリックの両親に会った事があるが、あの両親は本当に良い親であった。
シンがエルリックの立場でも殺害する事を躊躇うだろう。
それに、主人と崇めるリリアナの殺害も、試練には含まれる。
ティナの言う通り、エルリックには厳しすぎる試練である。
他の面々は、一様にそういった存在と決別しているので、苦戦しなかったのだ。
魔王であるティナの試練内容は、違ったかもしれないが、ユナやナナ達はシンと同じ様な試練であった事は、心配する事から察する事が出来る。
どの様な試練だったか気になるが、ここでそれを聞くのは、シンには躊躇われた。
自分と同様に、誰にも知られたくない過去はあるはずだからだ。
それに、シンの空腹もそろそろ限界である。
エルリックには、早く戻って来てもらいたい所だ。
「ようやく終わったか、僕が最後か。シン達は、やはり凄いな」
しばらく待つと、疲労を隠せないエルリックが帰還する。
その表情を見るに、相当消耗しており、苦戦した事が伺える。
「エルリック、良く帰ってきた」
ようやく帰還したエルリックに、シンは思わず抱きついてしまう。
苦笑いを浮かべるエルリックだが、シンが心配していたと思い、悪い気はしていない様子である。
シンとしては、一刻も早くまともな食事をしたいというのが大きく、戻って来た事に感激しただけなのだが、後ろからユナのうわぁと言うひいたような声を聞き、すぐにエルリックから離れる。
恥ずかしさから咳払いをしながらもエルリックの帰還を喜ぶシンは、食料の催促をしようとしたのだが、エルリックの行動がそれを許さない。
「おや? アイナさん、なかなか美味しそうな物を食べてるね。僕も頂いて良いかな?」
シンが吹き出した蛙の虫詰めに、エルリックは舌鼓をうつ。
まさかの行動に、シンはその食料の正体をエルリックに言うが、エルリックは気にせず食べ続ける。
「シンもどうだい? なかなか美味だぞ」
丁重に断りを入れ、エルリックから普通の食料を受け取る。
待ち望んだ普通の食事だが、シンはどうも釈然としない。
「まあ、こんなのも悪くないか」
仲間達との感覚のズレを感じるシンであるが、これが今のシンが生きる世界であり、本物の日常である。
かつて生活していた場所とは違う。
今、こうして仲間達と共にいるシンこそが、本物のシンなのだ。
試練を終え、世界樹90階層の試練の間へと戻ったシンは、他の仲間達の様子を確認する。
やり切れない気持ちを抱えたまま試練は終わってしまったが、突破出来たのなら良いと、シンは気持ちを切り替える。
現状、試練を終えたのはシンが最初のようであり、何もない空間には、シンのみが存在している。
「急に、暇になったな」
激情に駆られるまま、偽の砂の世界と同じく試練で訪れた世界を破壊し尽くしたシンは、静寂に包まれた空間を寂しく感じていた。
部屋から出る訳にはいかないので、本当にやる事がない。
以前の試練で、よく仲間達はシンの事を待ち続けたと感心していた。
「あっ、エルリックが戻らないと飯がないんじゃないか?」
食料の管理はエルリックの担当だ。
それを思い出したシンは、自身の持つ魔導具の袋の中身を確認する。
焦りを感じるシンの期待を、自身の魔導具の袋は裏切る事となる。
袋の中には、食料の類は一切入っておらず、その中身は、興味本位で購入していた用途の不明な魔導具ばかりが入っている。
食料がない、そう実感した直後から、シンは空腹感を感じ始める。
こうなるならば、試練の世界で何か食べておけば良かったと後悔する。
この世界にはない食事を、久々に堪能する機会を失った事が、名残惜しい。
もう2度とあの世界の料理を食す機会は訪れないだろう。
「さすがは師ですね、1番に戻るとは」
次第に大きくなる空腹感に嫌気がさしていた頃、アイナがシンの次に試練を終えた。
アイナの中でシンの株が上昇するが、今はそれどころではない。
「アイナは何か食べる物持ってないか?」
シンの言葉を聞いたアイナは、魔導具の袋から何かを取り出す。
「口に合うかわかりませんが、これを」
仰々しく、貢物でもするかのように渡してきた物は、何かの動物の肉なのだろう。
乾燥させた肉は、独特の形状をしており、ほのかに香る香辛料に食欲をそそられる。
「うまいな、なんの肉なんだ?」
程よい味付けをされた肉の内側には、歯ごたえのある野菜のような物が詰められている。
食べた事のない食材だが、その味は悪くなく、シンは味わいながら食べ続ける。
「お気に召したようでなによりです。それは機甲虫の炒め物を星蛙の肉で包んだ逸品です。なかなか不人気ですが、我は気に入っていましてな」
「ぶっ!」
アイナの説明を聞いたシンは、口の中に含んだ物を全て吐き出す。
「ゲッゲホ、お前は人になんてもの食わせてんだ」
先ほどまで、美味しそうに食していたくせに、材料を聞いた瞬間に吐き出すシンは、文句を言う資格はない。
だが、それも仕方ないだろう。
蛙の肉に虫を詰め込んだ物など、到底食べる気にはならない。
「むっ師よ、吐き出すとはもったいない」
ゲホゲホと咳き込むシンを横目に、アイナはその蛙の肉を食べ続けていた。
彼女は見た目よりも、味を重要視しており、多少変わり物の食材でも美味であれば何でも口にする。
「他はないのか?」
シンは変わりの食事を要求するが、アイナが持つ食料は、全て変わり種の物ばかりであった。
取り出した食料は、ほとんどが虫やヌメヌメした謎の生物などと気色の悪い物が多く、その中にシンが食べられると思える物は1つもない。
「いや、もう良いよ」
色々と取り出したアイナに悪いと告げ、シンは大人しくエルリックの帰還を待つ事にする。
美味しそうに食事をするアイナは、口の端から虫の足をはみ出させながら、満足そうにしている。
「シンとユナが最初か、負けたわ」
空腹を耐えるシンの側に、いつの間にかユナが座り込んでいた。
「何よそれ? 私にもちょうだい」
ユナも少し空腹であったようで、アイナの持っていた食事を受け取り、食べ始める。
不気味な食材をためらいなく食べるユナに、シンは戦慄を覚えるが、アイナと同じく美味しければ何でも良いタイプなのだろうと無理矢理納得する。
「私も、食べる」
続いて戻ったナナも同じく、その食事を奪い取り、食べ始める。
傭兵として戦場を闊歩していたユナとナナは、食べられる物であるならば何でも食べる。
「君達は、何て物を食べてるんだ」
女性陣の豪快さに恐れをなしていたシンに、味方となる者が試練から戻る。
女性陣の食す不気味な食材を目にしたロイズは、シンと同じく衝撃を受けたようで、顔を歪めていた。
「ほう? それは水蜘蛛の燻製だの、1つ頂こう」
試練を終えたティナは、すぐさまアイナの持つ食材に食らいつく。
細く、長い足をした大きな蜘蛛を食らうティナは、まさしく魔王といった堂々たる姿である。
そろそろ空腹が無視出来なくなってきたシンであるが、女性陣のような頼もしさを持ち合わせていない。
美味であるのは反応を見ていればわかるのだが、それを食す事を、本能が拒否していた。
リリアナがいれば、シン達と同じくあの食材を口にする事を拒否すると考えたいが、生憎と今は行動を共にしていない。
仮にこの場にいたとしても、王室育ちで世間知らずな部分があるリリアナは、興味本位で口にする可能性もあるのだが。
ティナが戻って来た事で、残りはエルリックとメリィのみであったが、すぐ次に帰還したのはメリィである。
獄炎鳥となったメリィが、どのような試練になったのかは不明だが、アイナの持つ食料をつつきながら食べる姿を見るに、試練を乗り越えた事は間違いない。
「あとはエルリックね」
「奴は真面目だからの、案外苦戦するやもしれん」
食事に夢中かと思いきや、エルリックが戻らない事を気にしていたユナは、エルリックの戻りが遅い事を心配する。
エルリックに指導をしていた為、エルリックの事を知るティナは、エルリックの性格的にこの試練が難しい事を示唆している。
それはシンも同様に考えていた。
自身の受けた試練を省みるに、エルリックも両親を殺す事になるだろう。
シンの場合は踏ん切りがつく事であるし、父親については、前々から考えていた事だ。
母親の殺害も抵抗はあったが、幼い頃に別れていた事で、今回は躊躇うことはなかった。
試練の世界である事を知っていたのも関係するが、エルリックには難しいだろう。
砂の世界で、エルリックの両親に会った事があるが、あの両親は本当に良い親であった。
シンがエルリックの立場でも殺害する事を躊躇うだろう。
それに、主人と崇めるリリアナの殺害も、試練には含まれる。
ティナの言う通り、エルリックには厳しすぎる試練である。
他の面々は、一様にそういった存在と決別しているので、苦戦しなかったのだ。
魔王であるティナの試練内容は、違ったかもしれないが、ユナやナナ達はシンと同じ様な試練であった事は、心配する事から察する事が出来る。
どの様な試練だったか気になるが、ここでそれを聞くのは、シンには躊躇われた。
自分と同様に、誰にも知られたくない過去はあるはずだからだ。
それに、シンの空腹もそろそろ限界である。
エルリックには、早く戻って来てもらいたい所だ。
「ようやく終わったか、僕が最後か。シン達は、やはり凄いな」
しばらく待つと、疲労を隠せないエルリックが帰還する。
その表情を見るに、相当消耗しており、苦戦した事が伺える。
「エルリック、良く帰ってきた」
ようやく帰還したエルリックに、シンは思わず抱きついてしまう。
苦笑いを浮かべるエルリックだが、シンが心配していたと思い、悪い気はしていない様子である。
シンとしては、一刻も早くまともな食事をしたいというのが大きく、戻って来た事に感激しただけなのだが、後ろからユナのうわぁと言うひいたような声を聞き、すぐにエルリックから離れる。
恥ずかしさから咳払いをしながらもエルリックの帰還を喜ぶシンは、食料の催促をしようとしたのだが、エルリックの行動がそれを許さない。
「おや? アイナさん、なかなか美味しそうな物を食べてるね。僕も頂いて良いかな?」
シンが吹き出した蛙の虫詰めに、エルリックは舌鼓をうつ。
まさかの行動に、シンはその食料の正体をエルリックに言うが、エルリックは気にせず食べ続ける。
「シンもどうだい? なかなか美味だぞ」
丁重に断りを入れ、エルリックから普通の食料を受け取る。
待ち望んだ普通の食事だが、シンはどうも釈然としない。
「まあ、こんなのも悪くないか」
仲間達との感覚のズレを感じるシンであるが、これが今のシンが生きる世界であり、本物の日常である。
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