プロクラトル

たくち

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獣王との戦い

神と魔王

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「何をしに来た、この私がそう聞いているんだ。さっさと答えないか」

 世界樹の頂上、万全を期してシン達が向かった先に現れた獣王レオル・フリードは、苛立った様子で再度問いかける。

 シン達は獣王の問いかけに答えない。
 答えないと言うよりは、答えられない、そう言った様子である。

 獣王との対峙を予定はしていた。
 だが、ここでの対峙は予想していなかった。

 この世界樹の頂上には山の神サリスと獣王、何かの秘密があると見当を付け、それを求める為に長い試練を乗り越えて来たのだ。

(まだ、早いか)

 獣王から発せられる痛みを伴う冷気を受け、シンは衝突する時期が早いと考える。
 まだ、シーナを取り戻す手段を見つけ出した訳ではない。
 何もわからぬままの戦闘は危険である。

 山の神サリスは、シーナの体を使用して獣王レオル・フリードとしてこの場に来ており、その体を下手に攻撃してしまえば、シーナがどうなるのかわからない。

 広大な世界樹の頂上にて、獣王が発する冷気が空気を凍り付かせる音のみが響く。
 氷狼、その力の大きさをシンは氷の世界で目にしている。
 それが山の神サリスにより強化されているのだ。
 戦闘は危険、撤退をするべきと決断しようとした所で、思わぬ人物が獣王の言葉に返答をする。

「久しぶりだの、サリス」

 銀色に輝く髪をなびかせ、魔王ティナ・グルーエルがシン達の前へと歩み出る。
 世界分断以降、悠久の時を経て神と魔王は顔を合わせた。

「魔王か、こんな所で何をしている?」

 忌々しい、そう言いたげな表情で山の神サリスはティナを見る。
 過去、この2人に何があったかは知らないが、友好的な関係でない事は、察する事が出来る。

「こんな所か、自分で作っておいて良く言うのぅ」

「それは今関係ない、何をしに来たと聞いているんだ!」

「見た目を変えても、短気なのは変わらんか」

 シーナの顔で怒りを露わにするサリスを見て、ティナは呆れたように言う。
 幾ら容姿を変え、見た目麗しくした所でサリスの性格は変わる事がない。

「いつまで、そんな下らん事をするつもりだ?」

「下らない? 貴様に私の何がわかると言うのだ」

 下らない、サリスの事をそう言ったティナの真意を知るのは、おそらくティナとサリスだけであろう。
 何が下らないのか、シン達には理解出来ない。
 獣王の事なのか、それとも森の世界の事なのか、それがわかるのは、神や魔王のみであるのだ。

「ふむ、話にならんな」

「説教がしたいのか? 神であるこの私に」

「そうは言っておらんだろう、まともに雑談も出来んのか」

 ティナの言葉に、サリスはいちいち難癖をつけようとする。
 まともに会話も出来ない事にティナも苛立ちを感じ始めているようであった。

「まともに話をする気がないのはそっちだろう。何をしに来たと私は聞いている!」

「それはその通りだの。何をしてるのかであったな。強いて言えば暇潰しかの」

 ティナ以上に苛立ちを募らせているサリスに、ティナは最初の質問の答えを言う。
 だが、それはサリスの求めていた答えとは違うようであった。

「暇潰し? ふざけているのか!」

「ふざけてはおらんぞ。妾はそのつもりでここにおるからの」

 暇潰しと答えたティナにサリスはさらに怒りを覚えるが、ティナのその答えは正しい。
 魔王であるティナに、目的などない。
 無限の寿命を持ち、死からも再生するティナは、ただ興味を持った自分のやりたい事をする。

 今回はたまたま砂の世界でシンと出会い、たまたま訪れた森の世界の世界樹に興味を持った。
 その興味を持った先に、山の神サリスがいただけの話なのだ。
 それ以下でもそれ以上でもない。

 魔王はただ自分のしたい事をして、悠久の時間の暇潰しをする。
 その行動理由を聞く方がおかしいのだ。

「なら、今すぐここから出て行け。私は忙しい」

「ふむ、確かに忙しいようだの。心配せんでも妾は手出しはせん」

「さっさと引っ込め、魔王だからと言って神である私と同格とは思わん事だ」

 魔王と対峙するのをサリスは忌避している、シン達はそう感じていた。
 神としてのサリスならば、魔王と同格であるが、獣王レオル・フリードとしての今の状態では、魔王に太刀打ち出来ない。

 ティナが前に出た事で、シンは少し期待をした。
 突発的に神と対峙する場面で、魔王の力が借りられるならば心強い。
 だが、ティナはやはり手出しをしないつもりのようだ。

「他の奴らは、何をしに来た?」

 ティナが動かないと知り、サリスの意識はシン達へと向かう。
 ティナが言葉を交わした事で、逃走しづらい雰囲気なり始めている。

「シーナを返してもらうわ」

 真紅の刀をサリスへと向けたユナは、目的を達成隠す事なく宣言する。
 強気な彼女に、逃げると言う選択肢はない。

「この体か? それは無理だな。私はこの体を気に入っている」

 ユナの言葉を聞いたサリスは、堂々たる態度で拒絶をする。
 宣戦布告とも取れるユナの言葉に、広大な世界樹の頂上は、さらに温度を低下させる。
 冷気が増した世界樹の頂上で、獣王レオル・フリードが、敵を殲滅する為歩み出る。

「ロイズ、精神の剥離を準備しておいてくれ」

 今の所、シーナを取り戻すには、ロイズの力が頼りである。

「シン、妾の見立てではシーナの奪還は可能だぞ」

「どういう事だ?」

 ティナは全てを見透かす瞳を持つ。
 その彼女が言うからには、ここで何かを起こせばシーナを取り戻す事が可能なのだろう。

「なぜ、ここにサリスが来たか。それを忘れるでないぞ?」

「そういう事か」

 ティナの言葉に反応したのはエルリックである。
 リリアナのいない今、彼が指揮官となりこの面々をまとめなくてはならない。

「エルリック、何がわかった?」

「今日がちょうど一年、そういう事だ」

 シーナが獣王として山の神サリスに奪われてからちょうど一年、それが今日であった。
 獣王は年に一度、世界樹の頂上へと赴く。
 なぜ、行く必要があるのか誰も知らなかった。
 だが、それを知る唯一の機会に、シン達は恵まれたのだ。
 サリスはここに来てから何かをした訳ではない。

「あの様子、何か焦っている気がする。師よ、時間を稼ぎますか?」

 冷静にサリスの様子を観察していたアイナは、その様子からサリスの焦りを読み取る。
 冒険者として活動していた彼女には、知らぬ敵を観察し、瞬時に物事を判断するのは、必須の能力だった。

「相手は神が乗り移った獣王だ、出来るか?」

 初代獣王と渡り合ったアイナならば、今のサリスに対しても時間稼ぎは可能だろう。
 それに加えて、シンやユナ、ナナもいる。
 十分抵抗するのは可能なはずだ。

「よし、エルリックとロイズ2人は隙を見てサリスがここに来た理由を見つけてくれ」

 エルリックとロイズ、この中で優秀な頭を持つ2人に、サリスがこの場に現れた理由を探るように指示をする。

「俺達は時間稼ぎだ。俺とメリィが氷を防ぐ、ナナは全体の援護、ユナとアイナはあいつを出来るだけ傷つけないよう気をつけて、近接戦闘だ」

 世界樹の頂上を氷の世界に作り変え始めたサリスとの戦いは、メリィの炎の息吹により始まりを告げた。
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