プロクラトル

たくち

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獣王との戦い

神と神

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「神である私に反抗するか、愚かな者達だ」

 メリィが放つ炎の息吹は、山の神サリスが操る氷によりその肉体を焼き焦がす事は叶わなかった。
 シーナの体を守るように半円で展開された氷の壁は、灼熱の炎を遮り、蒸発する音を立てながらも突破する事を許さない。

「強く、なってる」

 1年前、シーナの体を使い始めた頃にサリスと戦闘したナナは、眼前に広がる光景を目にして呟くように話す。
 獣化をしたメリィの炎を現在のサリスは軽々と防ぐ。
 前回対戦した時よりも、その力が強大になっている。

「めんどくさい事になったな」

 山の神サリスの実力を確認したシンは、忌々しそうに顔を歪める。
 この1年の間に、サリスはシーナ、そして氷狼の力を完全に掌握していた。

「人族の分際で私を軽く見るなよ」

 シンの言葉を聞いたサリスは、舐められていると感じたのだろう。
 絶対的支配者の神という事に誇りを持つサリスは、他の種族を見下す傾向にある。
 世界分断前、神として容姿が優れていない事に加えて、その性格も信仰を集める事の出来ない要因でもあった。
 しかしサリスはそれに気づいてもいないし、仮に気づいたとしても直そうとはしない。

「ノアとは随分違うんだな」

「何?」

 これまでのやり取りと、今の態度を見てシンはサリスを己の神であるノアと比べていた。
 地の神ミアリスも傲慢な神であった、しかし敵である者を見下しはしていたが、味方となる者達にはある程度の関係を築いていた。

 代行者であるニグルの最後の時、助けに来なかったが、あれはノアがミアリスを抑えていた為である。
 ニグルとの関係も悪いとは言えなかっただろう。
 ナナのような対神兵器の研究は許せない事であるが、このサリスほどではない。

 人族を混じり者などというものに変化させ、人族として完全にする為には、使命を果たさなくてはならないとする。
 その使命は本人でさえ、わからないものだ。

 混じり者は侮辱され、重税を課される。
 当然、自由などほとんどない。

 そうなれば誰しも使命を果たす事をしたいはずだ。
 しかし、混じり者に課された重税がその自由を奪う。

 永遠に繰り返されているこの森の世界のルールは最悪だ。
 シーナが虐げられ苦しむ姿を間近で見ていたシン達だからこそこれを言える。

 そのルールを変えられる可能性がある唯一の存在、それは森の世界の王として君臨する獣王レオル・フリードのみだ。
 だからこそ、誰もが獣王を目指し戦い続ける。

 だが、獣王レオル・フリードの正体は、山の神サリスである。
 森の世界を救おうと獣王になった者は、サリスにより体を奪われる。
 獣王を目指していた者のその目的を達成する事など出来るはずがない。

「お前より、ノアの方が神に相応しいって言ってんだよ」

 降り注ぐ氷の弾丸を、虚無の大鎌で消滅させながらシンは言う。
 サリスが神の名に相応しいとは到底思えない。

「貴様、ノアを知ってるのか?」

 世界分断で無の世界に閉じ込められたノアを知る者は限りなく少ない。
 7人の神のうち、最もサリスが嫌う神の方が上だと言われ、穏やかな心境ではない。

「知ってるも何も俺はノアの代行者だよ」

 ノアとの関係を隠す必要はない。
 山の神サリスは、シンがノアの代行者として倒すべき敵である。

「そうか、あいつの代行者か」

 シンへと降り注ぐ氷の弾丸がさらに激しさを増す。
 サリスの中で、シンに対する嫌悪感が強まっていた。

「お前には、代行者がいないな」

「それがどうした。神である私にその様な存在は必要ない。私はノアよりも優れているのだ」

 サリスは代行者がいないのではなく作れない。
 それを指摘しようとしたシンであるが、サリスはその事実を認めようとはしない。
 神である自分が人族の手を借りるなど、サリスにとって屈辱以外の何物でもないのだ。

 シンの大鎌、メリィの炎でサリスの氷を防ぎつつ、シンはサリスとの会話を続けようとする。
 時間稼ぎに徹底する為に、サリスの意識をエルリック達から離さなくてはならない。

「紫雷破塵」

 サリスのもとに辿り着くのは困難と見極めたアイナは、魔術での応戦に切り替える。
 無数の氷の弾丸に向け、紫電をはしらせる。
 塵のようになるまで氷を砕き、駆け抜ける紫電はサリスに向かうが、サリスの身を守る氷の障壁を崩すには至らない。

「貴様が1位か。人族の分際で、神の名を語りおって」

 アイナの攻撃を見たサリスは、憤怒する。
 人の身でありながら神の異名を持つアイナは、サリスにとって許し難い存在だ。

「我が付けた異名ではない」

「誰が付けたかなど関係ない。神の名を語る、それだけで貴様は罪なのだ」

 サリスとの会話に意味がないと判断したアイナは、愛剣である双紅蓮を手にユナと共に接近する。

 サリスが放つ氷撃は、大部分をシンとメリィが無効化し、撃ち漏らしをナナが盾を創造する事で防ぐ。
 アイナとユナは、サリスの攻撃に目を向ける事はない。
 仲間が全て防いでくれる、そう信じているからこそ出来る行動だ。

「人族の分際で、私に近寄るな!」

 広大な世界樹の頂上で、サリスのもとに近寄りつつあったユナ達を見たサリスは、憤怒の雄叫びと共に周囲を凍てつかせる。
 サリスを中心として、波のように押し寄せる氷壁は、至る所に剣山のような突起を持ち、触れる者を貫かんとする。

「ユナ、アイナ、伏せろ」

 突撃をやめ、体制を低くしたユナ達を確認したシンは、漆黒の大鎌を振りかざす。
 全てを消滅させる不可視の斬撃が、氷の進軍を許さない。

「メリィ、残りを」

 シンにより大部分を消失させた氷の波をメリィが炎の息吹で蒸発させる。
 今はまだ、数の利を活かし、シン達は優勢に進められる。

「ちっ、面倒な奴らだ」

 広範囲の攻撃で、一気に仕留めようとしたサリスは、防がれた事に苛立ちの声をあげる。

「俺としたら、もうちょっと話をしても良いんだけどな」

「神である私と会話しようなどと言うか、思い上がるなよ人間」

 シンの言葉に、サリスは何度となく否定の言葉を返す。
 このやり取りこそシンの狙いでもあるのだが、サリスにはそれがわからない。

「シン、あいつには何を話しても意味がないよ」

 世界樹の頂上に新たな乱入者が現れる。
 何物にも染まらない真っ白な髪を持つ女性は、プカプカと宙を舞いながら、冷気の立ちこめる戦場に姿を現した。

「ノア、遅いぞ」

「ごめんよ、ここに干渉するのに若干手間取った」

 サリスが姿を現してから、シンはノアを呼び出していた。
 だが、この場へノアが姿を現わすには想像以上に困難であったのだ。

「貴様、よくもぬけぬけと」

 ノアの姿を目にしたサリスは、これまで以上の怒りを見せる。
 氷の軋む音がさらに大きくなった空間に、2人の神が対峙する。

「おや? 随分と良い容姿になったじゃないか。前の姿は見ていられなかったからね」

「貴様ぁ!」

 シーナの体を奪ったサリスに、ノアは嫌味を言う。
 サリスが何を言われるのが嫌なのか、ミアリスから聞いた情報でそれを知っていた。

「ボクの美しい姿に嫉妬したのかな? 君はいつもボクを毛嫌いしていたね」

 世界分断以来、サリスと顔を合わせたノアは、徹底的に挑発をするつもりのようだ。

「だからなんだ。ここは私の支配する世界だ。貴様に勝ち目はないぞ」

「そうかい? それは残念だ。でも負ける気はしないな。人族を下に見ておきながら、その人族の姿を奪って美しくなろうとする神なんて、ボクの相手にならないよ」

 ノアの指摘に、サリスは激怒する。
 氷狼の力で空間全てを凍てつかせ始めるが、それはノアにより防がれる。
 ノアはただ、指を振るだけで瞬時に生成される氷を一つ残らず消滅させていく。

「ほらね、今の君ではボクに勝つ事は出来ないよ。あの醜い姿になれば可能かもしれないけどね」

 山の神サリスとの戦いは、無の神ノアの乱入により、さらに激しさを増す。
 ノアとシン、神と代行者は初めて敵である神と直接対峙をする。
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