プロクラトル

たくち

文字の大きさ
137 / 174
獣王との戦い

神の力

しおりを挟む
「シン、ちょっとだけ良いかい?」

 サリスとの会話を終わらせたノアは、シンと念話を始める。
 念話をすると言う事は、この会話を他者に聞かれたくないのだろう、他者と言うよりはサリスにである。

「ああ言ったけど、正直ここに来るだけでも相当な負担だ。サリスが支配するこの森の世界でも、ここは特別な場所、ボクが居るとはいえ油断しないでくれ。それにクラウが来ないとは限らないからね」

「わかった、基本は俺とメリィで防御。ユナとアイナが攻撃の形は変えない。俺達が防ぎきれないやつを頼む」

 ノアは表情に出していないが、相応の力を消費し続けている。
 いくら神とはいえ、他の神が支配する場所への干渉は簡単な事ではない。

 神同士の戦いは、唯一神クラウ・ディアスにより禁じられている。
 だが、今の相手は山の神サリスでなく獣王レオル・フリードだ。
 先ほどのやり取りは、砂の世界でミアリスと戦闘になりそうになった時のような、クラウ・ディアスの干渉がない事をノアは確認したのだ。

「ノアぁ!ここで始末してやる!」

 ノアが現れた事により、シン達の目的であるサリスの足止めも成功している。
 サリスの瞳は、宙を舞うノアのみに注目しており、気配を消したエルリック達に気づいていない。

「サリス、ボクを倒したいならここまで来てみるんだ」

 激情に駆られるサリスをノアはさらに挑発する。
 ノアを滅ぼすべくサリスは進み出るが、それを許さない事がシン達の役目である。

「人間風情が、邪魔をするな」

 冷気を溢れさせながら進むサリスを阻むように、ユナとアイナが立ち塞がる。
 皇龍刀”契”に双紅蓮、オーガスが生み出した業物を持つ2人は、サリスが無意識に作り出す氷の障壁を斬り裂き、サリスへと肉薄する。

「ちっ小賢しい!」

 アイナが切り開いた道をユナが進む。
 真紅の刀を煌めかせ、サリスへ接近する。
 自動で作動する氷の防御、通常では突破不可能に思える鉄壁の守りも、序列1位と4位のこの2人なら突破可能になる。

 真紅の刀がサリスへと迫るが、それが直撃する事はない。
 金属の撃ち合う甲高い音が鳴り、ユナの刀は行く手を阻まれる。

 ユナの刀を防いだ物、それはサリスが創造した氷の剣である。
 生み出した氷を極限まで圧縮したその剣は、皇龍刀ですら斬る事の出来ないほどの硬度を持っていた。

「えっ?ちょっと⁉︎」

 サリスが生み出した氷の剣は、ユナの刀を受け止めるだけにとどまらない。
 真紅の刀は氷の剣に接触している部分から、瞬時に凍結される。

「そのまま凍てつくか、貫かれ死ぬか、どちらが良い?」

 離脱をしようとするユナだが、既に氷の侵食は手首まで進んでおり、サリスから離れる事が出来ない。

 驚異的な速度で侵食が進む氷だが、ユナを襲うのはそれだけでない。
 逃げ場なく周囲を覆うように氷の礫が作り出される。

「それはさせないよ」

 ユナの周囲に展開していた氷の礫は、瞬時に消失する。
 シンやメリィでは間に合わないと判断したノアによる妨害である。

「ユナ姉、堪えてください」

 侵食する氷に向け、アイナは電圧のみを高めた雷撃を流し込む。
 流し込まれた雷撃は、振動で侵食した氷をひび割れさせる。

「おりゃ!」

 ひび割れ始めた氷をユナが蹴りを入れる。
 ガシャンと音を立て崩れ落ちる氷を蹴り込んだ足が軽く凍結されるが、アイナがユナの襟を引っ張り離脱する。

「ユナ、無事か?」

「手をやられたわ、感覚がない」

 氷の侵食を無理矢理脱出したユナの手は、皮膚が剥がれ、血を滴らせている。
 治癒薬により少しずつ回復を見せるが、極度の凍結により凍えつかされた手は感覚が戻らず、刀を握る事が出来ない。

「メリィの側にいるんだ。そうすればじきに治る」

 ユナの肩にメリィを止まらせ、最前線から離脱させる。

「俺が前に出る。ノア、頼んだぞ」

 シンの武器の特性上、近接戦闘での連携は苦手としているが、アイナであれば心配ないだろう。
 剣による攻撃と魔術による攻撃、中距離型のアイナならば、多少サリスと距離が離れても問題ない。

「ノア、私が怖いのか? そんな人間共の影に隠れて、神として恥ずかしくないのか」

 シン達に戦闘をほとんど任せ、後方に控えているノアに対し、今度はサリスが挑発をする。

「その人間に手間取ってる君は、神として情けないと思うけどね」

「貴様ぁ」

 挑発したつもりが、ノアに言葉を返されサリスは激昂する。
 ユナを一時戦闘不能にしたサリスだが、ノアの所まで辿りついていない。
 神と言う事に誇りを持つサリスは、認めたくない事実だろう。

「ボクと戦いたいなら、この子達に勝ってからにするんだね。まあ、今の君には不可能だろうけど」

 追い打ちをかけるようなノアの挑発で、サリスはシン達へと意識を向ける。
 気迫の溢れるサリスに、シンは苦笑いを浮かべる。
 こちらに目を向けさせるのは良いのだが、本気を出したサリスに攻撃されるのは、良い状況とは思えない。

 サリスから溢れ出た冷気は、既に周囲一帯を氷結させるほど強まっており、氷狼の力を十分に引き出せる状態だ。

「なら、すぐに引きずり出してやろう」

 獣王選定本戦、アルファスの仲間と対戦したシーナが、最後の一撃として放った氷狼の穿牙。
 たった一撃で大地を抉り取るほどの氷狼の牙が、数十本にわたり生成される。

「あれはボクに任せてくれ」

 氷狼の穿牙を一つずつノアは消滅させる。
 だが、ノアよりも早くセレスの技が完成する。

「シン、残りを」

 虚無の大鎌を氷狼の牙の群れへとシンは振りかざす。
 数十本の牙は、大鎌の通り過ぎた直線上で消滅する。

「残りは我が、翔雷・天馬」

 練り上げた魔力を雷へと変換させたアイナは、形のない雷を天翔る天馬へと形成し、空を駆け抜けるように氷狼の牙を破壊させていく。

「メリィ!」

 氷狼の牙は、破壊されてもその破片がシン達を襲う。
 ユナの掛け声を受けたメリィが、体を膨張させシン達を包み込むように氷の破片を溶かす。

「まだ、終わらんぞ」

 氷狼の穿牙を打ち終えたサリスは、さらなる追撃をするべく氷の槍を生成する。
 身長の倍以上ある貫通力を高め、形成させた氷の槍を、サリスは音速を超えた速度で投擲する。

「私が、やる」

 メリィの翼に囲われた状況で、ナナはサリスとの間に分厚い鋼鉄の盾を創造する。
 槍と盾、高い硬度を持つ物質の衝撃は、耳を塞ぎたくなるほどの高音と衝撃波を生み出した。

「ほら、次だ」

 前の槍が完全に防がれる前に、サリスは次々と氷の槍を砲撃のように投げ込んでいく。

「ナナ、もう少し耐えてくれ」

 サリスの怒涛の連撃に耐える盾に、ナナは魔力を絶える事なく注ぎ込む。
 削られては再生されていく巨大な盾だが、サリスの猛攻は、その再生を上回る速度で繰り出されていく。

「よく耐えたね、ボクに任せるんだ」

 瞑想を終えたノアは、ナナが創造した盾のある方向へ腕を向ける。

「シン達、惚けておらんで妾のもとに集まらんか」

 これまで沈黙を保っていたティナだが、ノアの行動を見て、シン達を呼び寄せる。
 何が起こるかわからない一同だが、素直にティナの指示に従う。

「シン達は妾が守っておるからの」

「ありがとうティナ」

 シン達を包み込むように、ティナの魔気が展開される。
 猛々しく、それでいて落ち着きを覚えさせるティナの魔気は、不思議な感覚である。

「サリス、その姿でボクに挑んだ事を後悔するんだね」

 ノアの言葉は、サリスには届かない。

「世界は全て、無から始まり無で終わる。それを君に教えてあげよう」

『無神の嘆き』

 サリスの攻撃により、轟音と粉塵の舞い散る世界樹の頂上が、全てを無に帰す光により包み込まれる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...