プロクラトル

たくち

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獣王との戦い

ノアの思惑

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「ロイズ、まずはあの歴代獣王の所に侵入しようと思う」

 ノアが現れる前、この世界樹の頂上を探る役目を受けたエルリックとロイズは、気配を消し山の神サリスの目を欺きながら広大な広間を進んでいく。

 シン達がサリスの意識を集めているとはいえ、エルリック達は細心の注意を払わなくてはならない。

 シーナの奪還は、エルリック達が成功の鍵を握る。
 奪還する方法はわからないが、サリスと鉢合わせした以上、この場を詳しく捜索する時間はない。

 エルリック達の目指す場所は、サリスが現れた先にある歴代獣王の姿が見える所だ。
 この世界樹の頂上の中でも、あの場所だけは明らかに異質である。

「戦闘が始まったら、サリスはシン達に注視するはず。それまで枝の影に隠れよう」

 現在、サリスはティナと会話をしている。
 やはり神であるサリスにも、魔王は警戒すべき存在であるらしく、エルリック達の行動には全く気づいていない。

 そのおかげもあり、エルリック達が視界から消える事になってもサリスは違和感すら感じていない様子が伺える。

「よし、行こう」

 メリィの吐き出した火炎が開戦の合図となった事を確認し、エルリック達は反対側にある玉座の奥へと向かう。
 世界樹の頂上であるこの広間の膜に覆われた端の方では、世界樹の枝が幾重にも重なっており、入り組んだ地形になっている。

 この地形がエルリック達の行動を助ける事となる。
 サリスからエルリック達を隠すように壁となる巨大な枝は、メリィの炎やサリスの氷などを防ぐ盾になるほどの強度を持っていた。

 多少、枝が抉られる事もあるのだが、流れ弾がエルリック達に直撃する事はない。
 その事が、隠密行動を確実なものとする。

 サリスとシン達の戦いは、激化をたどっている。
 しかしそれは、サリスの意識がシン達に集中していると言う事であり、エルリック達の行動を順調に進ませる要因となる。

「玉座には何もなさそうだね」

 戦闘音が鳴り響く中、サリスの後方へと回り込んだエルリックは、玉座を確認するが特殊な気配を感じなかった。

「次はあの膜の外か、どうやって入るんだ?」

 歴代獣王達の姿は、近くで見れば見るほど本物と遜色ない。
 世界樹の試練で全ての獣王と対決した彼らだからこそわかる事だ。

「この膜を少し破いてみよう」

 無王の双槍を取り出したエルリックは、音を立てぬよう軽く切り込みを入れようとする。
 だが、薄く強度のなさそうな膜は、エルリックの槍を吸収するかのように柔らかく、刃を通させない。

「力を入れてもダメみたいだ」

 エルリックは刃を押し込むようにするが、膜はその動きに合わせるように押し出され、刃の侵入を拒む。

「入り口は見当たらない、どうすればいいんだ?」

 歴代獣王達が立ち並ぶ空間は、エルリック達のいる広場とは隔離されている。
 あちら側へと進む為の扉などの類は見当たらず、侵入するにはこの薄い膜を潜り抜けるしか思いつかない。

「この膜を吸収出来ないか?」

「いや、無理みたいだ」

 吸引闇虫により、膜の吸収を試みたが膜は一切吸収されない。

『エルさん、こっちです』

「シーナさんか?」

 世界樹の頂上で膜の突破に苦戦するエルリック達に思わぬ声が聞こえて来た。
 エルリックの事をエルさんと呼ぶ、年齢に比べて落ち着きを持った声を持つ者は、エルリックは1人しか知らない。

『そうです、お久しぶりですね』

「君は無事なのか?」

『はい、獣王任命式の時、サリスが私になり代わりましたが、私自身は無事です』

 シーナが無事である事に安堵したエルリックだが、それと同時にシーナの発言に違和感を持った。

「なり代わられた?」

 シーナは確かにそう発言している。
 だが、そこに違和感がある。
 体を奪われたではなく、なり代わられたと言ったのだから。

 エルリック達の考えとシーナの言葉には齟齬がある。
 その齟齬がこの状況を変化させるとエルリックは感じ取った。

『はい、あそこにいる私の体はサリスが作り出した幻想の姿です。幻想と言っても完璧に私と同じである事には変わりませんが』

 シーナの話す事は、エルリック達にとってかなり有用な情報だ。
 ここからのエルリック達の動きにより、一気に解決に向かう可能性が高い。

「どうして今僕達と会話が出来るんだい?」

『私の姿を模した木像を持ってますね?』

「ああ、持っているよ」

 シーナの言葉を聞いたロイズは、吸引闇虫の中から木像の頭のみを外に出す。
 すると木像の瞳に埋め込まれた宝石のような物が、輝きを強めているように見える。

『その木像に私の精神が入り込んでいます』

 予想していた通り、世界樹により作られた木像は、シーナの精神を封じ込めていた。

『獣王任命式では、この世界樹の頂上に来ます。世界樹の力が集約するこの場所で、その力を媒介に私は肉体と精神を分離されたのです』

 森の世界の力を集約している世界樹の中で、さらに力を集めているこの場所で、シーナは山の神サリスにより肉体と精神を分離されてた。
 その際、本物のシーナの体は、この薄膜の奥に封印され、精神は木像に封じ込められた。

『サリスの力を持ってしてもこの肉体と精神の分離を長時間維持するのは難しいらしいです。月に一度、この場所で儀式を継続しています。今まで私は肉体と木像が別れていたので、獣王となった時から記憶が途切れていますが、こうして精神と肉体が近づいた事で意識が戻りました。これまで起こった事の予測は出来ます』

 サリスは獣王となった者の肉体を奪うのではなく、獣王となった者の意識を消失させ、その者となり代わる。
 それが獣王選定を勝ち抜いた者の末路である。

 サリスにより、肉体と精神が分離された獣王は、その時点から記憶を途切れさせられ、次の獣王が決まると共に肉体と精神が再び一つになる。

 サリスが使用していた先代の獣王の肉体は、そのままこの空間に保管される。
 この空間にあるシーナ以外の獣王の肉体は、サリスがかつて使用していた物である。

「なら、どうしたらシーナさんは元に戻るんだい?」

『わかりません、ですがこのままサリスに妨害を加えていれば、いずれ元に戻ると思うのですが』

 サリスがここに来たのはシーナの肉体と精神の分離を継続させる為の儀式をする為である。
 だが、それがわかってもいつまで継続するかはサリスにしかわからない。
 そこまでサリスと戦闘をし続けるのは危険である。

『ボクに考えがあるよ』

 シーナとエルリック達の会話に、ノアが介入する。
 エルリックの持つ無の証を通じて会話に混ざるノアは、何か考えがあると言う。

「ノア様、何をするのですか?」

『エルリック、シーナの木像をしっかり持っておいてくれ』

 ノアからの返事は短い。
 ただそれだけを言い残し、ノアはシン達の側に現れた。

「とにかく、ノア様の指示に従おう」

 シーナの木像を抱えたエルリック達を、ノアが発した光が包み込む。
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