プロクラトル

たくち

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獣王との戦い

神への挑戦

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「ノア、貴様よくも」

「やあサリス、随分懐かしい姿だね。もう一度久しぶりと言っておこうか」

 無神の嘆き、ノアがそう呟いた直後、シン達が立っていたのは先ほどまでいた世界樹の頂上であった広間ではない。

 ノアから発せられた光は、すべてを包み込むように広がり、あまりの眩しさにシン達は瞳を閉じた。
 そしてそれが収まり、瞳を開けるとシン達は見知らぬ場所へと移動していたのだ。

「ここは? 転移ではないよな」

 転移魔術特有の精神だけが移動する感覚はない。
 目の前に広がるのは、何もない無の世界と同じ景色。
 その事から考えられるのは、一つだった。

「シン達は異常ないかい?」

 この空間を作り出した存在であるノアは、シン達の様子を伺う。
 ティナにより守られていたシン達に異変はない。
 ノアの技により、変化が起こったのはシン達を除く、サリスと周辺の地形のみである。

「あれがサリスの本体か?」

 ノアの技を受けたサリスは、シーナの姿ではなく試練で見た、神としての姿をしている。
 太った肉体は、立っている事すら困難な様子を見せている。
 長らく使っていなかった肉体に困惑している様子である。

「ボクの力でここ一帯の空間にあった出来事をなかった事にした。サリス、君はシーナの体を気に入っていたようだからね、強制的に戻させてもらったよ」

 ノアの力により、サリスのなり代わりは無効化させた。
 サリスが神として姿を現した事により、ノアは戦闘を継続出来なくなるが、それ以上の収穫があった。

「おにぃさん、久しぶりなのかな? どのくらい時間が経ったかわからないけど」

 山の神サリスの後方から、シンに向け懐かしい呼びかけが聞こえてきた。

「シーナ、戻ったのか?」

「うん、おかげさまでね」

 水色の髪に氷狼の耳を頭から生やしたシーナは、氷により生成した弓を持ち、エルリックとロイズと共にシン達のもとへと向かう。

「ノア様、ありがとうございます」

「礼は要らないよ」

「おにぃさん、私も戦うよ」

「無理するなよ、基本は俺達に任せて良いからな」

 ノアにより肉体を取り戻したシーナは、状態を確認するように軽く運動をする。
 この一年により、僅かながらシーナの体は成長していた。

 体内から感じる氷狼の力を、シーナは懐かしさを感じる。
 未だ、シーナは混じり合ったままだが、その事も今のシーナにはこの体が誇らしく感じる。

 仮にも森の世界の王となっていた体だ。
 サリスに利用されていたとはいえ、その事実は変わらない。

 虐げられていた自分にも、こうして相手が神と知りながらも救いに現れる仲間達も出来た。
 それが何よりもシーナには嬉しかった。

「シーナ、どうした?」

 シーナの異変に、シンは気づく。
 シーナの体が、不意に輝き始めたのだ。

「これは、シーナさん、君は使命を果たしたようだね」

 森の世界の住人であるロイズが、シーナの異変の正体を見抜く。
 かつてロイズ自身にも起こった事だ。

「君が、私の氷狼?」

 シーナの隣に、巨大な白銀色の狼が出現する。
 随所に氷を纏い、白銀色と水色に輝くその狼は、シーナを守護するようにサリスへと威嚇を始める。
 大陸の覇者と呼ばれる魔獣達の一角に名を連ねる氷狼は、神や魔王に劣らない存在感を示している。

 まだ若く、活力に満ちた氷狼は、主人となるシーナの敵を瞬時に悟っていた。
 主人であるシーナをその大きな背に乗せ、遠吠えをする。

「そう、一緒に頑張ろう」

 その遠吠えの意味を、シーナのみが理解出来る。
 唯一無二のパートナーを得たシーナは、山の神サリスの前に、シン達と並び立つ。

「ノア、許さんぞ」

 シーナが使命を果たした事に、サリスも苛立ちを感じていた。
 これが、ノアの無神の嘆きの前であれば、あの氷狼を自身の手駒として手に入れていたはずなのだ。

「サリス、ボクと君が戦いをすれば、クラウが邪魔をしに来るぞ?」

「ちっ」

 この状況を作り出したノアをサリスは攻撃をしようとするが、ノアの忠告によりその行動を止める。

「なら、貴様の代行者。その男を殺してやろう」

 ノアからシンに標的を切り替えたサリスは、一本の杖を取り出した。
 余計な装飾は一切されておらず、ただ木を削り出して作り出したその杖は、独特の雰囲気を醸し出す。

「シン、サリスは基本的に動かない。だけど油断はするな、サリスは生命を生み出す神。ボクがすべてを無に帰すなら、サリスは無から有を作り出す。能力はボクの対極にあると思ってくれ」

 ノアの説明にシン達は警戒を強める。
 初めて対峙する神は、見た目とは裏腹に圧倒的な存在感を放っている。
 不思議と体から汗が流れ落ちる。

「ユナ、手は戻ったか?」

「もう大丈夫よ。問題ないわ」

 氷により負傷したユナだが、すでに回復し真紅の刀を構えいつでも斬り掛かれる体勢をとっている。

「ユナとアイナは2人で攻めてくれ、俺とエルリックと交互に交代しながらサリスを牽制だ」

「了解よ」

「ナナとロイズは俺達の援護だ。シーナとメリィは遠距離から奴を攻撃してくれ」

「この獄炎鳥は、やはりメリィさんだったのですね」

 獣化をしたメリィとシーナは初めて対面する。
 かつて獣王となる為争った2人は、生まれ育った世界の神であるサリスとの戦闘に表情を硬くする。

「サリスは全盛期の力を持っていない。この世界で崇められているのは獣王レオル・フリードであって山の神サリスではないからね」

 信望を集めていたミアリスと違い、サリスは使徒を増やす努力をしていない。
 神として森の世界に君臨しているが、その力は他の神よりも劣る。
 だからこそ、ノアの無神の嘆きに抵抗が出来なかったのだ。

「ボクはサリスと直接戦った事はないから、これ以上の助言は出来ない。君達に後は任せるよ」

 傍観を決めているティナの隣にノアは向かう。
 サリスとの戦いは、シン達に委ねられる。

「ティナはどう見る?」

「わからん、神と戦うなどこれまで誰もしておらんからの」

 世界分断以降、神に挑んだ者はいない。
 絶対的支配者である神に人族であるシン達がどれだけ対抗出来るのか、それはノアやティナにもわからない。
 神が本気で戦う所を、同じ神であるノアも見た事がないのだ。

「まあ、シン達であれば良い所まで行くと思うがな」

 初めて目にする神との戦いに、ティナは心を躍らせていた。
 人族の強さを示す序列に名を連ねる者が4人もいるのだ。
 サリスの力を見るのに、これ以上の者達はいないだろう。

「やっぱり、勝てるとは思っていないね。まあボクもそう思ってるけど」

 それでも勝利する確率は低いとノアも考えていた。
 サリスの力が他の神に劣るとはいえ、人族とは根本的に異なる存在なのだ

「ボクに出来る事は、あまりなさそうだね」

「ノアは手を出すなよ、クラウに来られては妾も立場がないからの」

 静かな空間に、魔王の笑い声が響いていた。
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