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獣王との戦い
過去と今
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「おや? 君は、サリスじゃないか」
クラウ・ディアスの召集を受けたサリスは、巨体を揺らし、集合場所へと赴く。
召集に関して乗り気ではなかったのだが、クラウ・ディアスには逆らえない。
時間をかけ、ようやく集合場所へと着いたサリスを出迎えたのは、始めて出会った時よりも数段美しさを増していたノアであった。
この時感じた感情をサリスは忘れる事が出来なかった。
1人の信徒もなくし、惨めに醜くなったサリスと対照的なノアの姿を忘れられる訳がない。
この時のノアは、サリスの目には輝いて見えた。
それは、かつての自分を見ているようであった。
同時に、別の感情も渦巻く。
誰にもサリスであるとわかってもらえなかったはずが、ノアは一目でこの醜い者がサリスだと見抜いたのだ。
それは、嬉しくもあり、悲しくもあった。
むしろ、負の感情の方が大きかった。
ノアがこの時、どう思っていたのかは誰にもわからない。
しかし、サリスにはこの輝いていたはずのノアの瞳が、徐々に変化していったように感じられた。
ノアの瞳が、自身の事を蔑んでいるように感じたのだ。
今となっては、この時サリスが感じていたものは、ただの僻みであるとわかる。
何もかも失ったサリスと違い、ノアは今も大事な物を増やし続けている。
当時のサリスは、ノアに対し強い劣等感を抱いていたのだ。
美しく、人々にも慕われ、力もあり、何より唯一神クラウ・ディアスの妹である。
ノアには、全てが揃っている。
それが、何よりも羨ましく思えた。
結局、クラウ・ディアスの召集で集まった神達の中で、サリスの事に気付いたのはノアだけであった。
サリスの姿を見たクラウ・ディアスでさえ、瞬時には判断出来なかった。
その事実は、サリスに重くのしかかる。
人族のみならず、他の神にも、魔王にも、龍王にも相手にされていないと実感させられたからだ。
どの者も、サリスを見下していた。
その召集で、サリスに話しかけてくる者はいない。
誰も相手にすらしないのだ。
招集による会談で、何が話題だったのかすらサリスは覚えていない。
もう、何をするべきか、考える事も億劫だった。
この日を境に、サリスは世界を支配する神を決める争いの一線から、退く事になる。
実際に候補から外された訳ではない。
サリス本人にも、その他の者の目にも、サリスが頂点に立つ事がないと判断されたのだ。
それから、サリスは自堕落な生活を送り続けた。
他の神と争う事も、自らを信仰する者を増やす努力をする訳でもない。
ただ、クラウ・ディアスからの定期的な招集に応じる事しかしなかった。
ノアに対する感情は、その度強くなっていく。
他の神は、どうでも良かった。
しかし、何故だかノアだけは許す事が出来なかった。
ノアだけを憎む日々を過ごす中、サリスに近づく者が現れた。
蒼色の髪を持つ、海の神ウリスである。
何がきっかけだったか、サリスは思い出せないが、いつの間にかウリスと話をするようになっていたのだ。
これまでの事、これからの事、そしてノアの事。
ウリスにだけは、何故だか隠し事をしなかった。
それは、今でも変わらない事だとサリスは思っている。
ウリスには、そう思わせる不思議な感覚があった。
そんなある日だ。
ウリスが、唐突にある提案を言い出したのだ。
それは、当時のサリスにとって最高とも最悪とも思える提案だったと、今は思う。
サリスは、当然その提案を受け入れる。
そして、神々の戦いは、一気に激化していったのだ。
サリスがした事は、少しのきっかけに過ぎなかった。
だが、その少しのきっかけが始まりとなり、最終的にクラウ・ディアスは世界を7つに分けたのだ。
その時、サリスは森の世界を任された。
しかし、そんな事はどうでも良かった。
あのノアを無の世界へと封じ込め、神々の戦いから脱落させた。
そこの事だけが、重要だった。
サリスは初めて、ノアに勝つ事が出来たのだ。
それを成し遂げたサリスは、他の世界と争うつもりはなく、全ての世界を支配する気もなかった。
クラウ・ディアスが定めた、神と代行者による争いにも興味がなかった。
ゆえに、代行者など決めた事がなかったのだ。
森の世界を任された直後、サリスがした事は少ない。
森の世界に生まれる人族に、使命を命じる。
そして、その使命を果たさなければ、醜い混じり者と蔑まさせると誘導する。
自分の事を醜いと罵った人族達に、復讐をしたのだ。
人族は、人族である事に異常なほど誇りを持つ。
人族が他種族を卑下する事は、今に始まった事ではないのだ。
そんな人族が、忌み嫌う魔獣や何かの生物と混じり合うなど、耐えられるはずがない。
しかし、その混じり合ったものが、別れると相棒などと言うのだから、サリスからすれば人族は救いようがないように思える。
それを成し遂げる為の種族混合は、神であるサリスならば、可能な事だった。
持つ力の大半を使ってしまったが、他の神と争いをするつもりのないサリスには関係ない。
結果、現在のような森の世界のルールが出来上がる。
その後は、サリス自身の扱いをどうするかであった。
醜い自分では崇められないと感じたサリスは、獣王と言う自分に代わって森の世界を支配する存在を作る。
初代が決まるまで、多大な時間を要したが、神であるサリスにとっては少しの時間だ。
獣王の制度は、サリスにとって最高とも言える結果になる。
獣王の体を使い、サリスは森の世界の住人からかつてのように再び崇められる事となる。
時間が経つと共に、精神を剥離し定着させる事もなれ、持続時間もほんの少しずつ増えていった。
面倒な事も多かったが、醜い体と別れを告げたサリスは、それから心地良い時間を過ごす。
ノアの事も忘れかけていた。
しかし、その時間は、ノアとその代行者によって終わらされる事となった。
「大人しく、山の証をよこせ」
遥か昔を思い出していたサリスだが、唐突に現実に引き戻される。
悠久の時を経て、ノアはサリスに再び立ち塞がったのだ。
クラウ・ディアスの召集を受けたサリスは、巨体を揺らし、集合場所へと赴く。
召集に関して乗り気ではなかったのだが、クラウ・ディアスには逆らえない。
時間をかけ、ようやく集合場所へと着いたサリスを出迎えたのは、始めて出会った時よりも数段美しさを増していたノアであった。
この時感じた感情をサリスは忘れる事が出来なかった。
1人の信徒もなくし、惨めに醜くなったサリスと対照的なノアの姿を忘れられる訳がない。
この時のノアは、サリスの目には輝いて見えた。
それは、かつての自分を見ているようであった。
同時に、別の感情も渦巻く。
誰にもサリスであるとわかってもらえなかったはずが、ノアは一目でこの醜い者がサリスだと見抜いたのだ。
それは、嬉しくもあり、悲しくもあった。
むしろ、負の感情の方が大きかった。
ノアがこの時、どう思っていたのかは誰にもわからない。
しかし、サリスにはこの輝いていたはずのノアの瞳が、徐々に変化していったように感じられた。
ノアの瞳が、自身の事を蔑んでいるように感じたのだ。
今となっては、この時サリスが感じていたものは、ただの僻みであるとわかる。
何もかも失ったサリスと違い、ノアは今も大事な物を増やし続けている。
当時のサリスは、ノアに対し強い劣等感を抱いていたのだ。
美しく、人々にも慕われ、力もあり、何より唯一神クラウ・ディアスの妹である。
ノアには、全てが揃っている。
それが、何よりも羨ましく思えた。
結局、クラウ・ディアスの召集で集まった神達の中で、サリスの事に気付いたのはノアだけであった。
サリスの姿を見たクラウ・ディアスでさえ、瞬時には判断出来なかった。
その事実は、サリスに重くのしかかる。
人族のみならず、他の神にも、魔王にも、龍王にも相手にされていないと実感させられたからだ。
どの者も、サリスを見下していた。
その召集で、サリスに話しかけてくる者はいない。
誰も相手にすらしないのだ。
招集による会談で、何が話題だったのかすらサリスは覚えていない。
もう、何をするべきか、考える事も億劫だった。
この日を境に、サリスは世界を支配する神を決める争いの一線から、退く事になる。
実際に候補から外された訳ではない。
サリス本人にも、その他の者の目にも、サリスが頂点に立つ事がないと判断されたのだ。
それから、サリスは自堕落な生活を送り続けた。
他の神と争う事も、自らを信仰する者を増やす努力をする訳でもない。
ただ、クラウ・ディアスからの定期的な招集に応じる事しかしなかった。
ノアに対する感情は、その度強くなっていく。
他の神は、どうでも良かった。
しかし、何故だかノアだけは許す事が出来なかった。
ノアだけを憎む日々を過ごす中、サリスに近づく者が現れた。
蒼色の髪を持つ、海の神ウリスである。
何がきっかけだったか、サリスは思い出せないが、いつの間にかウリスと話をするようになっていたのだ。
これまでの事、これからの事、そしてノアの事。
ウリスにだけは、何故だか隠し事をしなかった。
それは、今でも変わらない事だとサリスは思っている。
ウリスには、そう思わせる不思議な感覚があった。
そんなある日だ。
ウリスが、唐突にある提案を言い出したのだ。
それは、当時のサリスにとって最高とも最悪とも思える提案だったと、今は思う。
サリスは、当然その提案を受け入れる。
そして、神々の戦いは、一気に激化していったのだ。
サリスがした事は、少しのきっかけに過ぎなかった。
だが、その少しのきっかけが始まりとなり、最終的にクラウ・ディアスは世界を7つに分けたのだ。
その時、サリスは森の世界を任された。
しかし、そんな事はどうでも良かった。
あのノアを無の世界へと封じ込め、神々の戦いから脱落させた。
そこの事だけが、重要だった。
サリスは初めて、ノアに勝つ事が出来たのだ。
それを成し遂げたサリスは、他の世界と争うつもりはなく、全ての世界を支配する気もなかった。
クラウ・ディアスが定めた、神と代行者による争いにも興味がなかった。
ゆえに、代行者など決めた事がなかったのだ。
森の世界を任された直後、サリスがした事は少ない。
森の世界に生まれる人族に、使命を命じる。
そして、その使命を果たさなければ、醜い混じり者と蔑まさせると誘導する。
自分の事を醜いと罵った人族達に、復讐をしたのだ。
人族は、人族である事に異常なほど誇りを持つ。
人族が他種族を卑下する事は、今に始まった事ではないのだ。
そんな人族が、忌み嫌う魔獣や何かの生物と混じり合うなど、耐えられるはずがない。
しかし、その混じり合ったものが、別れると相棒などと言うのだから、サリスからすれば人族は救いようがないように思える。
それを成し遂げる為の種族混合は、神であるサリスならば、可能な事だった。
持つ力の大半を使ってしまったが、他の神と争いをするつもりのないサリスには関係ない。
結果、現在のような森の世界のルールが出来上がる。
その後は、サリス自身の扱いをどうするかであった。
醜い自分では崇められないと感じたサリスは、獣王と言う自分に代わって森の世界を支配する存在を作る。
初代が決まるまで、多大な時間を要したが、神であるサリスにとっては少しの時間だ。
獣王の制度は、サリスにとって最高とも言える結果になる。
獣王の体を使い、サリスは森の世界の住人からかつてのように再び崇められる事となる。
時間が経つと共に、精神を剥離し定着させる事もなれ、持続時間もほんの少しずつ増えていった。
面倒な事も多かったが、醜い体と別れを告げたサリスは、それから心地良い時間を過ごす。
ノアの事も忘れかけていた。
しかし、その時間は、ノアとその代行者によって終わらされる事となった。
「大人しく、山の証をよこせ」
遥か昔を思い出していたサリスだが、唐突に現実に引き戻される。
悠久の時を経て、ノアはサリスに再び立ち塞がったのだ。
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