プロクラトル

たくち

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獣王との戦い

次の世界へ

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「空の世界への転移はボクがしよう。 向こうに着き次第、ティナはここの空の世界を繋ぐ転移魔法陣を描いてくれ」

 ”天帝”ラドラス・エルドラスに襲撃された砂の世界と違い、今回の転移は落ち着いた状況で転移を行う事が出来る。

 空の世界への干渉は、ノアにとって負担になる。
 しかし、砂と森二つの世界を掌握した今ならば時間をかければ以前のようにティナの魔力を使わずとも可能である。

 それに、今回は森の世界という拠点を設ける事に成功している。
 ティナが転移魔法陣を用意する事で、空の世界で危機が迫っても最悪の場合逃げ帰る事が出来る。

 こうして森の世界を配下に置けた事は、シン達にとってメリットが大きい。
 たとえ、他の世界で何か不足の事態が起こっても態勢を整える為に撤退も可能である。

 そして何より、メリィやロイズ、アルファスをはじめとした多くの強者達の援軍を受ける事も可能になった。

 獣王であるメリィが動く事は難しいかもしれないが、ロイズやアルファスはいつでも手を貸すと話している。
 この2人の能力がいかに強力であるか、シン達は知っている為、非常に心強い味方である。

 しかし、油断は禁物である。
 ノアの動きを察知した他の神が森の世界へ侵攻してくる可能性もあるのだ。

 ここまで、証を積極的に集めているのはノアだけであるが、この全ての世界を掌握したいのは他の神達も同じである。
 攻めの戦いが続くシン達であるが、これからは守りの戦いも増えてくるだろう。

 シンやユナ、アイナにナナと序列に名を刻む者が多数いる。
 しかし、それは人族に限定した話である。
 ティナのように魔王とはいかなくとも、魔族は基本的に人族よりも強力な存在であるし、炎の世界には龍の力を持つ龍人もいる。

 他にもシン達の知らない種族が存在する可能性もある。
 そして、氷狼のように大陸の覇者と呼ばれる魔獣達の存在も忘れてはならない。
 序列に刻まない人族以外の種族の者達は多いのだ。  

 それは人族の中でも同じ事だ。
 序列2位”天帝”ラドラス・エルドラスはアイナと同程度の実力を持つ強者であるし、まだ見ぬ序列者もいる。

「準備が出来たら呼ぶとするよ、それまでに別れの挨拶は済ませておいてくれ」

 空の世界に干渉する力を溜める為、ノアは姿を消す。

「おにぃさん、行きたいところがあるのですが良いですか?」

 別れの挨拶と言われ、シーナは真っ先にある場所に行きたいと言う。
 この中に森の世界で育った者はシーナ1人だ。
 どこに向かいたいのか、シンはすぐに察する事が出来た。

「良いぞ、俺達もお世話になったしな」

 シーナを先頭にシン達は世界樹の外へと向かう。

「お父さん、お母さん久しぶり」

 シーナが別れの挨拶をしたい者達、それは自身の家族である。
 森の世界を飛び出し旅に出る。
 それも他の世界の神達と戦う旅だ。
 もう2度と、会う事が出来ないかもしれない。

「そう、旅に出るのね」

 2度と会う事がないかもしれない、それを察したシーナの母親の心境は複雑であった。
 獣王となり、使命を果たしたシーナの成長を喜ぶ一方、まだ成人もしていないシーナにはまだ教えていない事が沢山ある。
 ここで手放して良いものか、判断を迷っている。

「私は、もう充分育てて頂きました。 これからは、私がその恩を返す時です」

 母親が迷おうともシーナの決意は固い。
 何が恩返しとなるのか、それはシーナがシン達の旅に同行する理由でもある。
 ノアのもとに統一され、誰もが平等な生活を送る世界を作る。
 途轍もなく大きく、困難な野望だが、シーナにはそれを可能とする覚悟と強い確信があった。

「そうか、それだけの想いがあるなら仕方ないな」

 戸惑いうろたえる母親と違い、父親はどっしりと構えていた。
 そこには以前見た時の慌てているような様子はなく、シーナの瞳を真っ直ぐ捉えていた。

「シン君と言ったね?」

「はい」

「娘を、よろしく頼む。 こう見えて以外と抜けているところもあるが、君の力になるはずだ」

 父親が認めた事で、母親も決意をしたようだ。
 シーナが決めた事ならば反対はしない。
 そう父親は決めていたのだ。

「じゃあ、また帰ってくるね」

 シーナは必ずこの場所に帰って来ると改めて想いを強くする。

「責任重大ね」

 シーナ達のやり取りを見ていたユナは、シンに向け言う。
 この場面を見てしまったら、シーナは何としても守り抜かなくてはならない。
 彼女をこの場に必ず帰還させなければならないのだ。

「あっ、ちょっと外で待ってて」

 シーナの実家から戻ろうとするとユナは何かを思い出したように1人で引き返す。

「お婆さん、これ返すわ」

「おや? 良いのかい?」

 ユナが手渡した物は、以前に訪れた際シーナの祖母から受け取った手帳だ。
 結局、その手帳を見る事はなかった。

「私には必要ないわ、シンがもし道を間違えても私がいるもの」

「そう、ならいいんだ」

 ユナの言葉にシーナの祖母は反論をしない。
 それだけ、ユナが言った言葉に力があったのだ。

「シーナをよろしく頼むよ」

「私がいるから心配ないわ」

 祖母の言葉にユナは笑顔でそう答える。
 何も心配する事はない、私がいるのだから、そう言えるだけの自信をユナは持っていた。

 **

「準備はいいかい?」

 シーナの実家から戻るとそこには準備を整えたノアが待機していた。
 以前、リリアナ達が拠点としていた場所である。
 アイナの魔術により、跡形もなく消し飛ばされた拠点は、いつの間にか元の形に復旧され新たな拠点として用意されていた。

「あれ? なんでサリスがいるのよ」

 ノアの隣に立つサリスを見たユナは不満げな表情をする。
 対立していた事もあり、まだサリスの事を仲間と認めたくないのだろう。
 その気持ちは、他の面々も同じであった。

「なんだ? 私がいると不満なのか?」

 シン達の表情から負の感情を読み取ったサリスは、不満気な言葉を言う。

「お前は無の世界にいるんじゃないのか?」

 ミアリスと同じく、サリスもノアと共に無の世界にいると考えていたが、どうやら違うらしいとシンは勘づく。
 ノアとは長い付き合いのシンは、その表情からよからぬ事を考えているとすぐに気付いた。

「ふん、喜べ人族共よ。 元神であるこの私がお前達の力となってやる。 感謝するがいい!」

 やはりと言うべきか、サリスはシン達に同行するつもりであったらしい。
 誇らし気に話すサリスだが、シン達の中で誰1人喜んでいない事に気が付いていない。

「いや、要らないから」

「なんだと! 貴様、私をサリスと知って言っているのか!」

「サリスだから要らないのよ」

「なっ、この私が、必要ない…のか」

 サリスだからこそ、必要ない。
 ユナははっきりと口にする。
 予想以上に衝撃を受けるサリスだが、シン達がそう言いたくなるのも仕方がない。

 ただでさえ、問題を起こしそうな者達が集まっているのに、自尊心が異常に強いサリスも加わるとなるとさらに揉め事が増えてしまう。
 敵地で面倒事が増えるのが嫌であるシン達にとって、サリスの同行は迷惑でしかない。

「わっ私は神だった。 それなりに、いや多大に役に立つはずだぞ⁉︎」

「要らない、それならミアリスを同行させてくれ」

「ミッミアリスは使い物にならないぞ!私との戦いの傷がまだ治っていないし、ついて行ってもお荷物にしかならん!」

「お荷物でも、お前よりマシ」

 たとえ戦闘が出来なくても、ミアリスの方が知識もありそうであるし、何より美しい。
 単純なものだが、美しい者はそれだけで得をするものだ。

 サリスも以前よりは見た目も良くなったのだが、なぜだかミアリスのような神々しさが感じられない。
 お荷物であろうとミアリスならば、何もしなくても何かしらの利益を得る事が出来そうだ。
 同じくサリスがお荷物と考えれば、どちらがより多く貢献出来そうか、すぐに判断がつく。

「ミアリスは、私と違って何も出来ん!」

「なら、お前は何が出来るんだよ」

「うぐっ、そっそれは…」

 シンの指摘にサリスは言葉を詰まらせてしまう。
 この場は完全にサリスの加入を反対する空気に包み込まれる。

「まあまあ、そう言わないでくれ。 サリスもサリスなりに君達の力になりたいんだよ」

 そんな中、1人気楽な状態のノアがサリスを擁護する。
 その言葉にサリスはこれでもかと言うくらいにクビを縦に振り、必死にアピールをする。

「ノア、お前、サリスが近くにいるのが嫌なんだろ?」

「おや? シン、何か言ったかい?」

 惚けるノアだがその反応が何よりの証拠である。
 何かと口うるさいサリスは、ノアにとっても近くにいられると落ち着かないのだろう。
 シン達はその厄介払いにちょうどいいという事だ。

「反論がないなら決まりだね。 良かったねサリス、ボクも嬉しいよ」

 わざとらしく演技をするノアだが、この行動でサリスがシン達と共に行動するのが決まってしまう。
 この中で1番地位が高いのは神であるノアであり、その意思を尊重するしかないのだ。

「さあ、みんな固まってくれ。 転移を始めるよ」

 山の神であったサリスを加え、シン達は新たなる世界へと旅立つ事になる。
 数多の空中都市が浮遊する空の世界エアリアに向け、シン達は足を踏み入れる。
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