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空の世界
空の神と天使
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黒い翼の天使ローウェルとその師匠と呼ばれた純白の翼の天使と別れたシン達は、視界一杯に広がる大草原を歩いていた。
ここは空の世界に数ある浮遊島の中で最も広大な島であった。
放牧島ステップと呼ばれるこの浮遊島に一切山脈や荒野の類いはない。
ステップにあるのは、島全体に広がる平原とその所々にある湖と河川のみである。
シン達が歩いているのは、まさにこの放牧島ステップの代名詞とも言える場所である。
空の世界でも比較的新しく開放されたこの浮遊島は、現在面積の多くを牧草地として利用されている。
右にも左にも空の世界の住人達に飼育されている家畜達が、数多く優雅に過ごしている。
広く草原の広がるこの島はまさに放牧に適した場所だ。
ゆえにこの浮遊島に住む者達は多くはない。
シンが見渡す限り、人影が見えないのだからその通りなのだろう。
天使達の活躍により、徐々に生活圏を広げている空の世界の人族だが、こうしてのどかな場所で暮らしたいと言う者は少ないのだ。
この空の世界は数多くの研究者達により、他の世界の追随を許さないほど新たな発明品に溢れている。
世界分断前の遺物により発展したのが氷の世界なら、この空の世界は現代の人族達の手により発展した世界なのだ。
自身の欲した物と違う物が多く発掘される氷の世界と違い、この空の世界の発明品は、現代に必要な物である事が多い。
その代わり、氷の世界の発掘品は歴史的価値が高く、一攫千金を狙えるのだがそれは今回の話には関係がない事だ。
生きとし生けるものならば、誰もが便利に効率よく生活をしたいはず。
その事から、研究者達の住む空中都市に住みたいと言う者がほとんどだ。
発明品の多くは少数である。量産する事が難しい場合が多いのだ。
それをいち早く取り入れたいとなるならば、研究者達の近くに住みたがるのは当然だ。
そのような事情があるのにも関わらず、このステップのような浮遊島に住むのだから、ここに住む者達は変わり者と呼ぶべきなのだろう。
食材確保の為、こういった者達も必要なのだが、シン達の知る事ではない。
「なあ、ほんとに誰かいるのか?」
あまりにも広い草原にシンは飽き飽きとしてしまう。
聞こえてくるのは風の音と家畜の鳴き声のみ。
天使との接触の衝撃が大きかっただけに、落差のある現状はつまらないと言ったところだろう。
「心配いらん、妾を誰と心得る」
シンの疑問の視線にもティナは堂々とした態度で答える。
ティナの力を疑う訳ではないが、ここまで何も起こらないと逆に疲れを感じてしまう。
「そういえば、先ほどの天使はあまり天使らしくなかったね」
思い出したようにエルリックが話し始める。
彼もシンと同じく、ローウェルと呼ばれた天使はイメージしていた天使と違ったのだろう。
「そうね、もっとこう堅物なイメージだったわ。 最後に来た奴みたいに」
エルリックに同意するようにユナやアイナ達もローウェルの印象を語る。
天使、そう呼ばれる存在のイメージは、一同がローウェルの師匠である者のようである。
「翼が、黒かったな」
「そうよ! 黒ってイメージと違うわよね」
ローウェルの翼は黒色、その事に疑問を持っていたのはシンだけではなかったようだ。
「あれは、堕天使の証だ」
「堕天使?」
シン達に教えるようにサリスは話し始める。
「堕天使とは、神であり生みの親であるエウリスに刃向かった者の証。 堕天使の涙とかいう物を知らんか?」
「知ってる。 その堕天使があのローウェルと言う者の正体なのか?」
サリスの話にアイナは興味を持ったようである。
アイナはなかなか会話に入る事が少ない。
しかし、この時のように興味を持てば遠慮せず会話に混ざり込む。
堕天使の涙、氷の世界でアイナは闇市からそれらしき物を購入したが、真偽はわからないままだ。
「いや、あの者がエウリスに反逆したとは思えん。 それに堕ちた者なら、他の天使が弟子として迎え入れるはずがない」
短い時間の付き合いだったが、確かにローウェルがエウリスに反逆するような者には見えない。
だが、黒い翼は堕天使の証。
何か事情がある事は間違いない。
「本来ならあまり関わるべきではなかったのだがな」
ローウェルとの接触は意図したものではなかったので仕方のない部分ではある。
しかし、シン達の存在を天使に知られた事は間違いない。
あの接触により、この後の行動にも影響が出る可能性も否定出来ない。
「悪い奴には見えなかったけどね」
「そうですね、天使とは思えませんでした」
ローウェルに対する印象は、シン達全員良いものを抱いている。
天使と聞いた際に考えた緩慢さは欠片もなく、純粋と思われるような性格をしていた。
「天使、か。 ねぇ、なんで翼が生えるのよ?」
ユナは天使と言う存在そのものに疑問を持っている。
同じ人族であるにも関わらず、天使は翼を持つ。
空の世界の住人全員がそうなのであれば、住人の特性と受け取れるが、翼は全員が持つ訳ではない。
「あれは、品種改良によるものだ」
「品種改良?」
地の神ミアリスによるナナを生み出した人体実験。
それと同じく、エウリスも空の世界の住人で人体実験を行っている。
「難しいか? まぁ、人族の遺伝子を操作してエウリスが翼を生やすよう改良したと考えれば良い」
「なら、天使を作ったのはエウリスだって言うの?」
「そうだ。 だからこそエウリスはこの世界で崇められている」
「そんなの、おかしいじゃない」
人体実験、その成果が天使と呼ばれる者達だ。
しかし、今の世代にその事を知る者はいない。
空の世界創世期の人族の痛みを知る者はいないのだ。
「真実も知る者がいなければ空想になる。 今、この話をしたところで誰も信じはしないがな」
天使の真実は、永久に空の世界に広がる事はない。
珍しく真剣な話をするサリスはどこか寂しげな雰囲気を窺わせている。
エウリスと天使、その関係は決して良い始まりをした訳ではないのだ。
ここは空の世界に数ある浮遊島の中で最も広大な島であった。
放牧島ステップと呼ばれるこの浮遊島に一切山脈や荒野の類いはない。
ステップにあるのは、島全体に広がる平原とその所々にある湖と河川のみである。
シン達が歩いているのは、まさにこの放牧島ステップの代名詞とも言える場所である。
空の世界でも比較的新しく開放されたこの浮遊島は、現在面積の多くを牧草地として利用されている。
右にも左にも空の世界の住人達に飼育されている家畜達が、数多く優雅に過ごしている。
広く草原の広がるこの島はまさに放牧に適した場所だ。
ゆえにこの浮遊島に住む者達は多くはない。
シンが見渡す限り、人影が見えないのだからその通りなのだろう。
天使達の活躍により、徐々に生活圏を広げている空の世界の人族だが、こうしてのどかな場所で暮らしたいと言う者は少ないのだ。
この空の世界は数多くの研究者達により、他の世界の追随を許さないほど新たな発明品に溢れている。
世界分断前の遺物により発展したのが氷の世界なら、この空の世界は現代の人族達の手により発展した世界なのだ。
自身の欲した物と違う物が多く発掘される氷の世界と違い、この空の世界の発明品は、現代に必要な物である事が多い。
その代わり、氷の世界の発掘品は歴史的価値が高く、一攫千金を狙えるのだがそれは今回の話には関係がない事だ。
生きとし生けるものならば、誰もが便利に効率よく生活をしたいはず。
その事から、研究者達の住む空中都市に住みたいと言う者がほとんどだ。
発明品の多くは少数である。量産する事が難しい場合が多いのだ。
それをいち早く取り入れたいとなるならば、研究者達の近くに住みたがるのは当然だ。
そのような事情があるのにも関わらず、このステップのような浮遊島に住むのだから、ここに住む者達は変わり者と呼ぶべきなのだろう。
食材確保の為、こういった者達も必要なのだが、シン達の知る事ではない。
「なあ、ほんとに誰かいるのか?」
あまりにも広い草原にシンは飽き飽きとしてしまう。
聞こえてくるのは風の音と家畜の鳴き声のみ。
天使との接触の衝撃が大きかっただけに、落差のある現状はつまらないと言ったところだろう。
「心配いらん、妾を誰と心得る」
シンの疑問の視線にもティナは堂々とした態度で答える。
ティナの力を疑う訳ではないが、ここまで何も起こらないと逆に疲れを感じてしまう。
「そういえば、先ほどの天使はあまり天使らしくなかったね」
思い出したようにエルリックが話し始める。
彼もシンと同じく、ローウェルと呼ばれた天使はイメージしていた天使と違ったのだろう。
「そうね、もっとこう堅物なイメージだったわ。 最後に来た奴みたいに」
エルリックに同意するようにユナやアイナ達もローウェルの印象を語る。
天使、そう呼ばれる存在のイメージは、一同がローウェルの師匠である者のようである。
「翼が、黒かったな」
「そうよ! 黒ってイメージと違うわよね」
ローウェルの翼は黒色、その事に疑問を持っていたのはシンだけではなかったようだ。
「あれは、堕天使の証だ」
「堕天使?」
シン達に教えるようにサリスは話し始める。
「堕天使とは、神であり生みの親であるエウリスに刃向かった者の証。 堕天使の涙とかいう物を知らんか?」
「知ってる。 その堕天使があのローウェルと言う者の正体なのか?」
サリスの話にアイナは興味を持ったようである。
アイナはなかなか会話に入る事が少ない。
しかし、この時のように興味を持てば遠慮せず会話に混ざり込む。
堕天使の涙、氷の世界でアイナは闇市からそれらしき物を購入したが、真偽はわからないままだ。
「いや、あの者がエウリスに反逆したとは思えん。 それに堕ちた者なら、他の天使が弟子として迎え入れるはずがない」
短い時間の付き合いだったが、確かにローウェルがエウリスに反逆するような者には見えない。
だが、黒い翼は堕天使の証。
何か事情がある事は間違いない。
「本来ならあまり関わるべきではなかったのだがな」
ローウェルとの接触は意図したものではなかったので仕方のない部分ではある。
しかし、シン達の存在を天使に知られた事は間違いない。
あの接触により、この後の行動にも影響が出る可能性も否定出来ない。
「悪い奴には見えなかったけどね」
「そうですね、天使とは思えませんでした」
ローウェルに対する印象は、シン達全員良いものを抱いている。
天使と聞いた際に考えた緩慢さは欠片もなく、純粋と思われるような性格をしていた。
「天使、か。 ねぇ、なんで翼が生えるのよ?」
ユナは天使と言う存在そのものに疑問を持っている。
同じ人族であるにも関わらず、天使は翼を持つ。
空の世界の住人全員がそうなのであれば、住人の特性と受け取れるが、翼は全員が持つ訳ではない。
「あれは、品種改良によるものだ」
「品種改良?」
地の神ミアリスによるナナを生み出した人体実験。
それと同じく、エウリスも空の世界の住人で人体実験を行っている。
「難しいか? まぁ、人族の遺伝子を操作してエウリスが翼を生やすよう改良したと考えれば良い」
「なら、天使を作ったのはエウリスだって言うの?」
「そうだ。 だからこそエウリスはこの世界で崇められている」
「そんなの、おかしいじゃない」
人体実験、その成果が天使と呼ばれる者達だ。
しかし、今の世代にその事を知る者はいない。
空の世界創世期の人族の痛みを知る者はいないのだ。
「真実も知る者がいなければ空想になる。 今、この話をしたところで誰も信じはしないがな」
天使の真実は、永久に空の世界に広がる事はない。
珍しく真剣な話をするサリスはどこか寂しげな雰囲気を窺わせている。
エウリスと天使、その関係は決して良い始まりをした訳ではないのだ。
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