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空の世界
聖別と罪
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「あっ、やっと町が見えてきたわ!」
永遠と続く、そう思わせるほど続いていた牧草地。
そこを何時間もかけて進んでいたシン達の目の前に、決して大きくはないが一つの町が姿を見せた。
ここに来るまで、牧草地を管理している者の物と思われる小屋は何個か見つけていた。
しかし、どの小屋にも人はおらず、あるのは幾つかの道具のみであった。
空の証のありか、そして獅子の強心についての情報を早く集めたいシン達にとって時間の浪費だけが増えていた。
森の世界で支度は整えて来たとは言え、土地勘のない空の世界で彷徨い続けるのは、精神的にも堪えるものがある。
そんな中でようやく見つけた町は小さかろうと救われるものがある。
このような場所にある町に宿屋などがある事は期待出来ないが、酒場の一つはあるだろう。
情報収集には、やはり酒場が良いとシンは考えている。
「なんか、静かな町ね」
意気揚々と町に入り込んだユナだが、その町の静けさに違和感を覚える。
夕暮れ時のこの時間に町の外を歩いている者は1人もいない。
それどころか人の気配すら感じない。
傭兵として戦場を駆け回っていたユナは、その時に多くの町を訪れている。
しかし、ここまで人気のない町は初めてだ。
夕暮れ時のこの時間であれば、仕事を終えた者達が帰路につく時間であるし、夕飯の買い物をする者達だっている。
そうでなくとも飲食店に向かう者も多数おり、友人と別れ住みどころに帰る子供達もいる。
それは、これまで訪れた事のある全ての町に共通している事、今この時を除いてだ。
「とりあえず、一通り見て回ろう」
何か異変が起きている。
そう感じ取ったシン達は、慎重に歩を進めて行く。
初めて訪れた空の世界の町は、得体の知れない緊張感をシン達にもたらしていた。
「扉や窓は全部閉まってるね。 これじゃあ確認のしようがない」
明らかな住宅に入り込むのは気が引ける為、見つけた飲食店の中を覗こうとしたエルリックだが、入り口の扉は開かず回り込んで見た窓からも中の様子は窺えない。
辺りにある家屋全てを捜索してみたが、入り口どころか小さな小窓まで全て閉め切っている。
窓には全て仕切りが付けられており、部屋の中は見る事が出来ない。
「間違いなく、何か起きてるな」
ここまで徹底されていれば、この町全体で何かが起こっていると考えられる。
しかし、何が起きているのかがわからない。
ここは全体がのどかな浮遊島であり、争い事が起きるようには思えない。
住人がいないという事もありえないだろう。
町には至る所に生活の跡が残っているし、何より町の外には多くの家畜達がいる。
商売道具でもある家畜達を放って置く事などありえないだろう。
仮にここの住人全員が移動しようものなら、その家畜達も一緒に移動するはずだ。
あそこまでの量を飼い慣らすにもそれなりに費用がかかる。
それを捨ててまで移動しようとは思わないはずである。
しかし、魔王であるティナは生命探知でこの場所に人がいると感じ取っている。
「集団転移? そんな事が可能なのか?」
シンが考えたのは、住人達の意思でなく、他者の魔術による集団失踪だ。
何故、この町全体の建物が閉め切られているかはわからないが、そうとしか考えようがなかった。
「師よ、ここに魔術が行使された形跡は感じない。 それはないはず」
シンの考えはアイナによって否定される。
魔術を使用するとその場には魔術痕跡が残る。
魔力を持たない者にはわからないが、魔術師であればそれを探知する事は可能だ。
その魔術痕跡は、この町には残っていない。
仮に魔術の仕業であった場合、町一つを巻き込むものであれば相当に大規模な魔術だ。
そんなものが行使されたならば、アイナやティナが気付かないはずがない。
「君達、何をしてるんだ!」
「えっ⁉︎ 」
どうしたものかと戸惑うシン達の耳に、突然人の声が聞こえて来た。
どこからともなく聞こえた男の声に更に混乱する。
先ほどまで、人の気配など微塵も感じ取れていなかったのだから仕方がない。
「こっちだ! 早く来なさい」
突然引かれた事に驚くシンだが、その手を引く男から悪意は感じない。
その事もあり、抵抗はしない。
ようやく見つけた人であり、なおかつ何かの事情を知っていると思われる人物だ。
この機を逃す訳にはいかない。
「とりあえず、この中に入るんだ」
引かれるまま連れて行かれたのは、この人物の居住と思われる家屋である。
塞がれた入り口を開け、シン達を招き入れる。
見るとこの家屋は、先ほどシン達が調べたうちの一つである。
おそらく、一帯を調べていたシン達に気付き、声をかけてきたのだろう。
「少なくなったか? 仕方ない、君達だけでもここにいるんだ」
シン達を招き入れた人物は、少し年上と思われる男性である。
緊迫しているのか、その表情に余裕はない。
男性に指摘された通り、シン達と共にいたはずのサリスとティナの姿がない。
範囲を広げて捜索していた為、この男性に連れられたシンを見逃してしまったのだろう。
シン達が推測していた通り、この町に何かが起こっている事は男性の様子から伺う事が出来る。
しかし、サリスとティナは魔王と元神だ。
そう簡単に死ぬ事はない。
「何故、そんなに焦っているのです?」
ティナ達の心配は要らないと判断したエルリックは、現状の把握を優先する。
異変がある事は間違いない上、この男性は様子から危険を犯してまでシン達を救おうとしていると思われる、
「君達は、そうかこの世界の者ではないんだね?」
「ええ、旅をしている途中、この町に着いたのですが…」
こうしたやり取りはエルリックに一任されている。
人当たりの良いエルリックは、大抵の者から好感を抱かれる。
兵士として勤めていた事もあり、聞き取りなども得意としている。
「とにかく、間に合って良かった。 今日は聖別の日、終わるまでここに居てくれて構わないよ」
「聖別?」
ほっと胸を撫で下ろすように安心した様子の男性は、シン達が知らない言葉を言う。
その聖別とやらが、この町の異変の原因である事は間違いない。
「そうか、聖別を知らないんだね。 聖別と言うのは天使様達が行うものだ。 この世界にいる人族全員を選別し天界に連れ出すんだ」
「連れ出す? 天界ってなんだ?」
「天界と言うのは天使達が住んでいる空中都市の事さ。 選ばれた者はその都市に住む事になる」
空の神エウリスがいるとされている空中都市ラーギア。
そこに住む事が許されたのは天使と聖別により選ばれた者のみだ。
「それが、なんでこんな状況になるんだ? まるでみんなその空中都市に行きたくないみたいじゃないか」
この町の様子から、その聖別とやらに巻き込まれないようにしているとしか考えられない。
空の神と天使、崇拝する2つの存在と共に住めるのならば良いように思える。
「それが、あまり良い噂を聞かないんだ」
「噂?」
「聖別を受けた者は、その生涯を捨てなければならない。 それが、空の世界に住む者全員が知っている噂だ」
聖別により選ばれた者の末路を知る者はいない。
しかし、その事が空の世界の住人達に不安を募らせていた。
いつからそのような事になったのかは誰もわからない。
しかし、今は確実にその聖別から逃れようとしている。
「聖別は何を判断するのか知られていないからね。 だからみんなこうして隠れているんだ。 出来るだけ目立たず、聖別が終わるまで息を潜めて待つしかない」
この町の建物は、気配を断つ魔術が使われている。
それゆえ、シン達は人の気配を感じなかったのだ。
それだけ、聖別はこの世界の住人達にとって避けたい事なのだ。
「全く、外をうろつく君達を見た時は冷や冷やしたよ。 こんな事をするから僕はみんなに馬鹿にされるんだろうけどね」
出来るだけ目立たずに過ごすはずが、この男性はシン達を見捨てる事が出来なかったのだろう。
聖別があるにも関わらず、シン達を助けに表に出たのだ。
「世話焼きグリン。 そう僕は言われているんだ」
おそらく、この男性は何度も似たような事をしているのだろう。
グリンと名乗る男性には、シン達は感謝するしかない。
聖別などに関わってしまえば、どうなるかわからない。
「聖別があるから、あの天使が来ていたのか」
「天使様を見たのかい?」
シンはローウェルと呼ばれた天使との接触をグリンに説明する。
シンの話を聞いたグリンは、驚きを顔に浮かばせ無事であったシン達を強運の持ち主と言い始めた。
「とにかく、今日はもうここで静かにしているんだ。 聖別は明日には終わる。 それまで絶対に目立ってはいけない」
グリンはシン達を部屋へと案内しながら強く言い付ける。
グリンの家は決して裕福なものではないが、シン達をもてなすように準備する。
「聖別、厄介だな」
ティナやサリスであれば何とか切り抜けるだろうが、そう何度も行われるのであればシン達の行動は制限される。
今回はグリンがいたから良いが、他の浮遊島ではそうはいかないだろう。
「こんな物しかないけど、許してくれ」
歩き疲れていたシン達に出されたのは、グリンが飼育している家畜から取れた飲み物や食べ物だ。
浮遊島ステップで牧場を営むグリンは、この町では有名な畜産農家だ。
グリンの家畜達から取れた物は、美味と好評である。
困った人を見過ごせないという性格もあり、本人は馬鹿にされていると言うが、浮遊島ステップでは愛されている人物の1人だ。
「畜産農家グリン! 表に出ろ!」
「なんだ?」
グリンの出した食べ物を堪能していたところ、家の外から怒声が届く。
威厳のあるその声に、グリンは驚いていた。
「間違いない、天使様だ」
「聖別か? なら行かない方が良いんじゃないか?」
「聖別で選ばれた者が逃げる事は許されない。 そんな事をすれば、僕の血縁者全員が罪に問われてしまう」
聖別から逃れる事は許されない。
それが空の世界の掟だ。
「畜産農家グリンだな?」
「はい、私がグリンです。 天使様、この度はどのようなご用件で?」
覚悟を決めたグリンは、緊張した面持ちで扉を開けた。
仁王立ち、まさに天使はグリンを威圧するように立ち塞がる。
その姿は、グリンの瞳には巨大な山脈のように大きく映っていた。
「黒髪に黒目の男がいるな?」
「はい? 聖別ではないのですか?」
「そうだ」
天使の目的、それは聖別ではなかった。
「俺の事か?」
黒髪に黒目、この中でその特徴を持つのはシンしかいない。
「貴様か、間違いないな?」
「はっ!」
グリンの前に立つ天使は、側に控えたもう1人の天使に問いかける。
この2人の天使に、シンは見覚えはない。
「天使の名において判決を下す! 貴様を天使との無断接触の罪で捕縛、ラーギアへ連行する!」
永遠と続く、そう思わせるほど続いていた牧草地。
そこを何時間もかけて進んでいたシン達の目の前に、決して大きくはないが一つの町が姿を見せた。
ここに来るまで、牧草地を管理している者の物と思われる小屋は何個か見つけていた。
しかし、どの小屋にも人はおらず、あるのは幾つかの道具のみであった。
空の証のありか、そして獅子の強心についての情報を早く集めたいシン達にとって時間の浪費だけが増えていた。
森の世界で支度は整えて来たとは言え、土地勘のない空の世界で彷徨い続けるのは、精神的にも堪えるものがある。
そんな中でようやく見つけた町は小さかろうと救われるものがある。
このような場所にある町に宿屋などがある事は期待出来ないが、酒場の一つはあるだろう。
情報収集には、やはり酒場が良いとシンは考えている。
「なんか、静かな町ね」
意気揚々と町に入り込んだユナだが、その町の静けさに違和感を覚える。
夕暮れ時のこの時間に町の外を歩いている者は1人もいない。
それどころか人の気配すら感じない。
傭兵として戦場を駆け回っていたユナは、その時に多くの町を訪れている。
しかし、ここまで人気のない町は初めてだ。
夕暮れ時のこの時間であれば、仕事を終えた者達が帰路につく時間であるし、夕飯の買い物をする者達だっている。
そうでなくとも飲食店に向かう者も多数おり、友人と別れ住みどころに帰る子供達もいる。
それは、これまで訪れた事のある全ての町に共通している事、今この時を除いてだ。
「とりあえず、一通り見て回ろう」
何か異変が起きている。
そう感じ取ったシン達は、慎重に歩を進めて行く。
初めて訪れた空の世界の町は、得体の知れない緊張感をシン達にもたらしていた。
「扉や窓は全部閉まってるね。 これじゃあ確認のしようがない」
明らかな住宅に入り込むのは気が引ける為、見つけた飲食店の中を覗こうとしたエルリックだが、入り口の扉は開かず回り込んで見た窓からも中の様子は窺えない。
辺りにある家屋全てを捜索してみたが、入り口どころか小さな小窓まで全て閉め切っている。
窓には全て仕切りが付けられており、部屋の中は見る事が出来ない。
「間違いなく、何か起きてるな」
ここまで徹底されていれば、この町全体で何かが起こっていると考えられる。
しかし、何が起きているのかがわからない。
ここは全体がのどかな浮遊島であり、争い事が起きるようには思えない。
住人がいないという事もありえないだろう。
町には至る所に生活の跡が残っているし、何より町の外には多くの家畜達がいる。
商売道具でもある家畜達を放って置く事などありえないだろう。
仮にここの住人全員が移動しようものなら、その家畜達も一緒に移動するはずだ。
あそこまでの量を飼い慣らすにもそれなりに費用がかかる。
それを捨ててまで移動しようとは思わないはずである。
しかし、魔王であるティナは生命探知でこの場所に人がいると感じ取っている。
「集団転移? そんな事が可能なのか?」
シンが考えたのは、住人達の意思でなく、他者の魔術による集団失踪だ。
何故、この町全体の建物が閉め切られているかはわからないが、そうとしか考えようがなかった。
「師よ、ここに魔術が行使された形跡は感じない。 それはないはず」
シンの考えはアイナによって否定される。
魔術を使用するとその場には魔術痕跡が残る。
魔力を持たない者にはわからないが、魔術師であればそれを探知する事は可能だ。
その魔術痕跡は、この町には残っていない。
仮に魔術の仕業であった場合、町一つを巻き込むものであれば相当に大規模な魔術だ。
そんなものが行使されたならば、アイナやティナが気付かないはずがない。
「君達、何をしてるんだ!」
「えっ⁉︎ 」
どうしたものかと戸惑うシン達の耳に、突然人の声が聞こえて来た。
どこからともなく聞こえた男の声に更に混乱する。
先ほどまで、人の気配など微塵も感じ取れていなかったのだから仕方がない。
「こっちだ! 早く来なさい」
突然引かれた事に驚くシンだが、その手を引く男から悪意は感じない。
その事もあり、抵抗はしない。
ようやく見つけた人であり、なおかつ何かの事情を知っていると思われる人物だ。
この機を逃す訳にはいかない。
「とりあえず、この中に入るんだ」
引かれるまま連れて行かれたのは、この人物の居住と思われる家屋である。
塞がれた入り口を開け、シン達を招き入れる。
見るとこの家屋は、先ほどシン達が調べたうちの一つである。
おそらく、一帯を調べていたシン達に気付き、声をかけてきたのだろう。
「少なくなったか? 仕方ない、君達だけでもここにいるんだ」
シン達を招き入れた人物は、少し年上と思われる男性である。
緊迫しているのか、その表情に余裕はない。
男性に指摘された通り、シン達と共にいたはずのサリスとティナの姿がない。
範囲を広げて捜索していた為、この男性に連れられたシンを見逃してしまったのだろう。
シン達が推測していた通り、この町に何かが起こっている事は男性の様子から伺う事が出来る。
しかし、サリスとティナは魔王と元神だ。
そう簡単に死ぬ事はない。
「何故、そんなに焦っているのです?」
ティナ達の心配は要らないと判断したエルリックは、現状の把握を優先する。
異変がある事は間違いない上、この男性は様子から危険を犯してまでシン達を救おうとしていると思われる、
「君達は、そうかこの世界の者ではないんだね?」
「ええ、旅をしている途中、この町に着いたのですが…」
こうしたやり取りはエルリックに一任されている。
人当たりの良いエルリックは、大抵の者から好感を抱かれる。
兵士として勤めていた事もあり、聞き取りなども得意としている。
「とにかく、間に合って良かった。 今日は聖別の日、終わるまでここに居てくれて構わないよ」
「聖別?」
ほっと胸を撫で下ろすように安心した様子の男性は、シン達が知らない言葉を言う。
その聖別とやらが、この町の異変の原因である事は間違いない。
「そうか、聖別を知らないんだね。 聖別と言うのは天使様達が行うものだ。 この世界にいる人族全員を選別し天界に連れ出すんだ」
「連れ出す? 天界ってなんだ?」
「天界と言うのは天使達が住んでいる空中都市の事さ。 選ばれた者はその都市に住む事になる」
空の神エウリスがいるとされている空中都市ラーギア。
そこに住む事が許されたのは天使と聖別により選ばれた者のみだ。
「それが、なんでこんな状況になるんだ? まるでみんなその空中都市に行きたくないみたいじゃないか」
この町の様子から、その聖別とやらに巻き込まれないようにしているとしか考えられない。
空の神と天使、崇拝する2つの存在と共に住めるのならば良いように思える。
「それが、あまり良い噂を聞かないんだ」
「噂?」
「聖別を受けた者は、その生涯を捨てなければならない。 それが、空の世界に住む者全員が知っている噂だ」
聖別により選ばれた者の末路を知る者はいない。
しかし、その事が空の世界の住人達に不安を募らせていた。
いつからそのような事になったのかは誰もわからない。
しかし、今は確実にその聖別から逃れようとしている。
「聖別は何を判断するのか知られていないからね。 だからみんなこうして隠れているんだ。 出来るだけ目立たず、聖別が終わるまで息を潜めて待つしかない」
この町の建物は、気配を断つ魔術が使われている。
それゆえ、シン達は人の気配を感じなかったのだ。
それだけ、聖別はこの世界の住人達にとって避けたい事なのだ。
「全く、外をうろつく君達を見た時は冷や冷やしたよ。 こんな事をするから僕はみんなに馬鹿にされるんだろうけどね」
出来るだけ目立たずに過ごすはずが、この男性はシン達を見捨てる事が出来なかったのだろう。
聖別があるにも関わらず、シン達を助けに表に出たのだ。
「世話焼きグリン。 そう僕は言われているんだ」
おそらく、この男性は何度も似たような事をしているのだろう。
グリンと名乗る男性には、シン達は感謝するしかない。
聖別などに関わってしまえば、どうなるかわからない。
「聖別があるから、あの天使が来ていたのか」
「天使様を見たのかい?」
シンはローウェルと呼ばれた天使との接触をグリンに説明する。
シンの話を聞いたグリンは、驚きを顔に浮かばせ無事であったシン達を強運の持ち主と言い始めた。
「とにかく、今日はもうここで静かにしているんだ。 聖別は明日には終わる。 それまで絶対に目立ってはいけない」
グリンはシン達を部屋へと案内しながら強く言い付ける。
グリンの家は決して裕福なものではないが、シン達をもてなすように準備する。
「聖別、厄介だな」
ティナやサリスであれば何とか切り抜けるだろうが、そう何度も行われるのであればシン達の行動は制限される。
今回はグリンがいたから良いが、他の浮遊島ではそうはいかないだろう。
「こんな物しかないけど、許してくれ」
歩き疲れていたシン達に出されたのは、グリンが飼育している家畜から取れた飲み物や食べ物だ。
浮遊島ステップで牧場を営むグリンは、この町では有名な畜産農家だ。
グリンの家畜達から取れた物は、美味と好評である。
困った人を見過ごせないという性格もあり、本人は馬鹿にされていると言うが、浮遊島ステップでは愛されている人物の1人だ。
「畜産農家グリン! 表に出ろ!」
「なんだ?」
グリンの出した食べ物を堪能していたところ、家の外から怒声が届く。
威厳のあるその声に、グリンは驚いていた。
「間違いない、天使様だ」
「聖別か? なら行かない方が良いんじゃないか?」
「聖別で選ばれた者が逃げる事は許されない。 そんな事をすれば、僕の血縁者全員が罪に問われてしまう」
聖別から逃れる事は許されない。
それが空の世界の掟だ。
「畜産農家グリンだな?」
「はい、私がグリンです。 天使様、この度はどのようなご用件で?」
覚悟を決めたグリンは、緊張した面持ちで扉を開けた。
仁王立ち、まさに天使はグリンを威圧するように立ち塞がる。
その姿は、グリンの瞳には巨大な山脈のように大きく映っていた。
「黒髪に黒目の男がいるな?」
「はい? 聖別ではないのですか?」
「そうだ」
天使の目的、それは聖別ではなかった。
「俺の事か?」
黒髪に黒目、この中でその特徴を持つのはシンしかいない。
「貴様か、間違いないな?」
「はっ!」
グリンの前に立つ天使は、側に控えたもう1人の天使に問いかける。
この2人の天使に、シンは見覚えはない。
「天使の名において判決を下す! 貴様を天使との無断接触の罪で捕縛、ラーギアへ連行する!」
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