プロクラトル

たくち

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空の世界

残された者達

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「これからどうするのよ? シンを取り返しに行く?」

 聖別の行われた日、天使により連れ去られたシンをどうするのか、残されたユナ達は苦悩していた。

 実質的にこのグループの中心はシンであり、他の者は皆シンを慕いついて来ていたのだ。
 その中心人物がいなくなった事により、残された者達はどうするべきか迷っていた。

 シンが連れ去られようとした時、ユナ達は抵抗しようとした。
 しかし、その連れ去られようとしているシン本人が抵抗しようとする様子を見せなかった事も状況を複雑にしていたのだ。

 シンには何か考えがある。
 その事が頭をよぎり、無駄な事をすれべきではないのではないかと意見が出される。

 結論の出ない話し合いが始まってから数日、空の世界で最初に出会ったグリンの家で過ごしてはいるが、そう長く滞在する事は出来ない。

 戸惑うユナ達を見ているグリンは、結論が出るまでここにいればいいと言うがそこまで世話になる訳にはいかない。

 ユナ達は犯罪者として捕らえられたシンの仲間であり、シンと同じくローウェルと呼ばれる天使と接触している。
 いつ、同じ罪で捕らえられるかわからないしグリンにも迷惑をかける事になるかもしれない。

 これまでの話し合いで、意見はほぼ真っ二つに分かれていると言ってもいいだろう。
 シンを救出しに向かうべきと主張しているのは、ユナをはじめとしたアイナとシーナの女性3人だ。

 いかにシンと言えど空の神エウリスの本拠地と思われる空中都市ラーギアから単独での脱出は難しいと考えているのだ。
 エウリスの存在、そして未だ謎めいている天使達の存在も気がかりだ。

 天使達の実力や総数は不明である。
 この空の世界が敵地である事を考えてもその全てと敵対する事は不可能だろう。

 対してシンには目的があり、残された自分達は別行動で目標に取り組むべきだと主張するのはエルリックとナナである。

 シン達の目的は空の証と獅子の強心の入手だ。
 シンが向かった先が空中都市ラーギアならば、空の証が近くにあると考えて良い。
 ならば残されたエルリック達は、獅子の強心を探すべきだと考えているのだ。

 そこにはシンに対する絶対的な信頼がある。
 シンならば敵の本拠地にいるという窮地にも対応し、空の証を手にすると確信しているからこそこの判断が出来たのだ。

「いくらシンでも単独で勝てる可能性は薄いわ。 サリスとの戦いで神の力は知っているでしょ?」

「エウリスは空の証に関して特にこだわっている発言はしていない。 なら、戦闘をしなくても空の証を手にする事は可能なはずだ」

 最悪の事態を想定し戦闘を視野に入れるユナと最善の行動を想定し戦闘をしなくとも目的を達する事が可能と考えるエルリック。

 どちらの考えが悪いと言うのではない。
 どちらも正しくどちらも間違いがあるからこそ、今この面々は今着状態なのだ。

「少なくとも師は拘束されている。 どちらにせよそこから脱する為に戦いは避けられない。 ならば、師1人で戦うより我らが加勢した方が優勢なはず。 少なくともここにいる者達ならば天使にも負けはしない」

 序列1位、絶対的な強者であるアイナはこの空の世界でもその自信が霞む事はない。
 アイナの言う通り、シン1人で脱出するよりもここにいる全員で協力した方が確実性はある。

「それはシンの脱出を最優先にしている考えだろう? この空の世界に来た目的を忘れてはいけない」

 それに対しエルリックは本筋を間違えてはならないと意見する。
 確かにアイナの言う言葉は、シンの救出を最優先にしている。
 だが、ここにいる者達の最優先にするべき事はそれではないのだ。

 確かにシンの事が心配なのはエルリックも同じだ。
 エルリックはシンの事を頼りに思っている。
 しかし、どこか頼りない部分があるとも考えている。
 その為には、その足りない部分を自分が補わなくてはならないとも考えている。

 しかし、今シンを救出しに焦る事は禁物だと理解している。
 エルリック達はこの空の世界に来て間もない。
 未だにエウリスや天使達の情報は乏しく、空中都市や浮遊島に関してもまだこの放牧島ステップしか知らない。

「それに僕達はこの世界の事をまだ一部しか知らない。 こんな状況で無闇に動くのは危険だ」

 エルリック達は空の世界をほとんど知らないのだ。
 そんな状況でどこにあるのかもわからない空中都市ラーギアに向かいようがない。

 エルリックの経験上、罪で捕らわれたとしても罰が下されるまでには時間がかかる。
 ならば今は地に足をつけ、着実に進むべきだと意見しているのだ。

「知識がないから退けと? 未知に挑むからこそ冒険者と呼ばれるのだぞ」

 エルリックに対しまたもアイナは正反対の意見を言う。
 Sランク冒険者としての誇りがあるのだろう。
 未知なるものに挑戦し、それを乗り越える。
 それが可能だからこそアイナはその立場についているのだ。

「今僕達がしているのは冒険じゃない。 それを忘れないでくれ」

「むっ、確かにそうだったな」

 エルリック達がしているのは冒険でなく神の代理戦争だ。
 それを忘れてはならないと指摘する。

「それに僕達だけでは移動手段がない。 まずそれを確立しなければならないよ」

「はぁ、そうだったわね。 ならまずは移動手段を確保しましょう」

 残された者達の苦悩は終わらない。
 シンだけでなくティナやサリスとも別れてしまっている。
 彼女達なしに飛行する事は出来ない。
 しかし、少しずつ残された者達も動き始めた。

 **

「ふむ、はぐれてしまったようだの」

 銀色の長い髪を風になびかせ魔王は言う。
 浮遊島ステップ、そのどこかにある草原に魔王は立っていた。

「ティナ、貴様が勝手な行動をするからではないか」

 同じく黒く輝く髪をなびかせた元神はため息を吐く。
 魔王と元神、2つの存在は共にいた人族達とはぐれていた。

「まあ、良いではないか」

「ふん、気楽なのは変わらんな」

 それでもこの2つの存在は焦る事を知らない。
 全ての生物の頂点に立つ両者に危機などないのだから。

「それにしてもエウリスの研究も大した事ないな」

 今この場にいるのは魔王と元神だけだ。
 しかし、それは数分前までの事。
 この2つの存在の足元には息絶えた無数の天使の姿がある。
 美しいはずの草原は数多の異物により、異様な光景に姿を変えている。

「さて、これからどうするかの?」

 何事もなかったかのように魔王は言う。
 彼女にとって天使達の襲撃など、穏やかに過ごす休日となんら変わりのない事だった。

「さあな、私達は勝手にしても良いんじゃないか?」

 聖別、空の世界の住人達が恐れる事も魔王と元神にとって恐るるに値しない。
 ここ数日、困った事と言ってもシン達とはぐれてしまった事ぐらいだ。

「それもそうだの、なら妾達は空の世界をゆっくりと楽しもうではないか」

「ふん、貴様と共に行動するなど考えてもいなかったな」

 魔王と元神、2つの存在が空の世界を闊歩する。
 何者にもこの2つの存在を止める事は出来ない。
 空の神エウリス、そして天使達にとって最強最悪の敵となる者達が、自由を得た。
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