プロクラトル

たくち

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空の世界

それぞれの選択

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 空中都市ダンデリアはエウリスと敵対するシンにとってまさにうってつけとなる拠点だ。
 都市全体が浮遊島内の巨大な山脈の内部にあるダンデリアは、空の世界に存在しながらも空と言うものが存在しない。

 空がないと言う事は同時に、空のあるところ全てを見る事の出来るエウリスの監視から逃れられると言う事だ。

 ダンデリアに滞在している時のみの事だが、シンにとってこれは大きなメリットだ。
 ダンテとの協力は戦力と空の世界の知識と共に拠点と言う重要なものをシンにもたらした。

 ダンテに抱く感情も出会った当初よりも良い方向に向かっている。
 初めに話した時は自尊心が強そうで、不真面目な印象をダンテに抱いていたが、このダンデリアの街の様子やその住人達に対する接し方を見るとその印象も薄れていった。

 現状、ダンデリアに滞在するのは悪い気分ではない。
 ダンテと共にこの街に来たという事もあり、街の人達とも悪い仲ではない。
 しかし、どうもダンテの側近の天使と思われるルーディとは良い関係を保てているとは言い難い。

 シンからは仲良くなろうと歩み寄ってみてはいるものの、ルーディにその気はないらしく毎回冷たくあしらわれてしまう。
 これからダンテと協力していくならば、その側近であるルーディとも協力しなくてはならないのだが、相手にされないのではわかりあう事も出来ない。

「シン、早速だがリーオンに向かうぞ。 行動するなら早い方が良い」

 与えられた一室にて休んでいたシンのもとにダンテが突然入り込む。
 どうもダンテと言う天使は遠慮と言うものを知らないらしい。
 突然現れ、何かを思い出したように急にいなくなる。

 ここ数日でダンテがどのような者なのか、少しずつシンは理解し始めていた。
 この天使は何かと忙しい、いつも慌ただしくあちこちを駆け回っているのだ。

「行くって言ってもどうやって行くんだ? 俺が空を飛べないのは知ってるだろ? それにお前もそう簡単に動けない」

 大天使候補であるダンテはそう簡単に動く事を許されていない。
 シンが囚われていた空中都市ラーギアに来たのは偶然だったのだ。

 聖別の日、ダンテのように各地に土地を持ち生活する天使達やラーギアに住む天使達は全員ラーギアに集合する事になっている。
 その僅かな自由の間にダンテは行動したのだ。

 今ダンテが外に出ればすぐにエウリスなりに見つかりシンも再度捕まる可能性がある。
 ダンテが大天使に選ばれる為にわざと目立つのも必要だが、現状シンにそこまでの危険を犯す必要はない。

「心配ないさ、 道案内にはルーディを付ける。 これを機に仲良くなってくれよ。 俺様が気を遣ってやったんだ。成果なしじゃ許さないぞ? 」

「余計なお世話だ。 他にも天使はいるんだろ?」

 獅子の強心を手にする為には天使の力が必要だろう。
 移動もそうだが、リーガルを空中に留めておくには翼を持つ天使が適任だ。
 しかし、手間がかかり忍耐も必要とされそうなリーガル討伐に息の合わないルーディと向かう訳には行かない。

 この空中都市ダンデリアには他にも多数の天使がいるのは確認している。
 可能ならば、ルーディ以外の者と向かいたいところだ。

「残念ながらルーディの他の奴らは俺様と一緒にやらなきゃならない事があるんだよなぁ」

 わざとらしく嘆く素振りを見せるダンテにイラっときながらも、シンは選択肢がない事を理解する。
 どうもダンテはシンとルーディの距離を近づけたいようである。

「わかったよ。 どこに行けば良い?」

 居候のシンにわがままを言う権利はなかった。

 **

「二手に別れる? 私達が?」

 空の世界で出会ったグリンのもとにいたユナ達は未だ意見がまとまっていなかった。
 しかし、現状を良くなく思ってしたエルリックから提案が出された。

 シンを探そうと考えるユナとアイナ、シーナ。
 目的である空の証と獅子の強心を優先するエルリックとナナ。
 この意見の食い違う者達をそれぞれ別行動させると考えたのだ。

 ただでさえティナやサリスともはぐれてしまっている。
 その一同をさらに分ける事に不安はあるが、悪い案ではない。
 ユナ達の実力ならば単独での行動も十分可能である。
 このまま浮遊島ステップにとどまるよりもマシだろう。

「だけど予め期限は付けさせてもらうよ。 一ヶ月だね。 例えどんな状況であろうと一ヶ月後には必ずこのステップに戻ってくる事。 それだけは守ってくれ」

「わかったわ。 一ヶ月後ね」

 進展があろうとなかろうと必ずこの浮遊島ステップへと戻る事。
 それがエルリックから出された絶対条件だった。

「合流後、状況を確認して進展のあった方へみんなで向かう。 これで良いかな?」

「承知した。 我の力、今こそ解き放とう」

「ははっ、頼もしいね」

 エルリックはアイナの扱いにもこのところ慣れてきた。
 たまにエルリックの理解し難い言動をする事もあるが、何が言いたいのか雰囲気でわかるようになったのだ。

「エルくん。 早く」

 意気揚々と旅立つユナ達を見たナナは、エルリックを急かすように服を引く。
 ナナがエルリックに着いて行くと言ったのはおそらくだが食事面を考慮しての事だろう。
 現金なようであるが、戦力的にナナの存在はありがたい。

「グリンさん。 お世話になりました。 すみませんこれでは少ないですが…」

「いや、お礼なんていらないよ。 僕は自分のしたい事をしただけだからね」

 数日世話になった礼としてエルリックが取り出した数枚の金貨をグリンは受け取らなかった。
 こうした所もグリンが慕われる理由でもあった。

「それと余計なお世話かもしれないけど」

「なんだい?」

「僕も君達に同行しても良いかな? この世界の事を知ってる人間は必要じゃないのか?」

 グリンの申し出はエルリックにも有益なものがある。

「僕達の目的には危険がある。 迷惑と言う訳ではないけど、死の危険があるんだ。 そこまで世話になる訳には….」

 エルリック達の目的は、空の神エウリスと対立する事になるものだ。
 グリンがエルリック達に手を貸せば、グリンはこの世界に住む事すら難しくなるだろう。

「それでも僕は同行したい。 戦力にはなれないかもしれないけど、こう見えて何度か修羅場は潜ってる。 足手纏いにはならないよ」

 グリンの決意は固い。
 エルリックを見つめる瞳に曇りはない。

「わかった。 これからよろしく頼む」

「ありがとう。 力になれるよう頑張るよ」

 シンと同じく、仲間達も動き出す。
 一人一人の選択が、空の世界の行方を大きく左右する事になる。
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