プロクラトル

たくち

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空の世界

相性の悪い2人

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「ああっ! クソ、また失敗だ」

「下手くそ、これだからダンテ様以外の男は信用ならないのだ」

 浮遊島リーオンに向かい、そこに生息する巨大な獅子リーガルをシンは討伐した。
 しかし、この討伐は失敗に終わる。
 獅子の強心を手に入れるために必要な手順をシンは失敗したのだ。

 金色に輝くたてがみを持つ巨大な獅子は、力なく大地に横たわっている。
 だが、その体内に宝珠は生成されていない。
 この失敗により、またもシンとルーディの関係は悪化し始める。
 修復などとうの昔に不可能な域に達しようとしていた。

 ダンテの余計な気をまわした事で、ルーディと共に浮遊島リーオンへと向かう事となった。
 リーオンに向かう間もルーディから何度も耳の痛い小言を聞かされる事となったシンは、リリアナの為とはいえ我慢の限界が訪れようとしていた。

 それは浮遊島リーオンに辿り着き、獅子の強心の為に必要なリーガルの宝珠を手に入れようと奮戦する現在も変わらない。

 かれこれリーガルも4匹ほど討伐している。
 しかし、ここまでダンテに教えられた通りに討伐し、宝珠を手にする事は出来ていない。
 リーガルの討伐手順が複雑な事もあるのだが、シンとルーディの相性が悪い事も原因だ。

 人間ならば誰しもどうしても合わない他人はいる。
 相性が悪い、そう言ってしまえば簡単だが、それが共に戦う者となると厄介だ。
 シンにとって、ルーディはまさにそのような存在だと言えるだろう。

 会話に戦い方、趣味や考え方に至るまでシンとルーディは全てが噛み合わない。
 それぞれがする些細な仕草でさえ気に触るのだ。

 シンがその事に気付いたのは、初めて出会った時の事なのか、それとも今回の同行が決まった時なのかはわからない。
 しかし、ルーディに対して良い印象を持っていないのは確実な事だった。
 それはルーディからしても同じ事だった。

 **

「私が、この男と?」

「そ、俺様は動けねぇしやる事もある。 ルーディなら問題ないだろ?」

 問題ない、ダンテはそう言うがシンと浮遊島リーオンに向かえと言われたルーディの表情は冴えない。

 抱いているのはシンと同じく嫌悪に近い感情だろう。
 ルーディもシンと相性が悪い事はわかっているのだ。

「私でなく他の者でも良いのではないですか?」

 珍しくルーディがダンテの命令に従おうとしない。
 ルーディからしたらシンとの行動などごめんなのだが、ダンテはこの反応に物珍しさを感じており、取り下げようとはしない。

「リーガルの倒し方は知ってるだろ? それにリーオンまで距離がある。 今動かせる天使の中でお前は1番長く飛行できる。 戦闘は苦手だと思うが、それに関してはこいつに任せればいい」

 シンが最初に出会った天使であるローウェルのように、天使全員が飛行出来るとは限らない。
 当然、一人一人の個人差はある。
 長い距離を飛ぶ事が得意な者がいれば、短い距離を素早く飛ぶ事が得意な者がいる。

 ルーディは天使の中でも長距離飛行を得意としている。
 得意と言うよりもそれに特化していると言った方が正しいだろう。

 戦闘などの分野において他の天使よりも劣るルーディだが、長い距離を飛ぶ事に関しては群を抜いている。
 リーガルとの戦いではその討伐手順上、天使が請け負う事となる空中への長時間の滞空が要求される。
 浮遊島リーオンへの移動と共にそれは必須の能力だ。

 ダンテは何も考えていないようで、実はきちんと適性を見てルーディを選んでいた。
 性格面など考慮していない事を除けば、ルーディは最も適任と言える。

「仕方ありませんね。 今回だけですから」

 ダンテの説得は無理と判断したルーディは、嫌々ながらも引き受ける事となる。
 この時の判断をルーディは後悔してもしたりないほど悔やむ事となった。

 **

 浮遊島リーオンへの道のり、そしてリーガル討伐までシンとルーディが分かり合う事はない。
 息の合わない2人は、巨大な獅子と何度も相対する事となる。
 決して楽に勝てない巨大な獅子は、シン達の気力、体力と共に2人の関係を悪化させていく。

「なあ、手足を砕くの手伝ってもらえないか?」

 シンが苦戦しているのはリーガルの四肢を砕くという事だった。
 斬るのではなく砕く、大鎌を武器とするシンには難しい注文だ。
 それも同時に砕かなくてはならない。

 リーガルを空中に留めておく事は、黄金のたてがみをルーディが引っ張る事でクリアしているのだが、どうしても他の手順を行う為の手数が足りない。

「私に戦闘を期待するな。 リーガルの四肢を砕く力などない」

 そう言うルーディであるが、4メートル以上の体躯を持ち、体重も何トンになるかわからないリーガルを空中に持ち上げるほどの力は持っている。
 武器を持ってはいないが、天使であるのだから戦闘手段くらいは持っているだろうとシンは考えた。
 しかし、ルーディに戦うつもりはないらしい。

「私の力はほとんどこの翼によるものだ。 私自身に力はない」

 リーガルを持ち上げるほどの驚異的な膂力は、ほとんどがその背に持つ翼によるものだとルーディは言う。
 それは事実であった。

 ルーディの持つ天使としての力は全て翼に注がれていると言っても過言ではないのだ。
 その為、ルーディ本人は非力そのものである。
 戦いが苦手なのはルーディ本人も認めているところだった。
 それでもこれまでルーディが生きて来た中で不便に思ってきた事はない、今この時を迎えるまで。

「なら、俺がなんとかするしかないか」

 ルーディが本当に戦えないとなるとシンがこれまで以上に努力する他ない。
 多数生息するとはいえ限界はある。
 1匹であろうとも獅子の強心を手にする機会を無駄には出来ないのだ。

「そうだ。 貴様の為にわざわざ来ているのだ。 もう少し頭を使って戦え」

 シンの呟きにルーディは反応する。
 何かにつけて文句を言うのが癖になってきている。

「ちょっとくらいは手伝ってくれても良いんだけどな」

「リーガルを持ち上げているだろう? それだけでも感謝するべきだ」

「はいはい、ありがとうございますね」

「貴様、感謝の仕方を知らないのか?」

 浮遊島リーオンは広く、そこに生息するリーガルも多数いる。
 シン達は休む事なくリーガルとの戦いに赴き続けた。
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