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空の世界
天帝の罠
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「2人か、予定より少ないな」
エルリック達を見つめる序列2位”天帝”ラドラス・エルドラスは不満げな表情をする。
おそらく、ラドラスの予定ではユナ達もこの場に誘き寄せる手筈であったのだろう。
「すみません。 想定していたよりもこいつらの意見が食い違いまして」
意見の食い違い、グリンはそうラドラスに説明する。
それがエルリック達の行動についての事であるのは理解出来る。
「まあいい、どのみち全員逃すつもりはないからな。 少しずつ追い詰めていく」
もうエルリックは理解していた。
自分達はこのラドラスの策にまんまと引っかかったのだと。
その策がどこからなのか、それははっきりとしている。
聖別の日、グリンと出会ったあの時からエルリック達はラドラスの手のひらの上で踊らされていたのだ。
後悔、その言葉が今のエルリックの感情を表すのに正しいだろう。
”天帝”ラドラス・エルドラスは、この空の世界で最も注意すべき存在としていた。
出来る事なら接触を避けるつもりの相手、最悪の場合でも逃走を最優先すべき相手の用意した舞台にまんまと引き摺り込まれたのだ。
(あの時、ユナさん達の意見を尊重するべきだったか)
序列2位である”天帝”を前にして、エルリックの仲間はナナだけである。
同じく序列者であるナナならばある程度抵抗する事は可能かもしれないが、エルリックは別だ。
序列者どころか使命を果たしたシーナよりもエルリックは弱い。
その事は誰よりもエルリック自身が理解している。
もし、ユナ達と別れていなければこの場に序列1位のアイナに序列4位のユナもいたはず。
あの少女達がいたならば”天帝”を迎え撃つ事も可能だっただろう。
もしくは目の前の忌々しさすら感じるグリンなど同行させなかったかもしれない。
エルリックは自身の浅はかな選択を悔やんでいた。
確かにエルリックの言っていた意見も間違いではない。
しかし、現状を省みるにあの意見は間違いだと決めるしかない。
結果論だと言ってしまえばそれまでだが、確実にエルリックは道を間違えた。
エルリックの出した意見には押しとどめようとしたが、多少なりともエルリック自身の身勝手なものが含まれていた。
それは主人と仰ぐリリアナを思ってのものだ。
世界樹の試練に心が折られた主人を一刻も早く救うべく獅子の強心を求めていたのだ。
結果としてその身勝手な意見がエルリック自身のみならず、ナナにまで窮地をもたらす事となってしまった。
「砂の世界で逃げ出した者だな?」
他者を圧倒するかなような威圧感は相変わらず凄まじく、エルリックは自身の体が震え始めるのを必死に堪えようとしていた。
問いかけられた言葉に反応すら出来ないほど、それは大きいものだった。
砂の世界で逃げ出した者、ラドラスはエルリック達の事を覚えていた。
戦闘していた時間は僅かだったが、それでもラドラスはエルリック達の顔をよく覚えていたのだ。
それだけ、ラドラスにとってノアの仲間というのは忌むべき存在なのだろう。
「エル君、大丈夫」
必死に恐怖を抑え込もうとするエルリックに後ろに控えるナナは声をかける。
口数は少ない、だがそれだけでエルリックは気持ちを切り替える事が出来た。
もう誤って選び進んだ道を戻る事は出来ない。
こうなってしまった以上、エルリックにはラドラスと対峙する他ないのだ。
そう割り切ってしまうと不思議と視野が広がった。
現在、エルリック達がいる場所に心当たりはない。
しかし、ラドラスの言葉からこの場が戦いの為に用意された場所というのを判断する事が出来る。
ラドラスにとって優位に立てる場所、エルリック達の他にユナ達がいても勝つ事が出来ると判断したのがこの場所だ。
ここに来た当初、何かの施設の中だとエルリックは考えた。
しかし、施設と言うには足りないものが多い。
まず天井がない。
おそらく、空を飛べるラドラスが自由自在に動き回る為であろう。
次に机などの家具の類は一切ない。
戦闘をするのだから当然とも言えるが、これもラドラスが得意とする魔術を防ぐ物がない状況にしたかったのだろう。
壁や床に仕掛けがあるようにも思えない。
魔気を覚えた事でエルリックはある程度、魔術的な要素を見抜けるようになった。
この場所に魔術を使った形跡は感じられない。
待ち伏せならば、何かしら罠を用意していたと考えてもいいが、それならばラドラスはわざわざ姿を現わす必要はない。
この場に来た瞬間、不意打ちをした方が効果的だ。
そうなれば、ラドラスが考えている事は絞られる。
ラドラスから感じる絶対的な自信からもそれは導き出せる答えだ。
(僕達を真正面から殺せる、か)
舐められているとは感じない。
序列2位、それに魔王とも対等に渡り合う男だ。
そう考える事も当然だろう。
実力差については、砂の世界で証明されている。
空の世界に来た当初、エウリスと不意の接触をした時もティナがおり、山の神であったサリス、序列1位のアイナもいた。
ラドラスとエウリスが協力しているならば、その情報も伝えられているはず。
それでも姿を現わしたと言う事は、あの3人を相手にしても勝つ自信があると言う事だ。
(そう簡単にやられるつもりはない)
敵の用意した舞台、そして圧倒的強者であるラドラスを前にしてもエルリックは簡単に負けるつもりはない。
仲間達、何よりここにいないリリアナの為、エルリックは負ける事を許されないのだ。
王女の盾、それこそがエルリックの使命であり、生きる理由だ。
今のこの状況はエルリックが死する理由にはなり得ない。
そして、ラドラスが知らない事も多い。
(僕も、あの時より強くなっている)
砂の世界を旅立つ時、エルリックは未熟であった。
今も完成されてはいないが、あの時よりもエルリックは成長している。
シンと行なっていた毎日の鍛錬。
それにあの魔王であるティナ直々の修行。
エルリックの力は、ラドラスと初めて対峙した時よりも強くなっている。
その事をラドラスは知らないはずだ。
それにエルリックは砂の世界で武器すら見せていない。
逃走に必死になっていたからなのだが、今はそれがラドラスに対して優位に立てる数少ないものだ。
エルリックが使う槍は特殊だ。
ノアから授けられた無王の双槍は、変幻自在の攻防を可能とする。
それに加えてティナから鍛えられた魔槍飛燕流もある。
この2つを初見で対応するのは難しい。
さらにエルリックは1人ではない。
かつて砂の世界で”国滅”と恐れられた序列7位のナナもいるのだ。
勝つ事は難しいかもしれないが、一矢報いる、もしくは逃走も可能なはずだ。
「では、僕はこれで。 エルリックさん、また会う時があったら良いですね」
グリンが前に言っていた戦闘が苦手と言うのは本当の事なのだろう。
エルリック達を誘き出すという仕事を終えたグリンは、戦場となるこの場所から離れる。
ラドラスもそれを知っているのか、咎めようとはしない。
むしろここにいられると邪魔になると考えているのかもしれない。
グリンが見せる笑顔は数刻前となんら変わりはない。
しかし、以前は人当たりの良さそうな印象を受けていた笑顔も、今では嫌味にしか感じない。
結局、彼があの時声をかけて来たのは今この時の為なのだ。
聖別という特別な日に、危険を犯してまでエルリック達を助けたのも、全て演技だったのだ。
あまりに完璧な演技にエルリックも呆れるしかない。
声をかけられ、部屋でもてなされてからも怪しさや不自然さは全くなかったし、お人好しと言うのも偽りのない事だと感じていた。
グリンは完璧に自分を殺し、他人になりきる事の出来る数少ない人間なのだろう。
その性質にエルリックは、完全にしてやられたのだ。
おそらく、シンが天使に連れ出されたのもグリンによるものだ。
どうやって連絡したのかわからないが、そう考えるのが自然だろう。
今思えば、いくら天使とはいえローウェルとの接触からあの短期間にシンを特定するのは不可能に近いだろう。
もしかするとローウェルとその師匠と呼ばれた天使もラドラス達の仲間なのかもしれない。
そう考えれば、すべての辻褄が合う気がするとエルリックは考えた。
ローウェルとの接触は偶然だったかもしれないが、エウリスの視野を持ってすれば可能な事かもしれない。
ここにエルリック達が誘き出されたのも必然の事のように思えてきた。
ラドラスとグリンが繋がっているならば、シンの安否も不明になった。
天使に連れ出されたシンは身動きが取れない状態だった。
最悪の場合、既に死している可能性がある。
それもラドラスの手によっての可能性が高い。
シンの死はエルリック達にとって実質的に敗北だ。
しかし、シンの神であるノアが何も連絡をよこしていない。
まだ、シンは生きていると考えるのが正解かもしれない。
代行者であるシンが死んだならば、何かしら連絡があるはずだ。
エルリックが確かめたい事は他にもある。
しかし、目の前の男はエルリックにそれをさせる事を許さない。
「予定より少ないが、まずは始末するとしよう」
”天帝”が天使とは違うあまりにも異質な翼を広げ、動き出す。
エルリック達を見つめる序列2位”天帝”ラドラス・エルドラスは不満げな表情をする。
おそらく、ラドラスの予定ではユナ達もこの場に誘き寄せる手筈であったのだろう。
「すみません。 想定していたよりもこいつらの意見が食い違いまして」
意見の食い違い、グリンはそうラドラスに説明する。
それがエルリック達の行動についての事であるのは理解出来る。
「まあいい、どのみち全員逃すつもりはないからな。 少しずつ追い詰めていく」
もうエルリックは理解していた。
自分達はこのラドラスの策にまんまと引っかかったのだと。
その策がどこからなのか、それははっきりとしている。
聖別の日、グリンと出会ったあの時からエルリック達はラドラスの手のひらの上で踊らされていたのだ。
後悔、その言葉が今のエルリックの感情を表すのに正しいだろう。
”天帝”ラドラス・エルドラスは、この空の世界で最も注意すべき存在としていた。
出来る事なら接触を避けるつもりの相手、最悪の場合でも逃走を最優先すべき相手の用意した舞台にまんまと引き摺り込まれたのだ。
(あの時、ユナさん達の意見を尊重するべきだったか)
序列2位である”天帝”を前にして、エルリックの仲間はナナだけである。
同じく序列者であるナナならばある程度抵抗する事は可能かもしれないが、エルリックは別だ。
序列者どころか使命を果たしたシーナよりもエルリックは弱い。
その事は誰よりもエルリック自身が理解している。
もし、ユナ達と別れていなければこの場に序列1位のアイナに序列4位のユナもいたはず。
あの少女達がいたならば”天帝”を迎え撃つ事も可能だっただろう。
もしくは目の前の忌々しさすら感じるグリンなど同行させなかったかもしれない。
エルリックは自身の浅はかな選択を悔やんでいた。
確かにエルリックの言っていた意見も間違いではない。
しかし、現状を省みるにあの意見は間違いだと決めるしかない。
結果論だと言ってしまえばそれまでだが、確実にエルリックは道を間違えた。
エルリックの出した意見には押しとどめようとしたが、多少なりともエルリック自身の身勝手なものが含まれていた。
それは主人と仰ぐリリアナを思ってのものだ。
世界樹の試練に心が折られた主人を一刻も早く救うべく獅子の強心を求めていたのだ。
結果としてその身勝手な意見がエルリック自身のみならず、ナナにまで窮地をもたらす事となってしまった。
「砂の世界で逃げ出した者だな?」
他者を圧倒するかなような威圧感は相変わらず凄まじく、エルリックは自身の体が震え始めるのを必死に堪えようとしていた。
問いかけられた言葉に反応すら出来ないほど、それは大きいものだった。
砂の世界で逃げ出した者、ラドラスはエルリック達の事を覚えていた。
戦闘していた時間は僅かだったが、それでもラドラスはエルリック達の顔をよく覚えていたのだ。
それだけ、ラドラスにとってノアの仲間というのは忌むべき存在なのだろう。
「エル君、大丈夫」
必死に恐怖を抑え込もうとするエルリックに後ろに控えるナナは声をかける。
口数は少ない、だがそれだけでエルリックは気持ちを切り替える事が出来た。
もう誤って選び進んだ道を戻る事は出来ない。
こうなってしまった以上、エルリックにはラドラスと対峙する他ないのだ。
そう割り切ってしまうと不思議と視野が広がった。
現在、エルリック達がいる場所に心当たりはない。
しかし、ラドラスの言葉からこの場が戦いの為に用意された場所というのを判断する事が出来る。
ラドラスにとって優位に立てる場所、エルリック達の他にユナ達がいても勝つ事が出来ると判断したのがこの場所だ。
ここに来た当初、何かの施設の中だとエルリックは考えた。
しかし、施設と言うには足りないものが多い。
まず天井がない。
おそらく、空を飛べるラドラスが自由自在に動き回る為であろう。
次に机などの家具の類は一切ない。
戦闘をするのだから当然とも言えるが、これもラドラスが得意とする魔術を防ぐ物がない状況にしたかったのだろう。
壁や床に仕掛けがあるようにも思えない。
魔気を覚えた事でエルリックはある程度、魔術的な要素を見抜けるようになった。
この場所に魔術を使った形跡は感じられない。
待ち伏せならば、何かしら罠を用意していたと考えてもいいが、それならばラドラスはわざわざ姿を現わす必要はない。
この場に来た瞬間、不意打ちをした方が効果的だ。
そうなれば、ラドラスが考えている事は絞られる。
ラドラスから感じる絶対的な自信からもそれは導き出せる答えだ。
(僕達を真正面から殺せる、か)
舐められているとは感じない。
序列2位、それに魔王とも対等に渡り合う男だ。
そう考える事も当然だろう。
実力差については、砂の世界で証明されている。
空の世界に来た当初、エウリスと不意の接触をした時もティナがおり、山の神であったサリス、序列1位のアイナもいた。
ラドラスとエウリスが協力しているならば、その情報も伝えられているはず。
それでも姿を現わしたと言う事は、あの3人を相手にしても勝つ自信があると言う事だ。
(そう簡単にやられるつもりはない)
敵の用意した舞台、そして圧倒的強者であるラドラスを前にしてもエルリックは簡単に負けるつもりはない。
仲間達、何よりここにいないリリアナの為、エルリックは負ける事を許されないのだ。
王女の盾、それこそがエルリックの使命であり、生きる理由だ。
今のこの状況はエルリックが死する理由にはなり得ない。
そして、ラドラスが知らない事も多い。
(僕も、あの時より強くなっている)
砂の世界を旅立つ時、エルリックは未熟であった。
今も完成されてはいないが、あの時よりもエルリックは成長している。
シンと行なっていた毎日の鍛錬。
それにあの魔王であるティナ直々の修行。
エルリックの力は、ラドラスと初めて対峙した時よりも強くなっている。
その事をラドラスは知らないはずだ。
それにエルリックは砂の世界で武器すら見せていない。
逃走に必死になっていたからなのだが、今はそれがラドラスに対して優位に立てる数少ないものだ。
エルリックが使う槍は特殊だ。
ノアから授けられた無王の双槍は、変幻自在の攻防を可能とする。
それに加えてティナから鍛えられた魔槍飛燕流もある。
この2つを初見で対応するのは難しい。
さらにエルリックは1人ではない。
かつて砂の世界で”国滅”と恐れられた序列7位のナナもいるのだ。
勝つ事は難しいかもしれないが、一矢報いる、もしくは逃走も可能なはずだ。
「では、僕はこれで。 エルリックさん、また会う時があったら良いですね」
グリンが前に言っていた戦闘が苦手と言うのは本当の事なのだろう。
エルリック達を誘き出すという仕事を終えたグリンは、戦場となるこの場所から離れる。
ラドラスもそれを知っているのか、咎めようとはしない。
むしろここにいられると邪魔になると考えているのかもしれない。
グリンが見せる笑顔は数刻前となんら変わりはない。
しかし、以前は人当たりの良さそうな印象を受けていた笑顔も、今では嫌味にしか感じない。
結局、彼があの時声をかけて来たのは今この時の為なのだ。
聖別という特別な日に、危険を犯してまでエルリック達を助けたのも、全て演技だったのだ。
あまりに完璧な演技にエルリックも呆れるしかない。
声をかけられ、部屋でもてなされてからも怪しさや不自然さは全くなかったし、お人好しと言うのも偽りのない事だと感じていた。
グリンは完璧に自分を殺し、他人になりきる事の出来る数少ない人間なのだろう。
その性質にエルリックは、完全にしてやられたのだ。
おそらく、シンが天使に連れ出されたのもグリンによるものだ。
どうやって連絡したのかわからないが、そう考えるのが自然だろう。
今思えば、いくら天使とはいえローウェルとの接触からあの短期間にシンを特定するのは不可能に近いだろう。
もしかするとローウェルとその師匠と呼ばれた天使もラドラス達の仲間なのかもしれない。
そう考えれば、すべての辻褄が合う気がするとエルリックは考えた。
ローウェルとの接触は偶然だったかもしれないが、エウリスの視野を持ってすれば可能な事かもしれない。
ここにエルリック達が誘き出されたのも必然の事のように思えてきた。
ラドラスとグリンが繋がっているならば、シンの安否も不明になった。
天使に連れ出されたシンは身動きが取れない状態だった。
最悪の場合、既に死している可能性がある。
それもラドラスの手によっての可能性が高い。
シンの死はエルリック達にとって実質的に敗北だ。
しかし、シンの神であるノアが何も連絡をよこしていない。
まだ、シンは生きていると考えるのが正解かもしれない。
代行者であるシンが死んだならば、何かしら連絡があるはずだ。
エルリックが確かめたい事は他にもある。
しかし、目の前の男はエルリックにそれをさせる事を許さない。
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