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30.予感
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(誠様……)
昨日の誠の態度が気になって京子はざわざわとした心を落ち着かせることが出来ないでいた。
今まで相手の気持ちを考えず無理矢理な態度を誠はしたことがなかった。本来紳士的な人である誠がどうしてあのように自分本位の行為をしたのか、京子は悩まされた。
自分が何か誠を怒らせる事でもしてしまったのではないか?
それとも何か苛立った事でもあったのだろうか?
わからない……。
ただ……ふと、何となくだが、明の事を思い出された。
変わらない態度だった彼が、ある日突然、何か苛立っているような、怒っているような態度……。
そうだ。彼の時は、項の跡キスマークを見られた時だった。
何か……やはり原因は自分にあるのではないのか。そう思えてならない。
物思いに耽っているうちに生徒会長室の前に着いた。
――トントン。
ノックをする。
返事がない……?
――トントントン。
「……」
返事はなかった。
いつも優しい微笑みで迎え入れてくれる誠の姿はそこになかった。
「~~~~っ」
胸が増々ざわついた。
(誠様……)
――本当にいらっしゃらないのですか……?
――私を避けているのですか……?
――それとも私の考えすぎですか?
…………怖い。
怖い。怖い。
嫌われてしまったのではないだろうか?
そう疑いたくなるほど、悪い予感がするほど……自分と誠が薄い関係なのだと思い知らされる。
誠がNOと言えば、あっけなく終わる儚い脆い関係なのだ。
(会いたい……です)
昼休み、図書室を探しても見つけることはできない誠に、京子は一言『――会いたいです』メールを送った。
夜になってようやく誠からの返事が来た。
内容は忙しくて暫く会えないというものだった。
「…………」
京子は不安で不安で今にも崩れそうな気持ちを必死に堪えるしかなかった。
(誠様……!)
*
1週間、10日経っても誠からのメールはこなかった。
日に日に悪い予感は高まっていく……。
2週間目の朝、意を決して京子は生徒会長室の扉をノックした。
すると、暫くして扉が開いた。
「あ……」
ゆっくり開く扉を瞬きもせずに見つめる京子。
その中から無表情の顔をした誠の姿が現れた。
「~~~~っ」
――やっと会えた。
やっと顔を間近で見つめることができた。
その瞬間、京子は誠にギュッと抱き付いた。
「京子……」
「~~~~っ~~」
感情が高ぶりプルプルと身体が震える。
「ふ……~~っ」
涙が頬を伝った。
怖くて、怖くて、怖くて、不安でしょうがなかった。
(ああ、誠様……!)
不安でどうしようもない心が、誠に抱きつく事によって少しだけ和らいだ。
まるで離れないとでも言っているかのように、抱き付いたままぎゅうぎゅうと力を込めた。
「…………っ」
「どうしたの……?」
扉に鍵を掛けた誠が、静かに問いて来た。
「……会いたかったです」
「……」
「会いたかったんです」
「……」
黙っていた誠が静かに微笑んだ。
「京子……君は、いつも泣いているね……」
誠の指が京子の目元の涙を優しく拭った。
「すまない……」
そう言った誠の表情はとても哀しそうで申し訳なさそうに見えた。
――ドクン。
悪い予感がする……。
ドクンドクンと鼓動が耳に鳴り響く。
「……そんな、どうして誠様が謝るんですか」
「……君は、怒っていないのかい? 僕は無理矢理乱暴に君を抱いたのだよ」
「怒ってなんていません。ただ……どうしてだろうとは思いました」
「……あの日、君が……体育館裏で長谷川に抱き付いているところを見てしまったからかもしれない……」
「え……」
「……腹が立った。君は彼女とは違うのに……。すまない……」
「ち、違います! あれは! 長谷川君に抱き付いたのは怒っている彼を止める為で……」
自分でも驚くほど興奮していた。誠に誤解してほしくない! その思いが声を荒立たせた。
「うん。分かっているよ。君は2人の男を相手にするような女じゃない。悪かった……」
冷静で落ち着いた声だった。
誤解は解けているようだけれども、なぜか誠が遠くに感じた。
なにかよそよそしいような……なにか誠が違う……そんな空気を感じた。
――ドクンドクン。
(なんだろう……? 怖い……)
「……」
「……」
誠が真っ直ぐ京子を見つめている。
2人は見つめ合った。
辺りは静かだ。
ドクンドクンと鼓動だけが耳に響いた。
大好きな誠の顔……髪、目……相変わらず寂しげな暗い瞳をしている。
京子は目を凝らして見つめた。
誠が先に口を開く……。
「京子……もう君を傷つけたくない……。別れよう……」
ドクンドクン。悪い予感が当たってしまった。
「どうしてですか!? 嫌です!! 嫌っ……誠様!!」
「すまない……」
「好きなんです! 貴方が好きなんです! 嫌っ」
京子が誠に抱き付く。誠は優しく抱きとめた。
「君は僕を好きと言う……確かにそうなのだろう。ただ僕にはその感情を理解することができない。わからないんだ……。人を好きになるという事……。愛されるという事……。全てが僕とは程遠く、無縁なものなのだと思っている」
「私は貴方を愛しています。貴方を癒せる存在になりたい!」
「……京子、ありがとう。僕にはそんな価値はないよ。もうこれ以上君を傷つけたくはないんだ」
「……いいです。傷ついてもいいんです! ~~っ貴方の傍に~~いさせてください」
涙が次から次へと流れ、声も掠れていく。
「~~ぅ」
「……初めの頃ははっきり言って君の事はなんとも思っていなかった。けれど……今は、君の事が可愛いと思う。その君を自分の欠陥的感情のせいで傷つけることに腹が立つんだ。そして君の気持ちを受け止めることが僕にはできないことにも気付くんだ……もう続けてはいけない」
「貴方がいなかったら私は……私は……っ~~」
「…………すまない」
「~~~~~~~~っ」
――そして、私は意識を手放した……。
昨日の誠の態度が気になって京子はざわざわとした心を落ち着かせることが出来ないでいた。
今まで相手の気持ちを考えず無理矢理な態度を誠はしたことがなかった。本来紳士的な人である誠がどうしてあのように自分本位の行為をしたのか、京子は悩まされた。
自分が何か誠を怒らせる事でもしてしまったのではないか?
それとも何か苛立った事でもあったのだろうか?
わからない……。
ただ……ふと、何となくだが、明の事を思い出された。
変わらない態度だった彼が、ある日突然、何か苛立っているような、怒っているような態度……。
そうだ。彼の時は、項の跡キスマークを見られた時だった。
何か……やはり原因は自分にあるのではないのか。そう思えてならない。
物思いに耽っているうちに生徒会長室の前に着いた。
――トントン。
ノックをする。
返事がない……?
――トントントン。
「……」
返事はなかった。
いつも優しい微笑みで迎え入れてくれる誠の姿はそこになかった。
「~~~~っ」
胸が増々ざわついた。
(誠様……)
――本当にいらっしゃらないのですか……?
――私を避けているのですか……?
――それとも私の考えすぎですか?
…………怖い。
怖い。怖い。
嫌われてしまったのではないだろうか?
そう疑いたくなるほど、悪い予感がするほど……自分と誠が薄い関係なのだと思い知らされる。
誠がNOと言えば、あっけなく終わる儚い脆い関係なのだ。
(会いたい……です)
昼休み、図書室を探しても見つけることはできない誠に、京子は一言『――会いたいです』メールを送った。
夜になってようやく誠からの返事が来た。
内容は忙しくて暫く会えないというものだった。
「…………」
京子は不安で不安で今にも崩れそうな気持ちを必死に堪えるしかなかった。
(誠様……!)
*
1週間、10日経っても誠からのメールはこなかった。
日に日に悪い予感は高まっていく……。
2週間目の朝、意を決して京子は生徒会長室の扉をノックした。
すると、暫くして扉が開いた。
「あ……」
ゆっくり開く扉を瞬きもせずに見つめる京子。
その中から無表情の顔をした誠の姿が現れた。
「~~~~っ」
――やっと会えた。
やっと顔を間近で見つめることができた。
その瞬間、京子は誠にギュッと抱き付いた。
「京子……」
「~~~~っ~~」
感情が高ぶりプルプルと身体が震える。
「ふ……~~っ」
涙が頬を伝った。
怖くて、怖くて、怖くて、不安でしょうがなかった。
(ああ、誠様……!)
不安でどうしようもない心が、誠に抱きつく事によって少しだけ和らいだ。
まるで離れないとでも言っているかのように、抱き付いたままぎゅうぎゅうと力を込めた。
「…………っ」
「どうしたの……?」
扉に鍵を掛けた誠が、静かに問いて来た。
「……会いたかったです」
「……」
「会いたかったんです」
「……」
黙っていた誠が静かに微笑んだ。
「京子……君は、いつも泣いているね……」
誠の指が京子の目元の涙を優しく拭った。
「すまない……」
そう言った誠の表情はとても哀しそうで申し訳なさそうに見えた。
――ドクン。
悪い予感がする……。
ドクンドクンと鼓動が耳に鳴り響く。
「……そんな、どうして誠様が謝るんですか」
「……君は、怒っていないのかい? 僕は無理矢理乱暴に君を抱いたのだよ」
「怒ってなんていません。ただ……どうしてだろうとは思いました」
「……あの日、君が……体育館裏で長谷川に抱き付いているところを見てしまったからかもしれない……」
「え……」
「……腹が立った。君は彼女とは違うのに……。すまない……」
「ち、違います! あれは! 長谷川君に抱き付いたのは怒っている彼を止める為で……」
自分でも驚くほど興奮していた。誠に誤解してほしくない! その思いが声を荒立たせた。
「うん。分かっているよ。君は2人の男を相手にするような女じゃない。悪かった……」
冷静で落ち着いた声だった。
誤解は解けているようだけれども、なぜか誠が遠くに感じた。
なにかよそよそしいような……なにか誠が違う……そんな空気を感じた。
――ドクンドクン。
(なんだろう……? 怖い……)
「……」
「……」
誠が真っ直ぐ京子を見つめている。
2人は見つめ合った。
辺りは静かだ。
ドクンドクンと鼓動だけが耳に響いた。
大好きな誠の顔……髪、目……相変わらず寂しげな暗い瞳をしている。
京子は目を凝らして見つめた。
誠が先に口を開く……。
「京子……もう君を傷つけたくない……。別れよう……」
ドクンドクン。悪い予感が当たってしまった。
「どうしてですか!? 嫌です!! 嫌っ……誠様!!」
「すまない……」
「好きなんです! 貴方が好きなんです! 嫌っ」
京子が誠に抱き付く。誠は優しく抱きとめた。
「君は僕を好きと言う……確かにそうなのだろう。ただ僕にはその感情を理解することができない。わからないんだ……。人を好きになるという事……。愛されるという事……。全てが僕とは程遠く、無縁なものなのだと思っている」
「私は貴方を愛しています。貴方を癒せる存在になりたい!」
「……京子、ありがとう。僕にはそんな価値はないよ。もうこれ以上君を傷つけたくはないんだ」
「……いいです。傷ついてもいいんです! ~~っ貴方の傍に~~いさせてください」
涙が次から次へと流れ、声も掠れていく。
「~~ぅ」
「……初めの頃ははっきり言って君の事はなんとも思っていなかった。けれど……今は、君の事が可愛いと思う。その君を自分の欠陥的感情のせいで傷つけることに腹が立つんだ。そして君の気持ちを受け止めることが僕にはできないことにも気付くんだ……もう続けてはいけない」
「貴方がいなかったら私は……私は……っ~~」
「…………すまない」
「~~~~~~~~っ」
――そして、私は意識を手放した……。
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