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36.温度
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『――今を見てくれ……』
明はそう言って私から退いた。
あれから明とは口を聞いていない。
毎日一緒に通っていたのに……私は一緒の電車を避けていた。
明後日からは夏休みに入るというのに。
どうしたらいい。
分かっている……
明は自分の欲求で私を抱いたわけではない。
私を……苦しんでいる私を、誠様から抜け出せずにいる私を目覚めさせる為に抱いたのだ。
……でも、私はどうして最後抵抗しなかったのだろう?
明の気持ちが伝わって来たから……?
相手に想いが通じない気持ちを私自身が知っていて共鳴したからだろうか……?
単に明に癒されたかっただけなのかもしれない……
それとも…………寂しかったのだろうか?
「…………」
全部……?
「…………~~」
それでも、誠様(あの人)に抱いてもらった身体のままでいたかった!
それも本当の気持ち……!
「~~っ」
でも、辛くて……苦しくて……
………………~~
結局は、苦しくて辛いから明のせいにして甘えたに過ぎないのだ
「酷い……女……」
……そのことも、たぶん、明は分かっているのだろう……
胸が痛くなった。
いつも見ててくれたのだろうか。
だからいつも助けてくれたの……?
「…………」
………………ごめんね、明。
少しだけ……ほんの少しだけ、救われた気がした。
「…………明日は、同じ電車に乗ろう」
*
次の日。
「…………おはよう」
私の方から声を掛けた。明が私の顔を見つける。
「……京子」
明がじっと私を見つめて来た。
「……怒って、ないのか……?」
一瞬、迷って……
不安そうな目をして。
ずっと私を待っていたのだろう。
「……怒ってないよ。明は、性欲だけで私にあんな事した訳じゃないでしょ……」
「!」
その時プラットホームに電車が大きい音を立てて入って来た。
「……おかげで……少し、わかった……現実を見ること」
「!」
「……乗ろう」
いつもは明が先に電車に乗って手を引いて行っていた。けれど、今日は私が手を引く。
「……」
「……」
電車が動き出す。
いつもはたくさん喋る明が言葉が見つからない様子だ。
「……」
「……」
1つ駅を通るたびに人は増える。
私たちは無言のまま駅を通り過ぎた。
「……」
「……」
ぎゅうぎゅうに車内は込み合ってくる。
明はいつものように私を窓際で守るように立ってくれた。
「……」
「……」
肌と肌が密着する。
今までは気にも留めなかった事が見えて来る。
明の腕の温度が自分よりも熱いという事……
明の胸の鼓動が……強く音を立てていることも伝わって来た。
「~~」
じわりと汗ばんでいる様子。
そんなに暑いかしら? と思う位、明は汗ばんでいた。
「……」
声を掛けようかとも思った。
けれど私は俯いたまま動じない。
ぎゅうぎゅうの車内で動けない事も確かだが、本当は顔を上げることを躊躇われた。
だって……十分に感じた。
明は私を意識しているという事……
そして、見つめなくても伝わってくる熱く絡みついた視線からは、あの時の事を思い出しているのだろうとわかったから……
「……」
「……」
――暑い。
――熱い、身体……
絡みつく視線。
――ねえ、明。また私を抱きたいのでしょう……?
明の欲望に火をつけたのは私かもしれない……
明はそう言って私から退いた。
あれから明とは口を聞いていない。
毎日一緒に通っていたのに……私は一緒の電車を避けていた。
明後日からは夏休みに入るというのに。
どうしたらいい。
分かっている……
明は自分の欲求で私を抱いたわけではない。
私を……苦しんでいる私を、誠様から抜け出せずにいる私を目覚めさせる為に抱いたのだ。
……でも、私はどうして最後抵抗しなかったのだろう?
明の気持ちが伝わって来たから……?
相手に想いが通じない気持ちを私自身が知っていて共鳴したからだろうか……?
単に明に癒されたかっただけなのかもしれない……
それとも…………寂しかったのだろうか?
「…………」
全部……?
「…………~~」
それでも、誠様(あの人)に抱いてもらった身体のままでいたかった!
それも本当の気持ち……!
「~~っ」
でも、辛くて……苦しくて……
………………~~
結局は、苦しくて辛いから明のせいにして甘えたに過ぎないのだ
「酷い……女……」
……そのことも、たぶん、明は分かっているのだろう……
胸が痛くなった。
いつも見ててくれたのだろうか。
だからいつも助けてくれたの……?
「…………」
………………ごめんね、明。
少しだけ……ほんの少しだけ、救われた気がした。
「…………明日は、同じ電車に乗ろう」
*
次の日。
「…………おはよう」
私の方から声を掛けた。明が私の顔を見つける。
「……京子」
明がじっと私を見つめて来た。
「……怒って、ないのか……?」
一瞬、迷って……
不安そうな目をして。
ずっと私を待っていたのだろう。
「……怒ってないよ。明は、性欲だけで私にあんな事した訳じゃないでしょ……」
「!」
その時プラットホームに電車が大きい音を立てて入って来た。
「……おかげで……少し、わかった……現実を見ること」
「!」
「……乗ろう」
いつもは明が先に電車に乗って手を引いて行っていた。けれど、今日は私が手を引く。
「……」
「……」
電車が動き出す。
いつもはたくさん喋る明が言葉が見つからない様子だ。
「……」
「……」
1つ駅を通るたびに人は増える。
私たちは無言のまま駅を通り過ぎた。
「……」
「……」
ぎゅうぎゅうに車内は込み合ってくる。
明はいつものように私を窓際で守るように立ってくれた。
「……」
「……」
肌と肌が密着する。
今までは気にも留めなかった事が見えて来る。
明の腕の温度が自分よりも熱いという事……
明の胸の鼓動が……強く音を立てていることも伝わって来た。
「~~」
じわりと汗ばんでいる様子。
そんなに暑いかしら? と思う位、明は汗ばんでいた。
「……」
声を掛けようかとも思った。
けれど私は俯いたまま動じない。
ぎゅうぎゅうの車内で動けない事も確かだが、本当は顔を上げることを躊躇われた。
だって……十分に感じた。
明は私を意識しているという事……
そして、見つめなくても伝わってくる熱く絡みついた視線からは、あの時の事を思い出しているのだろうとわかったから……
「……」
「……」
――暑い。
――熱い、身体……
絡みつく視線。
――ねえ、明。また私を抱きたいのでしょう……?
明の欲望に火をつけたのは私かもしれない……
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