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第二章

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「本当に、退屈だったわけではないんです。お恥ずかしい話ですが、男の方とこんなに近くで話をした経験があまりないのでどうしたらいいのかわからなくて!」

 とにかく誤解を解かなければと、アシュリーの頭はそのことでいっぱいだ。普段であれば自分から異性の手を握るなんてこともできないけれど、自分がヴィルヘルムの手をしっかりと握っていることにも気付かない。

「それにヴィルヘルム様のような素敵な方にエスコートして頂くことも初めてなので緊張してしまって……! こんな理由で納得して頂けるかわからないんですが、本当に、さっきから心臓がどきどき言ってて、変なことを言っちゃわないかふあ、ん、だ……し」

 アシュリーの言葉が少しずつ途切れていく。顔色が青ざめていき、はっと気付いた彼女は握っていたヴィルヘルムの手を慌てて離した。
 ──現在進行形で変なこと言ってるから、わたしぃ……っ!
 アシュリーはすでに涙目だ。

「ご、ごめんなさい、ヴィルヘルム様! 忘れてください……!」
「ッシェリー!」

 混乱のあまり、アシュリーはヴィルヘルムが立ち尽くしているのを良いことに彼の腕の中から逃げ出そうとする。だが、アシュリーが逃げ出すよりも早く、ヴィルヘルムは彼女の手首を掴み、己の腕の中に閉じ込めた。
 突然名前を呼ばれ、抱き締められたアシュリーは目を見開く。密着した耳元に、ヴィルヘルムの心臓の音が聞こえてきて、そのお陰か少しずつ心が落ち着いてくる。
 厭らしさなどなく、労りで撫でてくれる大きな手のひらに安堵した。

「……お見苦しいところをお見せしてごめんなさい」
「いや、落ち着いたなら良かった」

 安心したような声が降ってくる。てっきりそこで体を離してくれるのかと思ったが、ヴィルヘルムは密着させた体を離してくれはしなかった。
 憧れの人に抱き締められているというこの状況に胸が高鳴るが、それ以上に居たたまれなさを感じていると、「緊張していたのは、あなただけじゃない」と、優しい声が聞こえた。

「心臓の音、聞こえるだろう? 緊張しているのは、俺も一緒だ」
「あ……」
「慣れていないと言うのなら、これからは俺で……俺だけに慣れてくれればいい」

 掛けられる言葉は優しくて、そして甘い。
 そしてふ、と頭上で笑みが零される。

「俺も、あなたを退屈させないように努力する。──ジェラルドやローウェルのようには、なれないかもしれないが」
「少なくともローウェルお兄様は見本には成り得ないので、見習わないでください。わたしは……今のままのヴィルヘルム様で十分素敵だと思います」
「……ッ」

 零れたのは、アシュリーの本音だった。
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