大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。

第四章 戦花の魔女

第92話 大人？

　私は、とある孤児院で生まれ育った。親の顔なんて知らない。聞いた話では、ある日、赤ちゃんである私が、孤児院の入り口に捨てられていたらしい。「なんて無責任なのかしら」と孤児院の先生は怒っていたが、私は怒る気すら起きなかった。そもそも、顔も知らない人に対して怒るなんてことができなかったのだ。

　孤児院は、とてつもなく貧乏だった。食事は、固くなったパンと少しの塩味がするスープのみ。スープの中には、欠片のような野菜が少量。毎日、毎日、お腹がすいて仕方がなかった。それは、他の子供たちも同様だったと思う。

　だが、そんな孤児院にも、ご馳走と呼べるものは存在した。それは、半年に一回出されるシチュー。お肉なんて豪華なものは入っていなかったけれど、ほのかに甘いミルクの香りといつもより大きく切られた野菜の味わいは、今でも鮮明に覚えている。今日はシチューが出ると聞いた時の私は、一体どれほど目を輝かせていただろう。

「先生。私、もっとシチューが食べたいです」

「それは無理よ。うちの孤児院はお金がないから」

「じゃあ、私がお金を稼げばいいんですよね」

　子供らしい突拍子な発言。そこに深い考えなど存在しない。お金がないなら稼げばいい。そうすれば、もっとシチューが食べられる。そんな、短絡的な発想。

「あらあら」

　私の言葉に、先生は、困ったように笑っていた。そして、私に知恵を授けたのだ。

「今は、あなたがお金を稼ぐのは難しいわね。でも、大人になれば大丈夫」

「大人？」

「そう。大人になれば、あなたはここから出ていろんな仕事に就ける。そうすれば、たくさんお金を稼ぐことができるわ」

　大人になる。その意味が理解できないわけではなかった。だが、子供である自分が大人になるまでには、あまりにも時間がかかりすぎる。だから、私は、先生にこう質問した。

「早く大人になる方法はないんですか？」

「そうねえ。子供だけど、大人以上に活躍している人が、大人扱いされるなんてことはあるわね」

　大人以上に活躍して、できるだけ早く大人になる。この日から、それが、私の目標になった。