上 下
118 / 164
間章 二人で特訓

第117話 からかわないでください

しおりを挟む
 先日見た、師匠と旅の魔女さんとの勝負。改めて実感した、師匠と僕との間にある大きな大きな実力の差。勝負の後に旅人さんが語ってくれた、「自分で自分を裏切りたくない」という言葉。

「師匠に追いつくのは難しいですけど、やっぱり、自分の身は自分で守れるようにならないとなって思ったんです。まあ、あわよくば、師匠がピンチの時に、僕が師匠を守れたら……みたいな」

 僕は、地面をじっと見つめながら、まるで独り言のように言葉を漏らします。

 熱さを増す顔。バクバクとうるさい心臓の音。郵便屋さんは、僕が師匠に好意を懐いていることを知っています。そんな郵便屋さんに話すのでも、こんなに緊張してしまうなんて。もし、同じ話を師匠に伝えたとしたら、僕の体はどうなってしまうのでしょうか。全く想像がつきません。

「純愛ってやつだねー」

「からかわないでください」

「ニヒヒ。ごめん」

 地面を見つめる僕の目に、郵便屋さんの顔は映っていません。でも、きっと、ニヤニヤ笑っているんじゃないでしょうか。

「……ねえ、弟子ちゃん」

「からかわないでください」

「ま、まだ何も言ってないよ」

「念のためです」

 からかい好きの郵便屋さんのことですからね。早めに手を打っておいて損はないでしょう。

 僕の脳裏に、郵便屋さんにからかわれたあの日の光景がよみがえります。「ボクの、恋人にならないかい?」と郵便屋さんが迫ってきて。それで……。

「えっと……弟子ちゃんはさ」

「はい」

「ボクがピンチの時はどうする?」

「…………へ?」

 郵便屋さんの質問に、僕の思考が一瞬停止します。思わず郵便屋さんの方に顔を向けると、そこには、薄い笑みを浮かべた郵便屋さんがいました。

「もしボクがピンチになった時、ボクのことも守ってくれる?」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

黒猫魔女の猫カフェ奮闘記

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

R4200号

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

転生したら、全てがチートだった

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:27

瑞木歌乃の日記

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

転生して見つけた君と一緒に冒険へ出よう!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

森の中

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

恋願う心は偽りでなく

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

未来を重ねる僕と、絵本のように消える君

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:427pt お気に入り:10

処理中です...