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第六章 大人で子供な私のことを

第153話 もう一度

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 コトコトとシチューが煮える優しい音。それはまるで、癒しを与える音楽のよう。私は、テーブルに頬杖をつきながら、台所に立つ彼をじっと眺めていた。

 私のために料理を振舞ってくれる人がいる。しかも、それが今日会ったばかりである年下の男の子。今までの人生、いろいろな経験をしてきた私だが、こんなに不可思議な状況は初めてだ。まあ、そもそも、この状況を引き起こしたのは他でもない自分なのだが。

「魔女さん。もう少しでできますからね」

「はーい」

 というか、彼はこの状況を受け入れすぎではないだろうか。調理器具の位置もいつの間にか把握してるし。やはり超人……。

「よし!」

 どうやらシチューが完成したようだ。彼は、あらかじめ用意しておいた木製の皿に、鍋の中のシチューを注ぎ入れる。そして、ゆっくりとした足取りで、テーブルで待つ私の方へ。

「どうぞ。お口に合えばいいんですけど」

 目の前に置かれたシチュー。甘いミルクの香り。綺麗な白色。そこに浮かぶ、タマネギ、ニンジン、ジャガイモ。

 彼が用意してくれたスプーンを使ってシチューをすくう。スプーンの上に収まりきらなかった液体が、トロリと白い海に戻っていく。

「えっと……じゃあ、いただきます」

 私は、ゆっくりとスプーンを口へ運ぶ。

 …………あ。

「魔女さん。ど、どうですか?」

 もう一度、シチューをすくって口の中へ。

「魔女さん?」

 もう一度。

「あ、あのー」

 もう一度。

「…………」

 何年ぶりだろうか。こんなシチューを食べたのは。おいしくて。温かくて。そして、どこかクセになる。決して特徴的というわけではない。お肉なんて豪華なもの、入っているはずもない。それでも……それでも……それでも……。

「ま、魔女さん!? な、何で泣いて……」

 私が求めていたもの。それが、今、確かに存在していた。
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