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三章
六十四話
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その瞬間、俺は脳を揺さぶられるような、強い衝撃に襲われた。
ハッとして妻を見る。
「ごめんね」
彼女は言った。その頬は雪のように白い。柔らかな唇は流血し、紅白のコントラストを作り上げていた。
赤い液体が、唇を染めていく。どんな口紅よりも艶やかで、そして忌々しい。
今、俺の中に渦巻くもの。
怒り、哀しみ。……絶望。
闇よりも黒い感情。
「ごめんね」
謝り続ける彼女の声は、老婆のようにか細くて、少女のように澄んでいた。
どす黒い夜に一片、純白の羽が舞った気がした。
彼女の誠実な眼差しは、あまりにも俺に釣り合わない。
「ごめん、ね」
そうだ。彼女は許してもらおうなんて思っていないのだ。俺を傷つけたこと。それだけを謝りたいのだ。
なんて返せばいいのだろう。許す、その一言だけ言えばいいのか。
声を絞り出すが、出てきたのは全く別の言葉だった。
「……お前を、愛していた」
違う、愛していた、じゃない。
今も、愛している。
彼女はハッとしたようにおれを見つめる。見開かれた瞳から、涙がこぼれた。
「本当に……ごめんね……ごめん」
脳裏で純白の羽が破け、散り散りに堕ちていく。また、闇が全てを覆おうとする。
違う。そんなつもりじゃなかったんだ。俺は、お前を……。
「許す。今でも、愛している」
彼女の耳元で吐露する。熱い涙が、彼女の頬を濡らす。
返事は、ない。おれの言葉は届かなかった。
彼女は死んだ。
今際の際に見開かれた目が、まだおれを見つめている。
彼女は俺を、恨んでいる?
回りだす意識の中で、おれは自問自答していた。
彼女は俺を、信じていた?
彼女は俺を、愛していた?
ハッとして妻を見る。
「ごめんね」
彼女は言った。その頬は雪のように白い。柔らかな唇は流血し、紅白のコントラストを作り上げていた。
赤い液体が、唇を染めていく。どんな口紅よりも艶やかで、そして忌々しい。
今、俺の中に渦巻くもの。
怒り、哀しみ。……絶望。
闇よりも黒い感情。
「ごめんね」
謝り続ける彼女の声は、老婆のようにか細くて、少女のように澄んでいた。
どす黒い夜に一片、純白の羽が舞った気がした。
彼女の誠実な眼差しは、あまりにも俺に釣り合わない。
「ごめん、ね」
そうだ。彼女は許してもらおうなんて思っていないのだ。俺を傷つけたこと。それだけを謝りたいのだ。
なんて返せばいいのだろう。許す、その一言だけ言えばいいのか。
声を絞り出すが、出てきたのは全く別の言葉だった。
「……お前を、愛していた」
違う、愛していた、じゃない。
今も、愛している。
彼女はハッとしたようにおれを見つめる。見開かれた瞳から、涙がこぼれた。
「本当に……ごめんね……ごめん」
脳裏で純白の羽が破け、散り散りに堕ちていく。また、闇が全てを覆おうとする。
違う。そんなつもりじゃなかったんだ。俺は、お前を……。
「許す。今でも、愛している」
彼女の耳元で吐露する。熱い涙が、彼女の頬を濡らす。
返事は、ない。おれの言葉は届かなかった。
彼女は死んだ。
今際の際に見開かれた目が、まだおれを見つめている。
彼女は俺を、恨んでいる?
回りだす意識の中で、おれは自問自答していた。
彼女は俺を、信じていた?
彼女は俺を、愛していた?
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