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何だか仲良くなれました

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「それでは、改めて――シルフィア、ブラット、よろしくお願いしますね。私の事は、アリアと呼んでください」

事前に位の低い相手に敬称を付けなくていいとセイに言われていたので、シルフィアとブラットを呼び捨てにしている。
どうやら、騎士団や国に仕える人に対して、王女が敬称を付けるのは良くないとのこと。


「ああ、よろしくな。アリア様」

「アリア様、よろしくお願いしますね」

「出来れば、様もなしで…。違和感しか感じなくて、少々反応に困ってしまうのです」

当たり前のように様を付けられて、顔が引きつってしまう。
王女だから仕方ないのかもしれないが、友達に敬称を付けて呼ぶのは…友達とは言えない。

「愛称で呼ぶだけでも、恐れ多いってのに…敬称無しは流石にクビが飛ぶんじゃないか?」

「……ダメ、ですか?私、3人・・と友達になりたいの」

「公の場で騎士団の者が王女を呼び捨てにすることはできませんが、こうして心を許した者の時は、よろしいのではないでしょうか?」

渋るにシルフィア達にセイが助け舟を出してくれたが、この言葉はセイにも向けた言葉でもあるのだが…きっとセイは気付いていない。
実際にシルフィア達を説得するような口調だから。

「セイ?今の言葉はセイも含めて、この場にいる3人に言ったのよ?」

「は…?俺にも、ですか?」

キョトンとした表情を浮かべて首を傾げた。
まさか自分にも言われているとは思っていなかったようだ。

「ええ、勿論よ。だって、セイは最初に私を認めてくれた人だから。もっと仲良くなりたいわ」


セイの反応にクスリと笑みを浮かべて、頷いてセイに手を差し出す。
この世界に握手と言う概念があるか分からないが…。

「えっと…この手は?」

「握手よ。まず仲良くなるには、握手くらいの距離から始めましょう?」

全然握り返されないので、強行手段にでて、膝の上にあったセイの手を両手で握る。
握ってみれば思っていたより冷たい手に驚く。
それに毎日剣を握っているだけあって、手のひらは硬く厚い。好青年の見た目に反し、手は男性らしくごつい感じだ。

「フフ…よろしくお願いしますね?」

「アリア様……はい、よろしくお願いします」

「セイ、敬称も、ね」

セイの手を握ったまま、シルフィアとブラットにも「ね?」と微笑みかけた。
二人は気まずそうにしながらも、頷いてくれた。

「王女様って…本当に人が変わったみたいだな」

「慣れるまで反応に困りますね……」

「ア、アリア…無闇に微笑んではいけません。男にそんな無謀に微笑んでは、勘違いされてしまいますから」

「……?ごめんなさい、私の笑顔ってそんなに見るに堪えないほどだったのね…」

3人の反応にセイの手から自分の手を離して、両頬を押さえる。
まさかそんなに引かれるほどの笑顔だったとは…ショックではあるが、あまり微笑まない方がいいのかもしれない。
さっき鏡で自分の容姿を見た時は、すっごい美人だった気がするんだけど…もしかしたら、この世界ではそれほど整っていないのかもしれない。

「ちっ、違います!アリアはもっと自分の容姿を自覚してください、貴方は誰もが振り返るほどの美しい人なんですから」

「え?美しいって、私がですか?」

「そーそー!王女様ってこの国一番の美女って言われてるから、誰も何をされても文句言えないんだよね。まぁ、これだけ美人なら何をされても文句なんて言えないよなー」

何だかべた褒めすぎて反応に困ってしまう…。こう、恥ずかしいを通り越して、困惑気味である。
3人に「本当に?」という視線を送れば、コクリと同時に頷かれた。

これは素直にお礼を言うべきなのか…それとも謙遜すべきなのか。
私ならどっちの反応をされてもイラッとするけども。
ここは話題を変えて流そう…。


「それを言うなら、3人もカッコイイよね」

3人の容姿を見て、改めてカッコイイと思いながら、素直に口に出して褒める。
シルフィアは短い黒髪で、瞳は金色をしている。
最初は鋭く睨まれていたが、今はツリ目がちの瞳は、優しさを帯びている。
ブラットは青みを帯びた銀色の髪で、長さは襟足が肩くらいかな?
瞳は優しげな翡翠の色をしている。

3人とも長身だし、顔立ちは人形かと疑うくらい整っている。絶対女の子たちが放っておかないであろう容姿をしている。

「は…?」

「私たちが、ですか?」

「ええ。貴方たちほどカッコ良ければ、女性からのお誘いも多いでしょう?」

きょとんんとしながら、困ったような反応を見せる3人に、可笑しそうに含み笑いを浮かべて冗談交じりに言えば、何とも言い難い表情をされた。
思っていた反応と違い、どうやら私はやらかしてしまったようだ。


「アリア、の言うとおり、令嬢から声を掛けられることはありますが…好意を抱かれて、掛けられることは殆どないんですよ」


セイが代表して苦笑を浮かべながら、話してくれた答えは、私の思っていた答えと違った。
こんなにカッコ良ければ、好意を抱いて声を掛けてくる人の方が多そうなのに…。
首を傾げて言葉の意味を考えるも、全く見当もつかない。

「アリアは、純粋ですね。確かに、アリアの言うとおり私たちの見た目だけで声を掛けてくる令嬢達は、他の騎士に比べ…多いです。でも、掛けられる言葉は一晩だけ・・・・とかのお誘いなんですよ。そういうお誘いは、私たちの外見しか見てない方ばかりからなので……」

私の反応にブラットは苦笑を見せながら、理由を丁寧に説明してくれた。
一晩だけの誘い……つまり、一夜限りの関係を望む令嬢が多いと言うこと。
貴族のご令嬢となれば、政略結婚が多いはず。だから、純粋に付き合うことが出来ないのだろう。
騎士団は完全に実力主義で、身分など全く関係ない。ただ、セイ達の立ち振る舞いを見ていると、育ちの良さが滲み出ている。
きっと、セイたちも貴族の出ではあるのだろうけど、それでも身分不相応という感じなのだろうか?

「セイたちは貴族の出ではないの?立ち振る舞いを見てると、貴族のように完璧に見えるわ」

口調もとても丁寧だし、と付け加えて言えば、セイ達はそれぞれの顔を見合わせて、肩を竦めた。

「…良く俺達のこと観察してんな、王女様。王女様の言うとおり、俺達3人は貴族の出だぜ」

「そうかしら?シルフィアだって、最初は完璧だったじゃない?今は最初の印象は消え失せてしまったけどね」


シルフィアを指さして、最初訪れてきた時の様子を思い出してクスクスと笑みが漏れ出る。
最初はブラットみたく、丁寧な口調だったのが、今では口調は砕け、まるで友達と話すかのような口調で、とても好感が持てるくらいだ。
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