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どうやら疑われているようです2
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「――っ、これは、とんだご無礼を。申し訳ありません。ただ、本当に記憶が無いのか確かめたく……」
私の言葉に男性はハッと我に返ったのか、その場で頭を下げた。
その姿を見て、どこか好感が持てたのは確かだ。
これでも威圧的な態度を取るなら、違う対応も考えたけども。
「いいえ、気にしていませんわ。私の方こそ、意地悪な言い方をしてしまって、ごめんなさい。許していただけるかしら?」
椅子から立ち上がり、未だに跪いているセイに手を差し出して、立ち上がらせる。
セイも動揺を見せながら、私の手を取ってくれた。そのことに内心飛び跳ねるほど歓喜しつつ、窓際にあるテーブルに3人を案内する。
テーブルは4人掛けで、セイは私の隣に座り、後の2人は私の前の椅子に促した。
そして、未だに部屋に入ってきてから一言も発していない青年に目を向ける。
「それで、貴方は、どうして私を訪ねてきたのかしら?そちらの方も、私を心配なんてしていませんわよね?」
「…それは、本当に今までの事を忘れてしまったのかと……」
どうやら理由は二人とも同じらしい。
私が本当に記憶喪失かの確認だ。
なんと言うか……好奇心旺盛の子供じゃないんだから、もっと言葉を選ぶべきじゃないかしら?
流石にこんな扱いはイラッとくる。
動物園のパンダにでもなった気分だ。
「つまり貴方達は、私が記憶喪失と嘘をついているとお思いなのですね?」
「そ、そこまでは言っておりません。ただ、事実なのか確認したかったんです」
否定の言葉を言っているが、表情から図星なのが丸わかりだ。
分かりやすすぎて、逆に反応に困ってしまう。だけど、ここで嘘だとバレて、私が本物のアリシアじゃないとバレたら……どんな反応をされるのだろうか。
きっと化け物でも見るような目で見られるんじゃないだろうか…。そんな目で見られたら辛すぎて、また自殺してしまいそうだ。
それだけは…女神のお願いを叶えるまで死ねない。
どんなことをしてでも、真実は隠さないといけないのだ。
「信じてもらえないのも仕方ありません…。記憶が無いから今までのことを許してもらおうとも、思っておりません。だけど、今まで行ってきた数々の非礼は、今この場でお詫びいたします。ごめんなさい」
「……そんな軽い謝罪で、許されると本気で思っているんですか?俺達が、どれだけ酷い仕打ちに耐えてきたと思って……ッ!!」
私が二人の顔を見て、その場で立ち上がって…頭を下げて謝罪する。
すると、ガタン!と勢いよく椅子から立ち上がった一人が声を荒げて、今にも私の胸ぐらを掴みかかろうとしてきたが、その青年の隣に座っていたもう一人が肩を引くことで、我に返ったようで、怒りをぶつけるように拳をテーブルの上に強く打ちつけた。
「ごめん、なさい……。私が貴女にどんな仕打ちをしたのか、私は覚えていないの……謝って許されるとも思っていないわ…」
激しい怒りを感じて、胸が締め付けられるほどに痛んだ。
ポツ、ポツ…と涙が溢れてきて、頬を伝って自身の手に落ちていく。
(きっと私は…今までの行いを許されることは、無いわね……)
本日2回目となる涙に、泣き顔を男性に晒すという醜態に、早く涙をひっこめたいのだが、人の心をコントロールするのは難しく、涙は一向に止まる気配がない。
そんな私の涙に、正面に座っている2人が動揺していることなんて、涙を止めることに必死だった私は気付かなかった。
「――アリア様、そのように目を擦っては腫れてしまいます。これ、使ってください」
ずっと私の隣で成り行きを見守っていたセイが、優しい声色で諭すように言いながら、青色の一枚のハンカチで私の涙を拭ってくれた。
「セイ……ごめんなさい。有り難く、使わせていただくわね」
セイに涙を拭われて少しドキリとしつつ、態度には出さずに、有り難くハンカチを受け取り、自分で涙を拭う。
「…本当に、記憶が無いんですね」
「……そのよう、だな」
泣きだした私に、黙って見ていた二人が徐に口を開いた。
セイと私のやり取りを見て、どうやら記憶喪失が本当だと理解してもらえたらしい。
「今までの王女様なら、こんな汚らわしいモノなんて使えない!って振り払ってるだろうしな」
「私…そんなことを言っていたの?」
私はチラっと視線をセイに向けて様子を窺うと、私の視線に気づいたセイは苦笑いを浮かべて、ぎこちなく頷いていた。
優しさで貸してくれたハンカチを汚らわしいって…本当に最低な人だ。
そんなこと言われたら、私でもイラッとするし、少しくらい殺意が芽生えるものだ。
これは思った以上に、関係を修復するのは大変かもしれない。
この先の事を思い浮かべて、頭がどんどん痛くなっていく。
「今のアリア様は、本当に記憶を無くされている。だから、二人の事は勿論、国王のことも忘れている状態だ」
だから…と続けながらセイは、二人に無言で訴える。
「ああ…俺たちのことも忘れてるってことか。シルフィア・グレイスィだ。セイと同期の王族直属騎士団に所属している」
私の真正面に座っている――さっき私に掴みかかろうとした青年がセイの言葉に面倒くさそうに自己紹介をする。
「私は、ブラット・ベルファーと言います。シルと同じくセイの同期で王族直属騎士団に所属しております」
シルフィアとは違って、畏まった言動に育ちの良さがうかがえる。
別にシルフィアのことを非難しているわけではない…うん。
「丁寧にありがとう。今まで迷惑をかけていたと思うのだけれど、記憶が無い今、もっと迷惑をかけるかもしれない……だから、その……」
なんとなく和解?できた気がして、仲良くしてもらえたら嬉しいな…と思い、チラチラと二人に視線を向けて反応を見るが、二人とも私の言葉にきょとんとして、目をぱちくりするだけ。
「やっぱり、イヤ、よね……ごめんなさい、気にしないで?」
やっぱりすぐには仲良くできるわけもないか、と素直に引き下がる。
ここで無理強いしては、王女様と同じやり方になってしまうから。
「――勝手に自己完結してんじゃねーよ。俺らまだ何も言ってないだろ」
「――え?」
しょんぼりと顔を俯かせていたら、シルフィアがぶっきら棒に声を掛けてきた。
その声に反応するように顔を上げてシルフィアを見れば、頬を指で掻きながら照れくさそうな表情を浮かべていた。
「王女様が良ければ、私達ともセイと同じような扱いにしていただければ嬉しいです」
「い、いいの?」
「ええ、勿論です」
まさか、こんな簡単に許されるモノなのだろうか?と逆に不安になってくる。
王女がやってきた仕打ちは、決して簡単に許されることではない。
なのに…この3人は、こうも簡単に私を許してくれる。
王女だからって、甘すぎるのでは……。
「…もっと、怒っていいのよ?私は貴女たちに酷い仕打ちをしてきたのだから……」
「いいえ、これ以上王女様を責めることなど、できませんよ。こんな綺麗な涙を見せられては…。王女様が人前で泣くことなど、今までありませんでしたから」
「と言うことは、今の私は泣き虫になってしまったのかしら…」
フフフっとブラットの言葉に笑みを浮かべれば、シルフィアとブラットは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
そんなにだらしない顔をしていたのかしら…。これは女としてショックである。
「でも、俺は今の王女の方が良い。雰囲気も柔らかいし…」
「それは私も同感です。以前の王女様は、刺々しいオーラを纏っており、あまりお近寄りになりたくはない感じでしたので」
私の冗談交じりの言葉にシルフィアとブラットは今の方が良いと、私の存在を肯定してくれた。
こうして私で良かったと言われたことによって、私がここで生きてもいいと言われている気がして心が軽くなった。
私の言葉に男性はハッと我に返ったのか、その場で頭を下げた。
その姿を見て、どこか好感が持てたのは確かだ。
これでも威圧的な態度を取るなら、違う対応も考えたけども。
「いいえ、気にしていませんわ。私の方こそ、意地悪な言い方をしてしまって、ごめんなさい。許していただけるかしら?」
椅子から立ち上がり、未だに跪いているセイに手を差し出して、立ち上がらせる。
セイも動揺を見せながら、私の手を取ってくれた。そのことに内心飛び跳ねるほど歓喜しつつ、窓際にあるテーブルに3人を案内する。
テーブルは4人掛けで、セイは私の隣に座り、後の2人は私の前の椅子に促した。
そして、未だに部屋に入ってきてから一言も発していない青年に目を向ける。
「それで、貴方は、どうして私を訪ねてきたのかしら?そちらの方も、私を心配なんてしていませんわよね?」
「…それは、本当に今までの事を忘れてしまったのかと……」
どうやら理由は二人とも同じらしい。
私が本当に記憶喪失かの確認だ。
なんと言うか……好奇心旺盛の子供じゃないんだから、もっと言葉を選ぶべきじゃないかしら?
流石にこんな扱いはイラッとくる。
動物園のパンダにでもなった気分だ。
「つまり貴方達は、私が記憶喪失と嘘をついているとお思いなのですね?」
「そ、そこまでは言っておりません。ただ、事実なのか確認したかったんです」
否定の言葉を言っているが、表情から図星なのが丸わかりだ。
分かりやすすぎて、逆に反応に困ってしまう。だけど、ここで嘘だとバレて、私が本物のアリシアじゃないとバレたら……どんな反応をされるのだろうか。
きっと化け物でも見るような目で見られるんじゃないだろうか…。そんな目で見られたら辛すぎて、また自殺してしまいそうだ。
それだけは…女神のお願いを叶えるまで死ねない。
どんなことをしてでも、真実は隠さないといけないのだ。
「信じてもらえないのも仕方ありません…。記憶が無いから今までのことを許してもらおうとも、思っておりません。だけど、今まで行ってきた数々の非礼は、今この場でお詫びいたします。ごめんなさい」
「……そんな軽い謝罪で、許されると本気で思っているんですか?俺達が、どれだけ酷い仕打ちに耐えてきたと思って……ッ!!」
私が二人の顔を見て、その場で立ち上がって…頭を下げて謝罪する。
すると、ガタン!と勢いよく椅子から立ち上がった一人が声を荒げて、今にも私の胸ぐらを掴みかかろうとしてきたが、その青年の隣に座っていたもう一人が肩を引くことで、我に返ったようで、怒りをぶつけるように拳をテーブルの上に強く打ちつけた。
「ごめん、なさい……。私が貴女にどんな仕打ちをしたのか、私は覚えていないの……謝って許されるとも思っていないわ…」
激しい怒りを感じて、胸が締め付けられるほどに痛んだ。
ポツ、ポツ…と涙が溢れてきて、頬を伝って自身の手に落ちていく。
(きっと私は…今までの行いを許されることは、無いわね……)
本日2回目となる涙に、泣き顔を男性に晒すという醜態に、早く涙をひっこめたいのだが、人の心をコントロールするのは難しく、涙は一向に止まる気配がない。
そんな私の涙に、正面に座っている2人が動揺していることなんて、涙を止めることに必死だった私は気付かなかった。
「――アリア様、そのように目を擦っては腫れてしまいます。これ、使ってください」
ずっと私の隣で成り行きを見守っていたセイが、優しい声色で諭すように言いながら、青色の一枚のハンカチで私の涙を拭ってくれた。
「セイ……ごめんなさい。有り難く、使わせていただくわね」
セイに涙を拭われて少しドキリとしつつ、態度には出さずに、有り難くハンカチを受け取り、自分で涙を拭う。
「…本当に、記憶が無いんですね」
「……そのよう、だな」
泣きだした私に、黙って見ていた二人が徐に口を開いた。
セイと私のやり取りを見て、どうやら記憶喪失が本当だと理解してもらえたらしい。
「今までの王女様なら、こんな汚らわしいモノなんて使えない!って振り払ってるだろうしな」
「私…そんなことを言っていたの?」
私はチラっと視線をセイに向けて様子を窺うと、私の視線に気づいたセイは苦笑いを浮かべて、ぎこちなく頷いていた。
優しさで貸してくれたハンカチを汚らわしいって…本当に最低な人だ。
そんなこと言われたら、私でもイラッとするし、少しくらい殺意が芽生えるものだ。
これは思った以上に、関係を修復するのは大変かもしれない。
この先の事を思い浮かべて、頭がどんどん痛くなっていく。
「今のアリア様は、本当に記憶を無くされている。だから、二人の事は勿論、国王のことも忘れている状態だ」
だから…と続けながらセイは、二人に無言で訴える。
「ああ…俺たちのことも忘れてるってことか。シルフィア・グレイスィだ。セイと同期の王族直属騎士団に所属している」
私の真正面に座っている――さっき私に掴みかかろうとした青年がセイの言葉に面倒くさそうに自己紹介をする。
「私は、ブラット・ベルファーと言います。シルと同じくセイの同期で王族直属騎士団に所属しております」
シルフィアとは違って、畏まった言動に育ちの良さがうかがえる。
別にシルフィアのことを非難しているわけではない…うん。
「丁寧にありがとう。今まで迷惑をかけていたと思うのだけれど、記憶が無い今、もっと迷惑をかけるかもしれない……だから、その……」
なんとなく和解?できた気がして、仲良くしてもらえたら嬉しいな…と思い、チラチラと二人に視線を向けて反応を見るが、二人とも私の言葉にきょとんとして、目をぱちくりするだけ。
「やっぱり、イヤ、よね……ごめんなさい、気にしないで?」
やっぱりすぐには仲良くできるわけもないか、と素直に引き下がる。
ここで無理強いしては、王女様と同じやり方になってしまうから。
「――勝手に自己完結してんじゃねーよ。俺らまだ何も言ってないだろ」
「――え?」
しょんぼりと顔を俯かせていたら、シルフィアがぶっきら棒に声を掛けてきた。
その声に反応するように顔を上げてシルフィアを見れば、頬を指で掻きながら照れくさそうな表情を浮かべていた。
「王女様が良ければ、私達ともセイと同じような扱いにしていただければ嬉しいです」
「い、いいの?」
「ええ、勿論です」
まさか、こんな簡単に許されるモノなのだろうか?と逆に不安になってくる。
王女がやってきた仕打ちは、決して簡単に許されることではない。
なのに…この3人は、こうも簡単に私を許してくれる。
王女だからって、甘すぎるのでは……。
「…もっと、怒っていいのよ?私は貴女たちに酷い仕打ちをしてきたのだから……」
「いいえ、これ以上王女様を責めることなど、できませんよ。こんな綺麗な涙を見せられては…。王女様が人前で泣くことなど、今までありませんでしたから」
「と言うことは、今の私は泣き虫になってしまったのかしら…」
フフフっとブラットの言葉に笑みを浮かべれば、シルフィアとブラットは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
そんなにだらしない顔をしていたのかしら…。これは女としてショックである。
「でも、俺は今の王女の方が良い。雰囲気も柔らかいし…」
「それは私も同感です。以前の王女様は、刺々しいオーラを纏っており、あまりお近寄りになりたくはない感じでしたので」
私の冗談交じりの言葉にシルフィアとブラットは今の方が良いと、私の存在を肯定してくれた。
こうして私で良かったと言われたことによって、私がここで生きてもいいと言われている気がして心が軽くなった。
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