王女様に成り代わっちゃいました

青海 兎稀

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どうやら疑われているようです

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「まず、記憶喪失のお話は国王陛下と王妃様に俺からご報告させていただきますが、よろしいでしょうか?アリア様から直接お話なさっても大丈夫ですが、まだアリア様もご混乱されているかと思いますので……」

「何から何まで…迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。セイが良ければ、セイから報告していただいて宜しいかしら?」

「ええ、勿論です。俺で良ければ、お引き受けいたします。それでは一旦、御前失礼いたします」

セイはすぐに私に頭を下げると、マントを翻し、部屋から出て行った。

何から何まで全てセイに任せてしまって、申し訳ないと思いつつ、私の口から説明するより明確かつ簡潔に国王と王妃様に説明してくれるだろう。
きっと、いや――絶対最初は、誰もすぐには信じてくれないだろう。
信じてくれなくていい。ただ、一人だけでも…私を信じてくれる人がいれば、私は頑張ろうと思える。

「さて…セイが話に言ってる間に、着替えを済ませましょうか」

そう、私はまだ寝間着のままなのだ。
男性に寝間着…寝起き姿を晒してしまったことは、王女として女性として失格ではあるが、寝込んでいたのだから仕方がないだろう。
きっと、セイもあの男性も気にしてはいないだろう。というか、私の格好なんて見えてないだろう、あの様子では。
だけど、王女として…これ以上の醜態を晒すことはできない。

近くにあったクローゼットを開けて、中にあるドレスを見て、頭が痛くなった。
どのドレスも新品同様に綺麗で、きっと一回しか着てないんだろう。
こんな豪華なドレスを、一回だけなんて勿体ない。

「どのドレスも素敵ね。でも、私に似合うかしら…」

多種多様のドレスを目の前に頭を悩ませる。
そして今の自分が超絶美人だということを思い出し、今の自分ならここにある全てのドレスを身に着けても見劣りすることはないだろう。

元日本人の私からしたら、こんなお伽噺に出てくるようなドレスを着る機会なんてなかったから、内心ワクワクしながら、ドレスを選んでいた。

「このドレスにしようかしら」

一際目を惹かれた、アクアマリンエンパイアラインのシンプルなドレスを手に取り、姿見の前に立つ。
足首まで隠れる丈の長さをしており、袖は二の腕を隠すくらいの長さ。
それに、装飾は胸元に大きなリボン程度で、あるとすれば裾にフリルがあしらわれている程度だ。
きっと王女様となれば、身体をあまり晒すのは良くないだろうと思い、シンプルかつ可愛らしいデザインのこのドレスを選んでみた。

きっとこのクローゼット以外にもドレスは沢山あるのが簡単に想像できて、吐き気を覚えたが…どうにか抑えた。
この部屋にある全てのモノは…国民の税金が使われているはずだ。
ドレス一つで何十万というお金が簡単に消えていくのだ。それを国民が許すはずがない。

(こんなにあったら絶対着てないドレスもあるはず…しばらく、ドレスを仕立てさせるのはやめないと)

一つ決意し、私は寝間着からさっきのドレスに着替えて、ドレッサーの前にある椅子に座って、髪を梳かしていく。
ピンクの髪は、痛みを知らず、スルスルと櫛が通っていく。
どうやらこのゆるふわの髪は、自身のクセらしい。毎朝巻いているのかと思ったが…これなら朝の準備は簡単そうだ。
化粧をしなくても、アリシアの肌は綺麗だし、瞳も大きく可愛らしい。
これなら朝は髪を梳かすだけで大丈夫そうで安心する。

「さて…そろそろ、説明を終えたセイが戻ってきてもおかしくないわね」

これからどうなるかなんて、ハッキリ言って分からない。
何をしてほしいのか女神は明言しなかった。ただ、助けて、と言われただけ。

気合いを入れ直すように、両頬を手のひらでパン!と音を立てて叩いた。

――トントン。

そして、タイミングを見計らったかのように、ドアをノックする音が響いた。

「アリア様、セイでございます。今、宜しいでしょうか?」

「――ええ、大丈夫よ」

噂をすれば影とはこのことか。ドア越しに響いた声は、先ほど出て行ったセイのものだった。
セイの他にも、人の気配を感じたが、素直に入室の許可を出す。

そしてドアを開けて最初に入ってきたのはセイで、その後に2人の青年が続いて入ってくる。
セイはすぐに頭を下げ、片膝をつき、最高位の敬意を払う姿勢を取った。
だが、後ろの青年2人は敬意など見せる気配もなく、立ったまま礼すらもしない。
そのことにセイも気づいているだろうが、気にせずに姿勢を崩さぬまま、報告をする。

「失礼致します。アリア様、国王陛下と王妃様にご説明して参りました。大変アリア様の事を心配しておりましたので、後程お顔をお見せになった方が宜しいかと思われます」

「そう…。ありがとう、セイ。後で顔を見せに行くことにするわ」

悲哀を漂わせ、俯きながら声を絞り出すように言葉を発する。
これは演技ではなく、ただ本当に国王と王妃には申し訳ない気持ちで一杯なのだ。
だって本当のアリシア死んでしまったのだから――。
だが、その事実は…今は誰にも言うつもりはない。

気持ちを切り替え、セイの後ろにいる王女を前にして棒立ちしている青年たちに目を向ける。

「それで……後ろにいる殿方はどなたかしら?」

「アリア様の事が心配とのことで…付いてきてしまいました」

私の言葉に、セイは言いにくそうに口を開き、嘘を並べていく。
嫌われ者の何かを、誰が心配するのかしら?
なんてくだらない…茶番だろうか。
可笑しすぎて、笑いが込み上げてくる。

「フフフ……私なんかを、心配?それは、誠かしら?」

どうせセイから私が記憶喪失の事を聞き、面白半分に付いてきただけだろう。
なにより、心配したと言いながら、2人の顔は無表情だ。

なにより、王女である私に頭を下げず、ずっと座っている私を見下ろしているのだ。
これって、本当はいけないことよね?
地位が高い人を見下ろすなんて、平民ですら知っていることだわ。


「アリシア王女様、記憶を無くされたとのことですが、誠でございますか?」

私の言葉を無視して、セイの隣に並ぶように一歩前に出て、丁寧ではあるが、威圧感たっぷりな聞き方に嫌気が差した。
なんて嫌な人なんだろうか。礼儀を知らな過ぎではないか?
知らず知らずのうちに顔が歪むが、そんなこと知ったことではない。
なにより、私は記憶喪失なのだ。そのことを考えれば、私とこの青年は初対面ということになる。
それなのに…こんな態度を取られては、いくら私が嫌われ者だったとしても、これは許されない。

「ええ、その通りです。セイから聞かされたかと思いますが、私には全ての記憶がありません。ですので、私は貴殿とは初対面になります。この王宮には、貴殿のような礼儀を知らぬ人が多いのでしょうか?」

セイの知り合いっぽいから、少しは良い人かも、と期待して損した。
女性に対して、男性がこんな威圧的に接してくるとは思っていなかった。
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