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プロローグ
しおりを挟む私は知っている。
この世界が乙女ゲームの世界である事を。
私は知っている。
私が、その世界に関わりのないモブキャラなのを。
私は知っている。
何もしなければ、この国が平和が続く事を。
何の因果か分からないけど、私は記憶も持ったまま転生をした。
いわゆる『転生者』という存在だ。
転生者にお約束の『チート』はなかったけど、前世の記憶のおかげで、順風満帆な生活を送っている。
私の名前はラファエル。
この国では、恐らく佐藤さんや鈴木さんの苗字と同じくらいに有名な名前だ。
ご近所さんの61歳のお爺さんから、同じ村に住む生まれたばかりの赤ん坊まで、1つの村の中に知っているだけでも5人は同じ名前の人物がいる。
当然、モブキャラの私には家名はない。つまり貴族ではないという訳だ。
それでどうやって区別を付けられているかというと、「お爺ちゃんのラファエルさん」「赤ちゃんのラファエルちゃん」「鍛冶屋の跡取りラファエル君」「スケベのラファエル(くたばれ)」「村長の息子のラファエル様」というように区別して呼ばれている。
小さい村ではこれでよいとして、大きい街とかでは一体どうしているのだろうか?
「スケベのラファエル! くたばりやがれ!!」
自己紹介の途中だというのに、噂のラファエルがまたやらかしたようだ。
あぁ、勘違いしないで欲しい。私は「スケベのラファエル(くたばれ)」じゃない。
該当する本人は、村の共同設備である湯浴み場から慌てて逃げていく姿が見える。
その直後には、湯浴み場からタオルを身体に巻いた女性が姿を現す。
「次に会ったら絶対に殺す!」
ここまでが「スケベのラファエル(くたばれ)」が毎月のように騒ぎを起こす、覗き魔としての一連の流れだ。
あとで、村の衛士に捕まって、一週間は開墾作業に従事して貰う事になるだろう。
小さな村なので、どんな相手でも労働力としては必要だ。
「そ、村長の息子のラファエル様!?」
覗き被害にあった人物は、逃げていく背中を見送った後に、私の存在に気付いて、私の名前を呼んだ。
このように初めて聞く人には違和感かもしれないが、私はもう慣れた。
「苦労人のジェシカ。今日も災難だね。『くたばれ』は、後で捕まえて強制労働にしておくよ。それで稼がせる賃金で怒りを収めて貰いたい」
私は村人の呼び名とは違う名前で、敬意を払って『くたばれ』と呼んでいる。理由は同じ名前なのに迷惑をかけているからだ。
労働力として使えなければ、とっくに村を追い出したいくらいには思っている。
「そ、その呼び方は、そろそろ変えて欲しいのですが………」
呼び方は、基本的に村の人たちの認識で変わる。「スケベのラファエル(くたばれ)」も生まれた時から、その呼び方だったわけではない。彼の生き様から生まれた呼び名だ。
ジェシカも今までの苦労した人生から、そう呼ばれていたが、今は違う。
「分かった。宿屋の若女将のジェシカなんてどうだい?」
村長の仕事のひとつに、皆に呼び方を変えさせるという仕事がある。
こんな事が仕事になるくらいには、この村は平和だ。
「そ、その名前なら、良いです」
どうやら気に入ってくれたようで、少し恥ずかしそうにしている。
だが、田舎村とはいえ、道端にタオル一枚でいる方が恥ずかしいと思うぞ?
「なら、父にそう伝えておこう。数日中には他の人にも伝わるように、私もこれから会う人たちには伝えておこう」
「ありがとうございます」
そうお辞儀をする宿屋の若女将の胸が………。私は紳士だから当然覗いたりはしない。
たわわに実ったその2つを拝みたいという奴の気持ちも分かるが、覗きは犯罪だ。
「じゃあ、『くたばれ』はこちらで対処するから、風邪を引かないうちに中へ戻りなさい」
そう告げると、再度お辞儀をして宿屋の若女将が湯浴み場へと戻っていく。
一見すると、ラッキースケベのような展開だが、私は主人公じゃないので、この辺が限界だ。
逆に主人公体質だった場合は、間違いなく呼び名が「ラッキースケベのラファエル様」になる。そうなったら、私はこの村には居られないだろう。
………「スケベのラファエル(くたばれ)」の精神力と飽くなき探究心は本物と言えるという事か。
事件があって中断したが、自己紹介を続けよう。
村長は基本的に世襲制なので、私が将来村を継ぐ事になる。
領主様が管理している土地ではあるが、年に1度、村からすれば負担にはならない額を納めれば、見回りすら来ない。
一応、この国の大貴族と呼べるほどの広大な土地を有している公爵家が治めているからこその処置だ。
つまり、広すぎて目が届かないわけだ。あと、この村の収益なんて微々たるもので面倒なのだろう。
「ヴァランタイン公爵家の噂は知っているか?」
村長の代行として、ジェシカの呼び名をすれ違った村人たちに告げながら、本来の仕事である村人たちの健康に問題がないかを見回り、ついでに、『くたばれ』の捕縛と強制労働を衛士に伝えるという仕事を家に帰ると、外出支度をしていた村長の父に話し掛けられた。
また自己紹介を中断するしかないようだ。
「うちの土地のご領主様で、今跡継ぎ争いをしているって噂ですよね?」
正妻に子供がなく、2人の側室が自分の子供を跡継ぎに据えようと、ご苦労な事に争いあっているという噂だ。
正直どっちが継いでも、こんな田舎村まで何かが変わるとは思えない。
この田舎村に人を派遣する費用は馬鹿に出来ないのである。
「それと村長が外出するのと何か関わりがあるのですか?」
私たちの村から基本的に外出する者はいない。年に1度、税を納めに行く時くらいである。
ちなみに去年は私が行った。小旅行みたいで楽しかったが、やっぱり費用が掛かったので、あまり行きたくはない。
「それが、ヴァランタイン公爵家の事で、陛下より直々にお呼び出しが掛かった」
半年程前に税を納めに行った時に、私が何かやった覚えはない。
そもそも、私たちはただの村長とその跡継ぎだ。跡を継いだ跡に嫁さんを貰って、また平和に暮らしていくだけのはずだ。
「母は、陛下に紹介して貰ったのですか?」
「そんな訳あるか! 一介の村長がそんな理由で陛下に呼ばれる訳ないだろ!!」
怒られてしまった。
父と母の馴れ初めは、他の方からの紹介のお見合い結婚だと聞いていたので、その可能性を………ゼロだと思いつつも聞いてみただけなのに。
「村長。連座で処刑なんてごめんですからね」
「私は何もやっていないわ!」
う~む。田舎の村長が陛下に呼ばれる理由が分からない。
「では、なぜお呼び出しを?」
「私も分からないから、お前に聞いてみたのだ」
父と2人で仲良く知恵を振り絞ってみたが、答えは出なかった。
結局、預かった手紙には、村の管理は代官を送るので、しばらく王都に滞在するようにとだけ書いてあった。
それに必要な資金については、呼び出した側が負担してくれるとの事。
王都に滞在なんてしようものなら、我が村の財政は一気に赤字だ。
一応、心配事はあるが、お金の心配がないという事で父は王都へと旅立って行った。
父が王都へ旅立ってから1週間後、村の管理をしてくれる代官を私が迎える事になった。
「なんでラファエル様がここにおられるのですか!?」
私が挨拶をした直後に、こんな事を言われては混乱しないわけがない。
「代官様。落ち着いて下さい」
代官が自身の名前さえ名乗る前に、叫ばれた為、私はこの代官の名前を知らない。………面倒だから悪代官とか呼んでみるか?
「お、落ち着いて聞いてください。ラファエル様」
落ち着くのはお前だ。悪代官。
「あなた様は、ヴァランタイン公爵家をお継ぎになられる身でございます」
「………またまたご冗談を」
本当に悪代官様はご冗談がお好きなのだから。まったく、もう。
「本当の事でございます。現ヴァランタイン公爵家の血筋の者たちは、お家の乗っ取った一族の者たちであると判明致しました」
あれ? 跡目争いとかの噂は?
「血筋を遡って、ラファエル様の祖父様が、当時のヴァランタイン公爵家の弟君であられた事は記録に残ってございます」
いや、待って、何を言っているのか分からない。
公爵家の弟だったのに、田舎村の村長レベルまで2代で落ちぶれたって事? ………まあ、それは良いや。私はのんびり生きたいんで丁度良い。
「ヴァランタイン公爵家が跡継ぎ争いをされている噂はお耳にされたと思いますが、お家乗っ取りの事実を知ったヴァランタイン公爵がその事実に苛み、跡継ぎを決めなかった事が原因でございます」
あぁ、うん。噂の事は分かった。
「ヴァランタイン公爵の母であった方がお亡くなりになる直前に、事実を告げられて、ずっと悩んだ結果、自身で王家へ報告。その罪を償う事となりました」
………ヴァランタイン公爵は普通に良心のある人だったのか。
つまりは、母親が浮気をして出来た子が公爵になっちゃった訳ね。そんな重い事実を死ぬ前に告げるなよ!
「ラファエル様の祖父に当たる方は、駆け落ち同然でこの村の任官になり、権力を離れていた事で、乗っ取り後の血縁潰しを逃れていた事も分かりました」
うん? つまりはお爺ちゃんのお兄さんが、秘密裏に駆け落ちを手伝って、そのおかげで、お爺ちゃんのお兄さんの奥さんに身元を知られずに済んだって事?
なんか、ややこしいな。
とりあえず、落ちぶれたんじゃなくって駆け落ちか。格好良いじゃないか! お祖父様!!
「話をまとめると、ヴァランタイン公爵家の正しい血を引いているのが私と父だけという事ですか?」
「その通りでございます。ラファエル様のお父上様は、王都に着き次第、正式に爵位を賜る予定でございます」
あれま! 村長の息子だと思ったら、いつの間にか公爵様の息子になっちまっただ。おら田舎者だから逃げてぇよ!!
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